5部
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奇妙な出来事があってから約1週間。
あれ以降は部屋が別の場所に繋がるなんて変な事は起きていなかった。
ブチャラティとフーゴに会うような事もなかった。
平和な日々を過ごしていたその日だって何も特別な事はしてなかった。
休日に少し遅くまで寝て、起きたら家族と会話。
少しでもと思い勉強をして水を飲もうと部屋を出ようとしただけだった。
まさか…またも彼らがいる部屋に繋がるなんて、思ってもいなかった。
「………」
「………」
1週間前に見た顔と見つめ合う事数秒、とりあえずそっと扉を閉めておいた。
(……大丈夫、幻覚、幻覚だよ)
亜柚美は深呼吸をすると、ソッと扉を開く。
「ひっ……!?」
「おいおい、人の顔を見て悲鳴をあげるのは…失礼じゃあないか?」
小さく悲鳴をあげた亜柚美にそう言って苦笑したのはブチャラティだった。
「あ、ごめん…なさい」
「いや、いい。それより…どうしてまた君の部屋と繋がっているんだ?」
そう言ったブチャラティだったが、亜柚美は困惑していてキョロキョロと視線を泳がせていた。
「アユミ……?」
「あ、はい!」
「質問の答えはもらえるか?」
そう言われて、何故また部屋が繋がっているのかと問われたことを思い出す。
「あの、それがわからないです…今日も勉強してて、水を取りに行こうとして扉を開けたら…」
このような事に。
そう言って口を閉じると、ブチャラティはふむ…と口を閉ざしてチラリと亜柚美の後ろに視線を向ける。
「以前君に会ったのは1週間前だが、その間に変わった事は?」
「変わった事ですか?特には…」
「変な奴に会ったとか、その…矢が刺さったとか」
「……矢?」
何故急に矢が刺さったかなんて聞かれるのか。
返事はノーだ。
そんな奇妙なことがあったら流石に覚えている。
亜柚美の様子を見てブチャラティは「違うか…」と呟いた。
何が違うのかは気になったが、深く突っ込まないでおこう。
ギャングは怖いからね。
それよりも気になるのがブチャラティとフーゴが時折、自分の背後を見ている事だ。
何かいるのかと思い振り返るが、そこは見知った自分の部屋。
他には何もいない。
彼らは動物なのか?たまにジッと隅を見つめている犬や猫みたいに何か見えてるのか?
そう思いながら狼狽えていると、フーゴと目があった。
「ブチャラティ、彼女が困惑しています」
「ああ、すまない」
フーゴの声にブチャラティは視線を亜柚美に向ける。
そして少し考える素振りを見せた後に「スティッキィ・フィンガーズ」と呟いた。
「アユミ、以前にも一度聞いたが…オレの横に何か見えるか?」
「横…ですか?」
そう言われてブチャラティの横を見るが、別に何も見えない。
「特には…」
「ふむ…やはり、嘘は吐いていないようだな」
ブチャラティはそう言うと溜息を吐いた。
「では、君の後ろにある“扉”も見えていないか?」
「扉?」
くるりと振り返るが何もない。
あるのはカーテンの閉められた窓だ。
「窓しかないように思うのですが…」
「本当に見えてないのですか…?」
フーゴの言葉に、亜柚美は頷いた。
少しして、何かを考えていた様子のブチャラティが亜柚美を見た。
「アユミ…オレ達はイタリアのギャングだ」
「ブチャラティ!」
突然ギャングであると話し出したブチャラティに、フーゴは何を言っているんだと声を上げる。
亜柚美は気付いていたが、ギャングであると言ったブチャラティを目を丸くして見ていた。
「彼女はスタンド攻撃に巻き込まれている可能性がある。手を貸してやりたい」
「気持ちはわかりますが、ぼく達が首を突っ込む事ではない!」
「確かにそうだが…オレは彼女を助けてやるのが『正しい』と、そう感じたんだ。助けを求めてくれるかどうかは彼女次第だがな」
そう言ったブチャラティの目はとても真っ直ぐで、亜柚美はギュッと手を握りしめた。
「君は厄介な事に巻き込まれている可能性がある。オレ達は…オレはギャングだが、君を助けたい」
「ブチャラティさん…気持ちはとてもありがたいのですが…その、すたんど攻撃?ってやつのご説明をいただけないでしょうか……?」
「ああ、そうだな」
ブチャラティは頷くと、スタンドについての説明をした。
スタンド、以前も言っていたが超能力の一種と思えばいいらしい。
(詳しくいえば精神エネルギーが具現化したものらしい)
それらが自分の分身のように現れる。
またスタンドは同じくスタンドが使えるものにしか見えないらしく、ブチャラティさんが私に見えるかと聞いていたのはスタンド使いと思われていたからだそうだ。
精神が強くなればスタンドも強くなり、スタンドは深層心理や本性を反映したものだから本来ならあんまり見せない、と色々話してくれたがもう頭はパンク寸前なのであまり入って来ない。
「えっと…とりあえずスタンドというものはわかりました。ブチャラティさんは、そのスタンドが使えるスタンド使いなんですね?」
「ああ」
