洋装~近藤の処刑
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「歳さん」
近藤に一時の別れを告げて、外で待機していた皆の元へと桜は近付く。
「桜…それは?」
「近藤さんからの預かり物です」
桜は微笑むと、手にしていた2本の刀を土方に渡した。
「こっちは…近藤さんの愛刀です。これを総司に」
「総司…?」
「……近藤さんの事を知ったら、すぐに助けに行こうとすると思うから…これを渡して、こう伝えて下さい。“近藤勇の魂を預ける。最期まで共に進んでくれ”と」
桜が近藤にお願いした事、それは刀を頂戴する事だった。
命とも言える刀を頂戴する事は失礼に当たるのは承知だったが、沖田を前に進ませる為には必要だと思った。
近藤から「進んでほしい」と言われたならば、流石の沖田も近藤からの願いを無碍には出来ないはずだと。
刀を受け取る時、快く願いを聞き入れてくれた近藤に、胸がいっぱいになった。
桜は唇を結んだ後、息を吐いて土方を見る。
「可能ならば今すぐにでも届けたいので、野村君か相馬君に走ってもらいたいのですが…大丈夫ですか?」
「……わかった。お前ら、頼めるか」
「ここは俺が。命に変えても、局長の魂は沖田さんへと届けます」
名乗り出た相馬に頷くと、土方は刀を渡した。
相馬は一度頭を下げると、すぐに駆け出した。
「そして…歳さんにこれを」
「…俺に?」
もう一つの刀を土方に渡すと、微笑んだ。
「近藤さんが、新選組の再起を願って手に入れた刀、井上真改です。【真】を【改】めると書きます」
そう伝えると、土方は刀をジッと見つめた後にぐっと握った。
本当は相馬君が預かる刀だが、流れで私が預かった。
ジッと刀を見つめた後、「俺にはこれは…」と口を開いた土方の腕に手を添えて、その先の言葉を止めた。
「歳さん」
微笑む桜に、土方はぐっと口を詰むんだ。
その様子を見て、桜は口を開く。
「行ってください」
「行けだと…?」
「僕はここに近藤さんと残ります。近藤さんも了承済みです」
了承というか、ゴリ押しだけど。
「何言ってやがる!!」
告げた言葉に声を荒げた土方にガッと肩を掴まれ、桜は苦笑する。
土方の顔が、泣きそうだったから。
「歳さん、大丈夫です。すぐに追いつきますから。だから…行ってください」
もうそこに、敵は迫ってきている。
土方はまだ何か言いたそうにしていたが、桜が笑って、意思を変えるつもりは無いことを悟ると、肩から手を離した。
「……死ぬんじゃねえぞ」
「歳さん達もね」
土方は頷くと、踵を返して隊士達に号令を飛ばした。
そうして去っていく皆を見送っていると、一人の人物が駆け寄ってきた。
「雪風さん!」
「野村君…?」
駆け寄ってきたのは野村で、後ろを気にする様子から土方を気にしているのだろう。
「どうしたの?」
「俺も残ります」
その言葉に目を丸くすると、野村の目をジッと見る。
「歳さんはこの事は?」
「……頭を殴られましたが、了承は頂きました」
その言葉に桜は一度目を瞑ると、息を吐いた。
「わかった。近藤さんの近くに…お願い。僕ね、実は近藤さんの近くじゃなくて、遠くから見届ける予定だったんだ。何かあれば動けるように」
「……わかりました!お任せください」
頷いた野村に微笑み、桜は長岡邸を一度見た後に、素早く離れて近くの木の上に身を隠した。
近藤の処刑。
これを避けるために色々と考えた。
そもそもここで新政府軍を返り討ちにしてはどうか、近藤が捕まった後の敵の拠点で暴れてしまうのはどうか、など。
ただ、近藤の処刑というのは歴史としては必要なものだと思った。
何度もいうように、歴史から大きく離れた行動を行う事で、後から大きな皺寄せが来たときに対処しきれない。
だからこそ、可能な限り歴史通りの事柄を起こして、その上で命を救いたいと考えている。
龍馬さんの暗殺も然りだ。
だから…近藤さんはここで捕まってもらったうえで…死なせはしない。
「拙者、大久保剛と申す者です」
その言葉が聞こえてきて、声の方へ視線を向けると新政府軍と近藤が向かい合っていた。
(来たね…)
少し言葉を交わした後、近藤達は新政府軍に連れられて歩き出した。
本陣へと連れて行かれるのだ。
桜は周りの者に気づかれないように注意を払いながら、後をつけた。
近藤と野村が本陣へと連れて行かれてから数日、相変わらず尋問は続いているようだった。
