始まり~最終選別
名前変更
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
(痛い、痛い、痛い……!)
身体中が痛い。
頭も痛い。
気分が悪い。
クラクラする。
身体中を巡る痛み、今まで経験したことないくらいの頭の痛みに気分の悪さ。
自分は一体どうしたというのだ。
ゆっくりと体を起こすと、体に痛みが走る。
「っつ…」
思わず腕を押さえると、べちゃりと音がした。
なんの音だと自分の手を見ると、その手は真っ赤に染まっていた。
「ひっ……!!」
声にならない声を上げ、その手を凝視する。
(な、なに!!?血………!?)
パニックになりながらも、周りを見渡す。
どうやら家の中に倒れていたようだ。
そして気が付いた、家の中の惨状に。
両親と山の麓で自給自足で生活しており、父が少し離れた町で商店の手伝いをしてその給金で生きてきた。
贅沢は出来なかったが、親子3人で温かく過ごしていた。
そんな家が…今はどうだ。
壁に床、家具は鋭い何かで切り裂かれており、そこら中に血が飛び散っている。
あまりの光景に意識を失いそうになったが、両親の姿がない事に気付いて痛む体を動かす。
「お…母さん、お父さん…」
どこにいるの。
痛む体に鞭を打って立ち上がると、ふらふらと家の外を目指す。
何とか玄関口へと辿り着いて目を見開いた。
外には両親が重なり合うように倒れており、その周りは誰が見ても死んでいるとわかる量の血が飛び散っていた。
「そ、そんな……」
うっ、と吐き気がして思わずその場に吐く。
そんな、そんな、そんな…!
胃の中にあったものを全て吐き出し乱暴に口元を拭うと、両親へと近づく。
「お母さん、お父さん…お、起きて…」
頭では分かっている、もう彼らが起きる事はないと。
でも、心が否定している。
嫌だ、嫌だと頭を振ると二人の体に泣き縋った。
「いやーーーーーーーー!!!」
どれくらいそうしていたのかわからないが、足音がしてフッと影が出来た。
「……間に合わなかったか」
その言葉に顔を上げると、黒い服に身を包み、黄色のような金色のような…それと赤が混じった炎を連想させる焔色の髪に、同じく炎を連想させる羽織を靡かせる男が立っていた。
男は周りを見渡した後、チラリとこちらを見た。
「……ここには君と、ご両親と……他には誰か?」
その言葉に首を横に振ると、そうかと返事をした。
男はその場から歩き出すと家の周りや中を調べた後、再び戻ってくる。
「……君のご両親を、弔ってあげよう」
その言葉に、もうすっかり冷たくなった2人を見つめ、再び泣いた。
その様子を咎める事なく、落ち着くのを待ってから共に両親を弔ってくれた男を見る。
「あの…ありがとう、ございます」
「いや、気にするな。当然の事をしただけだ。それより、ここで何があった」
その問いにわからない、気がついたらこうなっていたと伝えると、男は「そうか」とただ一言返事をしてすくりと立ち上がる。
「俺は…とある任務でこの先にある屋敷に向かわなければいかない。俺が所属している組織の人間がもう直ぐここに来る、それまでここで待っていられるか?」
その言葉に、体が震え出す。
ここに今1人でいるのは、怖い。
その様子を見て悟ったのか、男は目の前にしゃがむと頭を撫でた。
「…怖い思いをする可能性もあるが、それでも行くか?」
その言葉に、頷いた。
「よし、ならば移動しながら恐らくここで起きたであろう事を話そうか」
「わっ…!」
ヒョイっと担がれたかと思うと、男に背負われていた。
ギュッとその背にしがみつくと、男がそれを確認してグッと足に力を入れたのがわかった。
「君の名は?」
「えっと…暁美。暗波暁美、です」
「そうか。暗波、俺の名は煉獄槇寿郎だ。しっかり掴まれよ」
その言葉に頷くと同時に、槇寿郎は地を蹴った。
煉獄槇寿郎と名乗ったこの男は、鬼殺隊という政府非公認の組織に所属しているらしい。
読んで字の如く、鬼を殺す隊。
彼は、私の家は鬼に襲われたのだろうと言った。
そう言われても私の記憶は混濁していて、あの家で何があったのかよく思い出せない。
無理に思い出さず、ゆっくり思い出せばいいと言った彼に頷いた時、ピタリと彼の足が止まった。
「…近いな」
ピリッとした空気を放つ槇寿郎にゴクリと唾を飲むと、そっと草陰に下された。
「いいか?俺が戻るまで絶対に動くなよ?」
その言葉に何度も頷くと、すぐに槇寿郎の姿は消えた。
残されて1人になった途端体が震え出したが、ギュッと肩を抱き締めてその場に座り込む。
(大丈夫…大丈夫…)
そう、自分に言い聞かせた。
それにしても……あの人の事、どこかで見たような気もしなくもない。
炎を思わせる男。
それに、煉獄の名前。
うーん…と頭を捻るが、何も出てこなかった。
そもそも、家で何があったのかも思い出せないのに。
暫くそうしていると、どこからか何かの断末魔が聞こえた。
それにビクリと体を震わせると、少ししてガサリと音がした。
「戻ったぞ」
姿を現したのは槇寿郎で、ホッと息を吐いて立ち上がる。
その隣には、白い着物に身を包み首に白蛇を連れ、口元を包帯で覆った黒髪の少女……いや、少年がいた。
色の違うその両目は、不安気に揺れている。
「っ…」
途端、頭がズキっと痛んだ。
彼を…知ってる?
