最終章
名前変更
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猛ダッシュで追いかける、といってもまずは新政府軍がウジャウジャといる関所を抜けなければいけない。
まあ、これに関しては意外と抜けれた。
女の格好をして商人に紛れればこっちのものだ。
助けてくれた商人さんには感謝だ。
ただまあ、簡単では無かったので抜けるまでに時間は費やしたけれども…
ただ、関所を抜ければただひたすら北へと進むのみ。
道中にも新政府軍はいる為、戦い、逃げ、隠れ、時間をかけながらも会津にいる新選組と再会できたのは、何ヶ月も経った八月の事だった。
「総司!一ちゃん!」
会津に置かれた本陣で、良く知る顔を見つけ桜は声を上げた。
「桜…!?」
「………」
桜の姿を見た沖田と斎藤は、目を見開いた。
二人へ駆け寄ると、腕を広げて二人を抱きしめる。
「良かった…無事で良かった……!」
そう言って涙ぐむ桜の顔を、沖田はグイッと上に向けた。
「本当に、桜?」
「え?そうだよ?」
「………生きていたか。良かった…」
そう言って微笑んだ斎藤に微笑み返した後、二人から離れて頭を下げた。
「二人とも、ごめん…僕の力及ばずで、近藤さんや、野村君達は…」
そう伝えると、二人は沈黙した。
二人の耳にも、近藤の事は届いているからだ。
二人の瞳に一瞬、悲しげな色がよぎった。
だが、やがて…
「お前が生きているだけでも、よかった」
斎藤が口を開いた。
「一ちゃん…」
「近藤さんや…まあ、二人の事も、悔しいし、僕は今すぐにでも新政府軍や、近藤さんを無理矢理にでも連れてこなかった土方さんを斬ってしまいたいけど…」
沖田はそう言いながら、腰に差す刀に触れる。
「近藤さんから預かったからね。最後まで進むよ」
その言葉に、桜は微笑んだ。
その拍子に溢れた涙を拭われ、少し恥ずかしかったが気を取り直して二人を見る。
「歳さんは?」
そう問いかけると、会津藩と共闘してもらえるようにと、仙台藩を説得する為に向かったと伝えられた。
一足遅かったのだ。
(……なるほど)
今、自分は相馬君と同じ道を辿っているのかもしれない。
思ったより早く江戸を出ることが出来たから、ギリギリ追いつけるかと思ったが、間に合わなかったようだ。
「…わかった。僕も明日には仙台へ向かおうと思う。二人は……?」
斎藤がいるのは分かっていたが、沖田がいる事までは予想できていなかった。
「僕と一君は時間稼ぎ。最初は一君だけがここに残るって言ってたんだけど……僕としては、一君だけに良い格好はさせられないと思ってね」
そう言って沖田は笑った。
「……一ちゃんのこと、心配だったんだね」
「誰もそんな事、言ってないでしょ」
ふんっと鼻を鳴らした沖田に、斎藤と顔を見合わせると笑った。
そして陣幕へと戻ろうとする二人に手を振っていると、頭にハテナを浮かべた二人が首を傾げた。
「なんで手なんか振ってるの?」
「え?いや…二人とも陣幕に戻るみたいだったから」
「桜も来ればいい」
「え?いやでも…二人が休むのを邪魔するのもあれじゃない?」
「ほら、いいから」
グイッと腕を引かれてわわっと背を追う。
陣幕内へと移動すると「ほらこっち」と二人が座る間へと座らされた。
その様子に困惑しながらも二人を交互に見ていると、両肩に重みを感じた。
えっ?と左右を見ると、沖田と斎藤の頭がそれぞれ肩に乗っていた。
いや、普通に重い。
「あのー?」
「……ここで君にまた会えて、よかったよ」
その言葉に、桜は目を閉じる。
二人とも、わかっているのだ。
ここで自分は、命を落とす可能性が大きいと。
(……ここに残る事は、出来ない)
助けたいけれど、自分は行かなければならない。
北へと、土方達の元へと。
だから、以前渡した薬にかけるしかない。
ぎゅうっと胸が締め付けられる感覚に、また目尻が熱くなる。
「…泣くな」
そう言って、頬に触れたのは斎藤の手だった。
「泣いてないよ」
桜はそう言って笑った。
「本当に?君って意外と泣き虫だからな」
「もう…泣いてないってば」
顔を覗き込んできた沖田の額をぺしりと叩くと、沖田はニッと笑った。
「そんな事していいの?」
「え?」
何が?と思っていると顔が近付いてきたので慌てて仰反る。
「ちょ、何しようとしてんの」
「何って…聞かないとわからない?」
「…一ちゃん、この男と一緒に戦って大丈夫?」
こいつこの状況下で考えていることがヤバイぞという意味を込めて斎藤を見れば、ジトリとした視線を二人に向けていた。
「は、一ちゃん?」
「……総司、俺も我慢しているのだ。お前も我慢しろ」
(…我慢とは?)
