原作突入~千鶴外出許可
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(そんな事を思ってたのも、またまた数ヶ月前)
私はただひたすらに、走っていた。
理由はただ一つ、今は文久三年十二月、千鶴が新選組と出会う月。
私は近藤さんと歳さんに許可をもらって、芹沢さんに犬と呼ばれた青年と可愛い少女を、護衛しながら危険の無い場所まで送り届けていた。
黎明録はもう、怒涛の日々だった。
色々お話したいがまたの機会にしよう。
とりあえず、可愛いカップルを送り届けた後、千鶴と京へ一緒に向かえば安全じゃね?と考えて江戸の家に寄ればもう京へ向けて家を出た後だった。
一月に入る前位に新選組と出会うという曖昧な日にちしか知らなかったとはいえ、自分の大失態に舌打ちをしつつ、京へ向けてただ走った。
(………父様、姉様)
ため息を吐くのは、桃色の服に身を包んだ少年…の格好をした少女。
連絡の取れなくなった父親を探して京に来たのはいいが、京へ着いた夜、私は恐ろしいものを目にしてしまった。
狂ったように、人を襲う…浅葱色の羽織を纏った…
少女、雪村千鶴は身を震わせた。
自身は助かったと思ったが、そうでもなかったようで、後から来た浅葱色の羽織を纏った別の人達、新選組の人達は狂った者たちを殺し、自分も捕まったのだ。
昨夜の出来事を思い出しで今すぐ逃げたくなる。
だけど、そんな事をしたら自分は斬られてしまう。
「着いたよ」
優しく微笑む男性に続き、自身も目の前の部屋に入った。
そこには自分を救ってくれて……此処へと連れて来た、男達と仲間と思われる人達が集まっている。
昨日の話や何をしていたのかなどの話をしていると、周りの人たちは父、綱道の話に反応した。
話をしながらも感じる恐怖を抑え込んでいると、遠くの方から物凄い足音と誰かの声が聞こえて来る。
「とーーしーーさん!!!戻りまし…た…」
スパンと、襖を開けたのは長い黒髪を緩く結った青年、余程急いで走って来たのか額には薄っすらと汗が流れ、服が乱れている。
「おい、桜、静かにし「えっ?千鶴…⁉」おい!」
土方の言葉を遮ると、桜と呼ばれた青年は縛られて中央に座らされている千鶴に駆け寄った。
「千鶴、可哀想に…なんでこんな事に…今すぐ解いてあげるから、こんな縛り方したのは誰だ?僕が斬ってやる」
「おい、テメェ、何してやがる」
「歳さんちょっと煩い」
「なんだと…?」
青筋を立てる土方に御構い無しに、千鶴を縛る縄を外す桜を見て、千鶴は冷や汗を流した。
「に、兄様、あの…」
「ん?どうした、千鶴」
優しい笑顔を浮かべる桜に千鶴はホッとするが、それどころではない。
「あ、あの、土方さん?が…凄く怒ってます…」
顔面蒼白になる千鶴の様子に、流石にヤバイと気付いて桜は土方に視線を向ける。
(やべ、見なきゃよかった)
良い意味で、見なきゃよかった。
確かに怒ってたのかもしれないが、今はいつも厳つい歳さんが口をぽかんと開けてる、笑っちゃうからやめてよ。
チラリと周り全体を見渡すと、皆同じような表情をしていた。
「………皆で変顔大会?」
「……今、聞き間違いではないのでしたら、その子はあなたのことを兄様、と呼んだ気がしたのですが」
一番はじめに冷静になった山南さんの問いに、頷く。
「そうだよ。ほら、山南さん、すっごい昔に話したでしょ?僕が守りたい双子の子」
「………それが、そいつだと?」
あ、歳さん復活した。
「うん、そう。ほら千鶴、取れたよ。どっか痛いところないか?」
「だ、大丈夫です…」
「よかった…」
ホッとして立ち上がると、周りを見渡す。
「とりあえず、千鶴を縛ったの誰?」
「僕だけど?ごめんね?女の子の肌に傷でもつけちゃったかな?」
ニヤニヤと笑う沖田の言葉に驚いて声をあげたのは藤堂と永倉だった。
「お、女の子…?」
「マジかよ…」
「とりあえず総司は後で覚悟しとけ…てか、どっからどう見ても可愛い可愛い女の子でしょう!」
「………頑張って男装したのですが…」
しゅんとする千鶴の頭を撫でる。
いいんだよ君はそのままで、私が大切に大切に守ってきた可愛い女の子なんだからね!
