最終章
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「桜君。今よろしいですか?」
「山南さん?はい、大丈夫ですよ」
廊下を歩いていると、後ろから声をかけられて足を止める。
振り返ると、山南が立っていた。
「どうしました?」
近付いて尋ねると、山南は腕を押さえる。
「いつもなら平気なのですが、蝦夷は他の地よりも寒いからか…少し、古傷が痛むのです。改善方法をご存知でしたら、教えて頂けますか?」
山南の言う古傷、それは原作で山南が羅刹になるきっかけを作った例の事件の時に負ったものだ。
幸い、桜の助言もあり刀が振るえなくなる程の怪我は避けれたが、それでも大きな怪我だったので、傷跡は残っている。
江戸の冬よりも更に厳しい蝦夷で過ごしているうちに、血管の収縮や筋肉の柔軟性が失われて痛みを引き起こしているのかもしれない。
「温めて、軽く按摩などをするといいかもしれないですね」
「そうですか。ありがとうございます」
微笑んだ山南は、「そうだ」と桜を見る。
桜は少し嫌な予感がして一歩下がるが、山南にガシッと肩を掴まれる。
「桜君にお願いしても?」
「……いいですよ」
ニコニコと微笑んで入るがその裏に「逃がさない」という意思を感じて、桜は逃げることを諦めて頷いた。
「ありがとうございます」と言った山南に首を振ると、山南が使っている部屋へと向かった。
「手拭いを一つ借りてもいいですか?」
「こちらをどうぞ」
お湯を用意している間に、渡された手拭いを受け取ってお湯へと浸す。
「山南さん、少し肌寒いと思いますが…左腕を出してください」
「わかりました」
椅子に座って服を脱ぎ始めた山南から目を逸らすと、手拭いを絞って水気を取る。
温まった手拭いを手に、左半分の服を抜いだ山南の元へと向かうと隣へ座った。
腕に残る大きな傷跡を見て少し表情を曇らせた後、腕全体を覆うように手拭いを被せた。
「じゃあ、力抜いててくださいね」
そう言うと、手拭いの上から山南の腕に触れて按摩を行っていく。
痛くはないかなと山南を見るが、気持ちが良い表情を浮かべていたので大丈夫そうかと按摩に集中する。
「……桜君」
「はい。なんでしょう」
按摩の途中、呼ばれてチラリと視線を向ける。
いつものように微笑んでいた山南にどうしたのかと首を傾げると、もともと近かった距離が更に縮まり、「あっ」と気付いた時には額に柔らかな感触があった。
「色々と、ありがとうございます」
「………どういたしまして」
全く、歳さんといい山南さんといい、なぜ隙を見つけてはスキンシップをしてくるのだ。
もう、流石に理解しきっているので自分に対してどんな感情を抱いているかを否定はしないが、スキンシップは減らして欲しい。
普通に恥ずかしい、困る。
「相変わらず、君は中々調子を乱さないですね」
残念そうな山南に桜は「何を言ってんだこの人」と言いそうになったが、グッと飲み込む。
「……ご期待に添えず、すみません」
いや、これでもかなり乱されてるんですけどね?バレないようにするのに必死なんですよ。
そう口には出さずに、そろそろいいかなと手を離すと、その手を握られる。
「冗談ですよ。本当は…調子を乱しているのをバレないようにしている事、わかってますよ」
「山南さんは…ほんっと……人が悪い」
桜がそう言うと、山南は楽しそうにニコリと微笑んだ。
「丞さん、いますか?」
「雪風君?」
「あ、いた。入っても?」
「どうぞ」
山崎の返事を聞いて、桜が中に入る。
「何かあったのか?」
「歳さんから戦支度の話聞いてます?」
促されて椅子に座りながら山崎に問いかけると、「ああ」と頷いた。
「なら話が早い」
桜はにこりと笑みを浮かべると、手にしていた幾つもの用紙を机に並べていく。
「これは?」
「僕が持ってる治療薬と、治療法とか。まあ丞さんは詳しいし別にいらないかもだけど…念の為にね」
その言葉に山崎は眉間に皺を寄せる。