そう突っ込みたかったが、やめておこう。
藪蛇になっては困る。
「もう、一君は相変わらずだね。まあでも、涙は引いたみたいだね」
そう言われて、先ほどまで感じていた目尻の感覚が落ち着いていることに気付いた。
「……ありがと」
小さな声でそう伝えると、「どういたしまして」と沖田は笑った。
翌日、ちょっと両肩痛いんですけどと思いながらも、目の前のどこかスッキリした様子の二人を見る。
「それじゃあ、会津公や会津藩の皆さんによろしくね」
「桜も、土方さんによろしく言っておいて」
沖田の言葉に頷くと、そうだと手紙を二通取り出す。
そう、いつものあれだ。
「二人とも、これを」
「…これは?」
手紙を受け取った二人は、不思議そうに眺める。
「私の里への行き方。極秘情報なんだから、他の人に漏らしたらダメだよ」
そう伝えると、二人は驚いた表情を浮かべた。
「私、また皆と会いたい。実は新八さん達にも渡してあるの。だから…何があっても生きて。私が渡した薬を活用して、また…笑って会おう?」
桜の言葉に二人はグッと手紙を握りしめた。
「…またね、桜」
沖田の言った「またね」の言葉に笑みを浮かべる。
「また会える日を」
笑みを浮かべながら言った斎藤に桜も微笑み返すと、二人をぎゅっと抱きしめた。
「よしっ、それじゃあ…行くね」
二人から離れると、ニコッと笑った。
二人がそれに手をあげて返事をすると、桜は踵を返して歩き出した。
目指すは、土方のいる仙台だ。
そして九月。
仙台へと辿り着いた桜は、土方が逗留している宿で再会を果たした。
「歳さん!」
「お前……桜か!!」
驚く土方に桜は駆け寄ると、ガバッと抱きついた。
いつもなら落ち着けと怒る土方も、この時ばかりは何も言わずに抱きしめ返してくれた。
(まだ、死なないとは分かっていても…)
こうして、生きている事を確かめるまでは安心出来なかった。
本当によかった。
ギュッと抱きしめた後、離れようとしたが背中に回された手が離れなくて桜は困惑する。
「歳さん?」
土方は桜をジッと見た後、顔を近づけたが…どこからか聞こえてきた咳払いにハッとして体を離した。
「…全く。土方君は何をしているのですか?」
「山南さん!源さんに、丞さんも!!」
ようやく離してもらえた桜は、この男は油断も隙もないな…と思いつつ、聞こえてきた声に振り返った。
そこには山南、井上、山崎がいて、桜は笑みを浮かべると三人に駆け寄った。
「皆、元気そうでよかったです!」
「君も、無事で何よりです」
頭を撫でてくれる井上や、よかったと笑う山南と山崎に微笑み返した後、桜は一歩下がり四人に順番に頭を下げた。
「桜?」
「……ごめんなさい、僕…近藤さんを…近藤さん達を、救えなかった」
そう、小さな声で謝ると場は沈黙に包まれた。
暫く沈黙が場を包んだ後、衣擦れの音がして桜の頭をふわりと撫でる感触がした。
顔を上げると、そこには微笑む井上がいた。
「君が無事なだけでも、よかったよ」
その言葉に他の面々も頷く。
(ああ、なんて優しい人たちだろう)
本当は悔しくて仕方ない筈なのに、私が生きているだけで良かったと言ってくれる。
そんな優しい人達を騙している罪悪感と、温かい気持ちに触れた事で涙が溢れた。
「…これで涙を拭け」
そう言って山崎から渡された手拭いを受け取ると、目尻を拭った。
「ありがとう、丞さん」
桜は微笑んだ後、深呼吸して土方を見た。
「今の状況、教えてもらえますか?」
気合を入れ直した様子の桜を見て、土方は頷いた。
「仙台藩との交渉は頓挫した」
告げられた言葉に、桜は表情を顰めた。
交渉の頓挫、それは会津藩はたった一藩で、新政府軍を相手にしなければいけないということだ。
わかっていても、絶望的な事を聞くと胸が苦しくなる。
俯いてギュッと胸元で手を握りしめた桜を見た後、土方は口を開く。
「俺たちは蝦夷地に向かう」
その言葉に、桜は顔を上げる。
「……お前はここに置いていく。女として生きろ」
その言葉に、桜は目を見開いた後に口を開こうとするが、土方が掌を向けてそれを遮る。
「と、言いたいところだが…お前は来るんだろ?最後まで」
困ったような表情を浮かべながらそう言った土方に、桜は力強く頷く。
「当たり前ですよ。今更、抜けろ、帰れ、置いていくなんて言われても…そんなの受け入れれないし、置いていかれたとしても勝手に向かって、戦ってやりますからね!」
「おやおや、頼もしいですね」
そう言った山南に、桜は笑った。
その後は、疲れただろうと宿の一室に案内されて休むように言われ、翌日には榎本さんを紹介された。
「君があの雪風君か!」と言われて「あの?」と気になったが、まぁ黙っておこう。
そして数日後、会津に残っていた隊士たちが仙台まで辿り着いた。
その中に島田や何人か見知った隊士たちはいたけれど…沖田と斎藤はいなかった。
「戦死した」との言葉に、本当に死んだのか、瀕死の状態になりながらも薬で生きながらえたのか、それを調べる術は今はない。
彼らを助けるためにこの世界に来たというのに、なんとも不甲斐ないことだ。
桜は拳を握りしめた後、島田に労りの言葉をかけた。
そして九月の半ば、仙台藩はますます恭順派に傾き、長く留まることは危険とまで思われた。
合流した大鳥や他の皆も仙台を離れることに賛成した。
(どうでもいい事だが、大鳥さんにも「あの?」と言われた。本当にどんな話をしてたのか気になる)
ついに、新選組の蝦夷地行きが決定されたのだ。
そこからの行動は早く、翌日には榎本さんの艦隊と合流し、新選組は蝦夷地へと向かう事になった。
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