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槇寿郎に連れられて向かった部屋には、一人の女性と少年、そして女性に抱かれるまだ幼い子供がいた。
この人たちが、昨日聞いていたご家族なのだろう。
「昨日言ってた奴らだ」
「こ、こんにちは」
「……こんにちは」
「こんにちは」
紹介されたので挨拶をすると、女性ー瑠火はにこりと微笑んだ。
「あなた達のお名前は?」
「暗波暁美です」
「伊黒小芭内、です」
二人が名前を告げると瑠火はよろしくと言い、我が子二人に目を向けた。
「この子は杏寿郎、こちらは千寿郎です」
「煉獄杏寿郎だ!よろしく頼む!」
元気よく挨拶をされたが少し耳が痛い。
腕に抱かれている赤子、千寿郎君もこちらを見て笑っていた。
その様子に和んでいると、咳払いが聞こえ視線を向けるとそれは槇寿郎からだった。
「見ての通り瑠火は体調が芳しくない。自分の事は基本的に自分でやってもらうことになる」
「はい、大丈夫です」
「ごめんなさいね」
謝る瑠火に「いえ、そんな!」とぶんぶんと首を振ると、槇寿郎は杏寿郎を見た。
「杏寿郎。二人に家を案内してこい」
「はい!父上。さあ、二人ともこっちに」
「あ、ちょっ」
「おい…!」
ガッと腕を掴まれ、ダダダと走り出した杏寿郎に腕を引かれて自分も走りだす。
その後は目紛しく家の中を案内された。
目を回していると夕方になっており、自分に与えられた部屋に戻ってくるとボフッと倒れ込んだ。
(げ、元気すぎる…)
元気なのは良いことだと思うが、おばさんにはキツすぎる。
(…………“おばさん”?)
暁美は起き上がると、自分の手を見る。
自分は今年、十一になった筈だ。
おばさんなんて年齢では…
暁美は頭に沢山のハテナを浮かべる。
その時、ズキッと頭に痛みが走った。
(な、に……これ)
痛みと共に、色々な光景が頭の中を駆け巡る。
知らない、見たこともない光景。
こんなの、知らない、知らない、知らない、いや、“知ってる”。
暁美は、ハッ、ハッと短く呼吸を繰り返し胸を押さえる。
(なに、なんなの……)
知らない筈なのに知っている光景。
苦しくて、前のめりに蹲る。
(私に、なにが起きてるの)
グッと手に力を入れた時、痛みが走った。
手をゆっくり開くと血に塗れていて、なにが起きたのかと思ったが更に驚いたのは自分の爪だ。
「なん、で…」
長く、尖っている。
つい先ほどまで自分の手はこんな状態ではなかった筈だ。
こんなの、まるで…
(鬼、みたい)
そう考えて、暁美は慌てて部屋にあった手鏡を手にする。
自分の顔を見て、更に驚愕した。
(目が…違う。私の目じゃない)
鋭くなった瞳孔に開いた口が塞がらなくて、暁美が固まっていると誰かの足音がした。
(やばっ)
こんな姿、見られたくない。
暁美は慌てて部屋の片隅にある布団を被る。
戻って、戻ってと願い自分の爪が元に戻ったのを見てホッとしていると、近付いて来ていた足音は隣の部屋の前で止まった。
「……鬼の気配があったと思ったが…消えた……?」
ポツリと聞こえたのは槇寿郎の声で、暁美はドキリとした。
やはり、自分は先ほど鬼だったのかもしれない。
でも、今は人に戻っているようだった。
混乱していると、再び頭に痛みが走った。
「う、ぐっ……」
痛みと共に蘇る光景。
(これは……)
“あの夜”、自分の家族が崩壊した日の記憶。
『お前は血に耐えれるか…』
そう言って笑う男と、倒れる自分の体。
私はこの男を“知っている”。
(……鬼舞辻無惨)
確かに、私は知っている。
あの男も、この煉獄家の皆も、小芭内さんも。
暁美はバッと起き上がった。
「こ、ここは…」
この世界を、私は知っている。
頭を抱え今の状況を考える。
(私は、暗波暁美。名前は前と一緒。あの日死んだ家族は、私の二つ目の家族。そうだ、私は…事故で死んで…)
“前世”で事故で死んで、気が付いたら今のこの状況に。
暁美はハッとした。
私は前世でこの世界のことを知っている。
だって、私も大好きな作品だったから。
もしかして…元の世界でよくあった転生もの、それが私の身に起きたのかもしれない。
暁美はまだ痛む頭に顔を顰めながら、布団から出る。
(転生はまあいい、驚いてはいるし混乱もしているが受け入れる他に道はない)
ただ、この世界が厄介かもしれない。
鬼と人が戦うこの世界。
所謂、モブならばよかったのかもしれないが、そうも言ってられないみたいだ。
(この世界のメインと言われる人物達に出会ってしまった。そして私は…)
あの記憶がただしければ、恐らく…いや確実に…鬼となっている筈。
だが、何かおかしい。
だって…太陽の下にいても平気だ。
人を食べたくなんかならないし。
私の身にはなにが起きているのか、調べなければならない。
暁美はそう決めると、部屋を出る。
(調べる前に…私は、この家にいてはいけない)
誰もいない事を確認すると、煉獄家の門を出る。
兎に角、ここを離れなければ。
万が一にも彼らに危害を加えるような事が起きないように。
暁美はただただ走り続ける。
どれくらい走っていたのかはわからないが、気付いたらどこかの街にいた。
「はぁ…はぁ……」
肩で息をしながら、周りを見渡す。
楽しそうに街を行き交う人達。
そこに紛れ、息を整えながら歩く。
(とりあえず、飛び出して来たけど…どうしよう)
行く当てはない。所持品もない。
煉獄家の人々に何かあっては遅いと思い飛び出したが、なにも考えていなかった。
フラフラと歩き続け、ふと目に入った路地へと入る。
(ちょっと、疲れたな…)
急に思い出した、あの夜の事。
それに前世とこの世界の事。
頭が痛いし…意識が遠のく。
暁美は頭を押さえ、なんとか意識を保とうとするが、保てない。
暁美が意識を飛ばす瞬間、誰かの足が目に入ったが確認することは出来ず、そのまま意識を手放した。
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