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暁美はパチっと目を覚ます。
「起きたか」
聞こえてきた声にビクッと震えながら視線を動かすと、すぐ近くに座りこちらを見下ろす槇寿郎がいた。
「あ、れ……?」
なんでここにと思ったが、室内を見回して煉獄家である事に気付いた。
「路地で倒れているのを連れ帰った。覚えているか?」
「はい……」
最後に見えた足は槇寿郎のものだったのかと、暁美は思い出す。
「何故この家から出て行ったのか。どこに行くつもりだったのか。話してくれ」
暁美は寝かされていた布団から起き上がり、少し考えてから頷いた。
「ちゃんとお話します。ですが……此処ではお話しできません」
「なに?」
「あの……鬼殺隊の主…お館様の前で、話をさせていただけないでしょうか」
静かに話す暁美に、槇寿郎の目が鋭くなる。
(どういう事だ……何故お館様を。それに、昼と雰囲気が全く違う。今目の前にいるのは…まるで、別人だ)
槇寿郎がいい顔をするはずも無いと分かっていた暁美は、姿勢を正すと床に手を付き頭を下げた。
「お願い…します。私が貴方に助けられた日のことも思い出しました。それを踏まえた上で……私の事をお話しさせてください」
深々と頭を下げる暁美を、槇寿郎は静かに見つめる。
「………それは到底無理な願いだと、そう言われると分かっているのでは無いのか?」
「…はい。それでも、どうか……」
頭を下げたまま微動だにしない暁美に、槇寿郎は溜息を吐く。
スッと襖を少し開くと、そこから鴉が入ってきた。
「お館様に、言伝を」
その言葉に暁美はパッと顔を上げた後、再び深く頭を下げた。
「ありがとうございます……!」
「期待はするな」
その言葉に何度も頷くと、槇寿郎は部屋を出るために立ち上がる。
「ま、待ってください…!」
暁美は慌てて槇寿郎の着物の裾を掴む。
「あの、私を見張っててもらえないでしょうか!」
「………見張る?」
「あ、あの…」
いきなり自分は鬼かもしれない、何て言ったら斬られる可能性が大だ。
暁美はキョロキョロと視線を泳がした後、槇寿郎をジッと見た。
「む、夢遊病のようにまたふらふらと何処かに行く可能性があるので…」
なんとも無理矢理な理由に、槇寿郎は顔を顰める。
「今話せないという理由と、俺がここで見張ることは繋がるのか?」
「つ、繋がります」
槇寿郎はガシガシっと頭を掻くと、溜息を吐いて座った。
「さっさと寝ろ」
「あ、ありがとうございます…!」
暁美は笑顔を浮かべると、布団にそそくさと入り込んで目を瞑る。
槇寿郎は胡座をかくと、ジッと暁美を見た。
(夢遊病か……)
何とも言えない、嘘だとすぐに分かるような事を暁美は言った。
何を隠しているというのか。
槇寿郎は面倒なものを連れてきてしまったと、頭を抱えた。
「瑠火、少し出てくる」
「はい、お気をつけて」
そんな会話をする槇寿郎と瑠火を、少し離れたところから暁美は見ていた。
昨夜、槇寿郎に言伝を頼まれた鴉からの返事は「本部にくるように」だった。
その返事を聞いた二人は、早速本部へと向かう事になったのだ。
「行くぞ」
近付いてきた槇寿郎に頷くと、共に門をくぐる。
チラリと見えた伊黒が随分と心配そうな表情を浮かべており、申し訳なくなった。
(小芭内さん…ごめんね)
私、貴方に心配してもらうような人間じゃ…無くなったの。
悲しくなって胸元をギュッと握りしめた。
「暗波、これで目を隠せ。耳も塞がせてもらう。お館様の居場所は機密事項だ」
「はい」
渡された布で目を覆い、耳栓もする。
それを確認した槇寿郎は暁美を背負うと、地を蹴った。
流石と言うべきだろうか、この時点ではまだ柱の彼の脚力は凄まじいもので、あっという間に着いたようで直ぐに地に下ろされた。
あまりの速さに少し酔って気分が悪いが我慢しよう。
「外しても大丈夫ですか?」
その問いに肩をトンっと叩かれたので、きっといいという事だろう。
目隠しを取ると、眩しい光に目を細める。
目が慣れてきて辺りを見渡すと、そこは前世で見た事ある場所だった。
鬼殺隊の本部、産屋敷家の庭先。
「暗波、膝をつけ」
耳栓も外しているとそう言われて、庭に正座すると隣に槇寿郎は膝をついた。
「よく来たね」
それと同時に声が聞こえて前を見る。
そこには、産屋敷耀哉……お館様がいた。
「この度は突然の申し出にも関わらず、お時間を頂きましてありがとうございます」
挨拶を始めた槇寿郎に、ハッとして頭を深々と下げる。
(顔が綺麗だ)
病がそこまで進行していないのかもしれない。
「槇寿郎、気にしなくてもいいよ。そして……君が暗波暁美だね?」
「は、はい!」
頭を下げたまま返事をすると、くすりと笑われたような気がした。
「顔をお上げ」
そう言われて、顔を上げる。
優しい笑みを浮かべる産屋敷に、暁美は口を開く。
「こ、この度は見ず知らずの…怪しい私の申し出を受け入れ、貴重なお時間を頂きまして誠にありがとうございます。改めまして、暗波暁美と申します」
「そう畏まらなくてもいいよ」
緊張しながら話す暁美に、産屋敷は笑う。
「あ、ありがとうございます」
暁美がそう言うと、「さて」と産屋敷は小首を傾げる。
「私に話があるとの事だったね。突然、槇寿郎の家を飛び出した事、君が襲われた日のこと…だったかな」
「はい、そうです」
さて、ここから私は信じてもらえないような話をして、信じてもらうしか無い。
「私は…前世を覚えています。そして……鬼です」
私が救うなんてことは、出来ないかもしれないけれど、少しでも彼らを助けるために。
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