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後日、暁美は早朝に目を覚ますと身支度を行い部屋を出た。
「来たか」
庭には槇寿郎と杏寿郎がいた。
「おはようございます」
「おはよう!」
いつもよりは控えめだが、それでも大きめの杏寿郎の声に苦笑する。
「まずはお前の体力がどれくらいあるのか知りたい。杏寿郎と体力作りの鍛練を行ってこい」
「わかりました」
槇寿郎に頷くと杏寿郎に頭を下げる。
「杏寿郎さん、よろしくお願いします」
「共に頑張ろう」
ニコッと笑った杏寿郎に頷くと、先ずは走り込みという事で共に走り出した。
杏寿郎に教えてもらいながら一通りの鍛練を共に行った結果、自分は以前とは比べ物にならないほどに体力が上昇していた。
これも鬼になった結果だろう。
褒めてくれる杏寿郎には申し訳ないが、とても複雑な気持ちだった。
「体力には問題は無さそうだが…これからも怠るな」
「はい」
槇寿郎は息を乱していない暁美を見てそう言った後、木刀を渡す。
「次は刀の扱い方を覚えろ」
「はい…!」
目付きが鋭くなった槇寿郎に身震いしながら、渡された木刀をギュッと握った。
「………やばい」
体が痛い。
部屋に戻ってきた暁美はパタリと倒れ込む。
身体能力が上がったとはいえ、以前とは比べ物にならない程体を動かし、行ったことのない動きをした結果、筋肉痛がすぐに襲ってきた。
とはいえ、その辺の修復も早いのだろう。
徐々に痛みは引いている気がする。
こういったところは便利かもしれない。
ある程度体が動くようになった暁美は起き上がると、柔軟を行いながら今後の事を考える。
(正直、事細かに色々と書かれていたわけではないし、私も覚えているわけではないけれど……この家でするべき事は最低でも二つ)
一つは、槇寿郎さんに日の呼吸の事が書かれた書物を破かせない事。
もう一つは……瑠火さん亡き後、未来の柱である煉獄杏寿郎そして千寿郎への態度だ。
(本当は瑠火さんを助けられたらと思うけれど…)
私にはそんな力はないし、どのような病気でどれくらい進行しているのか知らない。
暁美は溜息を吐いた。
とりあえず、書物を破られないようにしなければいけない。
今は落ち着いた様子である事から考えて、書物の件もまだ起きていないのかもしれない。
あれは、今後の戦いに必要だ。
柔軟を終えた暁美はよしっと立ち上がると、部屋を出る。
目指すは、槇寿郎の元だ。
少しして、一人縁側で晩酌をする槇寿郎を見つけた。
「槇寿郎さん」
声をかけると、ちらりと視線が向けられる。
「動けるのか」
「そのようです」
筋肉痛やらで動けないだろうと槇寿郎も思っていたのだろう。
言われた言葉に苦笑すると、槇寿郎はぐいっと酒を煽った。
「何の用だ」
「…お耳に入れておきたい事があります」
その言葉に槇寿郎は酒を煽る手を止めると、スッと立ち上がった。
「入れ」
すぐ後ろの部屋に入った槇寿郎に言われ、中へと入る。
障子戸を閉めて槇寿郎の前に座ると、深呼吸をした。
「ちゃんと話せるか分かりませんが…今後の為に必要な事を伝えておきたくて」
ちゃんと話せるかわからない、また言葉が詰まり血が出るかもしれない。
その意味を理解している槇寿郎が頷いたのを見て、暁美は口を開く。
「炎柱ノ書を、何があっても大切にして欲しいのです」
「…それも知ってるのか」
舌打ちをする槇寿郎に苦笑して頷いた。
「炎柱ノ書には、奴を倒す為の手がかりがあります。ただ…それは私達には行えないかもしれません。だとしても、何があっても大切にして欲しいのです」
「行えないだと?」
「はい。書かれている内容に絶望するかもしれませんが、奴を倒す為の希望となります」
