幼少期~原作直前
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「ありがとうございましたー!」
稽古が終了し、皆それぞれ道場を出て行く。
(………これで、最後になるかな)
帰り支度をしながら、今日の事を思い出す。
(黎明録をやった時は親戚が、斎藤が人を斬ったから剣筋が変わって、それを沖田が感じて!とやたら興奮気味に話された)
その時はよく意味がわからなかったが、今となっては分かる。
相手を殺したか否かは関係なく、一度でも人を斬ってしまえば、自然とそれ以降の打ち合い等では相手の急所を的確に狙ってしまう。
頭部、喉、脇、左胸、手首、アキレス腱等…医学の知識が仇となり、人の急所が次々と頭の中を駆け巡る。
(一足先に、人斬りへの道を歩みだしてしまったな)
そうなれば、何だか試衛館に来るのが居た堪れない。
1つため息を吐くと、ポンと肩を叩かれた。
「どうした?いつもの元気がねえじゃねえか」
「歳さん…近藤さん…」
「そうだぞ、雪風君は笑っていた方がいい」
柔らかく微笑む2人に、思わず涙が溢れた。
「どど、どうした⁉どこか痛むのか?!」
ああ、ダメだ、2人には吐き出してしまおう。
そう決めると、涙を拭いて2人を見る。
「お話ししたいことがあります。内密にしたいお話です」
そう告げると何かを察したのか、2人は表情を引き締めた。
あの後、人気の無い場所へ移動し、人を斬った事を話した。
2人は驚いたものの、最後まで話を聞いてくれ、気にせず此処へ来なさいと近藤さんは言ってくれた。
優しい言葉と、太陽のような笑顔に思わず号泣すると、そっと頭を撫でてくれた。
(なんて器の大きい人)
土方も、泣きたくなれば愚痴でもなんでも聞いてやると言ってくれた。
そんな2人には感謝の言葉を述べ、自分は帰路へとついた。
「母様」
「どうしたの?」
家に着いて食事や風呂を済ませた後、縁側で涼んでいる母親に声をかける。
「私、皆を守るためにこれから修羅の道を歩むかもしれない。それでも…嫌いにならないでいてくれますか?」
近藤さんと、歳さんに相談して、私は改めて決意した。
皆を守るために動く事を。
人を斬ってしまったことにより、実は決意が揺らいでいた、私に出来るのかと。
でも、もう迷わない、そう決めて母親に声をかけた。
「修羅の道…それは、どんな?」
こちらを見る母親の真っ直ぐな目から、視線を逸らしたくなるが、なんとか見つめ返す。
「私は、江戸を離れるかもしれない、人を殺めるかもしれない、血の道を歩むかもしれない、女である事を完全に捨てているかもしれない、母様が望む、優しい女ではいられないかもしれない…そんな、道です」
新選組の元となる浪士組の一員として京へ行き、藩命で人を殺め、自身が斬ってきた人の血で出来た道を歩む、その為に自分は女として生きていない。
自分の気持ちを告げると、母親の表情は厳しいものになった。
「………その道を歩まない選択肢は、無いのですか?」
「ありません」
もう迷わない、揺らがない、私は皆を守る。
固い決意を伝える為、母親の問いに即答すると、母親はそっと近づいて来て、手を握った。
「………貴女を止めることは出来なさそうですね」
「母様…」
「もし、旦那様が生きていても…その道を歩んでましたか?」
「はい」
再度の問いに頷くと、母親は涙を流しながら笑った。
「ならば、母は、貴女を止めません。ただ、どんな道を歩もうと…死ぬことは許しません」
「勿論です。母様…ごめんなさい、ありがとうございます」
そっと母親を抱きしめ、礼を告げる。
一度離れると、もう1つの考えを告げる為に口を開く。
「もう一つ、伝えたいことがあります。これは、母様に共に歩んで欲しい道です」
「共に?」
「はい。私は、雪村の里と雪風の里を復興させるつもりです」
「里を…?」
驚く母に微笑んで頷く。
「雪村の里は、薫が。雪風の里は母様に見ていだたきたいと思っております」
「でも、また人間が来たら…」
