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「戻ったぞ」
声がした方を見ると、槇寿郎が戻って来ていた。
「お前の従姉妹を見つけた」
その言葉に伊黒は何も反応を見せなかった。
行くぞと言われて連れて行かれた場所には1人の少女がいた。
少女は伊黒を見るや否やその目をつり上げ、近づいてくるなり伊黒を殴った。
「なっ…!」
驚いていると、少女は叫んだ。
「あんたのせいよ。あんたが逃げたせいで皆殺されたのよ!!五十人死んだ!あんたが殺した!生贄のくせに!!大人しく喰われてりゃ良かったのに!!」
その言葉に、伊黒は酷く傷付いた表情を浮かべた。
尚も暴れて伊黒に飛びかかろうとする少女を、槇寿郎が抱え上げて動きを止めようとする。
暁美はその光景を唖然と見ていたが、幼い頭でもわかる。
少女がどれだけ酷い事を言って、どれだけ伊黒が傷付いたのか。
正当性の欠片も無いその言葉に、暁美はふつふつと怒りが湧いてきた。
「ちょっと!!」
大きな声を上げると、皆がこちらを見る。
暁美はズンズンと少女に近付くと、その頬を叩いた。
「なっ……!」
驚く3人をよそに、口を開く。
「伊黒さんが逃げたから…皆殺された?切っ掛けは確かにそうかもしれない。でも、それでなんで伊黒さんが皆を殺した事になるの?」
「あいつが逃げなければ!誰も殺されなかったからよ!!」
「じゃあ!貴方ならどうしたの?!!大人しく食べられた?自分が死ぬとわかっていながら、大人しくその身を捧げる事が出来たの!!!?貴方が生贄の立場なら、絶対に逃げ出さなかったの!!?」
暁美の言葉と気迫に少女は思わず怯んだ。
「伊黒さんは悪くないわ。人として当たり前の気持ちを持っただけ、生きたいって、殺されたくないって。それに、五十人も手に掛けたのは鬼じゃない!」
そう言い切ると、はーはーっと肩で息をする。
ハッとした少女がまた何か言おうとしたが、それより早く槇寿郎が少女の口を塞いだ。
「彼女は別の隊員に預けてこよう。少し待っていてくれ」
そう言った次の瞬間には槇寿郎の姿は見えなくなった。
それに呆気にとられていたが、あっと思い伊黒を振り返る。
「あ…の……ごめんなさい。勝手な事を言って」
反応のない伊黒に頭を下げると、少ししてポンっと頭に何かが乗った。
(伊黒さんの…手?)
そのままでいると、わしゃっと撫でた後に手が離れた。
顔を上げると、伊黒が揺れる瞳をこちらに向けていた。
「アイツが言った事は…事実だ。俺が逃げなければ…」
「ち、違う!」
手をギュッと握ると、伊黒は驚いた表情を浮かべる。
「伊黒さんの命は…伊黒さんのもの。他の誰のものでもない。伊黒さんが生きたいと願うのは、伊黒さんの自由」
逃げて当然、でしょ?と言う暁美に伊黒はフッと笑った。
「お前は…本当に十一の子供か?」
「……多分」
少し和んだ空気に良かったと息を吐くと、伊黒がそっぽを向いた。
「………小芭内でいい」
「…え?」
「俺のことは、小芭内でいい。これからはそう呼べ…暁美」
「!!………うん!」
伊黒の言葉が嬉しくて、思わず大きな声が出た。
お近付きになれた気がして嬉しかった。
「戻った」
少しして、槇寿郎が戻ってきた。
彼の肩には鴉が止まっていた。
「お前達は一時的に、俺の家で保護させてもらう。お館様にも俺の家族にも既に伝えてある」
「保護…」
「しっかり捕まっていろよ」
「え、ちょ」
伊黒を背に、暁美を横抱きで前に抱えると、槇寿郎はグッと足に力を入れる。
その次の瞬間に凄い速さで槇寿郎が走り出したものだから思わず槇寿郎にギュッとしがみついた。
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