5部
名前変更
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
翌日から亜柚美は学校から帰宅すると、自分のスタンドであるドアーを呼び出し、その能力の調査を始めた。
ドアーの能力は部屋を繋げる事と隔離では無いかと言われたが、気になることもあった。
どこまで繋がるのか、隔離以外に出来る事はあるのか。
ドアーと出会ってから2週間、調査はそこそこ進んでいた。
まず繋げる力だが…自分が実際に知っている場所にしか繋げる事は出来ないようだった。
行った事のない観光地のパンフレットを見て、高級ホテルのどこかと繋がらないかと試してみたが繋がる事はなかった。
逆に日本で行った事がある修学旅行先の旅館などには繋がった。
なぜブチャラティさん達のいる場所と繋がったかは全くわからないが、基本的には知ってる場所にしか繋げれないという事は分かった。
次に隔離に関してだがどうやらこれは少し違うようだった。
部屋を隔離するのではなく、正確には部屋に“ルール”を設けるようだった。
これに関しては本当に偶々知ったのだが、母親が部屋に入ってきた時に判明した。
相変わらず父親と仲がいい母親が一緒に出掛ける為の服を見せに来た時、色々と試している途中だった。
その時、ノックがされ返事をする前に扉を開けられたので(別に悪いことはしていないけれど)かくれなきゃ!と考えている間に部屋に入ってきた母親は「あれ?いると思ったのに…」と言って扉を閉めた。
呆気にとられていたが、そこでピンと来たのだ。
“自分が隠れたいと願ったから、母親に自分の姿は見えなかった”
この事から、部屋を隔離するのではなくルールを設ける事が出来るのだと考えた。
以前、透明な壁が現れたのは自分が危害を加えられたく無いという意思から作られたものだったのだろう。
更に調査を進めていくとこれは遠隔でも行えるようだった。(と言っても距離が近い1部屋か2部屋向こうまで)
自分が部屋にいなくてもその部屋に設けたルールは継続されるみたいだ。
色々調べた結果、ドアーの能力は
・知っている部屋と部屋を繋げる
・空間にルールを設ける
という事ではないかと考えたのだ。
(広い空間だとどうなるか迄は試した事はないけれど)
そんなこんなでドアーの能力を調べつつ学生生活を送っていると、ブチャラティ達と最後に会った日から1ヶ月経っていた。
その間、亜柚美はブチャラティに連絡を取っていなかった。
手を貸してくれると言っていたが、亜柚美はドアーの能力を調べる事に夢中になり、すっかりと忘れていたのだ。
“また”と言われていたから連絡をするべきだったのにしなかった事は本当に反省してます。
だから……今の状況は本当に心臓に悪いので勘弁してほしい。
「余所見か?余裕だな」
「よよよ、余裕なんてありません……!!」
亜柚美はそう言いながら鋭い視線を向けるブチャラティから目を逸らす。
今、亜柚美はとある車の後部座席に座っていた。
車の運転席にフーゴ、自分の隣にブチャラティが座っている。
何故こうなったのかというと………簡単に言えば学校終わりに拉致られた、のかもしれない。
学校を出て友達と別れて少し寄り道をしようとしたら後ろから声をかけられ、振り返ると笑みを浮かべるブチャラティが立っていた。
その笑みに黒いものを感じで一歩後ずさると、いつの間にかそこにはフーゴが。
あれよあれよという間に近くに止めていた車に連れて行かれ、今の状態となる。
「で?もう一度聞くが…何故連絡をしなかった?」
「あの、その…ですね」
亜柚美はポリポリと頬を掻くとチラリとブチャラティを見る。
「お、怒らないで欲しいんですけど…忘れてました」
「……忘れてた?」
亜柚美は何度も頷くと、ギュッと膝の上で手を握った。
「ドアーの能力を色々と調べたり試したりしてて…気付いたら連絡するの忘れてました…」
「……本当に、それだけか?他には何もないんだな?」
「も、勿論です!」
パッと顔を上げてブチャラティを真っ直ぐ見る。