桜は息を潜め、本陣を見張っていた。
そしてある日の夜…助命嘆願の手紙を持った相馬が本陣へとやってきた。
この後、彼は野村と近藤を助けるために本陣へと潜入するだろう。
辺りを見渡す相馬に笑うと、そっと近付く。
「相馬君」
「雪風さん…!」
口元に人差し指を立て、振り返った相馬に静かにするように示すと着いて来いと手招きする。
慌てて口を閉じて近寄ってきた相馬に微笑む。
「雪風さん、ご無事でしたか」
「うん。僕は近藤さんを近くからではなく、遠くから見届ける為に動いているから…捕まるようなことはなかったよ」
ホッとした様子の相馬に伝えると、本陣を見る。
「中へ?」
「はい。助命嘆願の手紙も持ってます」
その言葉に頷いた後、桜は相馬の手を握る。
「相馬君。君と…野村君に、新選組の上司として命令を出したい。嫌ならば断わってくれてもいいが」
「そんな、嫌だなんて…!なんでも、命じてください」
ぎゅっと手を握り返す相馬に桜は笑みを浮かべると、一つ手紙を渡した。
「とりあえず、本陣から外へと出てきたらここに身を隠してほしい」
「ここは…?」
「僕の家かな。今は引っ越して誰もいないから、遠慮なく使って」
「は、はい」
「命令は…後日、伝えるよ。いい?何があっても、どんなことがあっても、僕が君たちの元へ行くまで…隠れて、生きて」
神妙な面持ちの桜に相馬はハッとすると、頷いた。
「よしっ…気を付けてね」
桜はにこりと笑うと、相馬の向きをクルリと変えて背を押した。
相馬は「はいっ!」と返事をすると、本陣へと駆けて行った。
(…さて)
自分も、そろそろ用意しなければいけない。
今月中には近藤さんは…
桜は目を伏せてぐっと拳を握った後、地を蹴った。
その後、本陣へと潜入した相馬は野村のみを連れて桜に教えられた家へと来ていた。
近藤は、新選組局長として詮議を受けるために、残ったのだ。
悔しいことだが、近藤の決意を変えることは不可能で、二人は後ろ髪を引かれる思いで本陣を後にした。
その後は、新政府軍に見つからないように身を潜めながら桜が現れるのを二人は待った。
そんな待ち続ける二人の耳に入ったのは、近藤の訃報だった。
【新選組局長近藤勇、板橋ノ刑場ニテ斬首セリ】
大名になったはずなのに、腹を詰めさせてもらえなかったことに、二人は憤りを感じて拳を震わせた。
「局長…」
相馬がぐっと目を閉じたとき、家の扉が開く音がした。
「!?」
相馬と野村は顔を見合わせて頷くと、部屋の陰に姿を隠す。
人が近付いてくる音に緊張しながら刀に手を伸ばすと、襖が開かれた。
「あなたは…」
「雪風さん!」
「二人とも、元気そうだね」
立っていたのは、桜だった。
「待たせてごめんね」
そう言って笑った桜は、どこか疲れた様子で、二人は心配そうに見詰める。
「野村君。無事でよかった」
「いえ…それより、近藤さんが」
その言葉に桜は力なく笑うと、二人の肩に手を置く。
野村がグッと唇を噛む様子を見て、桜は頭をぽんっと撫でて口を開いた。
「野村君、相馬君から話は聞いてる?」
「はい。何か命令があるとか…」
「うん。実は二人にはね、ある御仁の護衛をお願いしたい」
「護衛、ですか?」
頭にハテナを浮かべる二人に頷くと、二つの手紙を渡す。
「こっちに、御仁のいる場所を書いてるから迎えに行ってほしい。で、こっちは…その御仁を送って行って欲しい場所が書いている。秘密の場所だから…誰にも知られないようにしてね」
「秘密の場所?」
野村が首を傾げる。
その様子に笑って「僕の故郷だよ」と告げると、相馬が驚いて目を見開いた。
「雪風さんの故郷って…!」
「うん。そういう事。よかったら向かう途中に野村君に教えてあげて」
驚きながらも頷いた相馬に微笑むと、二人の手を握る。
「この江戸から出るのは容易ではない状態。だけど…穴を作っておいた。そこからきっと抜けられるよ」
それも手紙に書いているからと告げると、二人は頷いた。
「…ごめんね、こんなこと頼んで。本当は本隊に合流したいよね」
「それは…」
頬を掻く正直な野村に、桜は微笑む。
「ごめんね。でも…二人にお願いしたいんだ」
そう告げて頭を下げると、相馬と野村は慌てだす。
「ちょ、雪風さん!」
「か、顔を上げてください!」
わたわたする二人に顔を上げると、桜は微笑んだ。
「ごめんね、よろしく」
その言葉に二人は頷くと、ぎゅっと手紙を握りしめた。
