鬼殺隊〜
名前変更
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「ふぅ…」
暁美は大きく深呼吸をした。
あれから、暁美と錆兎は無事に…とはいかなかったが七日間生き延びた。
山を降りてはじめに集合した場所へと戻ると、錆兎を見つけて半泣きの冨岡が駆け寄ってきた。
「錆兎…う、腕が……!」と狼狽える冨岡を宥めている錆兎からそっと離れると、辺りを見渡す。
錆兎が殆どの鬼を倒しており、全員生き残っていて人は多かった。
とりあえず、あの髪の毛がサラサラな少年は村田だろうと思いつつ眺めていると、最終選別の説明をしてくれた女性が現れた。
その後は女性から生き延びたことに対する賛辞の言葉を受け、自分の刀に使う為の玉鋼を選び、鎹鴉を与えられた。
私についてくれる子は
比較的流暢に話し「ヨロシクね」と言った朱に「こちらこそ」と微笑んでそっと撫でた。
その後は刀が出来るまでは一旦体を休める時間らしいのだが…
暁美はチラリと錆兎と冨岡を見た。
満身創痍の錆兎に遂には泣き出してしまっている冨岡。
……彼らをこのまま帰すのは、中々に厳しいだろう。
暁美はうーんと悩んだ後、朱に手を伸ばす。
「朱、早速で申し訳ないんだけど…炎柱の家はわかる?」
「モチロン!」
「無事に試験は生き延びたけれど、帰るのが遅れるって伝言頼めるかな?」
「マカセテ!」
そう言って飛び立った朱を見送ると、未だ動けずにいた錆兎と冨岡に近寄る。
「あの…」
声をかけると、錆兎は比較的穏やかな表情でこちらを見たが、冨岡はかなり警戒していた。
そんな冨岡に「こいつのお陰で死なずに済んだ」と錆兎が伝えると、警戒はすぐに解けてまた目に涙を浮かべていた。
「改めて、暗波暁美です。生き残れて…よかった」
「俺は錆兎、こっちは冨岡義勇だ。まあ、命あるだけマシか。……まだ、何かできるだろうし」
そう言った錆兎に、自分も泣きそうになったがグッと堪えた。
「あの…二人は家に帰れそうですか…?」
その言葉は、怪我の様子を見てのものだと二人はすぐに理解し、お互いの様子を見た。
片腕が潰れ満身創痍の錆兎、比較的元気だが頭を怪我して自由に動くには不自由のある冨岡。
一瞬言葉を失ったが、「大丈夫だろう」と錆兎は笑った。
その様子を見て暁美は錆兎がそう言うならと思いかけたが、冨岡の様子を見てその考えを改めた。
冨岡は兎に角狼狽えていた。
こんな彼が将来、柱としてやっていくのか想像がつかなかったが、とりあえず今は放っておくのは危ないだろう。
「その、よかったら二人を送らせてもらえないかな?私は比較的怪我とかもないですし」
「いや、そんなことをさせるのは…「お願いします!もう育手には帰るの遅れるって連絡しちゃったので…」
断られるだろうとは思っていたので、言葉をかぶせて頭を下げる。
錆兎は渋っていたが、「錆兎…」と声をかけた冨岡の様子を見て、ため息を吐いた。
「……たしかに、こんな状態じゃ少し厳しい。頼めるだろうか」
「…はい!任せてください」
暁美はニコッと笑った。
彼らが帰る場所は狭霧山だと説明された。
育手の名前は鱗滝左近次。
知っているとはいえ、彼らから聞くのは初めてなのでふむふむと頷く。
「お前の育手は?」と問われ「煉獄槇寿郎」だと伝えるとかなり驚かれた。
どうやら鱗滝さんから柱などの話を聞いたことがあるらしく、現役の柱が育手である事に驚いたようだ。
「す、すごいな…」
「そう……ですよね」
感想を漏らした冨岡にそう返事しながら、へらりと笑った。
「よしっ、こんな感じでいいかな…?」
「……悪いな」
自分の羽織を使い、あまり意味はないかもしれないが改めて錆兎の右腕に巻いた。
これで少しは周りからの目を気にせずにいれるだろう。
「それじゃあ…行くか」
錆兎の言葉に頷くと、冨岡と共に彼の後ろに続いた。
彼らの足ならばすぐに辿り着けるかもしれないが、今は負傷者だ。
道中、どこかで休む必要があるだろう。
こんな状態で泊まれる宿があるだろうか…と不安に思いながらも二人を観察する。
とにかく気になるのは冨岡だ。
原作の彼を形作るのは姉と親友の死。
姉はともかく、親友はこうして生きている。
原作とは違った状態になるが…
「錆兎、お前が隊士にならないなら俺は…」