「大丈夫です、私と薫が蹴散らしてやります!それに…きっと私たちを全滅させたと、人間も思っているでしょうし。難しい話とは思ってます、ですが…故郷を取り戻したいと願うのは、我儘でしょうか?」
簡単なことでは無いことはわかっている。
黙って話を聞いていた母親は、難しい顔をしていたが、暫くして微笑んだ。
「一緒に逃げて来た皆さんには…私がお話致しましょう」
「母様…!」
「貴女が言えば、本当に里が復興しそうな気がします」
微笑む母親に、感謝の言葉を伝えると、涙が溢れて来た。
そんな私を母親はそっと抱きしめてくれた。
「姉様!」
月日は流れ文久二年、私はこの時代だと売れ残りと思われる年齢になった。
そして、記憶が正しければ黎明録は来年の頭から始まる。
それまでになるべく出来ることはやっておこうと思い、母様に決意を告げた後からひたすらに走り続けてきた。
こちらに手を振る薫も、今や立派な青年へと成長していた。
試衛館で行う稽古は欠かさず行い、里の復興にも力を入れていた。
そして今は薫や母様達と共に、雪村と雪風の里に来ていた。
散っていた雪風の鬼や、綱道と同じく里を離れていた鬼達に母親が声をかけて回ってくれたお陰で、里の復興は順調に進み、皆順番に移り住んでいた。
薫も南雲の家を出て雪村の里に帰って来ており、今までより会いやすくなった。
「姉様、おーい、桜?」
「…ごめん、ちょっと意識飛んでた」
そう答えると、頬を膨らます薫の頭を撫でる。
「ごめんね薫、なんだっけ?」
「ご飯にしようって言ってんの」
「うん、そうしよう!」
返事をすると、薫に手を引かれて母様が待つ家へと戻る。
用意されていた食事を食べながら、今後の事を考える。
運がいいのかまだ自分が女ではある事はバレていない、単に女らしく無いからだとは思うが、後は千鶴ほど可愛いわけでもないし。
浪士組に参加は問題なく出来るとして、問題はその後。
芹沢鴨を救う事は出来ないだろうか。
……出来るかもしれない、でも芹沢鴨はそれを望まないと思う。
あの人は、新選組の為に悪役を買って鬼となって生きた人だ。
彼には彼の信念が、確かあったはず。
それを曲げるわけにはいかないか…
「ねえ、桜、また意識飛んでるけど」
「え、あ、ごめんごめん。色々考えてた」
訝しげにこちらを見る薫に謝ると、止まっていた箸を動かす。
「ねー薫」
「何?」
「千鶴も早く迎えに行きたいね」
「うん…」
にっこり笑って告げると、薫も優しく微笑んで頷いた。
(原作と変えれてよかった)
双子は今でも仲良しで、原作のように薫が千鶴に危害を加える事は無く、綱道に利用されることもないだろう、総司と戦うことも。
嬉しい限りだと、ご飯を口にし、薫と他愛ない話をしながら今後の事へ再び思考を巡らせた。
「母様、それじゃあ行って来ますね」
「気をつけてね」
微笑む母に手を振り、家を出る。
(久しぶりに髪の毛おろして出掛けるから、なんか変な感じ)
淡い水色の着流しに、緩く結った髪を右に流し、巾着を手に家を出る。
久しぶりの女性としての格好に違和感を感じながらも家を出た。
今日は買い出しに行くのだ。
近い将来、私は江戸を発つ。
1人江戸に母様を残すのは心許ない為どうしようかと色々考えていたが、薫が母様と暮らしてくれると言ってくれた、それも雪村の里ではなく雪風の里で。
ありがたい申し出に感謝し、薫への手土産を買いに町へ繰り出していた。
(薫は何がいいかなぁ。お団子とかだと、日持ちしないから移動している間にダメになる可能性もあるしなぁ…)
羊羹、干菓子、煎餅、飴…後はなんだろう、知識が浅すぎて情けないなぁ。
とりあえず和菓子屋さんへ向かおうと、フラフラ歩く。
(薫なら、何でも喜んでくれそうだなぁ…そうだ、千鶴にも買ってあげよう)
2人の笑顔を思い出して1人微笑むと、行きつけの和菓子屋さんに入った。
「こんにちは」
「あら、桜ちゃん!こんにちは」
にっこり笑ったおばさんの近くには見知った顔がいた。
「桜ちゃん…?」
此方をじっと見るのは、左之さんと歳さんと山南さんだった。
(珍しい組み合わせ…じゃなくて!)
