原作突入~千鶴外出許可
名前変更
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「おめえら遅えんだよ。この俺の腹の高鳴りどうしてくれんだ?」
「新八さん、大体いつもお腹鳴ってるじゃん」
「そうそう、新八っつぁん、大体腹が鳴ってるよな」
永倉の言葉に桜と藤堂が呆れたように言うと、永倉はウッと言葉を詰まらせた後、再び口を開いた。
「おまえらが来るまで食い始めるのを待っててやった、オレ様の寛大な腹に感謝しやがれ!」
「新八、それ寛大な心だろ……」
「新八さん、皆を待てないなら、僕はもうご飯を作りませんよ?」
呆れた様子の原田の横にワタワタしている千鶴を座らせて頭を撫でる。
新八さんがなんか謝ってたけど、もういいから座りなさい。
「まあ、いつものように自分の飯は自分で守れよ」
左之さんの言葉に呆れた表情の千鶴を微笑ましく思いながら、総司と一ちゃんの間によいしょっと座る。
「今日も相変わらず美味そうな夕飯だよなぁ。桜に感謝だな!というわけで…隣の晩御飯、突撃だ!弱肉強食の時代、俺様がいただくぜ!」
「ちょっと新八っつぁん!なんでオレのおかずばっか狙うかなあ!」
「ふははは!それは身体の大きさだぁ!大きいやつはそれなりに食う量が必要なんだよ!」
「じゃあ、育ち盛りのオレはもっともっと食わないとねー!」
「千鶴、毎回毎回こんなんですまないな」
皆が揃った途端始まる、恒例の夕ご飯争奪戦。
豊かに食材を確保できているとは言え、彼らには量が足りない。
本当はもっと沢山作ってあげたいんだけどなあ、無理だから頑張って争奪戦に勝ってくれ。
そう願いながら黙々とご飯を食べる。
周りは私を怒らせたらご飯を作ってもらえない事を分かっているから、私の食事には手を出してこない、勿論千鶴の分も。
後はついでに総司の分も、コイツは食わさなきゃいけない。
「ねえ、また僕の分多くない?」
「総司は小食すぎる、食べなさい」
「一君、僕の分食べる?」
「総司、遠慮する。総司の分に手を出せば、俺達は今後桜の作る飯にありつけなくなる」
料理はそこそこに酒を飲む総司に微笑む。
「総司、ちゃんと食べなきゃ……」
「食べなきゃ、何?」
「いや、何でもない」
ふう、と息を吐くと自分の食事を食べ進める。
(労咳に打ち勝てないぞ!なんて、巫山戯てでも言えない)
その様子を見て沖田は観念した様に箸を手にした。
「仕方ないから…食べてあげる」
「ん、食え」
ニッと笑うと、沖田は馬鹿にした様に笑った。
何だこの野郎、斬るぞ。
「兄様!このお浸し、とっても美味しいです!」
「ほんと?嬉しい…!千鶴に褒めてもらえるのが何より嬉しいよ」
満面の笑みを浮かべる千鶴に微笑み返す。
2人でのほほんとしていると、その様子を見ていた原田も微笑んでいた。
永倉と藤堂と斎藤はおかずの取り合いを続けていた。
(このまま平和に終わればいいけど…)
確か記憶では、今日辺りに源さんが広間に飛び込んで来る筈。
気が気でないが食事を進めていると、誰かが走って来る音がした。
皆も気づいたようで、入口を見ていると入って来たのは源さん。
「ちょっといいかい、皆」
(来たっ)
声はいつも通りの穏やかさだが、目は真剣そのもの。
それに気づき、場の空気が一気に硬いものへ変わる。
「大阪に居る土方さんから手紙が届いたんだが、山南さんが隊務中に怪我をしたらしい」
その言葉に、皆が一斉に息を呑む。
(そんな…なにも変えられなかった……?)
その後の会話は、耳に入って来なかった。
ここへ来る前、皆を救いたいと思った。
誰も羅刹になんかさせない、皆を戦の中で死なせたくない。
私の考えは甘いものだったのだろう、何が皆を救うだ。
(私は、何もできていない…)
薫と千鶴の関係を良好に保てたから、黎明録で、芹沢鴨の願いを聞き届ける事が出来たから、何か変える事が出来ていると、勝手に勘違いしていたのか。
ぐるぐる回る負の思考から意識を現実へと戻したのは、隣の一ちゃんのホッとした声だった。
「大事に至らなくて、何よりだ」
「………え?」
大事に至らなくて?
ぽかんとする桜を皆不思議そうに見ていた。
「なに?話聞いてなかったの?」
「聞いてた…つもり。山南さんが、怪我したって」
「その後は?」
「その後?」
総司の言葉に首を傾げると、溜息を吐かれた。
「なーんだ、桜。最後まで話聞いてなかったのか?」
「まあ、見てた感じ…山南さんが怪我をしたって聞いてから、考え込んでいたからな」
何で平助と左之さん笑ってるんすか。
再びぽかんとしていると、永倉はニカッと笑った。
「腕を斬られて怪我はしたが、大したことは無いらしい。問題なく刀は振るえている」
「…………よかった……」
只々、その言葉しか出なかった。
刀を振るえている事に関してハテナを浮かべる千鶴には、説明後でしてあげてね一ちゃん。
「念のため、屯所に戻って来たら雪風君に怪我を見て欲しいと、手紙に書いてあったよ」
「もちろんです!」
源さんの言葉に元気よく返事をすると、ニコリと笑った。
(よかった…)
私は、山南さんを羅刹化への道から一旦は救えた…という事で、いいのよね?
