最終章

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土方達が里へ着いてから数ヶ月。

季節は夏から秋へと変わりつつあった。

肌寒くなってきたなと肩を摩る千鶴の肩を、ふわりと何かが掛かる。

「風邪引くよ、千鶴」

「薫…ありがとう」

薫が肩に羽織を掛けてくれたようだった。

それに微笑んで礼を言うと、里の外を見る。

「…千鶴、毎日外で待つのはいいけど、風邪をひいたら元も子もないんだからな。気をつけろよ」

「うん、勿論。姉様を待ってて風邪を引いたなんて知られたら、怒られちゃうし」

ふふっと笑った時、誰かが歩いてくるのが見えた。

薫と顔を見合わせた後、ジッと見つめていると、見えてきた顔に千鶴は表情を強張らせた。

「か、薫…土方さん達を呼んできて」

「土方達を?あの男、知り合い?」

「は、早く!」

焦った様子の千鶴に、薫は頷くと土方達を呼びに行った。

(まさか、なんでここに……三木さん…!)

里へと向かって歩いてくるのは、三木三郎だった。

千鶴は怖い気持ちを持ちつつも、何をしにきたのか、どうしてここに来れたのか、それを聞かなければならないとその場から動かなかった。

「お前は…雪村か」

目の前まで来た三木は、千鶴をじっと見た。

特に表情を変えたりしないところを見ると、自分が女である事はもう分かっていたのだろうと、千鶴は拳を握りしめた。

「三木さん、ここへはどうやって…」

「どうやって?ああ、これだよこれ」

そう言って、一枚の紙を出した。

それは、が皆に渡していた里への行き方を書いた地図。

「なんでそれを…!」

「なんでだろうな?」

ニイッと笑った三木に千鶴が後退りした時、ぽんっと肩に手が置かれた。

「雪村、下がってろ」

そう言ったのは土方で、周りには皆がいた。

「よお土方…それに近藤。まさか生きてたとはな」

ギッと睨みつける三木を、土方も静かに睨み返していた。

「お前も生きていたとはな」

「死んじまったら、俺のことを逃したに顔が立たねえからな」

その言葉に(お前はまた逃してたのか…)と土方は頭が痛くなったが、何とか我慢して三木を見る。

「で?ここに何しに来やがった」

「はっ!随分なご挨拶だな…俺の“嫁”の故郷だって言うから、挨拶に来たんだよ」

「嫁だと…?」

「ちょっと、その設定はもう終わりでしょ!てか、急に歩くの早くなんないでよ…女物の服って、そんなに早く歩けないんだから」

鼻で笑っていた三木を土方達が訝しげに見た時、三木の後ろから一人の女が走ってきてその背を叩いた。

「おお、やっと来たか」

「やっと来たか、じゃないですよ。全く…それより、皆のこと威嚇しないでください」

「それは無理な相談だな。兄貴のことは許せねえ」

三木の横で話す女を見て、皆は驚いて目を見開いた。

女は溜息を吐いた後、驚く面々を見て笑った。

「皆、無事に生きてたんだね…嬉しい。本当によかった」

そう言って笑ったのは、だった。

「お、お前…」

……か?」

「え?どっからどう見ても僕…じゃないや。私でしょ?ちょっぴり髪は伸びたかもしれないけれど」

自分の髪を触った後、もう一度周りを見た。

「皆、ただいま。また会えて嬉しい」

ふわりとが笑うと、千鶴が涙を流しながらに駆け寄った。

「姉様……!!」

「おっと…ただいま。千鶴」

「姉様、よかった…!生きてて、よかった!!」

抱き着いてきた千鶴を受け止めてそっと抱きしめる。

よしよしと頭を撫でた後、固まる薫に手を伸ばした。

「…薫。おいで」

兄として、いつも千鶴を守り生きてきた薫。

