最終章

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「……っ」

(……ここは、どこだ)

ゆらゆらと、体が揺れる感覚に目を覚ます。

痛む体に鞭打ちながら、ゆっくりと体を起こすと、様子に気付いた男が驚いたように目を丸くした後、笑った。

「土方君…目が覚めたのか!」

そう言ったのは、井上だった。

「やっと起きたのですね」

そう言いながら、安堵の表情を浮かべたのは山南だった。

よく見れば、山崎と島田もいるなと考えながら、土方はガバッと起き上がった。

「お、俺は撃たれたんじゃ…それに、おい!戦はどうなったんだ!」

そう声を荒げた土方を山崎が「ご説明しますので、落ち着いてください」と諫める。

「島田君、少し休もうか」

「はい、わかりました」

島田は頷くと足を止めた。

それと同時に土方の感じていた揺れも収まったので、周りを見ると自分は荷車に乗せられていたようだった。

「さて、土方君の最後の記憶はどこですか?」

「最後の記憶つったら…弁天台場に向かう途中に撃たれたってのは覚えてる」

頭を押さえながら言った土方に「そうですか。では今から話す事を落ち着いて聞いてくださいね」と山南は告げる。

どこか神妙な表情を浮かべる面々を不思議に思いながら、土方はその先の言葉を待った。

「まず…戦は数日前に終わりました」

「………はっ?」

「旧政府軍は新政府軍に降ることになったのです」

言われた事をすぐに理解出来ずに、土方は固まる。

「土方さんが撃たれたという知らせを聞いた榎本さんと大鳥さんで話し合い、新政府軍に降るということが決定されました」

山崎がそう伝えると「俺が…」と土方は拳を握った。

「決して、土方君のせいでは無いよ。元々、かなり押されていた。時間の問題だっただろう。犠牲がこれ以上増える前に、というのが二人の考えだったようだよ」

井上は土方の肩に手を置きながら、そう告げた。

「榎本さんと大鳥君の間で話し合いが行われてる間に、私と井上さんのところへ君が来ました」

が?」

土方は眉間に皺を寄せながら山南を見る。

「あの子は、我々に君を連れて逃げろと言いました。自分では土方君を運べないと」

「何っ……?まさか、それに従ったのか?」

「…目の前で、死んでやると言われれば、断れないよ」

山南と井上はが途中から戯けてた事は黙りつつ、苦々しい表情でそう言った。

「だから、我々は君の願いを叶えるべく、眠り続ける君を連れて逃げて来たのですよ」

とはいえ、進みは遅かったので後から来た山崎君と島田君と合流出来たのだけれどね。

井上はそう言って笑った。

「……あの野郎」

話を聞いた土方は怒りを込めた表情で、拳を握った。

(皆で一緒に生きようとかぬかしてたくせに)

ここにお前がいないんじゃ、意味ないだろうが。

次々と怒りが湧き出して来たが、落ち着けと息を吐いた後、周りを見る。

「で?俺を逃した後、あいつはどうなったんだ?」

そう問いかけると、皆視線を落とす。

その様子に嫌な予感を覚えつつも「おい、どうしたんだ」と声をかけると、山崎が口を開いた。

は…現在、行方不明となっています」

「……なに?どういうことだ」

「実は…」

新選組局長として投降し、八丈島へと行く予定だったが、船に乗る瞬間に謎の男に襲われて海に落ちた。

そして、現在もまだ見つかっていない。

言われた事を、土方はすぐに飲み込めなかった。

(海に落ちて…見つかっていないだと?)