思わず考え込みそうになったが首を振り、槇寿郎と少年を交互に見る。
「…彼も君と似たようなものだ」
その言葉に頷くと、槇寿郎は後処理があるから少し待てと言って離れていった。
残された2人の間には、沈黙が流れた。
(どうしよう…)
困ったなと思った時、少年がこちらの服をジッと見ている事に気付いた。
「えっと……ごめんなさい、私も助けられたばっかりで、服を着替える暇もなくて…」
きっと、彼は自分のこの血塗れの様子に怯えているのだろうと思った。
似たようなもの、という事は鬼に襲われたのは明確で、きっと血など見たくもないだろう。
隠すように体を縮こませると、少年はハッとした。
「い、いや…こっちこそすまない」
「ううん…私は暗波暁美」
視線を逸らした少年に首を振ると、自己紹介をする。
少年が「暗波暁美…」と呟いたので頷くと、彼も名乗ってくれた。
「伊黒…小芭内だ」
「伊黒小芭内さん、ですね」
彼を見た後、蛇に視線をやる。
「この子は…?」
「……鏑丸」
「鏑丸か。よろしくね」
そう言って微笑むと、舌をチロチロと出した。
この子なりの挨拶だろうと思い、視線を伊黒へと戻す。
まだ槇寿郎は戻ってくる様子は無かった。
少し考えた後、ちょいちょいと伊黒を手招きし、近づいてきた彼の手をギュッと握った。
「少し、座ろう?」
手を握った時にビクリと体を震わせた伊黒に申し訳無いと思いながら、そう提案すると伊黒は頷いた。
2人でその場に座ると、ふぅ…と息を吐く。
しーんと2人の間に流れる空気に少し気まずくなり、ちらりと伊黒を見ると伊黒も暁美を見ていた。
パチリと合った視線に伊黒は慌てて目を逸らしたが、暁美はふふっと笑った。
「伊黒さんは…歳は幾つなの?」
「…十三だ」
「そうなんだ!私は……私は?」
自分の年齢が、スッと出てこない。
(あれ……私は……何歳?)
黙ってしまった暁美を不思議に思いこちらを覗き込む伊黒にハッとする。
「どうした?」
「えっと、ごめんなさい。なんでもないの。私は…十一になったの。伊黒さんの方がお兄さんだね」
思い出した自分の年齢を伝える。
なぜすぐに自分の年齢を思い出せなかったのか、わからない。
これも…(恐らく)鬼に襲われた弊害なのだろうか。
不安になって体に力が入る。
「……おい」
「えっ?」
「力を入れすぎだ」
そう言って伊黒が指差した方を見ると、思ったより力が入っていたらしく、少し血が流れている自分の手があった。
「あ、教えてくれてありがとう」
手の力を抜くと、ふぅと息を吐く。
「なんだか…疲れたね」
「…そうだな」
2人して溜息を吐く。
再び訪れた沈黙に、さっきから気になっていた事を問いかける。
「伊黒さん、その包帯って……?」
口元に巻かれた包帯、ずっと気になっていて問いかけると、伊黒の肩がこれでもかというくらい跳ね上がった。
(あ、ダメなやつだ)
触れてはいけないところに触れてしまったとすぐに気付き、慌てる。
「ご、ごめんなさい!忘れて!私は何も聞かなかった…!」
ワタワタと手を広げて慌てる暁美に、少しして伊黒はククッと笑った。
その様子にホッと胸を撫で下ろした。
「…お前も、鬼に襲われたのか?」
笑い終えた伊黒は、不意にそう尋ねてきた。
「えっと…多分?」
「多分とはなんだ」
「なんか……記憶が曖昧で…」
暁美は自分が目覚めてからの事をポツリポツリと話す。
その話を伊黒は黙って聞き、すべてを聞き終えると口を開いた。
「…思い出さないほうがいい事なのかもしれないな」
「……そうなのかな」
確かに、思い出そうとすると頭が痛むのは事実だ。
でも……思い出さなければならない気がする、何か…大切な事があった気がする…
うーんと悩んだが思い出せず、チラリと伊黒を見る。
「伊黒さんの事は……聞いても?」
そう問いかけると、伊黒は渋い顔をした。
それにまたやってしまったと思い謝ろうとしたら伊黒は話してくれた。
自分の家は女ばかりが生まれる事、自分は何百年ぶりに生まれた男児である事、鬼が殺した人間の金品で生計を立て、代わりに…赤子を生贄として捧げていた事。
話を聞いていると、そのうち伊黒がギュッと手を握り締めていることに気付いた。
「伊黒さん」
「…なんだ」
「力、入れすぎだよ」
その手に触れようとしたが、家の事を聞いたばかりなのでやめておいた。
指を差すと、伊黒は手の力を抜いた。
「……さっきと逆だね」
そう言ってヘヘッと笑うと、伊黒も笑った気がした。
.