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始まり~最終選別

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「炎の呼吸 壱ノ型 不知火」

足を踏み込み、打ち込み台へと一気に間合いを詰めると袈裟斬りに刀を振る。

槇寿郎や杏寿郎よりは弱く見える暁美の刀捌きだったが、打ち込み台は綺麗に斬れてゴトっと音を立てて崩れた。

「……まだまだだが、一先ず形にはなったな」

そう言ったのは槇寿郎で、暁美は肩で息をしながら、嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます!これからも精進します!」

ガバッと頭を下げた暁美を見た後、槇寿郎は何も言わずに去っていった。

暁美が頭を上げて息を吐くと、バンッと背中に衝撃が走った。

「やったではないか!」

「うぐっ……!」

背中を叩いてきたのは杏寿郎で、力の強さに思わず前のめりなる。

というか、息も苦しくなる。

「す、すまない…」

「いえ…次からは加減してくださいね…」

胸を押さえる暁美に杏寿郎は申し訳ないと頭を下げた。

暁美は…次の最終選別を受けるのだったな」

「そのつもりです」

暁美なら大丈夫だ!絶対に隊士になれる!俺はまだ父上から許可が出ていないから、もう少し先になるだろうが…先に隊士になって、待っていてくれ」

そう言って笑った杏寿郎に、暁美も笑った。

日々鍛錬をこなし、全集中の呼吸も覚え、暁美は迫り来る最終選抜に向けて腕により磨きをかけていた。

炎の呼吸は合っていない訳ではないのだが、どうにもしっくり来ずに苦戦していた。

しかし、やっと槇寿郎に認めてもらえる形になったのだ。

「杏寿郎さん」

「ん?どうした」

「私…頑張って隊士になって、沢山の人を救えるようになります」

そう決意を込めた暁美の言葉に、杏寿郎は優しく微笑んだ。

その後は片付けを行うと、食事までまだ時間があったので部屋で柔軟をしていた。

暗波

声をかけられ顔を上げると、槇寿郎が立っていた。

「はい、なんでしょうか」

「来い。瑠火がお前を呼んでる」

「瑠火さんが?」

一体なんだろうと思い慌てて立ち上がると、槇寿郎についていく。

瑠火のいる部屋へと着くと、入れと目で促されて声をかける。

「瑠火さん、暁美です」

「どうぞ」

返事をもらい障子戸に手を掛けると、そっと開く。

布団の上で千寿郎と手遊びをしていた瑠火はこちらを見ると、手招きをした。

「こちらへ」

「は、はい」

緊張しながら瑠火へ近付くと、少し離れたところへと腰を下ろす。

「もう少しこちらへ」

そう言われて布団の横へと近付くと、瑠火は自身の隣から何かを取って広げた。

「…やはり、貴女に似合いそうですね」

「えっと…」

広げたのは着物のようで、瑠火は暁美に着物をあてると、一つ頷いた。

その様子に困惑していると、瑠火は暁美に着物を渡した。

「私が幼少期に着ていたものです。娘が産まれたらと状態が良いものだけ置いていたのです。よければ貰ってください」

「えっ!?そんな事出来ません!」

慌てて断るが、瑠火は他の着物も手にして暁美へと次々渡す。

「嫌ならば捨ててくださって大丈夫ですよ」

「そんな…嫌なわけありません!」

暁美がそう言うと、瑠火は頷いた。

「それはよかったです」

暁美は瑠火の様子にそれ以上何も言えなかった。

ちらりと槇寿郎を見ると、特に意義はないようで、ただ二人の様子を見ていた。

暁美は渡された綺麗な着物を胸に抱くと、頬を赤らめて瑠火を見た。

「瑠火さん、その…ありがたく頂戴致します。ありがとうございます」

そう言った暁美の頭を瑠火が撫でると、ぐいっと何かに服を引っ張られる感じがした。

「これ、千寿郎」

服を引っ張ったのはじいっとこちらを見上げる千寿郎だった。

こうして千寿郎と対面するのは、初めてかもしれない。

自分は鬼だから…あまり近付かないようにしていたのだ。

「…ねーね?」

「……えっ?」

突然発せられた言葉に、暁美は固まる。

瑠火はあらあらといった様子で、槇寿郎は目をカッと見開いて二人を見ていた。

「えっと…」

杏寿郎が十二歳で、恐らく七〜八歳差となるこの弟の千寿郎は今年三〜四歳となるはず。

なぜ自分を姉と認識したのか気になるところだが、間違った認識は正してあげないと、これくらいの歳の子はあちこちで話してしまうかもしれない。

「千寿郎君、私はねーねじゃないよ」

「ちがう?なんで?なんで?」

あ、やばい、この歳の子はなぜなぜ期だったかもしれない。

きらきらとした目で見上げてくる千寿郎に耐えれなくなり、瑠火と槇寿郎に助けを求めるが、瑠火は(無表情に変わりはないが、いつもより)にこやかにしており、槇寿郎も口を一文字にしてその光景を見ていた。

