始まり~最終選別
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「……前世か。それに…鬼とは」
暁美から受けた発言に、産屋敷は不思議そうにする。
隣で槇寿郎も驚いている様子だった。
「前世の事は後で聞かせてもらうとして、本当に君は鬼なのかい?」
「……はい。私が突然、槇寿郎さんの家を飛び出したのは、私が鬼であったからです」
その言葉に、槇寿郎はハッとした。
「槇寿郎は何か心当たりがあるようだね」
「……昨夜、家の中で鬼の気配を感じました。しかし、直ぐに消えたので神経を張り詰め過ぎていたのかと思いました」
「恐らく、私です」
暁美はそう言うと、自分の手を見る。
「私は……槇寿郎さんに助けてもらった数時間前、鬼舞辻無惨に襲われました」
その言葉に、二人は目を見開く。
「鬼舞辻無惨に血を与えられた私は、意識を失った。恐らく、起きない私を見て失敗したと判断した鬼舞辻はその場を去ったのでしょう。その後、意識を失ったまま鬼となった私は、槇寿郎さんに助けてもらったのだと思います」
「例えそうだとしても、陽に当たっても平気だなんて…」
「それに関しては理由はわかりません…ですが、私は家を飛び出す前に、自分が鬼と化したのを見ました」
目が変わり、手も人のものでは無かった。
「人を食べたいとは思いません。太陽も平気です。それ以外に関しては分かりませんが……私は鬼舞辻が求めるものに近い存在でしょう」
「まるで、鬼舞辻の事を知っているように話すんだね」
そう言った産屋敷に、暁美はゴクリと唾を飲み込み、口を開く。
「そこで……私の前世の話が出てきます」
「前世の?」
「はい」
一つ深呼吸をすると、産屋敷を見つめる。
「私は鬼と化した時に、自分の前世の事を思い出しました。私の前世は、この世界とは違う未来の日本に住んでいた一人の人間です」
「この世界とは違う未来の日本?」
「はい」
「それは、何をもってして違うと?」
暁美は頭をフル回転させる。
どこまで話していいものなのかと。
考える暁美を産屋敷は静かに見ていた。
その静かな瞳に、きっと嘘をついても見透かされると思った暁美は、ゆっくりと口を開く。
「私の世界には……皆さんの、鬼殺隊と鬼舞辻無惨との戦いを描いた書物があります」
「なに……?」
「それは単純に、過去の戦いを描いたものではありません………創作物、なのです」
暁美の言葉に、槇寿郎がバッと立ち上がる。
「創作物だと…?俺たちが、作られたものだと言うのか!」
「槇寿郎、落ち着きなさい」
産屋敷に言われ、槇寿郎は自分を落ち着かせる。
「突然、こんな事を言われても受け入れ難いことで、そして失礼なことを言ったと理解しています。現に、お二人は私の前にしっかり生きているという事も理解しています。しかし……私の前世では………」
「うん、わかったよ。嘘を言っているようには見えないしね」
微笑み受け入れてくれる産屋敷に、泣きそうになるが何とか耐える。
「今、お話しした事を踏まえて……お願いがあります」
「お願い?」
「はい」
一つ深呼吸をすると、頭を下げる。
「私を、鬼殺隊に置いては頂けないでしょうか。いえ…監視の意味を込めて所属させて頂ければと」
暁美の言葉に、槇寿郎は顔を顰める。
「監視……?」
「私は細かなところはともかく、この戦いの行く末を知っています。そして、鬼でありながらこうして陽の光を浴びても平気です。色々な意味で……鬼殺隊の手元に置いていた方が、安心かと思いまして」
その言葉に、槇寿郎は口を閉ざす。
暁美が言っていることは、納得出来るからだ。
産屋敷を見ると、彼も少し考えているようだった。
しかしすぐに微笑むと、暁美へと手を向けた。
「君の身元は私が預かろう。そして、監視をする訳ではなく私の子供の一人として、共に戦ってほしい」
どうかな?と微笑む産屋敷に、暁美はパッと顔を上げ、涙を流した。
「私は…行く末を知っているとはいえ全てではありません。どこまで出来るか分かりません。それでも、よろしくお願い致します……!」
そう言った暁美に、産屋敷は微笑んだ。
あの後、室内に案内されて改めて聞かれたのは戦いの事。
暁美は覚えている限りの事を伝えようと口を開いたが、言葉が出なかった。
伝えたいことは沢山ある。
死んでしまう人の事、怪我をして前線を退く人の事など。
なのに一つも言葉が出ず、無理に話そうとして口から血が出た。
喉が切れたようだ。
(ああ、これは……)
話すのは許されない、という事なのかもしれない。
ならば紙に書いてみようとしたが、誰かに押さえつけられたかのように全くもって動かなかった。
「詳しい話を聞けないのは…残念な事だね」
「す、すみません…」
血を拭きながら謝る暁美に、産屋敷は優しく微笑む。
