皆のその後…
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「千景さん、いる?」
やって来たのは風間が滞在する家。
「桜か…どうした」
普段は「我が妻」なんてすぐに言う風間だが、桜が自ら来ることはそう多くない為、こういった時は何があったのか尋ねてくる。
その様子に少し笑うと、本を手にしていた風間の元へと向かう。
ジッとこちらを見る風間の前へ座ると、桜の雰囲気がいつもと違う事に気付いていた風間は本を閉じた。
(正直言って)
風間は自分の好みの男ではなかった。
強引で、俺様で。
けれども同族の事を思いやり、大抵の願いは聞き入れるほどの器の広さもあり、自分の一族では無い者まで守ってくれる優しさを持っている。
そんな彼に惹かれていた事は認めよう、ただ自分の気持ちを伝える前に、聞いておきたいことがある。
「千景さんにさ、聞いておきたいことがあるんだけど…」
「何だ」
「今でも私に対して「嫁に来い」とか「我が妻」とか言ってるけど、それはさ…私が女鬼だから?それとも、純粋に好意を持ってくれてるから?」
確認しておきたい事、それは風間の気持ちだった。
以前、揶揄い半分にそんなに自分のことが好きなのかと聞いた時、彼は何も言わなかった。
だからこそ、改めて聞いておきたい。
鬼の血を残す為と言うならば……悲しいが協力はしよう。
風間ほどではないが、純粋な鬼の血を残す事は難しく、そもそも女鬼は少ないが故に子の数も少ないと言う事は分かっている。
鬼の一族の為にと言うならば協力……要するに子を成す事はしてもいいと思っている。
だが、この男が本当に自分を想ってくれているならば?
もしそうならば喜ばしい事はないだろう。
自分自身だって、気持ちよく風間の元へ嫁げる。
「好意…か」
風間は桜に手を伸ばして髪に触れた。
「そうだな…はじめは女鬼としてお前を娶ろうと思っていた。血筋も強い。この女との子を成せば良いとな。だが…」
髪を一房手にし、唇を落とした風間が上目遣いで桜を見る。
桜は、この男はまた何をしているんだと呆れながらも続きを待つ。
「一向に思い通りにならないうえに、俺の嫁になってたまるかという様子がだんだん面白くなってきた」
ニヤリと笑う風間に「気に入ったって素直に言えばいいのに」と言いながら、髪を離させる。
「…貴様に随分と前に問われたな。自分のことを好きなのかと」
「…うん」
「あの時の俺にはよくわからなかった。気に入っているのは認めていたが、好きかと問われればどうなのかと。だが…」
自分の信じた道を突き進み、迷える者には手を差し伸べ、真っ直ぐと前を見る強い桜から目が離せなくなった。
「今なら分かる。俺はとっくの昔に…お前に囚われていたのだろうな」
フッと笑った風間に、桜はほんのりと頬を赤らめた。
「そう…」
今はちゃんと自分を想ってくれている、それが嬉しくて頬を緩めた。
その桜の表情を見た風間は一瞬固まった後、顔を寄せてきて笑った。
「この俺に想われているのが、そんなに嬉しいか」
相変わらずの言い方に桜は呆れたが、まあいいかと風間の首に腕を回して更に引き寄せた。
「おい、何を「うん、嬉しいよ。結婚するなら、想い合ってる相手の方がいいから」
突然引き寄せられて風間は驚いて桜を見たが、告げられた言葉に固まった。
「私、はじめは千景さんのこと好きじゃなかった。めんどくさいと思ってた。でも…いつの間にか惹かれてたみたいで…」
桜はそこまで言って息を吐いた後、微笑んだ。
「今は千景さんの事が好きだよ。隣にいたいって思ってる。貴方のお嫁にしてもらえるかしら?」
(言った、言ってしまったぞ私!よく頑張った!)
自分で自分の事を褒めて、風間の返事を待つ。
しかし、暫く待っても返事は無かったので不思議に思って風間を見る。
「千景さん…?」
そう声をかけると、風間は我を取り戻して桜を見た。
「今言ったことは…本当か?」
そう言いながら勢いよく両頬を包んだ風間の手に、自分の手を重ねる。
「うん。本当だよ」
「そうか…」
風間は笑みを浮かべると、グイッと桜を抱き寄せた。
「うわっ」
「ようやくこの俺のものになるか。そうか!」
どこか嬉しそうな風間に桜は頬を緩ませて抱き締めた。
「ごめんごめん。待たせたね」
ぽんぽんっと背中を叩くと「子供ではないぞ」と文句を言われたが、今の様子は子供に見えてしまったんだごめん。
「ならば早速、風間の家に連絡を入れてお前を迎え入れる準備をせねばならんな。天霧に走らせるとするか」
それに…と次々話す風間に「ちょっと待って」とストップをかける。
「どうした」
「すぐにはそっちに行けないよ。私はここの頭領だから色々と引き継がないと」
「なんだと……?」
風間は桜の言葉に衝撃を受けていたが、こればかりは仕方ない。
「だから、少し待ってね。千景さん」
そう言って頬に唇を落とすと、風間はニヤリと笑った。
「する場所が間違っているぞ」
「……はいはい」
桜は少し呆れながら返事をすると、そっと唇を重ねた。
あれから三ヶ月ほど経ち、漸く風間家へと向かうことになった。
雪風の里は、なんと薫が継ぐことになった。
どうやら雪風の里に仲の良い娘がいたそうで、その娘と結婚もしたいし丁度いいとの事だった。
雪村の里に関しては千鶴が「頑張ります!」と意気込んでいた。
新選組の皆もいるし、まあどうにかなるだろう。
皆の協力もあり(といいつつ一部面々からは「本当にそいつの嫁になるのか!?」と詰められたが)大きな問題もなく、こうして風間家へと向かう事が出来ている。
(ちなみに、式のために母や他の面々も後から来るそうだ)
海を渡る為に今は船に揺られていて、すっかり寒くなったので羽織の上から肩を撫でていると、後ろからふわりと何かに包み込まれた。
「冷えるぞ」
「千景さん」
包み込んできたのは、風間だったようだ。
自分に回された両腕をギュッと抱きしめると、そうだと体を回転させて風間と向かい合う。
「千景さんに言わないといけない事、あったんだった」
「なんだ?」
「来月、式をすると思うんだけど…その何ヶ月後か後にまた母様が来ると思うんだ」
「ほう?何かあるのか」
首を傾げる風間に桜は笑うと、風間の手を取って自分の腹部へと触れさせる。
「孫は見たいものでしょ?」
そう言って笑うと、風間は訝しげな視線を向けていたが…すぐにハッとして桜を抱き上げると船内へと慌てて移動する。
「天霧!不知火!どこにいる!!」
「ちょ、千景さん」
「何故もっと早く言わなかった!その、子が出来たと」
「バタバタしてたから気付くの遅くなっちゃって」
そう言って笑うと、自分達の部屋へと着いたのかベッドの上へと座らされる。
「いいか?動かずにここにいろ。すぐ天霧達に追加の毛布等持って来させる」
「はいはい」
慌てて部屋を出る風間を桜は見送ると、お腹に手を当てて微笑んだ。
(それにしても、いつ出来たのだ)
(正確にはわかんないよ。嫁ぐって決めた時から千景さんがしょっちゅう手を出してくるから…)
(…………)