「………すまない、俺としたことが」
「近藤さん、貴方はなにも悪くないので笑ってください。全ての悪は歳さんと総司ですから」
「テメェ、喧嘩売ってんのか」
「桜…斬るよ?」
近藤さんも、しゅんとしちゃった…近藤さん、本当になにも悪くないから!近藤さんは純粋なだけだから!てか、歳さんと総司の顔ヤバイ、鬼だ。
2人から目をそらし、よし!っと気合を入れる。
恐らく、自分は自然な流れで千鶴を解放出来た筈だし…
「千鶴がこうなった経緯は、聞かせてもらえるんですか?」
まあ聞かなくてもわかるけど、一応幹部の一員なんだからね、聞かせてもらわないと困る。
「そうだな…桜には聞きてえこともある」
土方は眉間に皺を寄せながらそう言うと、井上に目配せをして千鶴をこの部屋から外に出した。
「…………」
「………………」
「え、なにこの沈黙。なんか話してくださいよ」
「……お前は恥じらいを持て」
急になんだこの野郎と訝しげに歳さんを見ていると、一ちゃんが私の胸元を正した。
「ありがと、一ちゃん」
「いや…」
「歳さんも、服を直せって言ってくれればいいのに」
「自分で気付きやがれ」
溜息を吐く土方だったが、一つ咳払いをすると桜を真っ直ぐ見た。
「とりあえず、あいつを捕らえている理由を話そう」
そう言って、話されたのは原作通りの流れ、自身も知っている流れだ。
「………うん、理由はわかりました。千鶴は運が悪かった」
「君と、雪村君の話を聞かせてくれるかい?」
近藤さんの言葉に頷くと、口を開く。
「僕と千鶴は、千鶴が1歳の時からの付き合いです。近所のお兄さんって立場ですね、僕は」
「お姉さんじゃなくて?」
「総司、うるさい」
茶化してくる総司を睨むと、近藤さんを見る。
「親同士も仲が良くて、本当の兄妹のようなものです」
そう言って微笑むと、近藤も微笑んだ。
「そうか。仲が良いのだな」
「……いい話のところすまねぇが、アイツの父は綱道さんだと聞いたが?」
「あーそうですね。歳さんが言いたいのは、あの薬に関係があるのかって事だよね?」
土方は頷いた。
「それに関しては、一切関係ないと思います」
「理由は」
「千鶴は、僕たちが綱道さんを探している理由も、綱道さんが何をしていたかも知りません。そして、綱道さんの家にある薬に関する資料は全て僕が回収してます。薬の事は何も知りません。何より…これは感情論になるため信憑性はないと思いますが、あの子はとても心優しい子です、あんな実験、見て見ぬふりを出来る筈がない。父を止めるか、最悪あの子自身が被験体になるか…」
ふう、と息を吐くと土方を真っ直ぐ見つめる。
「あの子が薬に関わってないことは、僕の命を賭けて誓いますよ」
「………その言葉に偽りはねえな」
「勿論」
即答すると、土方は溜息を吐いた。
「分かった。お前の言うことを信じよう」
「で?あの子の処遇はどうすんだ?見られちゃいけねえもんを見られてんだから、そう簡単に解放するわけにもいかねえしよ」
「…………逃す気がないなら…ここで、保護していただけませんか?京に綱道さんがいないなら、僕の目の届く範囲に居て欲しいのです」
「なに?」
桜の言葉に土方は片眉を上げた。
「雪風君の提案は良いものかもしれませんよ。我々は綱道さんと面識が薄いです。ですが、娘である彼女に此処へ居ていただければ、京で身形の変わった綱道さんを見かけた時に、看破出来る筈です」
「桜がいるじゃねぇか」
「千鶴みたいに、毎日一緒にいたわけじゃ無いので、がっつりとした変装なら見破る自信は無いかな」
山南の言葉に頷きながら桜は土方をジッと見つめる。
土方は隣の近藤をチラリと見て、彼が頷いたのを確認すると口を開いた。
「あの蘭方医の娘、それに桜の妹分となりゃあ、殺しちまうわけにもいかねえよな」
面倒臭そうな口調で土方は言うと、斎藤を見た。
「斎藤、すまないが源さんと雪村を呼んできてくれ」
「一ちゃん、お願い!」
返事をして部屋を出た斎藤を見送ると、桜は土方と近藤を見た。
「近藤さん、歳さん、ありがとう!山南さんも、助け舟を出してくれて、ありがとう!」
「私は、貴方の提案が良い方へ転ぶと、考えただけですよ」
にっこり微笑む山南さんに思わず抱きついた私は悪く無い!
