最終章
名前変更
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すぐに見つかった大鳥を連れて榎本の元へと戻ると、すぐに二人の間で話し合いが行われ、そして…旧幕府軍と新政府との間で降伏に関するやりとりが始まった。
戦いは、終わる。
桜は息を吐いた後、弁天台場で戦っていた山南と井上を探しに出る。
降伏する事にはなるが、新選組の幹部の二人にはそれなりに厳しい対応がされる可能性がある。
最悪の事を起こしたくないのだ。
桜は戦場を駆け抜け、二人の姿を見つけると、声をあげた。
「山南さん!源さん!」
その声に二人は振り返ると、驚いた表情を見せた後に駆け寄ってきた。
「ああ、君は生きていたのかい」
「…本当に、良かったです」
二人の耳には、既に土方の話が入っていたようだった。
泣きそうな表情の二人に、桜は力無く笑った後、「こっちへ来てください」と二人を連れて戦場を離れた。
「ど、どうしたんだい」
困惑する井上の声に答えず、それなりに離れた事を確認してから二人を見た。
「お二人に、お願いしたい事があります」
「お願い、ですか」
首を傾げる山南に頷くと、一枚の紙を渡す。
「ここに、土方さんを隠している場所を書いてます」
「なんだって…!?」
「土方君が…?」
「歳さんは、生きています」
桜がそう告げると、二人は目を見開いた。
「そ、それは…本当かい!?」
「本当です。ただ、危険な状態である事には変わりありません。僕が以前に渡した薬で傷は塞がってますが、目を覚ましていません。すぐにでも、安全な場所へと移動する必要があります」
目を覚ましてないのは睡眠薬の所為だが、それは伝えない。
だって、三人をこの戦場から遠ざけるのが目的だから。
「歳さんを今こっちに連れてきたら命を取られる可能性が高いです。だから…歳さんを安全な場所へと、連れて逃げてください」
「逃げるだなんて…そんな事、簡単に出来るわけないだろう。土方君だって、望んでないはずだ」
厳しい表情の井上に、桜は頷く。
「それは重々承知です。でも、このまま歳さんを死なせたくないんです。男性を抱えてどこかへ逃げる、それは私には難しい事。でも、お二人になら出来ます」
そう言って深呼吸をすると、二人の手を取った。
「……新選組の誇りは、旗は、僕が背負います。皆さんの気持ちは、預かります。だから、僕からは…歳さんを二人に預けさせてください」
お願いします、そう言って深々と頭を下げた桜を、二人は黙って見つめた。
少しして…
「それでも断ると言ったら、どうするのですか?」
そう、山南が問いかけた。
「…僕の命を懸けての一生のお願いです。聞いてくれなきゃ、死んじゃうんだからね!!」
「全く…貴方って人は」
真剣な様子から戯けた様子になった桜に山南は呆れて溜息を吐くと、井上の肩を叩いた。
「行きましょう」
「しかし、山南君…」
「このままでは、本当に目の前で死なれてしまいそうですから」
井上はチラリと桜を見た後、深い溜息を吐いた。
「……雪風君、死んではいけないよ」
そう言った井上に、桜は目に涙を浮かべながら何度も頷いた。
「よろしく、お願いします…!」
桜と二人はそれぞれ抱きしめ合った後、井上と山南は顔を見合わせて頷くとその場から去って行った。
その背を桜は見送ると、踵を返して榎本の元へと向かった。
「皆、最後の最後まで勝負を捨てずに、よく戦ってくれた。だが、これ以上の戦いは無駄に犠牲を増やすだけだ。相談の結果--、箱館政府は新政府に降ることになった」
そう榎本の声が響き、皆は沈痛な表情を浮かべた。
あの後、榎本の元へと戻った桜に告げられたのは戦の終わりだった。
鳥羽伏見の戦から始まった一年半にも及ぶ戦いが、とうとう終わる。
「今後のことについてだけど……君たちが責を負わされることがないよう、我々が、できるだけのことをさせてもらおうと思う。特に、新選組の許君については……、生き残った隊士のほとんどは幹部じゃない一般の隊士だからね。厳しい処分が下ることは、まずないはずだ」
大鳥の言葉に、桜は周りを見る。