一体何が言いたいのか、何をやらせたいのかと、そういった意味を含んだ視線が向けられる。
「……今度の戦、僕は前に出るよ」
「……何っ?」
山崎は告げられた言葉に目を見開いた。
桜が前に出る。
それは負傷した者の対応に手慣れている者が、その現場からいなくなるという致命的なことだ。
勿論、今までの戦いでは桜は基本的には前に出ていた。
桜は強く、何人も敵を倒してきた。
しかし、今回の戦いでは…戦力の差と長く続く戦いの疲弊から、次々と倒れていく隊士たちの怪我の対応などに回っており、前に出ることは無くなっていた。
そんな桜が前に出ると言ったのだ。
それは隊士達を見捨てるという事か、と捉える人間もいるだろうがそうではない。
桜はよく適材適所と言っていて、だからこそ圧倒的な医学の知識を持って隊士達の事を見てきていた。
ただ、雪風桜は…新選組の幹部なのだ。
幹部として前で戦うと、桜は心に決めたのだろう。
山崎はグッと目を瞑った後、手を伸ばして桜を抱き寄せた。
「す、丞さん!?」
「……君の代わりがどこまで出来るかわからないが…俺なりに全力を尽くそう」
「…うん。ありがとう、丞さん」
「桜…」
名を呼ばれ、少し体を離すとジッと見つめられる。
「死ぬんじゃないぞ」
「…うん。頑張るよ」
桜が笑うと、山崎は目の前の彼女を、もう一度抱きしめた。
明治二年 三月
三月に入ってすぐ--。
五稜郭には、新政府軍の艦隊が攻めてくるという報が届いていた。
旧幕府の海軍は、蝦夷地攻略の際の旗艦だった開陽丸を失っている。
しかも、次の戦でやってくる新政府軍の艦隊には、開陽丸を上回る新型の船が加わっているという。
蝦夷共和国の面々が頭を悩ませているのは、このことだった。
その日は夜遅くまで、土方の部屋で会議が行われていた。
(確か、歳さんがかなり機嫌を損ねてた筈なんだよなー)
僕?会議に出てないのかって?
まあ…役職ないからね!出る必要ないよね!
……というのはまあ置いといて。
桜は目の前の盆の上におにぎりと熱いお茶を乗せると、土方の部屋へと向かう。
他の人たちにも夜食は用意しているが、土方は部屋を出てこないだろうから持っていくのだ。
途中であった島田さんには「今は行かれない方が…」と言われたが、それには笑っておいた。
「歳さーん、入りますよー」
ノックをして返事を聞く前に部屋に入る。
いつもなら呆れたように「返事をしてから入れ」と言ってくるが、今日は言われない。
かなりご機嫌斜め、という状態なのだろう。
桜は苦笑すると、机に盆を置いて土方に近付く。
(千鶴はすごいなぁ…こんな歳さんに近付くなんて)
「……立ち入りを許可した覚えはねえぞ」
「そうだね。でもほら、お腹空いたでしょ?」
「減ってねえ」
その返事には、少しの苛立ちが含まれていた。
「はいはい、減りましたね。さっ、こっちへ」
「おい…」
眉間に皺を寄せる土方をチラリと見た後、その手を取って椅子へと促す。
大人しく座った土方の前に夜食を出し、向かいへと座る。
「歳さん」
桜に名を呼ばれ土方は溜息を吐いた後、おにぎりへと手を伸ばした。
「食べながらでいいんだけどね、ちょっと聞いて欲しいんだ」
話し始めた桜を、土方はチラリと見る。
「僕、前に出るよ」
山崎に伝えたように、土方にも伝える。
「……そうか」
おにぎりを食べ終わった土方は、お茶を手にすると短く返事をした。
「きっと、今回が最後の戦いになるんだろうね」
「ああ、そうだろうな」
「…歳さん、死んだら駄目だからね」
その言葉に、土方は返事をしなかった。
「もう、そこは返事してよ」
「簡単に約束できるもんじゃねえだろ」
そこでやっと、呆れながらも笑みを見せた土方に、フッと笑う。
「ううん、簡単に約束して。絶対死なないって」
「ったく…お前ってやつは。わかったよ、約束だ」
「うん、ありがとう」
桜はニコリと笑うと、盆を手にして立ち上がる。
「さて、明日からに備えて寝ますか」
「おう、早く寝ろ」
いつもの調子を取り戻した土方にも頷くと、部屋を出た。