「……俺もまだ全て読めていない。一体そこには何が書かれている」
「それは…」
はじまりの、日の呼吸。
その事について書かれていると話したかったが、ぱくぱくと口が動くだけで音は発されなかった。
それがもどかしくて、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた暁美に槇寿郎は溜息を吐いた。
「あー、いい。無理に話すな。俺が自分で読む」
「すみません…」
そう言って頭を下げた。
「お前が言ったことを全て信用するわけじゃねえが、破けたりしねえように気をつける」
「ありがとうございます!」
その言葉に笑みを浮かべると、立ち上がる。
「お寛ぎのところ失礼しました。明日もよろしくお願いします」
暁美は瑠火のことも伝えようと思ったが今は伝えるべきではないと思い、ペコリと頭を下げて部屋を出た。
その後ろ姿を、槇寿郎は静かに見ていた。
暁美が自分の部屋へと戻ると、誰かが部屋の前に立っている事に気付いた。
「小芭内…さん?」
声をかけると、ビクッと肩を揺らした伊黒が振り返った。
「暁美…動いて平気なのか?」
「えっと…うん。結構平気みたい」
にへらっと笑った暁美に、伊黒はホッと息を吐いた。
「もしかして…心配してくれたの?」
その言葉に、伊黒の顔に赤みが差した気がした。
暁美は嬉しくなって伊黒の手を取ると、部屋の中へと入る。
「お、おい!」
「なあに?」
声を上げる伊黒に首を傾げると、溜息を吐かれた。
なんで溜息と思いながら座布団を用意して座ると、それを見て座った伊黒の首元から降りた鏑丸が近寄ってきた。
「鏑丸!」
こうして触れ合うのは先日の夜以来で、気を許してくれている様子に嬉しくなる。
膝に乗った鏑丸の顎下を撫でていると、伊黒がジーッとその様子を見ている事に気付いた。
「お前は…蛇は平気なのか?」
「うーん、どうだろう…でも、鏑丸は平気。むしろ可愛いです」
いい子だし、と微笑むと伊黒もどこか嬉しそうだった。
しかしそれは一瞬で、すぐにソワソワとしだした。
「…どうしたんですか?」
「あ、いや…その……」
伊黒はもごもごと言い淀んだ後、チラリと暁美を見た。
「本当に、鬼殺隊に…入るのか?」
「……うん、入ります」
問いに頷くと、伊黒は顔を顰めた。
「お前が入る必要はあるのか?」
「…悲しみを背負う人を、一人でも減らしたい」
そう言った暁美の表情は何かを耐えているようにも見え、伊黒はグッと拳を握った。
「お前の気持ちはわかった。ならば俺も入る」
「えっ!?」
「……何故そうも驚く」
伊黒の言葉に驚いた暁美が思わず声を上げると、伊黒の表情は不機嫌そうなものに変わる。
「いや、なんか…私が理由で入るみたいに聞こえたから…驚いちゃった」
「お前一人ではすぐに死にそうだからな」
「それは…あながち間違いでもないかも…」
(まあ、他にも理由はあるが…)
善行を行えば、この体に流れる醜く汚い血を少しでも…
伊黒は馬鹿な考えを、と首を振ると暁美の手を取る。
「俺は…通常よりも筋力がないそうだ。普通の運動すらままならないだろう。だから、隊士になるには時間が掛かると思う。けれど必ず鬼殺隊に入る。だからそれまで…死ぬなよ」
その言葉に、暁美は握られた手をギュッと握り返した。
「小芭内さんなら、大丈夫。とっても強い人になると思う。私も頑張るから、小芭内さんも頑張って」
そう言って微笑むと、伊黒も微笑んだ。
(だってあなたは未来の柱)
とても強くなる人。
そこであなたは素敵な出会いもするんだよ。
口には出せないけれど、そんな気持ちを込めて、もう一度微笑んだ。
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