「気にしなくていい。ただ……一つ聞かせて欲しい」
「はい」
「鬼舞辻は………倒せるのかい?」
「勿論です!」
その問いかけに、暁美は食い気味に答えた。
目を丸くする産屋敷に少し気まずくなり、誤魔化すように髪を弄ると、産屋敷は笑った。
「そうか……いい事を聞いたよ」
そう言った産屋敷に、また泣きそうになったが我慢した。
「あの、鬼舞辻を倒す為に…力を貸してもらう必要がある人物がいます」
「それは、誰だい?」
「珠世さんです」
暁美の口から出た名前に、産屋敷は驚いた。
「…彼女の事も、知っているんだね」
「あの…はい。えっと…私に、彼女を探させて頂けないでしょうか?あ、でもその前に鬼殺隊への入隊試験も受けさせて頂きたいですし、ああ…そうなれば育手の人も…」
ぶつぶつと頭を抱えて独り言を呟く暁美に、産屋敷は笑う。
「一つずつ、順番にこなしていこうね。その先に…鬼舞辻を倒すための道があるのだから」
その言葉に、暁美は頷いた。
(まずここでやるべきは…)
鬼殺隊への入隊、そして……錆兎をどうにか救えないかと足掻く事。
彼が生きていれば、大きな戦力になるだろう。
伊黒と冨岡は歳が同じで、冨岡と錆兎は歳が同じ。
そして錆兎の享年は十三。
そこから計算したところ、彼らの最終選別はこの一年以内にあるはずだ。
まだ……終わっていなければ。
「あの…その道の為に、難しい事とは承知ですが、一年以内に行われる最終選別へと参加したいです。鍛錬をしてくださる方の元へと行きたいのですが……」
どなたかいますでしょうか?
そう言うと産屋敷は笑い、暁美の隣を指さした。
「そこにいるよ。任せられるかい?槇寿郎」
「はっ!問題ございません」
そう答えた槇寿郎を、暁美はパッと見る。
「ほ、本当に良いのですか……?」
「……杏寿郎を見るついでだ」
その言葉に、暁美は頭を下げる。
「ありがとうございます…!」
「しっかり、励むんだよ」
産屋敷の言葉に「はい!」と返事をすると、産屋敷は嬉しそうに笑った。
「一年以内だと…数ヶ月後にはあるね」
「数ヶ月後…」
「無理はしなくていいよ」
そう言って微笑んだ産屋敷に、暁美はギュッと拳を握る。
「……いえ。受けます。受けるために死ぬ気で頑張ります……!!」
だって、そこには彼らがいる可能性があるから。
そう意気込んだ暁美に、産屋敷は微笑んだ。
その後は、特例として本部への道を教えてもらえる事になった。
暁美の身元を産屋敷が預かると言ったからだ。
暁美は何度も何度も産屋敷に頭を下げた。
本部を出てからはまた槇寿郎に背負われての行動となったが、行きとは違って道を覚える為に目隠しを行っていなかった。
とはいえ、直ぐには覚えられなかったので暫くは槇寿郎と共に行くことになりそうだ。
そして煉獄家が見えてきたところで、槇寿郎と約束を交わした。
“暁美が鬼の片鱗を見せたら直ぐ様斬る事”
これを提案したのは暁美で、槇寿郎は驚いていたが頷き同意した。
「本当は嫌だという事は分かっていますが、これからどうぞよろしくお願い致します」と深々と頭を下げた暁美に、槇寿郎は何も言わなかった。
他、鬼であることは産屋敷と槇寿郎との三人だけの秘密となった。
(本当は人との関わりも断ちたかったが流石に難しいという事で、行動には気をつけて異変を感じたらすぐに呼べと言われた)
「お帰りなさいませ」
「瑠火!寝てないといけないだろう」
少しして煉獄家に着くと玄関先で迎えてくれたのは瑠火で、槇寿郎は慌てて瑠火に駆け寄る。
「さあ、部屋に戻ろう」
「あ、その前に…」
瑠火は暁美を手招く。
不思議に思って近付くと、そっと抱きしめられた。
「お帰りなさい」
「あっ……その、ただいま、です」
お帰りと迎え入れられた事が恥ずかしくて、しどろもどろになりながら返事をすると瑠火は微笑んだ。
「暗波、明日からのお前のことは俺から瑠火に話しておく」
「お願いします」
槇寿郎の言葉に頷き、連れられて部屋へと戻る瑠火を見ていると杏寿郎と伊黒が現れた。
(未来の柱…煉獄杏寿郎と伊黒小芭内)
なにを話してきたのか興味津々に聞いてきた杏寿郎と目で聞かせて欲しいと訴える伊黒の二人を暁美は見つめた後、「秘密」と微笑むと、そうだと杏寿郎に声をかける。
「明日から、私も鬼殺隊に入る為の修行…一緒にするから、よろしくね」
「うむ!よろしく頼む!」
満面の笑顔を浮かべる杏寿郎から視線を外すと、驚いた様子の伊黒が眼に入った。
そんなに、変な事を言ったかなと気になったが、今日は色々と疲れてしまったと暁美は部屋に戻る事にした。
(……さて、どこまで出来るか分かりませんが)
可能な限り、原作に逆らってやろうじゃないか!
暁美は一人気合を入れ直し、ギュッと自身の手を握った。
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