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近藤に一時の別れを告げて、外で待機していた皆の元へと桜は近付く。
「桜…それは?」
「近藤さんからの預かり物です」
桜は微笑むと、手にしていた2本の刀を土方に渡した。
「こっちは…近藤さんの愛刀です。これを総司に」
「総司…?」
「……近藤さんの事を知ったら、すぐに助けに行こうとすると思うから…これを渡して、こう伝えて下さい。“近藤勇の魂を預ける。最期まで共に進んでくれ”と」
桜が近藤にお願いした事、それは刀を頂戴する事だった。
命とも言える刀を頂戴する事は失礼に当たるのは承知だったが、沖田を前に進ませる為には必要だと思った。
近藤から「進んでほしい」と言われたならば、流石の沖田も近藤からの願いを無碍には出来ないはずだと。
刀を受け取る時、快く願いを聞き入れてくれた近藤に、胸がいっぱいになった。
桜は唇を結んだ後、息を吐いて土方を見る。
「可能ならば今すぐにでも届けたいので、野村君か相馬君に走ってもらいたいのですが…大丈夫ですか?」
「……わかった。お前ら、頼めるか」
「ここは俺が。命に変えても、局長の魂は沖田さんへと届けます」
名乗り出た相馬に頷くと、土方は刀を渡した。
相馬は一度頭を下げると、すぐに駆け出した。
「そして…歳さんにこれを」
「…俺に?」
もう一つの刀を土方に渡すと、微笑んだ。
「近藤さんが、新選組の再起を願って手に入れた刀、井上真改です。【真】を【改】めると書きます」
そう伝えると、土方は刀をジッと見つめた後にぐっと握った。
本当は相馬君が預かる刀だが、流れで私が預かった。
ジッと刀を見つめた後、「俺にはこれは…」と口を開いた土方の腕に手を添えて、その先の言葉を止めた。
「歳さん」
微笑む桜に、土方はぐっと口を詰むんだ。
その様子を見て、桜は口を開く。
「行ってください」
「行けだと…?」
「僕はここに近藤さんと残ります。近藤さんも了承済みです」
了承というか、ゴリ押しだけど。
「何言ってやがる!!」
告げた言葉に声を荒げた土方にガッと肩を掴まれ、桜は苦笑する。
土方の顔が、泣きそうだったから。
「歳さん、大丈夫です。すぐに追いつきますから。だから…行ってください」
もうそこに、敵は迫ってきている。
土方はまだ何か言いたそうにしていたが、桜が笑って、意思を変えるつもりは無いことを悟ると、肩から手を離した。
「……死ぬんじゃねえぞ」
「歳さん達もね」
土方は頷くと、踵を返して隊士達に号令を飛ばした。
そうして去っていく皆を見送っていると、一人の人物が駆け寄ってきた。
「雪風さん!」
「野村君…?」
駆け寄ってきたのは野村で、後ろを気にする様子から土方を気にしているのだろう。
「どうしたの?」
「俺も残ります」
その言葉に目を丸くすると、野村の目をジッと見る。
「歳さんはこの事は?」
「……頭を殴られましたが、了承は頂きました」
その言葉に桜は一度目を瞑ると、息を吐いた。
「わかった。近藤さんの近くに…お願い。僕ね、実は近藤さんの近くじゃなくて、遠くから見届ける予定だったんだ。何かあれば動けるように」
「……わかりました!お任せください」
頷いた野村に微笑み、桜は長岡邸を一度見た後に、素早く離れて近くの木の上に身を隠した。
近藤の処刑。
これを避けるために色々と考えた。
そもそもここで新政府軍を返り討ちにしてはどうか、近藤が捕まった後の敵の拠点で暴れてしまうのはどうか、など。
ただ、近藤の処刑というのは歴史としては必要なものだと思った。
何度もいうように、歴史から大きく離れた行動を行う事で、後から大きな皺寄せが来たときに対処しきれない。
だからこそ、可能な限り歴史通りの事柄を起こして、その上で命を救いたいと考えている。
龍馬さんの暗殺も然りだ。
だから…近藤さんはここで捕まってもらったうえで…死なせはしない。
「拙者、大久保剛と申す者です」
その言葉が聞こえてきて、声の方へ視線を向けると新政府軍と近藤が向かい合っていた。
(来たね…)
少し言葉を交わした後、近藤達は新政府軍に連れられて歩き出した。
本陣へと連れて行かれるのだ。
桜は周りの者に気づかれないように注意を払いながら、後をつけた。
近藤と野村が本陣へと連れて行かれてから数日、相変わらず尋問は続いているようだった。
桜は息を潜め、本陣を見張っていた。
そしてある日の夜…助命嘆願の手紙を持った相馬が本陣へとやってきた。