生き残った隊士の中で、土方、山南、井上を逃した今、幹部は自分一人だ。
厳しい処分を下されるとすれば、自分一人だろうと目を閉じる。
(皆が無事に生きて里へと辿り着いたのか、その事を確認出来てはいないから…完璧とは言えないけれど)
大体の事は上手くいった。
八郎は戦いの最中、激動に飲まれてその姿は見えなかったが…きっと生きてると信じてる。
桜は息を吐いて目を開くと、手を挙げた。
「雪風君?」
「僕は、新選組局長として新政府軍に降ります」
その言葉に、周りが騒ついた。
「雪風君、いきなり何を言い出すんだ。君は確かに幹部だが…医術に関する知識は高く買われている。君にも厳しい処分は下らないはずだ。それなのに局長として降ったら…」
「いいんです」
まさか新政府の方にも自分の能力を高く買ってもらえてるとは思っていなかったが、それは自分には関係ない。
最後の最後に歴史を変えることになって申し訳ないが、これくらいならば…きっと許してもらえると思いたい。
それに…皆の気持ちを背負った相馬をここから離したのは、自分だ。
だからこそ、私が皆の気持ちをしっかりと背負いたい。
「新選組は武士の道標だと、思ってくれている隊士は沢山いて…その気持ちを背負い、預かり、近藤さんや歳さんは走り続けてました。なのに、その背負って来たものを置いていくわけにはいきません」
「君の考えは、よくわかったけど……」
眉間に皺を寄せた大鳥に、桜は笑う。
「僕が出来る、最後の仕事です。どうか、背負わせてもらえないでしょうか」
そう言った桜を、周りの隊士達は涙を浮かべながら見詰めていた。
山崎や島田は声を上げたかったが、桜の決意が固い事を悟り、唇を噛み、閉ざした。
「……君がそこまで言うならば、止めはしないよ」
「ありがとうございます」
桜は榎本に頭を下げた。
その夜、桜は自室の開いた窓から空を眺めていた。
「…長いようで、短かったな」
訳の分からない神と名乗る人物と出会い、薄桜鬼の世界に生まれ変わり、皆を助ける為に自分なりに走り続けて来た。
正直、どこまで上手くいったのかすぐに分からないのはモヤモヤするけれども…出来るだけのことはした。
皆は生きてる、里にいると自分は信じている。
そして、明日…全てが終わる。
桜は窓を閉じると、ベッドへ向かいごろりと寝転ぶ。
「……皆、元気に過ごしてね」
そう呟くと、眠りについた。
翌日、桜は榎本と大鳥と共に新政府軍へと投降した。
五稜郭を出る直前に、山崎と島田は手紙を握り締めながらこちらを見ていたので、にこりと微笑んでおいた。
きっと、彼らは無事に辿り着くだろう。
投降した後、桜の処分は原作の相馬と同じで、八丈島へと流される事になった。
すぐに殺されるような事はなくて安堵し、八丈島へと向かう日が来て、用意された船へと向かう。
「おい、待て!」
「そいつを捕まえろ!」
船へと乗り込む直前、急に騒がしくなり振り返る。
「え?」
視線の先には、人を掻き分けて真っ直ぐこちらへと走って来る顔を隠した怪しい男。
(え、なになにこれ)
こんなイベントは知らないし、実際に相馬のみに起きたわけでも無いと思う。
驚いて男を見ていると、キラリと光るものが目に入った。
(あっ…あれは)
小刀だ。
それに気付いた時には男は目の前にいて、腹部に痛みが走った。
「ぐっ……」
「新選組、悪く思うなよ」
ちらりと視線を下に向けると、腹部は赤く染まっていた。
(刺されたの…か?)
「っ…このっ!」
桜はハッとして男を突き放すと、ふらりと後退る。
男は一瞬ふらつき、その隙に男を捕らえようと周りの面々は動いたが、体制を戻した男は捕らえられるより先に小刀を手に桜へ飛び掛かった。
「くっそ……!!」
桜は避けようとしたが男の手に掴まれる方が早く、肩をグッと掴まれる。
(やばっ、落ちる)
船に乗る直前だったのでここは桟橋の上で、逃げ場は無いに等しく、桜の体は海の方へと傾く。
「雪風君!!」
最後に聞こえたのは、榎本と大鳥の焦ったような声で、それを最後に桜の意識は途絶えた。
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