5部
名前変更
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改めてこの部屋は自分たちがアジトにしている場所の一室だと紹介された。
ついでにフーゴは自分より一つ年下だからタメ口でもいいと言われた。
自分もタメ口でいいと話した後、ギャングのアジト…と身を縮めながら周りを見渡し、自分の部屋へと続く扉の奥を見て亜柚美は固まった。
「どうした?」
ブチャラティの声にビクッと肩を震わせ、ギギギと音が付きそうなくらいのぎこちない動きで亜柚美は自分の部屋を指差した。
「あの…ブチャラティさん、フーゴさん」
「ん?」
「えっと…2人が見えてた扉って…あの小さな中央開きの扉…?」
「ええ、そうですよ」
「……ちょっと待て、アユミ。今なんて言った?」
亜柚美の問いかけにフーゴが頷いたが、ブチャラティが何かに気付いたようにこちらを見る。
「あ、えっと…2人が見えてた扉はあの扉ですか…と」
「アユミ…見えているんですね?あの扉が…!」
フーゴの言葉に頷くと、彼はブチャラティと目を合わした。
ブチャラティはスッと目を細めると、亜柚美の前に手を出した。
「亜柚美、オレの手が幾つに見える?」
「え?手…?」
そう言われてブチャラティの手を見ると、ブレて見えた。
ついでに言うなら色も違う気がする。
(あれ…?)
目が霞んでいるのかと思いゴシゴシと擦って改めてブチャラティの手を見る。
やはり、気のせいではなかった。
「ブレて見えて…二つに見えます」
「……!?そうか」
そう言って手を下ろしたブチャラティは何かを考えた後、亜柚美の部屋を見た。
「あの部屋にいる間は見えなかったのに、こちらに来たことで見えるようになった…いや、もしかしたら…」
ブチャラティは亜柚美を見る。
「彼女があの部屋にいる間はスタンドが見えずに更にはオレ達の侵入も拒んでいた。あの部屋になんらかの力が及んでいたせいで気づかなかったが、恐らく彼女は…スタンド使いなのかもしれない。それも先天的な」
「わ、私が…!?」
コクリと頷いたブチャラティに自分の手を見る。
(私が…スタンド使い?)
今まで生きてきて、彼らが言うスタンドは見たことない。
なぜ急に見えるようになったのだろうか。
私に何が起きたのだろうか。
少し怖くなり、体をギュッと抱きしめる。
その様子を見ていたブチャラティは、ポンっと亜柚美の頭を撫でる。
「そう怖がらなくてもいい。先天的に力を持っている人間だっているさ」
「はい…」
「それよりも、彼女がスタンド使いだとしたらあの扉はそれを知った誰かによる攻撃でしょうか」
クイッとフーゴが亜柚美の部屋に浮かび続ける扉を指差す。
(……扉)
あーだこーだと話す2人をよそに、亜柚美がジッと扉を見つめていると、扉がスッと消えた。
「えっ!?」
「どうした?」
「と、扉が…消えた」
「なにっ…!」
亜柚美の言葉に2人は部屋の方を見る。
確かに扉が消えており、額に冷や汗が流れる。
「攻撃を受けているのか…!?」
「ちっ…!」
立ち上がり周りをキョロキョロと見渡す面々だったが扉は見つからず、誰かが舌打ちをする。
亜柚美も辺りを見渡していると、急に目の前に扉が現れた。
「わっ…!」
「アユミ!」
近くにいたブチャラティがスタンドを出して扉を殴ろうとしたが、それよりも早く扉が亜柚美の腕の中に収まった。
「………え?」
亜柚美の間抜けな声が響き、面々の視線が亜柚美へと注がれる。
何も攻撃を仕掛けてこない扉に呆気にとられている中、フーゴが口を開いた。
「その扉…もしかしたらアユミのスタンドなのでは?」
「わ、私の…!?」
「じゃあ、アユミが操っているのか?」
ブチャラティの言葉に首を全力で横に振る。
「…だとしたら、なぜアユミの意志とは関係なく発動しているんでしょうか」
フーゴの言葉に、ブチャラティが口を開いた。
「スタンドには、自分の意思通りに動くモノもあれば意志とは関係なく動くモノもある。彼女の場合は…自分の意思とは関係なく、彼女を守る為にスタンドが発現していた可能性がある」
「私を守る為?」
「恐らくだがな」
ブチャラティは亜柚美の隣に座り直すと、部屋を指さした。
「なぜ繋がったのかは相変わらずわからないが、少なくともオレ達が部屋へ入ることが出来なかったのは彼女を守る為にスタンドが力を発揮していたのかもしれない」
「この子が…」
扉を上に掲げて色々見渡してみる。
私のスタンドで、何故か発現し、私を守る為に力を発揮していた…
なんかよくわからないけど、とりあえずこの子は私の味方である事はわかった。
「えっと、よろしくね?」