この後、彼は野村と近藤を助けるために本陣へと潜入するだろう。
辺りを見渡す相馬に笑うと、そっと近付く。
「相馬君」
「雪風さん…!」
口元に人差し指を立て、振り返った相馬に静かにするように示すと着いて来いと手招きする。
慌てて口を閉じて近寄ってきた相馬に微笑む。
「雪風さん、ご無事でしたか」
「うん。僕は近藤さんを近くからではなく、遠くから見届ける為に動いているから…捕まるようなことはなかったよ」
ホッとした様子の相馬に伝えると、本陣を見る。
「中へ?」
「はい。助命嘆願の手紙も持ってます」
その言葉に頷いた後、桜は相馬の手を握る。
「相馬君。君と…野村君に、新選組の上司として命令を出したい。嫌ならば断わってくれてもいいが」
「そんな、嫌だなんて…!なんでも、命じてください」
ぎゅっと手を握り返す相馬に桜は笑みを浮かべると、一つ手紙を渡した。
「とりあえず、本陣から外へと出てきたらここに身を隠してほしい」
「ここは…?」
「僕の家かな。今は引っ越して誰もいないから、遠慮なく使って」
「は、はい」
「命令は…後日、伝えるよ。いい?何があっても、どんなことがあっても、僕が君たちの元へ行くまで…隠れて、生きて」
神妙な面持ちの桜に相馬はハッとすると、頷いた。
「よしっ…気を付けてね」
桜はにこりと笑うと、相馬の向きをクルリと変えて背を押した。
相馬は「はいっ!」と返事をすると、本陣へと駆けて行った。
(…さて)
自分も、そろそろ用意しなければいけない。
今月中には近藤さんは…
桜は目を伏せてぐっと拳を握った後、地を蹴った。
その後、本陣へと潜入した相馬は野村のみを連れて桜に教えられた家へと来ていた。
近藤は、新選組局長として詮議を受けるために、残ったのだ。
悔しいことだが、近藤の決意を変えることは不可能で、二人は後ろ髪を引かれる思いで本陣を後にした。
その後は、新政府軍に見つからないように身を潜めながら桜が現れるのを二人は待った。
そんな待ち続ける二人の耳に入ったのは、近藤の訃報だった。
【新選組局長近藤勇、板橋ノ刑場ニテ斬首セリ】
大名になったはずなのに、腹を詰めさせてもらえなかったことに、二人は憤りを感じて拳を震わせた。
「局長…」
相馬がぐっと目を閉じたとき、家の扉が開く音がした。
「!?」
相馬と野村は顔を見合わせて頷くと、部屋の陰に姿を隠す。
人が近付いてくる音に緊張しながら刀に手を伸ばすと、襖が開かれた。
「あなたは…」
「雪風さん!」
「二人とも、元気そうだね」
立っていたのは、桜だった。
「待たせてごめんね」
そう言って笑った桜は、どこか疲れた様子で、二人は心配そうに見詰める。
「野村君。無事でよかった」
「いえ…それより、近藤さんが」
その言葉に桜は力なく笑うと、二人の肩に手を置く。
野村がグッと唇を噛む様子を見て、桜は頭をぽんっと撫でて口を開いた。
「野村君、相馬君から話は聞いてる?」
「はい。何か命令があるとか…」
「うん。実は二人にはね、ある御仁の護衛をお願いしたい」
「護衛、ですか?」
頭にハテナを浮かべる二人に頷くと、二つの手紙を渡す。
「こっちに、御仁のいる場所を書いてるから迎えに行ってほしい。で、こっちは…その御仁を送って行って欲しい場所が書いている。秘密の場所だから…誰にも知られないようにしてね」
「秘密の場所?」
野村が首を傾げる。
その様子に笑って「僕の故郷だよ」と告げると、相馬が驚いて目を見開いた。
「雪風さんの故郷って…!」
「うん。そういう事。よかったら向かう途中に野村君に教えてあげて」
驚きながらも頷いた相馬に微笑むと、二人の手を握る。
「この江戸から出るのは容易ではない状態。だけど…穴を作っておいた。そこからきっと抜けられるよ」
それも手紙に書いているからと告げると、二人は頷いた。
「…ごめんね、こんなこと頼んで。本当は本隊に合流したいよね」
「それは…」
頬を掻く正直な野村に、桜は微笑む。
「ごめんね。でも…二人にお願いしたいんだ」
そう告げて頭を下げると、相馬と野村は慌てだす。
「ちょ、雪風さん!」
「か、顔を上げてください!」
わたわたする二人に顔を上げると、桜は微笑んだ。
「ごめんね、よろしく」
その言葉に二人は頷くと、ぎゅっと手紙を握りしめた。
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