「で、私の後ろには扉があって、それがスタンドの可能性があって、更には攻撃を受けているかもだから…助けてくれる、と?」
「その通りだ」
良くできましたと言い出しそうなくらいの笑みを浮かべるブチャラティに少し恥ずかしくなり視線を逸らして頬を掻く。
「その、なんで助けてくれようとするんですか?私を助けたところで何か得するわけでも無いと思いますけど」
「確かにそうだが…さっきも言った通り、オレは助けることが『正しい』と思ったんだ」
(流石に私でもわかる。この人は…本気で言っている)
亜柚美はその様子を見て大きく深呼吸すると、ブチャラティ達を真っ直ぐ見つめた。
「ありがとうございます。私がもし本当に厄介な事に巻き込まれているならば…助けて欲しいです。ただ…その前に謝罪する事があります」
「謝罪だって?」
「やはり貴女はスタンド使いか…!?」
大きな声を出したフーゴを手をあげるだけで静かにさせると、ブチャラティが静かにこちらを見る。
話せと言われているようだったので、亜柚美は口を開いた。
「以前、ブチャラティさんとフーゴさんにお会いした時、住まいは日本だろうと話が出たときに私は何も答えませんでしたが…住まいは貴方達と同じイタリアです」
「なに……?」
「2年ほど前にイタリアに引っ越してきました。両親のことに関しては嘘はついてません。それと…少なくともブチャラティさんがギャングである事は知っていました。買い物へ出掛けたときにお店のおば様が貴方のことを話していたので。だから…貴方のお名前を聞いた時は驚きました。その…目の前にギャングが現れてしまったって」
亜柚美はそう言って視線を下ろす。
「私は死にたくなかったので、なるべく危害を加えられないように演じました。その…少し嘘をついていた事になります。だから…ごめんなさい」
ペコリと頭を下げると、少しの沈黙が流れる。
ああ、怖いなぁと思いながら目を瞑っていると、コンコンと音がした。
その音に顔を上げると、優しく微笑むブチャラティと目があった。
「オレがギャングだと知っていたなら、その反応も仕方がない事だ。気にしなくていい。それより…話してくれてありがとう」
グラッツェと言ったブチャラティにぽかんとしていると、スッと手を出される。
「よかったら、オレに…オレ達に君を助けさせてくれないか?」
そう言ったブチャラティの後ろでフーゴが溜息を吐いているのが見えた。
「ブチャラティは相変わらずですね…」
その言葉にブチャラティは苦笑すると、亜柚美を見た。
「では、まずはこの壁を抜けられるか試してみよう」
「あ、はい」
そういえば、前回はこの壁を抜けることが出来なかった。
今回もブチャラティさん達はこの壁からこちらに来ることは出来ないようだが…私はどうだろうか。
亜柚美は恐る恐る手を伸ばすと、見えない壁に触れる。
(あちらに、抜けられますようにっ…!)
そう思いながらグッと力を入れると、体が前にふらっと傾いた。
「えっ」
「抜けた!?」
そう、亜柚美の体は透明な壁をすり抜けたのだ。
驚きながらも前に倒れそうになり、ギュッと目を瞑ると次の瞬間にはふわっとした浮遊感に包まれた。
その感覚に目を開くと、目の前にブチャラティの顔があってカチンと固まってしまった。
「あ、えっ…?」
ブチャラティに受け止められたらしく、今はブチャラティに抱き上げられている形だった。
「…どうやら、抜けられたようだな」
「あ、はい…そうみたいですね…じゃなくて!」
普通に話し出したブチャラティに返事をしたがそれどころではないと声を上げる。
「あの、降ろしてください!重いでしょうし」
「いや、かなり軽い。ちゃんと飯を食っているか?」
「食べてます食べてます!だから、降ろしてください!」
「…今下ろすと、君の足が汚れるがいいのか?」
そう言われハッとする。
日本の習慣が残っている為、我が家は土足禁止。
なので、今私は裸足。
土足文化のイタリアはベッドの上以外は基本的に靴を履いている。
ということは…今降ろされたら私の足は汚れてしまう。
亜柚美はうぅ…と唸った後「このままでお願いします…」と顔を真っ赤にして言った。
ブチャラティは笑って「Si」と言うと、亜柚美を抱き上げたまま移動して、部屋の中央に置かれていたソファの上にそっと降ろしてくれた。
それに「グラッツェ…」と礼をすると、「Prego」とブチャラティは隣に座りながら笑った。
「顔が真っ赤ですよ」
そう言ったフーゴにムッと口を尖らせる。
「14歳は立派な思春期ですからね。そりゃあ恥ずかしいに決まってるじゃないですか」
亜柚美の言葉にブチャラティとフーゴは驚いていた。
「……なんですか。もっと下に見えましたか?」
「まぁ…そうだな」
「まあ私はハーフですけど、外国の方から見たら日本人に見えるみたいですし…少し幼く見えるかもですが…これでも14です」
なので、小学生みたいな扱いはやめてくださいねと微笑むと、二人はソッと視線を逸らすのだった。
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