扉に向かってそう言うと、ふわっと飛び上がり周りをクルクルと回り出した。
それがよろしくと言っているようで可愛くて思わず笑った。
「名前を付けてやらないといけないな」
「名前?」
「ああ。オレ達のスタンドにもそれぞれ名前はある」
「名前か…」
うーんと扉を見ていると、頭に直接声が聞こえた。
『ドアー…ーー」
「んんっ……?」
『ーーオブーーー』
「うーーん?」
「どうしました?」
「いや、フーゴ…何か聞こえない?」
「いや、何も」
えぇ…私にしか聞こえてないの?と思いつつブチャラティを見たが、首を横に振った。
「もしかして…貴方?」
そう扉に声をかけると「そうだ!」と返事をするかのようにパカパカと扉が開閉した。
ちょっと可愛い。
「何か聞こえたんですか?」
「えっと、多分名前なんだけど…余りちゃんと聞こえないの。ドアーとオブって言うのは聞き取れたんだけど…その後は聞こえなくて。だから、この子のことはちゃんと聞こえるまではドアーと呼ぶことにします!」
ね?ドアー、と声をかけるとフラフラと揺れた後、パカッと扉が少しだけ開いた。
「能力は…部屋を繋げる事と隔離って感じか?」
「便利そうですね」
「便利…なんですかね?」
「部屋を繋げられるという事は好きな場所に行き放題になりますでしょう?それに隔離出来るって事は相手からの攻撃は一切受け付けないって事になります」
少し興奮して話すフーゴに苦笑すると、ブチャラティは口を開く。
「君のスタンドが引き起こした現象だという事は分かったが、一つ気を付けてくれ」
「はい…?」
「人前でスタンドは無意味に出さない事だ。君のように害の無い人間ならともかく…オレ達のようにギャングの可能性もある。わかったか?」
「わ…分かりました!出しません!」
何度も頷く亜柚美にブチャラティは笑うと、立ち上がった。
「君が攻撃を受けているわけでは無い事はわかった。あの部屋に戻っても大丈夫だろう」
そう言って手を差し出され、ん?と首を捻る。
その様子に足を指差され、そういえば靴を履いていなかったと思い出すと同時に先程の事が脳裏に浮かんだ。
抱き上げられて移動させられた事を。
「あ、あの、もしかして…?」
「君を移動させるのに抱き上げる必要があるだろう?」
あー、ですよねぇと思いながらも手を振る。
「あの、汚れてもいいです!だから自分で歩きます!」
「シニョリーナの足を汚す訳にはいかないだろう?」
そう言ったブチャラティに「ひえっ…」と思わず悲鳴が出た。
「あ、えと…す、スタンドで運んでもらったりとか…」
「スタンドは分身みたいなものですから、ブチャラティに抱き上げられてるのと変わりありませんよ」
聞こえてきた言葉にピキっと固まる。
「ほら」
再度差し出された手に、亜柚美は観念したように手を重ねるとふわっと抱き上げられた。
「とりあえず、今日は色々あって頭が疲れているだろうからゆっくりするといい。スタンド能力の扱いに関しては、また会った時にでも色々と試してみたらいいだろう」
「また、ですか?」
「ああ。君は能力に目覚めたばかりだ。様子を見ている限り暴走するようには見えないが…スタンドは自分で扱えるようになっておいて損はない」
ギャング相手で不安かもしれないがなと言ったブチャラティは苦笑しながら部屋へと降ろしてくれた。
「……いえ、ブチャラティさん達はギャングで、私が知らない怖い事も沢山していると思います。でも…本気で手を貸してくれようとしているのは、私でもわかります。だから…お願いします」
そう言って頭を下げるとポンっと頭を撫でられた。
「頭は下げなくていい。これも何かの縁さ。ああ、それと…これを」
紙を差し出され受け取ると、そこには数字が羅列されていた。
「君もイタリアに住んでるという事だし、都合が良い時に連絡してくれ」
「あ、はい…わかりました」
それじゃあと一歩離れたブチャラティに頭を下げ、後ろで手を振るフーゴに振り返すと扉を閉めた。
少しして、そっと扉を開くとそこは自分の家だった。
亜柚美はふぅ…と息を吐くとベッドへ近寄りボフッと寝転がる。
(凄く…疲れた)
色々とありすぎて頭がパンク状態だ。
まさかギャングの人間とも本格的に知り合いになるだなんて思わなかった。
「えっと…ドアー?」
先ほどから姿を消していた自分のスタンドとやらの名前を呼ぶと、すっと扉が現れた。
「…まさか、私にこんな力があったなんてね」
本当に不思議だ。
ツーっと扉の縁を撫でると、目を閉じた。
(とりあえず、少し寝よう…)
亜柚美はそう思い、目を瞑った。
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