「ええい!いつまでもメソメソするなと言っているだろう!俺は隊士にはなれないが出来る事を探すつもりだ。鬼と戦う事はやめない」
「錆兎……」
「お前には俺の意志を繋いでもらう必要がある。だからもっと鍛えろ!」
そう話す二人の様子を見て、きっと大丈夫だろうと微笑んだ。
「…何を笑っている」
「いえ、仲がいいなと」
そう答えると、錆兎と冨岡は目を逸らした。
きっと照れているのだろうと、暁美は再度笑った。
その日はなんと藤の花の家紋を掲げる家に泊まれることになった。
「寛三郎さんのお陰で泊まれてよかったですね」
暁美はそう言いながら、自分の膝の上で休んでいる冨岡の鎹鴉の寛三郎を撫でていた。
本来ならば休まずに帰宅を急ぐのがいいのだろうが、錆兎はやはり出血が酷かったのでかなりふらついていた。
心配になって宿泊先を探していると、たまたま藤の花の家紋を掲げる家を見かけてダメ元で泊まれないかと交渉をしようかと思った時、飛んできた寛三郎が「伝令…」と話し出した様子を見て家主が「鬼狩り様ですか」と言ってくれ、無事に泊まれることになったのだ。
「戻ったぞ」
そう言って襖が開けられ、錆兎と冨岡が部屋に入って来た。
「お帰りなさい」
風呂に入っていた二人は肩に手拭いを掛けていた。
どうぞと自分の近くに座布団を出して二人を呼ぶと、お茶を出した。
「さっき、家の方からいただきました。どうぞ」
「助かる」
「…ありがとう」
礼を言ってお茶を飲む二人ににこりと微笑んだ後、寛三郎を別の座布団の上に移動させ、二人に近寄る。
「さて…錆兎さん、腕を出してください」
「腕?」
「包帯頂いたので…一応巻いておきましょう」
そう言って、家主からもらった包帯を見せる。
錆兎は少し眉間に皺を寄せた後、スッと潰れた腕を暁美の前に出した。
暁美は痛々しいその腕をそっと撫でた後、丁寧に包帯を巻いていった。
もう彼の腕は動かないという事実に苦しくなりながらも全て巻き終わるとポンと頭に錆兎の手が乗せられた。
「お前がそんな顔をするな。……お前のおかげで命はある」
「…はい」
暁美が頷くと、錆兎は笑った。
「さて、次は冨岡さんですよ」
「…俺か?」
「冨岡さん、頭怪我してますよね?だから手当てしておきましょう」
そう言ってささっと近寄ると頭に手を伸ばす。
ビクッと肩を揺らしたのには気づいていたが気にせずに頭に触れる。
傷は大きくはないがそれでもパックリと切れていた。
そっと布を当て、包帯を丁寧に巻いていく。
その間、ソワソワしていた冨岡を見て錆兎はククッ…と笑っていた。
「はい、終わりましたよ」
「…すまない」
人見知り全開の冨岡に苦笑しつつ、さてっと立ち上がる。
「もう寝ますか?」
「…そうだな。そろそろ寝よう」
疲れている様子の二人に頷き、布団を敷いていると「おい」と声を掛けられる。
「はい?」
「…なぜ布団を三組も用意している」
「え?用意しないと寝れませんよ?」
「そうではなく…お前もここで寝るのか?」
「え?はい」
その言葉に頷くと、錆兎は大きくため息を吐いた。
「あのな…俺たちは男で、お前は女だ。同じ部屋で寝るなんて言語道断」
「でも、家の方には一部屋でいいって伝えてしまって…」
「少し待っていろ!」
そう言って部屋を出た錆兎をぽかんと見つめた後、冨岡を見た。
「…部屋、分けた方がよかったんですかね?」
「…当たり前だ」
暁美はあははと渇いた笑いを溢し、錆兎が戻ってくるのを待った。
「お前の部屋は隣だ」と戻ってきた錆兎に言われ、布団を一組持つと隣の部屋へといそいそと運んだ。
布団を用意した後に錆兎達の元へ戻り「おやすみなさい」と伝えると、二人は「ああ」と返事をした。
最終選別中は野宿だったから、布団の感触が気持ち良くてあっという間に眠りについた。
後日、家のものへと感謝を告げると狭霧山へと再度向かう。
数日して狭霧山の麓へと到着すると、二人に別れを告げた。
錆兎とはそれなりに仲良くなれた気がするが、冨岡はずっとよそよそしかった。
それでも、はじめの時よりは少しは仲良くなれたんじゃないかなと思う。
暁美は山へと登っていく二人の背を見送った後、くるりと踵を返した。
さて、私も戻ろう。
暁美はよしっと気合を入れると、グッと足に力を込めて地を蹴った。
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