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「山南さん?はい、大丈夫ですよ」
廊下を歩いていると、後ろから声をかけられて足を止める。
振り返ると、山南が立っていた。
「どうしました?」
近付いて尋ねると、山南は腕を押さえる。
「いつもなら平気なのですが、蝦夷は他の地よりも寒いからか…少し、古傷が痛むのです。改善方法をご存知でしたら、教えて頂けますか?」
山南の言う古傷、それは原作で山南が羅刹になるきっかけを作った例の事件の時に負ったものだ。
幸い、桜の助言もあり刀が振るえなくなる程の怪我は避けれたが、それでも大きな怪我だったので、傷跡は残っている。
江戸の冬よりも更に厳しい蝦夷で過ごしているうちに、血管の収縮や筋肉の柔軟性が失われて痛みを引き起こしているのかもしれない。
「温めて、軽く按摩などをするといいかもしれないですね」
「そうですか。ありがとうございます」
微笑んだ山南は、「そうだ」と桜を見る。
桜は少し嫌な予感がして一歩下がるが、山南にガシッと肩を掴まれる。
「桜君にお願いしても?」
「……いいですよ」
ニコニコと微笑んで入るがその裏に「逃がさない」という意思を感じて、桜は逃げることを諦めて頷いた。
「ありがとうございます」と言った山南に首を振ると、山南が使っている部屋へと向かった。
「手拭いを一つ借りてもいいですか?」
「こちらをどうぞ」
お湯を用意している間に、渡された手拭いを受け取ってお湯へと浸す。
「山南さん、少し肌寒いと思いますが…左腕を出してください」
「わかりました」
椅子に座って服を脱ぎ始めた山南から目を逸らすと、手拭いを絞って水気を取る。
温まった手拭いを手に、左半分の服を抜いだ山南の元へと向かうと隣へ座った。
腕に残る大きな傷跡を見て少し表情を曇らせた後、腕全体を覆うように手拭いを被せた。
「じゃあ、力抜いててくださいね」
そう言うと、手拭いの上から山南の腕に触れて按摩を行っていく。
痛くはないかなと山南を見るが、気持ちが良い表情を浮かべていたので大丈夫そうかと按摩に集中する。
「……桜君」
「はい。なんでしょう」
按摩の途中、呼ばれてチラリと視線を向ける。
いつものように微笑んでいた山南にどうしたのかと首を傾げると、もともと近かった距離が更に縮まり、「あっ」と気付いた時には額に柔らかな感触があった。
「色々と、ありがとうございます」
「………どういたしまして」
全く、歳さんといい山南さんといい、なぜ隙を見つけてはスキンシップをしてくるのだ。
もう、流石に理解しきっているので自分に対してどんな感情を抱いているかを否定はしないが、スキンシップは減らして欲しい。
普通に恥ずかしい、困る。
「相変わらず、君は中々調子を乱さないですね」
残念そうな山南に桜は「何を言ってんだこの人」と言いそうになったが、グッと飲み込む。
「……ご期待に添えず、すみません」
いや、これでもかなり乱されてるんですけどね?バレないようにするのに必死なんですよ。
そう口には出さずに、そろそろいいかなと手を離すと、その手を握られる。
「冗談ですよ。本当は…調子を乱しているのをバレないようにしている事、わかってますよ」
「山南さんは…ほんっと……人が悪い」
桜がそう言うと、山南は楽しそうにニコリと微笑んだ。
「丞さん、いますか?」
「雪風君?」
「あ、いた。入っても?」
「どうぞ」
山崎の返事を聞いて、桜が中に入る。
「何かあったのか?」
「歳さんから戦支度の話聞いてます?」
促されて椅子に座りながら山崎に問いかけると、「ああ」と頷いた。
「なら話が早い」
桜はにこりと笑みを浮かべると、手にしていた幾つもの用紙を机に並べていく。
「これは?」
「僕が持ってる治療薬と、治療法とか。まあ丞さんは詳しいし別にいらないかもだけど…念の為にね」
その言葉に山崎は眉間に皺を寄せる。
一体何が言いたいのか、何をやらせたいのかと、そういった意味を含んだ視線が向けられる。
「……今度の戦、僕は前に出るよ」