「あの…」

暁美が困っていると、むぎゅっと千寿郎に抱きつかれた。

「あわわ…」

暁美があたふたとし出したところで、やっと瑠火が千寿郎を引き寄せて暁美から離した。

「千寿郎は、暁美さんがここへ来た時からずっと遊びたかったみたいです。ただ…鍛練もありましたし、あまり近くへ寄ることがなかったので、嬉しいのでしょう」

ねえ、千寿郎?と言う瑠火の言葉に、千寿郎はニコニコしながら頷いていた。

(可愛い…)

母性本能がくすぐられ、思わず頬が緩む。

暁美さん。よければ…お時間がある時は千寿郎の相手もしてあげてください」

そう言った瑠火は、どこか寂しそうな表情を浮かべていた。

その表情に、暁美はどきりとした。

(瑠火さん…)

病気で、長くは生きられない瑠火。

暁美はギュッと手を握りしめると、頷いた。

「私でよければ」

そう言って頷くと、瑠火は嬉しそうに微笑んだ。







「おい、暗波

後日、いつも通り鍛練を行い午前中はここまでだと言った槇寿郎の言葉に部屋へ戻ろうとすると呼び止められた。

「話がある。来い」

「わかりました」

返事を聞くなり歩き出した槇寿郎に着いて行くと、彼の自室へと入る。

座れと言われて用意された座布団の上に座ると、ボンっと目の前に本が投げられた。

それは、炎柱ノ書だった。

「お前は、これの内容を知っていたのか?」

怒りの籠もった声色に、暁美はびびりながらも口を開く。

「全部ではありませんが、鬼舞辻を倒すために必要な事が書かれている事は知っています」

槇寿郎は床を殴った。

「ならば、今ある全ての呼吸が“派生”で、どれだけ極めようともここに書かれている“日の呼吸”には敵わなく、更には痣も出てない剣士は使い物にもならないという事も知っていたんだな!」

「使い物にならないだなんて…そんな事はない!」

声を荒げる槇寿郎に対し、暁美も思わず声が大きくなった。

「そんな事がないだと?笑わせるな!」

「では貴方は、皆の努力を結晶を無駄だと言うのですか?!」

「日の呼吸を前にすれば、全てが無駄ではないか!痣が出ない者も強い鬼に出会えば殺されて終わる!才能がない人間はすぐ死ぬだけだ!!俺は…………!!!!」

無能だ。

その言葉に、暁美は槇寿郎の頬を叩いた。

「無駄じゃない!無能でもない…!私は、貴方の…貴方の極めた炎の呼吸に助けられた…小芭内さんも。そうやって、人を助けることの出来る力が、無駄だと、貴方は自分のことを無能だと、仰るのですか…?」

お館様が使い物にならない剣士たちをわざわざ鬼に差し出していたと言うのですか?

そう言った暁美の言葉に、槇寿郎はグッと唇を噛んだ。

「確かに、他の呼吸は元となる呼吸の派生です。ただ、それらはその人に合うように呼吸法を変えただけであって、使い物にならないわけではない。槇寿郎さんは…他の柱を弱いと思いますか?使い物にならないと思いますか?無能だと思いますか?」

問いかけに、槇寿郎は答えなかった。

「槇寿郎さん。貴方が仰る事も分からなくはないです。ただ…貴方のその力で救われた人がいる事も忘れないでください。それに…そこで諦めるのですか?世の中には敵わないと分かっていても諦めずにいれば…元となったものを凌駕する力を得る事だってあり得るんですよ?」

槇寿郎は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

「……今日は午後の鍛錬は無しだ。自分で考えて動け。………出て行け」

背を向けた槇寿郎の言葉に頭を下げると、部屋を出た。

(やってしまった…)