こんな時にも千鶴を優先してすぐには駆け寄ってこない薫を、は優しく見つめた。

…帰ってくるのが、遅い!」

そう言いながら腕の中に飛び込んできた薫を、千鶴と纏めて抱きしめた。

「うん、ごめんね。本当はもっと早く帰ってきたかったし、連絡もしたかったんだけど…状況が状況なだけに、ままならなくてね」

ぎゅうっと二人を抱きしめながらそう話した後、「よしっ」と周りを見る。

「家に、帰ろっか。……母様にも、会いたいし」

「はい!行きましょう!」

「おばさん、すっごく喜ぶと思うよ」

「あ、ちょっと、そんな引っ張らなくても」

の言葉に、千鶴と薫はバッと顔を上げると、の両腕をぐいぐいと引っ張る。

は困ったなと言いながらも、嬉しそうに笑みを浮かべた後、周りを見た。

「皆、行こう」

声をかけられてハッとした面々は、の後に続いた。

家に着いて、相変わらず二人に腕を引かれたままのが連れて行かれたのは、勿論母親の元。

勢いよく開かれた襖の向こうには洗濯物を持ちながら驚いて目を丸くする母親が座っており、へと視線を移すとその瞳には光るものが浮かんだ。

「……母様、ただいま」

そう言ったの声は震えていて、千鶴と薫は顔を見合わせるとそっと部屋を出て襖を閉めた。

……よく、戻りました」

そう言って微笑んだ母親の目からは涙が溢れ、は母親に駆け寄るとぎゅうっと抱きしめた。

「母様、母様…!」

お互いを抱きしめ合いながら、二人は暫くの間、涙を流した。

暫くして、落ち着いたと母親は皆が待つ部屋へと移動した。

は「姉様はここに座ってくださいね」と千鶴に肩を押されて薫の横に座らされる。

更に隣に母親を座らせた千鶴は、薫の横へと座った。

「落ち着いたようだな」

そう声をかけて来た風間にニコリと笑うと、頷いた。

「うん。落ち着いたよ。それにしても、ひっさしぶりにこんなに泣いたよー」

目が重いよと言いながら、千鶴がさっき渡して来た冷えた手拭いで目を冷やす。

「…早速で悪いが、お前が襲われた後の話とコイツの事を聞かせてもらえるか」

ちらりと三木を見ながら言った土方に頷くと、手拭いを置いた。

「簡潔に言うと、私を襲ったのは三郎さんで、助けてくれたのも三郎さんなの」

三郎さんだと…?と一部の者は気に掛かりつつも、の言った事を考える。

「襲ったのも助けたのも、三木だと?」

「うん」

は頷くと、戦が終わった時のことを思い出す。








八丈島へと向かう船に乗る直前、男に襲われて海に落ちた。

何とか上に出ないと、と必死にもがいたが男に腕を引かれてそれは叶わなかった。

何とかもがいたが息が続かなくなり、意識を飛ばした。

ハッと、が意識を取り戻すとそこは見慣れない小屋の中だった。

かなり時間が経っていたみたいで外は暗くなっていた。

「起きたか」

その声に視線を動かすと、囲炉裏の火に横顔を照らされた男…三木がジッとを見ていた。

「三木さん…?」

驚いて目を丸くしたが動こうすると腹部に痛みが走った。

(そういえば、刺されたような…)

慌てて腹部を見たが、そこには傷も何もなかった。

鬼の特性で傷が癒えるとはいえ、刺されたのならばここまで早く治るはずは無い。

不思議に思いながら何度も腹部を触っていると、三木が口を開いた。

「殴って悪かったな」

「…殴って?」

頷いた三木をジッと見ると、何があったのか話してくれた。

戦が終わった後、新政府軍の動きを監視していたこと。

一部の人間が中性的なを邪な目で見ていて、八丈島に流れた後に慰み者にしようと企んでいたこと。

それを聞いてを助けるために動いた事。

告げられた内容に、呆気に取られた。

(慰み者だなんて…)