ただ、今回避できてもどこに皺寄せが来るかはわからない、気を抜かないようにしないと。
近藤さんのところへ行くと言った井上を見送った後、不意に沖田が口を開いた。
「大した事なくて良かったね。最悪、薬でも何でも使ってもらうしかなくなるからね」
「総司。……滅多な事言うもんじゃねぇ。幹部が羅刹になってどうするんだよ?」
「……え?」
千鶴は首を傾げた。
「……【らせつ】ってなんですか?」
千鶴の言葉に、平助が口を開く。
「ああ、羅刹ってのは、薬を飲んだら怪我も治っちまうーー」
「平助‼」
「!⁉」
平助が話している途中、問答無用とばかりに左之さんが平助を唐突に殴り飛ばした。
(痛そう…)
「いってえなあ、もう……」
「平助君、大丈夫……⁉」
「やりすぎだぞ、左之。悪かったな、平助。先に口を滑らせたこっちも悪かった」
いつになく真面目な顔をした永倉と、その様子を見た原田は申し訳なさそうな表情をした。
「……大丈夫か?悪かったな」
原田が短く謝ると、藤堂は曖昧な苦笑を浮かべた。
「いや、今のはオレが悪かったけど……。ったく、左之さんはすぐ手が出るんだからなあ」
平助を座らせて、どこか酷い打ち方をしてないか確認しながら千鶴に話しかける。
「千鶴、今のは聞かせてあげれるぎりぎりのところなんだ。気になることはあると思うけど、これ以上のことは教えてあげられない、何も聞かないで欲しい」
「……でも」
千鶴に言い聞かせていると、不意に沖田の冷たい声が広間に響いた。
「【羅刹】って言うのは、可哀想な子たちのことだよ」
そう言った彼の瞳は、底冷えするほど暗い色をしていた。
何も言えなくなった千鶴に、永倉が取り成すような口振りで話しかける。
「おまえさんは何も気にしなくていいんだって。だから、そんな顔するなよ」
「…………」
千鶴は、自分の無力さが悔しくて、手を握りしめていた。
「忘れろ。深く踏み込めば、あんたの生き死ににも関わりかねない」
斎藤の言葉に、とうとう千鶴は唇を噛み出した。
「千鶴、おいで」
ぎゅっと抱きしめると、一つ息を吐く。
「とりあえず、ご飯を無駄にした平助と左之さんは、明日ご飯少なめにするからね」
「え⁉」
「まじかよ…」
「うん」
顔面蒼白の平助と左之さんににっこり笑うと、千鶴を連れて広間を出た。
「桜、起きてるか?」
「…起きてますよ」
夜、眠る準備をしていると、控えめな声が聞こえてきた。
起きていると返事をすると、遠慮気味に襖を開けたのは左之さんだった。
「ちょっといいか?」
「どうぞ?」
原田は部屋に入ると、桜の前に座る。
「あーその…まだ、怒ってるよな?」
「何故ですか?」
「お前、怒ってる時敬語になる時多いし…」
控えめな左之さんが面白いから怒ってる振りをしてるだけなんだけどなぁ…まあ、反省してるようだし、話し方ぐらい戻そうかなぁ…
「で、左之さん。夜更けにどうしたんです?」
「⁉…あ、いや。飯のことなんだけどよ」
(あーやっぱりその事か)
何を言われるのかなと桜が原田を見ていると、頭を下げられた。
「俺の分は少なくていい。でもよ、平助の分はいつも通りの量にしてやってくれねえか?今回の事は俺が殴り飛ばしたのが悪いしよ」
だめか?と頭を上げて見つめてくる原田をマジマジと観察する。
(イケメンは何をしてもイケメンだなぁ…私が男だとしても、クラリとしてしまうな、これ)
「……桜?」
何も言わない桜に不安になったのか、原田は名前を呼んだ。
桜はハッとすると、笑った。
「僕、本当にご飯の量を減らすつもりはないから、安心して大丈夫だよ?皆、沢山食べて仕事に励んでもらわないといけないしね」
「桜…!」
「あ、でも。しばらく掃除は手伝ってくださいよ?」
「ああ、勿論だ!」
原田は桜の言葉に笑顔になると、肩を組んだ。
「うわっ」
正面から肩を組まれた為、バランスを崩して左之さんの胸板に鼻をぶつけてしまった、痛い。
「わ、悪い。大丈夫か?」
「ん、多分」
「見せてみろ」
顎を掴まれ、上を向かされる。
鼻をマジマジと見られるの、恥ずかしいんだけどな…
「…大丈夫そうだな」
「ん、ならよかった」
離れようとした時、原田の膝についていた手を掴まれた。
驚いて何だと左之さんを見ると、私の手をジッと見ていた。
「お前…こんな小さい手をしてたんだな」
「…………そ、そう?」
てか、いくら何でもそんなにマジマジと見られたら恥ずかしいんだけどな。
てか、何となーく、空気甘くない?
(どんな状況でも、一瞬で甘い空気を作り出す男、原田左之助。この人色んな意味で怖いな)
そんなことを考えていると、フと暗い人影が出来たと共にからかうような声が聞こえた。
「あれ?左之さん、夜這いですか?趣味悪いって言われますよ?」
「総司…お前な…」
面白そうに声をかけてきたのは沖田で、沖田の言葉に原田は呆れたように首を振った。
「総司、いくら何でも左之さんがこんな奴を夜這いするわけないだろ。千鶴ならともかく…だからって、千鶴に手を出したらダメだからね?僕、うっかり斬っちゃいますからね?」
「桜…お前も…ほんとに……」
何で私まで呆れられてるんだ、解せぬ。
もう寝ると言った左之さんを見送り、ニヤニヤする総司を追い払うと襖を閉めた。
布団に入ると、女性としての羞恥心が残ってた事にまだまだダメだなと自分に言い聞かせ、その後目を閉じた。
→