ヤバい、男装してないときに会ってしまった。
不自然に見られないように会釈をすると、商品へと視線を移す。
き、きっと大丈夫だよね…胸潰しもないし、普段と違って薄っすらお化粧してるし、髪の毛おろしてるし、どこからどこ見ても女性のはず…普段の青年の格好とは違う…はず!!
そう思い込み、双子への菓子を購入する。
「おばさん、これとこれを、二つずつ下さい」
「あいよ」
干菓子と飴を指差して言うと、おばさんは笑って包んでくれる。
「またね、桜ちゃん!」
「また来ます」
お菓子を受け取りお金を払うと、挨拶を交わして店を出る。
(大丈夫、大丈夫、バレてないバレてない)
変に見られないように自然に歩いていたが、不意に肩を掴まれた。
「あっ…⁉」
「おっと、悪い悪い」
転けそうになったが、グイッと腕を引かれて転倒はま逃れる。
腕を掴む人物を見上げると、原田だった。
「ありがとうございます」
「なに、急に引き止めたのはこっちだからな。すまない」
「いえ…」
ジロジロと此方を見る原田に、心臓が口から出そうになる。
「あの、私になにか…?」
「んー土方さん、やっぱりそうだと思うけどなぁ」
「ああ、俺や山南さんが見間違えるはずがねぇ」
険しい顔の土方はそう言うと、山南を見た。
「そうですね…私も、土方くんと同じ意見ですよ」
にっこり笑う山南に、心の中で諦める。
(あーこれはもう逃げらんない)
でも、諦めてたまるか。
「お前、何でそんな格好してるか…説明してくれるよな?桜」
「あの…私のことを誰かと間違えてらっしゃいますか?」
鬼の形相の土方にしらを切ってみる。
額に青筋が増えた気がしたが、見ないふりをする。
「ほう…?この俺にしらを切ろうってか?」
「ごめんなさい私です」
だめだ、怖い、芹沢さんとまだ会ってないのにこの人もう鬼だよ。
「改めて、話を聞かせてもらえますか?」
優しく微笑む山南さんに癒しを求めて抱きついた私は悪くない、なにも悪くないからこっち睨まないで土方さん!
「とりあえず、あの茶屋に入るか」
左之さんの言葉に頷くと、周りを囲まれなが移動した。
お茶と甘味(私だけ)を頼むと、ちらりと目の前の歳さんを見た。
「………………」
本当、怒らせたら怖いなぁーこの人。
普通にしてれば美丈夫なのにーもった「お前、なんか失礼なこと考えてるだろ」
「そ、そんなことないですよー?」
低い声にビクリと肩を震わせ、にっこり微笑んでみた。
「まあまあ土方さん、そう怒らずに」
原田は土方にそう言うと、桜の方を見た。
「で?実際お前は女なのか?」
直球な質問に、息を吐くと頷いた。
「見ての通り、一応私は女です」
「一応って…どっからどう見ても女だぜ?」
「そうですね。男の方には見えませんよ」
原田と山南の言葉に、私もまだまだ女なんだ!と嬉しくなったがそれじゃダメだ、私は女を捨てないと。
「あーどうも?」
「あんまり嬉しそうじゃねぇな」
「まあ、そうですね…」
軽く嘘をつきつつ、話を続ける。
「普段見てくださってる通り、私は男装してます。家にいる時は母に言われるので女の格好をしている時はありますが」
「訳ありか?」
「まあ…昔色々ありまして、私は母を守りたいのです。そして、皆様にも言ったことありますが私には母以外に守りたい双子の兄妹がいるのです。その子達を守ってあげたいのです。今は理由があって2人はバラバラに暮らしておりますが、いつか皆で一緒に住みたいと思っております。そのために私は女であることを捨て、男として生きている、ただそれだけです」
ニコリと微笑むと、3人は難しい顔でこちらを見ていた。
「………で、どうしますか?」
「どうする、とは?」
「僕のこと、試衛館から追い出しますか?」
男装時の一人称を使って再び微笑む。
「追い出すって…」
「女が道場にいるなんて、嫌でしょう?」
微笑みを崩さずそう告げると、土方の眉間のシワが更に深くなった。
「………それを決めるのは俺達じゃねぇ、近藤さんだ」
「近藤さんも、強い意志がある方なら女性だからと言って追い出したりはしないと思いますが…」
「そもそも、近藤さんは桜が女だって、知ってんのか?」
「勿論、知ってますよ?」
難しい顔していた3人に即答すると、鳩が豆鉄砲を食ったような顔した。
「………知ってんのか?」
「そりゃー知ってますよ?私が初めて近藤さんと会った時、可愛らしい桃色の着物を着ていましたから。我ながら、似合ってはいなかったけれど、どこからどう見ても女でしたよ?」
