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槇寿郎に連れられて来た煉獄家。
とても大きな屋敷に呆気に取られていると、「早く入れ」と言われて慌てて槇寿郎を追いかけた。
到着したのはとても長くて濃厚な夜を超えた翌日の夕方。
道中は流石に距離があったのか少しは乗り物に乗った。(その際、服は適当なものに着替えさせられた)
降りたら降りたでまた槇寿郎に抱えられていたのだがこの人は疲れ知らずなのかと思わず気になった。
そして彼から聞いた家族の話。
妻と二人の子供がいるとの事。
下の子供はまだ小さいらしい。
上の子は小芭内さんの一つ下で私の一つ上で、隊士になるべく日々修練を行なっているとの事。
兎に角、声が大きく元気らしい。
今は疲れているだろうから、顔を合わせるのは明日にしようと言われて辿り着いた一室。
「今日だけは一緒で頼む」と言われ小芭内さんと同室らしく、二人で顔を見合わせた。
「……とりあえず、寝ましょうか」
「…そうだな」
幸い、着替えさせられた時に軽く身を清めることは出来たからこのまま寝ても問題はないだろう。
(ちなみに、夕餉に関しては二人とも色んな意味でお腹いっぱいだったので断った)
暁美と伊黒は再度顔を見合わせると、槇寿郎が持ってきた布団を少し距離をとって敷き、そっと横になった。
フッと何かの音が聞こえて目が覚める。
部屋の中はまだ暗く、深夜である事を示していた。
(一体何の音だろう…)
目を擦りながら起き上がると、それは部屋の中で聞こえていた。
辺りを見ると、それは少し離れたところで眠る伊黒が発していた。
四つん這いで近付いてみると、魘されているようだった。
額に汗を浮かべ眉間に皺を寄せる伊黒の横には、心配そうにその様子を見つめる鏑丸がいた。
暁美はどうしたものかと考えた後、鏑丸に手を伸ばす。
「大丈夫だよ、こっちにおいで」
鏑丸は差し出された手を見て少し考えた後、スルスルと寄ってきた。
それをいい子と撫でると、伊黒が眠る横に座り鏑丸を膝に乗せ、布団の上で手を握る伊黒の手を取りそっと引き寄せて握り締めた。
「大丈夫、大丈夫ですよ」
ここには私達を襲うものなんかいません。
鬼はいません。
そう声をかけながら暫く手を握っていると、魘されていた伊黒は落ち着きを取り戻してきた。
鏑丸もそれを見て安心したのか、暁美の手をチロッと舐めた後、眠る体制に入ってしまった。
(おう、膝上で寝ますか…)
まあ、乗せたのは自分なので何も言いませんが。
暁美は少し考えた後、とりあえず伊黒の手を離す事にした…がそれは叶わなかった。
(力、強すぎる)
ギュッと握られている手を振り解くことが出来なくて暁美は溜息を吐く。
鏑丸を起こさないようにゆっくりと伊黒の枕元に下ろすと、足を伸ばしてなんとか自分の布団を引っ掛ける。
掛け布団を手繰り寄せそれに包まると伊黒の横にコロンと寝転んだ。
家の事、鬼の事で伊黒はきっと心細かったり心身が疲れていて何か縋るものが欲しかったのかもしれない。
それは自分も同じで、握られた手を見て、感じる温もりにホッとする。
安堵したからか眠気がやってきて、暁美は眠りについた。
(……なんだ)
片手が、重い。
目が覚めた伊黒は、はじめにそう思った。
鏑丸が巻きついているのかと思ったが、そういった感触ではなかった。
顔を横に向けると、伊黒はギョッと目を見開いた。
(なんで、コイツが…!?)
少し離れたところで眠っていた筈の暁美が、隣で眠っていたからだ。
まさかと思い自分の手を見ると、そこには繋がれた手が。
伊黒が驚いてバッと起き上がると、動いた振動に気付いたのか暁美の目がゆっくりと開いた。
「……もう、朝?」
「あ、ああ…」
「そうですか…小芭内さん、よく眠れました?」
ゆっくりと起き上がりながら投げられた問いかけに「ああ」と返事をすると暁美が「よかった」と笑った。
その様子に伊黒は肩から力が抜けたが、ハッとして繋がれた手を持ち上げる。
「こ、この手は…なんだ?どうしてお前が横で寝ている?」
その問いに暁美はきょとんとしたが、何かを思い出したのか「あっ、ごめんなさい」と言いながら手を離した。
「夜中、小芭内さんが魘されてて…ギュッとしたら少しは安心感が生まれるかなあと思って。そしたら今度は手を離してもらえなくなったから、このままここで寝たの」
その言葉に伊黒は信じられないといった表情で暁美を見た。
「あ、その目は信じてないなあ。鏑丸は覚えてるよね?」
その問いかけに鏑丸が「そうだ」と言うかのように舌をチロチロと出したので、伊黒は頭が痛くなった。
「ああ、その……すまなかった」
「なんで謝るの?私も少し不安だったから…こうやって寝れて、安心出来ましたよ」
逆に感謝感謝と笑う暁美に伊黒はフッと笑った。
「おい、起きているか」
その時、部屋の外から声がかけられて二人で襖を見る。
「起きてます」
そう返事をすると、襖を開けたのは槇寿郎だった。
「すぐそこに井戸があるから顔洗ってこい。その後は飯だ」
ポイっと投げられた手拭いを受け取ると、二人で立ち上がり部屋を出る。
井戸に着いて水を用意したら伊黒がソワソワとしていたので何故かと思っていたが、包帯の下を見られたくないのだと気付き伊黒に背を向けた。
その様子を見ていた伊黒はササっと顔を洗うと、暁美の肩をポンっと叩いた。
「あ、終わりました?」と言った暁美に伊黒が頷くと二人は部屋へと戻った。
そこで待っていた槇寿郎に連れられて部屋を移動していると、だんだんと良い匂いがしてきた。
「とりあえず、飯を食い終わったら二人に紹介する。また後で来るから残さず食え」
そう言って食事が用意された部屋に二人を放り込むと槇寿郎は去って行った。
残された二人はぽかんとしていたが、お腹が鳴ったのを切っ掛けに用意された膳の前に座る。
(美味しそう……)
目の前に用意された朝餉から漂う匂いに暁美は早速食べようとしたが「あっ!」と立ち上がる。
「どうした」
「えーっと…あ、これ借りちゃえ」
隅にあった屏風を「よいしょ」っと運ぶ暁美を伊黒は訝しげに見ていた。
暁美は屏風を自分たちの間に置くと、横からひょこっと顔を出した。
「小芭内さん、安心して食べてね」
そう言って顔を引っ込めた暁美に、「ああ、自分のためか」と理解した伊黒はフッと微笑むと、料理が冷めないうちにと食事に手をつけたのだった。
二人とも食事を終え少ししてから槇寿郎が部屋に来た。
行くぞと言われ頷くと、部屋を出た。
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