暖かくなって来ていたとはいえ、海の水は冷たい。

海に落ちて現在も見つかっていないという事は、もう命は無いと言っているのと同じだった。

「……俺は戻るぞ」

「何を言っているんですか!」

荷車を降りて歩き出す土方を、島田は止める。

「うるせえ、止めるな!惚れた女に生かされて、なのにその女が行方不明だと…?ふざけんじゃねえ!」

死んでいるなんて、認めない。探しに行く。

そう怒りを露わにしながら怒鳴る土方を止めたのは、井上だった。

「いい加減にしないか!!」

普段温厚な井上が怒ると、それはかなりの迫力で、土方は苛立ちながらも大人しく井上を見た。

「戦いが終わったといえ、君が見つかればただでは済まない。それくらい、わかるだろう?」

「ああ、わかってるさ。けど「雪風君の想いを無駄にするというのかい?」

厳しい表情の井上に言われ、土方は動きを止めた。

「そんな事をして、あの子が喜ぶと思っているのか?」

「……くそっ!!」

土方は近くの木を殴りつけた。

「……一先ず、我々は向かうべき場所へと向かいましょう」

「向かうべき、場所だと?」

「はい。土方君も渡されたでしょう?……君の里への地図を」

彼女は言いました。そこでまた会いましょうと。

山南はにこりと笑った。

「さあ、行きましょう」

土方は先ほどより気持ちが落ち着いたのか、深呼吸をすると周りを見た。

「…取り乱して悪かった。行こう。あいつの里へ」

そう言った土方に面々は頷くと、歩き出した。

新政府の人間に見つからないようにしないといけない為、移動にはかなりの時間を費やした。

それから幾つか月が変わり、季節は夏に変わった頃…目的の場所へと辿り着いた。

の故郷。

人の目から隠れるようにひっそりとした場所に、の里はあった。

「土方さん…!それに、山南さん、井上さん、山崎さんに島田さんも…!」

辿り着いた皆を迎えてくれたのは、千鶴だった。

「雪村君、久しぶりだね」

「み、皆さん…ご無事で何よりです」

涙を流しながら話す千鶴を宥めると、落ち着いたのか「どうぞ奥へ」と里の中を案内される。

千鶴に案内されたのは大きな屋敷で、「ここは姉様の家です。今日は他の皆さんも集まってるんです!」と言われ、面々は「他の皆?」と顔を見合わせた。

家の中に通され、一際騒がしい部屋へと向かうと中にいた面々の顔を見て目を丸くした。

「おっ!土方さんも生きてたか!」

「源さんに、山崎と島田もいるじゃねえか!」

「わー!また会えて嬉しいぜ!」

「なーんだ、土方さんは死んじゃったと思ってたよ」

「総司、滅多な事は言うな。……ご無事で何よりです」

「ほら相馬!副長は簡単にやられやしないって言っただろ?」

「ああ、お会いできて…本当に嬉しいです」

「土方さん、無事に生き残れたんですね」

別れた新選組の皆と伊庭が、そこにいた。

ついでに言うならば、奥の方に風間や坂本達もいたが今はそれはどうでもいい。

新選組の皆に囲まれていたのは…

「近藤…さん?」

「…トシ、また会えて…嬉しいよ」

優しく微笑む、近藤だった。

「なんで…近藤さんが」

土方は驚きで声を掠れさせながら、近藤を見る。

驚いているのは土方だけではなく、山南達も驚いて固まっていた。

「その話をしようか」

さあ座ってと言われ、土方達は近藤の前へと座る。

「俺は…雪風君に助けられたんだ」

とても良くできた人形を使い、は新政府軍を騙してみせた。

救出から相馬と野村に護衛されながらの逃走までの話を、ぽかんと聞くしかなかった五人だったが、一番はじめに我に返った山南は笑いを零した。

「新政府軍を騙すだなんて…とんでもない事を考えたものです」

「ああ。俺もとても驚いたよ。あの子には…感謝しかない」

近藤は笑った後、表情を引き締めて土方を見た。

「…トシ。トシには色々と辛く、大変な思いをさせ続けてきた……すまなかった」

そう言って頭を下げた近藤を、土方はハッとして見る。

「やめてくれ近藤さん。俺が勝手にした事だ。俺は……あんたが生きていただけでも、嬉しいんだ」

涙を浮かべながら言った土方の肩に、ぽんっと近藤が手を置いた。

皆も目に涙を浮かべながらその光景を見ていたが、部屋に低い声が響いて視線を動かす。

「………呑気に話しているところ悪いが」

声の主は風間で、目には怒りを含んでいた。

が行方不明とはどういう事だ。見殺しにしたのか」

里にまで届いていた、の話。

最後まで新選組として生きたが無事ではいられない可能性は考えていたが、まさかの事態に生死が分からなくなりただただ苛立ちを抱えるようになっていた。

「それはこちらも知りたいところだよ。あの子は確かに新選組の人間だったが、だからといって投降した後に襲われるような子ではなかった」

風間の問いに怒気を含みながら答えたのは井上だった。

ピリピリとした空気に千鶴があたふたしていると、襖が開いた。

「皆さん、落ち着いてください」

そう言って入ってきたのは、盆を手にしたの母親だった。

土方達にお茶を出し、皆を見渡せる位置に座ると微笑んだ。

「あの子が…そう簡単に死ぬと思いますか?あの子は皆と生きたいと言ったのでしょう?ならば、簡単に死ぬわけありません」

ねぇ?と、目を潤ませながら言った母親に風間は目を逸らした。

「待ちましょう。帰ってくると、信じて」

その言葉に、面々は頷いた。






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