ブチャラティは亜柚美の目をジッと見た後、目元を手で覆いながら溜息を吐いて背もたれに体を預けた。
「連絡がないから…君に何かあったのかと心配していたんだ」
そう言われ、亜柚美はハッとした。
彼は連絡が無かった事に怒っているかと思っていたが、自分を心配してくれていたのだ。
「その…本当にごめんなさい。ご心配をお掛けしました」
再び謝って頭を下げると、ポンっと撫でられた。
「いや、何も無かったならよかった」
ブチャラティはそう言って笑うと、フーゴを見る。
「出してくれ」
「はい」
フーゴは車のエンジンを掛けると、慣れた手つきで発進させる。
「あ、あの…どこへ?」
「馴染みの店だ。スタンドの能力を調べていたと言ったな?少し…話を聞かせてもらおうかと思ってな」
その言葉に、突然連れて行かれる事になって亜柚美が困っている事を察したブチャラティはフッと笑う。
「なに、能力の事も興味はあるが話したくなければ話さなくていい。ただ…君の体や生活に何か影響がないか聞くだけだ。ドルチェでも食べながら…どうだ?」
「喜んで」
ドルチェがあるなら喜んで行きます。
二人に笑われたが別にいい、甘いものは大好きだ。
というか…フーゴは運転していいの?と思ったがギャングだからその辺はあまり気にしないでおこう。
少しして着いたのはブチャラティが贔屓にしているリストランテ。
車の中からリストランテをボーッと眺めていると、いつの間にか車から降りていたブチャラティがドアを開けて手を差し出してきた。
「さあ、手を」
「あ、ありがとうございます…」
自然なエスコートにドキリとしながら手を重ねると、スッと手を引かれる。
そのまま腰に手を添えて中へと案内されるものだから恥ずかしくて顔に熱が集まる。
「顔が真っ赤だぞ」
「う、煩いです…日本人は照れ屋なんですよ」
「ハーフなんだろ?」
からかってくるブチャラティにそう言い返すと、笑われた。くっそー!
ブチャラティにエスコートされて着いたのは店の一番奥の席だった。
空いている席に亜柚美を座らせると、ブチャラティとフーゴもそれぞれ座る。
「どうぞ。好きなドルチェを選んでください」
フーゴから差し出されたメニューを受け取り、目を通す事にした。
(ふわぁ…全部美味しそう)
色々と載っていて目移りしてしまう。
その様子が面白かったのか、ブチャラティが笑っているのに気付いて亜柚美は咳払いをした。
「今日は無難にティラミスにします」
「他も食べていいんだぞ?」
「そんなに持ち合わせないし、太るので…」
「金なら気にしなくていい」
え?という表情を浮かべる亜柚美からメニューを取るとブチャラティは店員を呼びティラミスと自分達が飲むコーヒーを注文していた。
「いや、でも…」と亜柚美が口を開こうとしたらフーゴに「甘えて大丈夫です」と言われたので頷いておいた。
「さて、改めてアユミにオレ達の自己紹介をしておこうか」
オレはブローノ・ブチャラティ、こっちはパンナコッタ・フーゴ。
目の前の2人はチームを組んでいるらしい。
このリストランテは自分達の縄張り内にあり、よく来るとのこと。(何かあれば来いと言われたが来ることはあるのだろうか…)
2人のスタンドについては詳細は教えてくれなかった。
能力を無闇矢鱈に知られるのは良くないし、スタンドは自分の分身、自分の深層心理や本性を反映したものとなるからそう簡単に見せる訳にはいかない、他のスタンド使いに目をつけられても困るしと改めて説明された。
(自分の深層心理…)
だったらドアーは正しく反映されているだろう。
父の故郷であるイタリアにすぐに飛んでいければいいと思っていた、クラスの煩い生徒を黙らせる為の何かがあればいいと思っていた。
繋げる能力とルールを設ける能力はここから来ている気もする。
ティラミスを食べながらそう考えていた亜柚美を見ていたブチャラティは「ところでアユミ」と声をかけた。
「この1ヶ月間、自分の能力を色々と調べていたみたいだが不調は?」
「特になかったですよ!暴走?とかもなく順調って感じです」