「……何っ?」
山崎は告げられた言葉に目を見開いた。
桜が前に出る。
それは負傷した者の対応に手慣れている者が、その現場からいなくなるという致命的なことだ。
勿論、今までの戦いでは桜は基本的には前に出ていた。
桜は強く、何人も敵を倒してきた。
しかし、今回の戦いでは…戦力の差と長く続く戦いの疲弊から、次々と倒れていく隊士たちの怪我の対応などに回っており、前に出ることは無くなっていた。
そんな桜が前に出ると言ったのだ。
それは隊士達を見捨てるという事か、と捉える人間もいるだろうがそうではない。
桜はよく適材適所と言っていて、だからこそ圧倒的な医学の知識を持って隊士達の事を見てきていた。
ただ、雪風桜は…新選組の幹部なのだ。
幹部として前で戦うと、桜は心に決めたのだろう。
山崎はグッと目を瞑った後、手を伸ばして桜を抱き寄せた。
「す、丞さん!?」
「……君の代わりがどこまで出来るかわからないが…俺なりに全力を尽くそう」
「…うん。ありがとう、丞さん」
「桜…」
名を呼ばれ、少し体を離すとジッと見つめられる。
「死ぬんじゃないぞ」
「…うん。頑張るよ」
桜が笑うと、山崎は目の前の彼女を、もう一度抱きしめた。
明治二年 三月
三月に入ってすぐ--。
五稜郭には、新政府軍の艦隊が攻めてくるという報が届いていた。
旧幕府の海軍は、蝦夷地攻略の際の旗艦だった開陽丸を失っている。
しかも、次の戦でやってくる新政府軍の艦隊には、開陽丸を上回る新型の船が加わっているという。
蝦夷共和国の面々が頭を悩ませているのは、このことだった。
その日は夜遅くまで、土方の部屋で会議が行われていた。
(確か、歳さんがかなり機嫌を損ねてた筈なんだよなー)
僕?会議に出てないのかって?
まあ…役職ないからね!出る必要ないよね!
……というのはまあ置いといて。
桜は目の前の盆の上におにぎりと熱いお茶を乗せると、土方の部屋へと向かう。
他の人たちにも夜食は用意しているが、土方は部屋を出てこないだろうから持っていくのだ。
途中であった島田さんには「今は行かれない方が…」と言われたが、それには笑っておいた。
「歳さーん、入りますよー」
ノックをして返事を聞く前に部屋に入る。
いつもなら呆れたように「返事をしてから入れ」と言ってくるが、今日は言われない。
かなりご機嫌斜め、という状態なのだろう。
桜は苦笑すると、机に盆を置いて土方に近付く。
(千鶴はすごいなぁ…こんな歳さんに近付くなんて)
「……立ち入りを許可した覚えはねえぞ」
「そうだね。でもほら、お腹空いたでしょ?」
「減ってねえ」
その返事には、少しの苛立ちが含まれていた。
「はいはい、減りましたね。さっ、こっちへ」
「おい…」
眉間に皺を寄せる土方をチラリと見た後、その手を取って椅子へと促す。
大人しく座った土方の前に夜食を出し、向かいへと座る。
「歳さん」
桜に名を呼ばれ土方は溜息を吐いた後、おにぎりへと手を伸ばした。
「食べながらでいいんだけどね、ちょっと聞いて欲しいんだ」
話し始めた桜を、土方はチラリと見る。
「僕、前に出るよ」
山崎に伝えたように、土方にも伝える。
「……そうか」
おにぎりを食べ終わった土方は、お茶を手にすると短く返事をした。
「きっと、今回が最後の戦いになるんだろうね」
「ああ、そうだろうな」
「…歳さん、死んだら駄目だからね」
その言葉に、土方は返事をしなかった。
「もう、そこは返事してよ」
「簡単に約束できるもんじゃねえだろ」
そこでやっと、呆れながらも笑みを見せた土方に、フッと笑う。
「ううん、簡単に約束して。絶対死なないって」
「ったく…お前ってやつは。わかったよ、約束だ」
「うん、ありがとう」
桜はニコリと笑うと、盆を手にして立ち上がる。
「さて、明日からに備えて寝ますか」
「おう、早く寝ろ」
いつもの調子を取り戻した土方にも頷くと、部屋を出た。
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