ぽかーんとする3人にそう答えると、原田は笑った。
「私、近藤さんにはちゃーんと話をして、許可を得て試衛館に行ってましたよ?」
そう言うと、最後のお団子を口に頬張った。
「…………はぁ…全く、あの人は…」
「近藤さんがそれを誰にも言ってなかったのが、不思議ですねぇ…」
「ああ、頼み込んだんです。私が女だってわかったら、誰も本気で打ち合ってくれないじゃないですか?だから、黙っていて欲しいって」
不思議がる山南にそう言って、お茶を飲む。
「近藤さんはなんと?」
「勿論、はじめは渋りましたよ?“女子に怪我をさせたら…!”って。だから、条件付きでお願いしました。“私が一向に強くならなくて、武道の上達の見込みがなかったら、すぐに試衛館に来るのをやめる。でも、少しでも見込みがあると思ってくださったら、女であることは忘れ、男として強くしてください。”みたいな感じで」
「なるほどな…」
土方は頭を抱えていたが、一口お茶を飲むとこちらを真っ直ぐ見てきた。
「あの人がお前の事情を知っていて、彼処に置いてるなら俺達はなにも言わねぇよ。お前の医学の知識に助けられてるところもあるしな」
土方の言葉にニッと笑った。
「ありがとうございます。これからも僕の事、ビシバシ鍛えてくださいねー左之さん?」
「お、おう。なんで俺に限定的に言うんだ?」
「左之さん、私が女だって知ってからずっと渋い顔してるんで、何となくですかね?」
「………俺は、女に稽古とはいえ手は出したくてねぇ。だが、お前の気持ちを曲げるわけにもいかねぇから、ビシバシ鍛えてやるよ」
「ありがと、左之さん!」
頭を撫でて来る左之さんに笑うと、お茶を飲み干した。
「もー皆にもバラしちゃおう。隠すの面倒だし」
「良いのですか?」
「良いんです!もし皆が、私が女だって知って手加減するなら、逆にボコボコにしてやります!」
「はっ…!頼もしいもんだな」
皆と顔を合わせて笑うと、勘定を済ませて店を出た。
あの後、一度自宅に戻りいつも通り男装して、土方達と共に試衛館へ向かった。
近藤さんにバレたことを告げた後、そこに居た面々に自分は女だと話した(居たのがメインの人たちだけでよかった)
新八さんと平助は周りから叩かれるくらい大きな声で驚いた。
一ちゃんは静かに驚き、井上さんは驚いたもののニコニコと笑っていた。
一番怖いのは静かな総司。
思うところはあったが、皆に手加減無用との事を告げて稽古に混ざった。
「総司」
「…………」
稽古が終わった後、早々に立ち去ろうとする沖田を呼び止める。
彼はちらりと視線を桜に向けたが、そのまま歩き出す。
「総司、待ってよ」
後を追いかけて、その腕を掴む。
「触るな」
沖田はバッと桜の手を振り払う。
「………何、怒ってんの?僕が女だって黙ってたから?」
そう告げると、沖田は鼻で笑った。
「“僕”だって?女なんでしょ?私って言ったら?」
(なんだこいつ)
急に皮肉たっぷりに話し出した総司の話を、右から左に聞き流す。
(…………何が言いたいのかわかんないや)
いまだ話し続ける総司に溜息を吐く。
「何溜息ついてるの?」
「溜息吐くのに沖田の許可がいるのかよ」
わざと沖田と呼ぶと、総司がハッと息を飲むのがわかった。
「沖田も僕も他人の心の内を読めるわけじゃない。言いたいことがあるなら言わなきゃわかんない。皮肉ばっかり言ってる暇があるなら、本心話してよ」
「僕は本心しか話してないけど?」
トゲトゲした様子の総司に「そうか」と頷くと、背を向ける。
「ちょっと、どこ行く気?」
「僕に怒ってて、何かが気にくわないのはよくわかった。でも、僕も暇じゃないんだ。だから帰るんだよ。話をする気がない人に付き合う時間はないんだ」
「なに?怒ったの?」
「………好きに考えて」
息を吐くと歩き出す。
後ろでまだ何か言ってたけど、無視を決め込んで帰路へ着いた。
「それは…桜と一緒にずっといたのに、秘密を共有してくれなかったのが寂しいんじゃないのかしら?」
「寂しい?」
「ええ。貴方達、幼馴染みたいなものでしょ?隠し事があったら、寂しいじゃない」
総司と話をしたのはもう一週間も前、実は試衛館にも顔を出していない。
試衛館に行かず、雪風の里で暮らし始めた母と薫といつまでものんびりしている事に不思議に思った母に問われて、総司の事を話すと寂しいんじゃないかと言われて驚いた。
(あの沖田総司が?)