「連れて来ました」
千鶴を連れて戻って来た一ちゃんに礼を言うと、千鶴の頭を撫でた。
勝手にほのぼのしていると、土方の咳払いが聞こえた。
「雪村、お前に話がある」
「……はい」
「……昨夜の件は忘れるって言うんなら、父親が見つかるまでおまえを保護してやる」
「君の父上を見つけるためならば、我ら新選組は協力を惜しまんとも!」
「あ……、ありがとうございます!」
神妙な面持ちから、ホッとした表情に変わった千鶴に良かったねと微笑む。
「殺されずに済んで良かったね。……とりあえずは、だけど」
「総司、斬るぞ」
「お~怖いお兄様だ事で」
にこにこ笑顔で千鶴を脅かす総司、許さん。
そんな沖田に思うところはあるだろうが、千鶴は素直に頷いた。
「はい。……良かったです」
「僕も…千鶴が無事で、本当に良かった」
ぎゅーっと抱きしめると、千鶴も控えめに抱き返して来た、可愛い。
そんな中、近藤さんの困った声が聞こえて来た。
「本来であればここのような男所帯より、所司代や会津藩に預けてやりたいんだが……」
「まあ、確かにそうですね。でもここに居ても問題ないかと…ね、一ちゃん!」
「あ、ああ…不便があれば言うといい。その都度、可能な範囲で対処してやる」
「あ……」
思いもよらない親切な言葉に、千鶴は少し照れて視線を泳がせた。
「……ありがとう、ございます」
嬉しそうな千鶴を見ていると、私も嬉しい。
「ま、まあ、女の子となりゃあ、手厚く持てなさんといかんよな」
「新八っつぁん、女の子に弱いもんなあ……。桜にも弱いし……。でも、だからって手のひら返すの早過ぎ」
「いいじゃねえか。これで屯所が華やかになると思えば、新八に限らず、はしゃぎたくもなるだろ」
永倉、藤堂、原田の言葉に千鶴は頭を傾けていた。
「私が華やかにできるかなあ…って感じ?」
「えっ!あ、はい…」
「千鶴がいれば、すっごい華やかになるからね!間違いない!」
「に、兄様…」
照れたように笑う千鶴、可愛い、プライスレス。
飛びかけていた思考を戻したのは、山南さんの声だった。
「隊士として扱うのもまた問題ですし、彼女の処遇は少し考えなければなりませんね」
「なら、誰かの小姓にすりゃいいだろ?近藤さんとか山南さんとか…桜もいるじゃねぇか」
面倒臭そうに話す土方の言葉に、沖田が笑顔で言葉を挟んだ。
「やだなあ、土方さん。そういうときは、言いだしっぺが責任取らなくちゃ」
「ああ、トシの、そばなら安心だ!」
沖田の言葉に、近藤は笑顔で即座に賛同した。
「そういうことで土方君。彼女のこと、よろしくお願いしますね」
駄目押しをする山南も、素晴らしい笑顔だった。
「……てめぇら……」
低い声で土方は唸りながら周りを見た。
「小姓にするなら、桜がぴったりじゃねえか!」
「え、僕?まあ、そうだけど…僕はほら、ここを離れてる事もあるし、歳さんなら妹を任せられるかなって」
「てめぇ……」
「歳さん、とっても強いし、ダメですか…?」
ちょっと気持ち悪いのを覚悟で甘えた声を出しつつ煽ててみる。
「………そこまで言うなら、引き受けてやる」
「さっすが歳さん!」
煽てが有効な所、好きですよ!
総司を見ると笑っていた。
顔を合わせて笑うと、不安そうな千鶴の頭を再度撫でた。
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