あの場にいた奴を全員殴り飛ばせばよかった。

いやそれよりも、三木さんはなぜ助けてくれたのか。

そう考えていると、三木が近くに寄ってきて何かを差し出した。

「少し食え。海に潜らせちまったから、体力使っただろ」

差し出されたのは、味噌汁だった。

「…ありがとう、三木さん」

そう言って受け取ろうとした時、三木の手に包帯が巻かれているのに気付いた。

「三木さん、これは?」

「あー、気にするな」

三木はそう言ったが、はその手を取る。

「三木さん」

話してくれるまでこの手は離さないという意味を込めてジッと見つめると、溜息を吐かれた。

「わかったわかった、教えてやるよ」

そう言った三木の手を離すと、味噌汁を口にする。

うん、美味しい。

「連中、お前が生きてると分かれば探すだろうと思ったから、死んだと思わせる為に刀でお前を刺した」

「刺した?でも傷はないよ…?」

「まあ、本当に刺すわけにはいかなかったからよ…自分の手を刺したんだ」

なるほど。

腹部を刺したと思わせて、自分の手を刺して血を演出したのか。

かなり密着していたし、バレない方法ではあるだろう。

「……三木さん、ありがとう」

が微笑むと、三木は「おう」と言って視線を逸らした。

「でも、なんで三木さんは助けてくれたの?」

「あ?なんでって…」

三木は握られていた手をじっと見た後、グイッと引いてを抱き寄せた。

「三木さん!?」

「…俺はお前のことを憎く思ってねえ。それに…責任を取らないといけないからな。死なれたら困る」

「責任?」

三木に抱きしめられながら責任とは何だと首を捻る。

「……お前の体、見ちまっただろ」

その言葉に、ああそういえばと胸元を開かれた日のことを思い出した。

「三木さん、それなら微塵も気にしてないから大丈夫ですよ」

そう言いながら離れたを、三木はポカンと見詰めた。

「ともかく、どんな理由でも助けてくれたのは本当に嬉しい。ありがとうございます」

これで帰れる、のその言葉に三木は首を捻った。

「帰れるとは?」

「ん?……故郷ですよ」

は頬を緩めたが、三木は難しい表情をしていた。

「三木さん?」

「……あちこちに新政府軍がいやがる。故郷がどこにあるかは知らねえが…移動は中々難しいと思うぞ」

「……そうなんです?」

あちらこちらで検問をしているという新政府軍。

出し抜くのは中々難しいだろう。

どうしたものかと考えるに提案されたのが、夫婦として行動することだった。






「まあ、そんなことがあって、今に至るかな」

そう言ってニコリと笑ったに、面々は何とも言えない表情を浮かべた。

ただ、母親だけはニコニコと笑っていた。

「そうなの…三木さんのお陰で貴女が無事に帰ってきたのね。三木さん、本当にありがとうございます」

「いえ、どうぞ頭をあげてください」

頭を下げた母親に三木は慌てたように声をかける。

…三木さんには、この里の事は?」

「うん、伝えてるよ」

「そう…知っていらっしゃるのにあまり気にされていないという事は、大丈夫そうですね」

「ん?」

何が大丈夫なのだろうか。

いや、とにかく嫌な予感がする。

「このまま、本当の夫婦になっていただいても」

その言葉に皆は目を丸くし、はあちゃーと頭を抱えた。

一番はじめに正気に戻ったのは三木で、周りを見てニヤッと笑うと頭を下げた。

「俺としては、大歓「ちょっと待て」

三木の言葉を遮ったのは風間だった。

「母君、は我が妻に」

「まあ、風間様の?」

「おい待て風間、それは聞き捨てならねぇな」

母親の爆弾発言をきっかけに、部屋の中は騒がしくなり出した。

その様子を見ては頭を抱えたが、皆がここにいる事を改めて実感して、何か込み上げてきて、気付けば涙が流れていた。

「ね、姉様!?」

「どうしたの?そんなに嫌だった?俺があいつら斬ってやろうか?」

心配そうにこちらを見つめる双子に、は首を振ると微笑んだ。

「ううん…改めて皆がここにいることが実感できて…嬉しくてさ」

その言葉に騒いでいた面々も騒ぐのをやめると、を見て微笑んだ。






--長い長い、戦いだった。

どこまで、どう出来たのか。

それに、皆が望んだ展開かは自分にもよくわからないけれども…ただ、目の前にあるこの幸せな光景を見ることが出来て、少なくとも自分は本当に良かったと感じている。

「それで、はどなたと夫婦になるのかしら?」

そう尋ねてきた母親には笑った。

「ふふっ…誰だろうね」

「まあ、この子は…」

困ったようにする母親には肩をすくめた後、目の前の皆を見つめて優しく微笑んだ。






END
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