いやいや、あいつもいい大人だ、寂しいだって?
うーん、と頭を悩ませていると、薫が口を開いた。
「その沖田っていうの、今までの話を聞いてる限り近藤って人が大好きで、土方って奴のことを意識してるから、近藤の次に桜が女だってわからなかった状況が悔しいんじゃない?前にも一回、男装してない姿見られてるんでしょ?」
「………見られた気もする」
「なら、そういう事でしょ」
鼻で笑う薫に苦笑をし、総司の事を思い出す。
(確かに、総司は歳さんをやたら意識してるけど、そこまで意識するもんなの?)
まっさかーと思うが、強ちそうかもと思ってる自分もいる。
「まあ、ソイツから直接聞かないと真相はわからないんじゃない?」
「………そうだね。私、江戸に戻るね」
微笑むと、母親は優しい顔で行ってらっしゃいと言ってくれた。
どのみち、原作の流れに紛れ込むには江戸にいなきゃいけない。
よしっ、と気合を入れると支度を始めた。
「…………………なにしてんの?」
「………別に」
江戸の自宅に戻ると、玄関の前で体育座りをしている子供、改め総司がいた、ちょっと不審者に見えるよ?
「家、入りたいんだけど」
桜がそう言うと、沖田は無言で戸の前から退いた。
「私の部屋覚えてるでしょ?先に行ってて」
「誰も君に用があるなんて言ってないと思うけど?」
「はいはい」
反論をしようとする総司の言葉を流すと、勝手場へ向かった。
お茶とお茶菓子を持って自室へ向かうと、沖田は大人しく部屋の中で座っていた。
「どーぞ」
「……どーも」
お茶とお茶菓子を総司の前にも出すと、自分も一息つく。
向こうが話し出すまで放っておこうと決めてお茶を飲んでいると、気まずそうに沖田が口を開いた。
「……この間は………ごめん」
「………何に謝ってるの?近藤さんに謝れって言われたから、とりあえず来た感じ?」
今の自分は相当意地悪な顔をしているだろう。
だけどほら、とりあえず謝られても気分悪いし、真意を確かめたいんだよね、決して意地悪とかじゃないからね!
「…………違う。その、僕が勝手に拗ねて、君に意地悪を言って」
しどろもどろに話し始めた総司の話を聞いて、彼なりに反省していることは理解した。
気まずそうに視線を泳がす総司の手を取ると、私なりに優しく微笑んでみた。
「黙ってた私も悪い、勝手に拗ねて酷いこと言った総司も悪い、お互い様って事でそろそろ仲直りしたいんだけど、どう?」
そう聞くと、沖田は一瞬目を丸くしてその後そっぽを向いた。
「君がどうしてもって言うなら、仲直りしてあげてもいいよ」
「……どーしても、仲直りしたいなぁ」
「…仕方ないね」
桜と沖田はお互いに吹き出すと、試衛館に向かう事にした。
それが数ヶ月前の話、年が明けて文久3年、黎明録の始まりである求人の話に近藤さんに無茶を言い参加をさせてもらえる事になった。
一歩、血の道へと踏み出した。
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