「そうか、ならばよかった」
笑いながらコーヒーを一口飲んだブチャラティは真剣な目付きに変わる。
「それで…色々と調べた君の能力について、聞かせてもらうことは出来るか?」
その一言に、2人の目付きは鋭くなった。
来る前に話したくなければ話さなくていいと言ったが出来れば聞きたいというブチャラティをチラリと見た後、ティラミスの最後の一口を頬張った。
(危険分子かどうか判断されるのだろう)
出来れば嘘を吐きたいところだが、私の嘘なんか直ぐにバレるだろう。
亜柚美はうーーーんと考えた後、ブチャラティを見た。
(まあ、私の場合は見られても知られても特に問題ないか…)
彼らはギャングだが、私は危険な目に遭うこともそうないと思われる。
にこりと笑うと口を開く。
「いいですよ」
「……いいのか?」
「まあ、大した能力じゃないと思いますし。私は2人と違って常に危険と隣り合わせというわけでもないです。それに…ブチャラティさん達は私に何か危害を加えようという気持ちはないと、信じています」
亜柚美はそう言って紅茶を一口飲み、そっとカップを置いた。
「私の能力は恐らく空間を操る能力で、細分化すると2つに分類されると思います。知っている部屋と部屋を繋げる事、空間にルールを設ける事」
そう言うと自分が調べていた事を全て話す。
その話を聞いていた2人の表情は少し険しいものになっていった。
亜柚美はその理由がわからなかったが、全て話し終わったのに口を開かない2人に少し居心地が悪かった。
「……あの、何か…ダメでしたか?私の能力」
不安になって下を向くと、ぽんっと頭を誰かに撫でられた。
チラリと視線を上に向けると、笑うフーゴだった。
「そうではありませんよ。話してくれてありがとうございます」
その言葉にホッとしたが、ブチャラティは難しい表情をしていた。
「そもそも、複数の能力がある事も希少だが…ルールを設けるか…使い方によっては危険な能力になりそうだな」
「危険、ですか?」
「この前みたいに誰か入ってくるのを拒むだけならともかく…ギャングならこう考えることも出来る。“相手の動きを奪うルールを設けて始末する”とな」
その言葉に、亜柚美はポカンとする。
(そうか、言われてみればそうだ)
ルールの拘束力がどれだけのものかはよくわからないが、使いようによってはかなり危険だ。
黙ってしまった亜柚美が落ち込んでいると思ったのかブチャラティが慌ててフォローしようとしたが、亜柚美がパッと顔を上げたので口を閉じる。
「ご指摘ありがとうございます!ブチャラティさん、私の能力は大した能力だったかもしれません!」
「あ、ああ…そうだな」
少し目がキラキラしている亜柚美にブチャラティは呆気に取られていたが、変に落ち込んでいない事が分かりホッとした。
「ええ…私、悪用するつもりは全くないけど…どうしたらいいんでしょうかね?能力って無くなったりしません?」
「流石にわかりませんね…」
目があったフーゴに問いかけるが、両手を上げて首を振られる。
「ですよねぇ…」
「……とにかく、アユミは他の人間に能力がバレないようにしろ。フーゴも絶対に口外しないように。使い方を間違えれば危険な能力だ。他の人間に彼女が悪用されないようにしなければならない」
その言葉にフーゴは頷いた。
ブチャラティは力強い目で亜柚美を見ると、その手を取った。
「いいか、アユミ。今言った通り君の能力は使い方を間違えれば危険だ。気をつけるんだ。万が一何かあればすぐに…“すぐに”連絡するように」
「は、はい…」
念押しされて、アハハ…と苦笑する。
「オレ達のどちらかはなるべくアジトにいるようにする。そこに駆け込んで来てくれてもいい」
「アジト?」
「オレ達が初めて会った部屋だ」
「わかりました」
頷くと「いい子だ」と頭を撫でられて恥ずかしくなり俯くと、また揶揄われたが亜柚美は無視した。
(とりあえず、変な事になりませんように)
そう祈りながら、ドルチェを追加してもいいかとブチャラティに聞いた。
.