槇寿郎さんの言葉に腹を立ててしまったとはいえ、つい手が出てしまった。

槇寿郎さんの気持ちは分かるつもりだ。

本を読んだ時も、彼が絶望したのは十分に感じた。

自分たちの呼吸には“オリジナル”があり、痣者は飛躍的な強さを手に入れる。

そのオリジナルの技も使えず、痣も出ない。

実力が足りないと言われているように感じてしまうのは、もっともだ。

とはいえ、痣の事などはお館様はもちろん知っている。

だからこそ、槇寿郎さんの言葉には腹が立った。

本で読んだ時も、「ちょ、気持ちは分かるが…おい!」となったな…と考えながら歩いていると、「ねーね!」と声が聞こえてビクッと肩を震わせながら足を止めた。

チラリと視線を動かすと、すぐ近くの部屋から千寿郎が顔を出していた。

「こら、千寿郎。暁美は姉ではないぞ」

「うー」

どうやら杏寿郎も一緒にいるようで、部屋から出ようとした千寿郎を抱き上げた。

「今日は杏寿郎さんが千寿郎君を?」

「ああ。母上の体調が芳しくないようでな。午後は鍛錬の合間に俺が千寿郎を見る予定だ」

「そっか…」

暁美は目を伏せた後、こちらを見上げる千寿郎を見て頭を撫でた。

「千寿郎君。少し待っててね」

その言葉に首を傾げる煉獄兄弟に笑うと、一度自室へと向かう。

箪笥を漁り、瑠火から貰った着物を取り出すと手早く着替えた。

紺色の落ち着いた色合いの着物は、裾にかけて白い小さな花がいくつも描かれていた。

シンプルなのに可愛いデザインに暁美は頬を緩め、上で結っていた髪を下ろすと兄弟がいた部屋へ戻る。

「お待たせ、千寿郎君」

そう声をかけて部屋へ入ると、千寿郎は嬉しそうに笑った。

腕を伸ばしてくる千寿郎を抱き上げると、ぎゅうっと服を握られた。

可愛い可愛いと抱き返しながらその場へ座ると、杏寿郎が静かなのが気になってちらりと様子を見る。

ジッとこちらを見てはいるが、その猛禽類のような特徴的な目とは視線が交わってない気がして、声をかける。

「杏寿郎さん?」

「す、すまない。その…それは母上の…?」

「はい。先日頂いたんです。可愛いですよね、この着物」

「…うむ。可愛いな」

微笑んで静かに言った杏寿郎の言葉に、服を褒められているのは分かっているが少し恥ずかしくなった。

そういえば、と暁美は杏寿郎を見る。

「杏寿郎さん。私、午後は自由行動なので…千寿郎君のこと、見てますよ。なので、杏寿郎さんは鍛練に集中していただいてもいいですよ」

「自由行動?」

首を傾げた杏寿郎に何も言わずにこりと微笑むと、千寿郎の頭を撫でた。

「千寿郎君。今日は私と一緒でもいい?」

その言葉に目をぱちくりとさせた後、嬉しそうに抱きついてきた千寿郎に微笑んだ。

杏寿郎はどうしようか悩んでいたが、言葉に甘える事にしたようで庭へと出て素振りを始めた。

(槇寿郎さん、大丈夫かなぁ…)

千寿郎と遊びながら、先程のやりとりを思い出して息を吐く。

絶望して自暴自棄になって欲しくない。

彼には…杏寿郎さんと千寿郎さんといい親子関係でいて欲しいし、彼らを守ってほしいと思っている。

「…ねーね?」

考え込む暁美を不思議そうに見上げる千寿郎の声にハッとして微笑むと、頬を撫でた。

暫く千寿郎と遊んでいると、眠たいのか目を擦り出したのでそっと抱き上げる。

頭を肩に乗せてやり、ぽんぽんと規則的に背を叩き、昔、母が歌ってくれた子守唄を思い出しながら口遊む。

はじめはもぞもぞとしていた千寿郎だったが、眠気が勝ってきたのか段々と体の力は抜けていき、スーッと眠りについた。

その様子に気付いた暁美は微笑み、寝転ばせてあげようと思ったが布団を敷いていない事に気付いた。

(あー…しまった)

鍛練に勤しむ杏寿郎の手を止めるのもなあと思い、どうしたものかと考えていると足音が聞こえた。

部屋から顔を出すと、伊黒が歩いてくるのが見えた。

「小芭内さん」

なるべく小声で呼びかけると、呼び止められた伊黒は足を止めて暁美と千寿郎を交互に見た。

「……なんだ」

「あの、失礼を承知でお願いするのですが…千寿郎君のお布団を敷いてもらえないでしょうか…」

部屋の隅にある布団をちらりと見てそうお願いすると、伊黒は深い溜息を吐いた。

やっぱりだめかな…と暁美がそわそわしていると、伊黒は布団の元へと向かい手早く敷いてくれた。

「ありがとう」

お礼を言って千寿郎を布団へと寝かせると、穏やかな寝顔に微笑んだ。

「……お前はいい親になれそうだな」

「えっ?」

聞こえて来た言葉に顔を上げると、伊黒がバッと自分の口を押さえていた。

自分でも言うつもりは無かったのだろう。

居心地悪そうに視線を背けた伊黒に暁美は笑うと、その手を取った。

「小芭内さんも、きっといい親になれるよ」

「…俺なんかがなれるわけがない」

そう言って手を振り払おうとした伊黒の手を、更に力を込めて握りしめる。

「なれます。こんなに優しいですし」

にこりと笑った暁美に伊黒は目を丸くした後、呆れたように笑った。

「…いつか小芭内さんに子供が出来たら、抱かせてくださいね」

「なっ…!??」

原作通り、今世で結ばれる事は無いかもしれないけれど、もし結ばれたら…あの子との子供なら可愛いだろうなぁと勝手に想像して暁美は一人笑った。

一方、伊黒は暁美の発言に顔を赤らめ、休憩のために戻ってきた杏寿郎に声をかけられるまで固まっていた。






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