始まり~最終選別
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「ここが…」
暁美はキョロキョロと周りを見渡す。
藤の花に囲まれ、鬼が逃げることの出来ない場所。
藤襲山。
花はとても綺麗だが、この中には…危険な異能の鬼が隠れている。
(……今後の為に)
息の根を止める事が出来るならばしたいが、私にそれが出来るかどうかはわからない。
小さく息を吐きながら、人が集まっている場所へと向かった。
鬼殺隊になる為の最終選別が行われるこの場所にいる皆は、かなりピリついていた。
怖いなぁ…と思いつつ隅の方へと立ち、周りを見渡す。
(……いた!)
一人一人の顔を確認していて、見つけた。
宍色の髪を持つ少年と、その隣で親しげに話す黒髪の少年。
間違いない、彼らが錆兎と冨岡義勇だ。
暁美はゴクリと唾を飲み込んだ。
(錆兎を、死なせない)
彼を死なせない事でもしかしたら真菰が生き延びる事にも繋がるかもしれない。
戦力を増やしたいという気持ちもあるが、ただ純粋に生きていてほしい。
きっと、この場にいる者達のほとんどは、彼に助けられるだろう。
けれど、彼を助けられる者はいない。
(だから、私が…)
ぐっと拳を握った時、静かな声が響いた。
パッと顔を上げると、一人の女性が立っており、最終選別の説明が為された。
説明内容はよく知るもので、七日間生き延びる事だった。
合図と共に皆は山へと入り、そして散る。
暁美は鬼へと注意をしつつ、錆兎を追っていた。
(やっぱり…凄い)
彼の腕前は圧倒的で、次々と鬼を倒している。
正直自分はついていくのに必死だ。
肩で息をしながら後をつけていると、ピタリと錆兎が止まった。
それを見て暁美も足を止めると、くるりと振り返った錆兎が刀を手に飛び掛かってきた。
「うわ、ちょ…!!」
驚いてなんとか刀を塞いだが、ドサっと倒れ込む。
自分に跨り刀を構え直した錆兎は「女…?」と溢した後、ハッとして刀を引いた。
「ずっとつけてくるやつがいるようだから鬼かと思ったんだが…」
錆兎はそう言いつつ暁美の上から降りると、手を差し伸べる。
その手に暁美が手を重ねると、ヒョイっと立ち上がらせた。
「なぜ俺をつけて来た」
「あ、いや…その…」
暁美は問い掛けに言葉を濁し視線を逸らす。
(何で言えばいいのかな)
そもそも正直に話そうとしても言葉が詰まって出ないだろうから、そこは問題ないとして誤魔化すための理由が出てこない。
暁美はうーんと頭を捻った後、チラリと錆兎の刀を見た。
「貴方が…凄く強いから、見習いたくて」
咄嗟の言葉に錆兎は目を丸くした後、息を吐いた。
「その…強いと言ってもらえる事はありがたいが、今は最終選抜中だ。気を引き締めたほうがいい」
「うっ…そうですよね」
暁美は苦笑すると、自分の腰にある刀に触れた。
「ごめんなさい、私ももっと集中します」
「ああ、そうしろ」
錆兎はそう言うと、歩き出した。
(あーーーー、どうしよう)
後を追いかけるのはもう無理だろう。
絶対にバレる。
暁美は深呼吸をすると、刀をぎゅっと握りしめた。
「一か八か…」
この山で一番強い鬼、彼が…死ぬ事になった原因の鬼。
そっちの気配を探るしかない。
暁美は深呼吸をすると、辺りの気配を探る事に集中した。
先日、鬼と遭遇した時に気付いたのだが、同じ鬼の気配を直ぐに感知出来た。
この山に入ってからも、あちこちにいる鬼の気配をずっと感じている。
(恐らく…)
自分には鬼がどこにいるか感知しやすいのかもしれない。
だからきっと…探れるはず。
暁美は一際大きな気配を探した。
(どこにいるのか…)
さまざまな気配を探っていき、これでもない、あれでもないと頭を捻っていると、ポンっと肩を叩かれた。
「ひゃあああ!!」
「うわぁ!!!」
驚いて振り返ると、同じく驚いた様子の錆兎が立っていた。
「な、なんでしょうか…」
「い、いや…動かなくなったから…危ないと思って」
なるほど、心配して声をかけてくれたのか。
「あー、その、ありがとうございます」
暁美はヘラッと笑うと、頭を下げた。
「で、では…」
暁美はそう言うと、くるりと踵を返して走り出した。
後ろで「あ、おい!」なんて声が聞こえてた気もするがとりあえず今は逃げさせてくれ。
だって…あんな叫んだところ見られたの恥ずかしいし!
暁美は頬が熱くなるのを感じながら、目的とする方へ向けてただひたすらに走るのだった。
最終選別が始まってから数日、終わりも見えてきた。
山の中の鬼の数は相変わらず減り続けており、きっと錆兎が倒しているのだろう。
私はというと…向こうからバレないように離れた距離を保ちながら例の鬼の気配を探り続けていた。
向こうはこちらに気付いてないようで、暁美は比較的楽に過ごし、たまに鬼に遭遇したが倒すのも苦にならなくなってきた。
この山の中で更に鍛えられている気がする。
この調子で生き残ろうと気合いを入れた時…ふと感じた。
例の鬼に近付く別の気配を。
(まさか…)
暁美は地を蹴ると、目的地に向かって急いだ。
(急すぎる……!)
別の気配は錆兎のものだ。
あの鬼と錆兎が、出会ってしまう。
必死に地を駆けながら刀に手を掛ける。
もし彼がピンチに陥っていても、すぐに助けられるように。
必死に走る暁美が着く前に、鬼と錆兎の気配は重なった。
(あー!やばいやばい!!)
グッと足に力を入れると、更にスピードは増した。
正直、自分でも引くくらいの速度が出ているけど慣れなければいけない。
だって柱ってこれ以上に速いんでしょ?
なんて考えながら走り続けていると、目的の場所へと着いた。
「さっ…危ない!!」
思わず名前を呼びそうになったがなんとか飲み込み、錆兎に手を伸ばす鬼…手鬼の注意を引く為に大声を出す。
「何だ〜?また獲物がやってきたのか」
ニヤリと笑った手鬼は、ギョロッとコチラを見た。
その不気味な姿に引きながらも錆兎を見る。
彼の刀は…折れていた。
更に言うならば鬼の手はもう錆兎の目の前だ。
「順番に殺してやるから、そこで待ってな」
「ぐぁあああ!!」
そう言いながら錆兎を捕まえた手鬼は、グッと力を入れる。
「させない!!」
暁美は息を吸うと一気に鬼へと詰め寄る。
「炎の呼吸 伍ノ型 炎虎!!」
(この一撃にかけるしかない!)
今、自分が扱える中で一番威力がある技で、相手に隙をつくってその間に錆兎を助ける。
「はぁあああ!」
大きく刀を振ると、その名の通り炎が虎のようになって手鬼へと襲い掛かる。
「何っ…!」
想定以上の威力だったのか、怯んだ様子の手鬼の隙をついて錆兎を掴んでいた手を斬り落とし、助け出す。
「お、俺の手が!」
「ねえ!走れる!?」
叫ぶ手鬼を無視して、錆兎に声をかける。
頷いたのを確認すると、手を繋いで走り出した。
「あ、待ちやがれ!逃さねえぞ!!」
その言葉と同時に複数の手が襲いかかってくるが、何とか避ける。
錆兎も避けるだけの力はあったのか、自力で避けてくれているので助かる。
暫く手を避けて走り続けていると、鬼の気配がしなくなった。
(ここまで来たら……)
肩で息をしながら、錆兎を見る。
師匠である鱗滝から貰ったお面は壊されたのか、彼の頭部には無かった。
更に視線を動かしていると、暁美はハッと息を呑んだ。
「手、手が…」
彼の右手は、肘から下が潰れていて血が流れていた。
命を助けることは出来たが、負傷する事を防ぐ事は出来なかったのだ。
「命があるだけ…マシだ」
錆兎はそう言ったが、悲痛な表情を浮かべていた。
暁美はグッと唇を噛み締めると、自分の羽織を引き裂いて彼の腕に巻いた。
止血の為だ。
「少し我慢してね」
「おい…」
錆兎は何か言おうとしたが、暁美の顔を見て息を吐いた。
「……何故泣いている」
「だって、腕が…」
これでは、彼は刀が振れない。
彼にとって、死活問題だ。
手早く止血を行った後、グイッと腕で涙を拭うとポンっと頭に手を置かれた。
「気にするな。女に助けられたというのは男として何ともいえないが…感謝している。」
その錆兎の言葉に、更に涙が溢れる。
「お、おい!泣くなよ…」
慌てる錆兎はため息を吐くと、暁美の背をぽんぽんっと叩き、涙が止まるまで待つ事にした。
暫くそうしていると、暁美が静かになった事に気付いた。
チラリと錆兎が視線を向けると、暁美は眠っていた。
「おいおい…」
呆れたと錆兎は溜息を吐いた後、そっとその体を抱き寄せると周りから見えない様に物陰に身を隠した。
周りに気配が何もない事を確認すると、自分も体力を回復させる為にと目を閉じた。
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