洋装~近藤の処刑

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その後、近藤を守りながらは江戸に戻った。

そして、現在の屯所である旗本屋敷で永倉たちと合流した。

初めての負け戦を経験した近藤の落胆は、皆の想像を超えるものだったらしく……屯所に戻ってきてからも、疲れた溜息をひっきりなしにこぼすようになった。

幕軍の総大将たる慶喜公は朝廷からの追討令を受け、上野の寛永寺にて謹慎している。

朝廷も、薩摩や長州の重鎮たちの手で動かされるようになり--、いよいよ幕府側の劣勢が確実になり始めた。

そんな情勢のうつり変わりを身に感じながら、は縁側に座っていた。

(……そろそろ、かな)

屯所に戻ってから数日、永倉と原田の二人と近藤の溝は深くなっていた。

勿論、互いに嫌っているわけではない。

よくある方針の違いってやつだ。

その結果…彼らとは別れる事になる。

は懐から三通の手紙を取り出す。

坂本達に渡したものと同じものだ。

なぜ三通あるかだが…原作と違う今、三馬鹿は皆、羅刹にならずに揃っている。

(きっと平助も…)

一緒に出て行く可能性が高いだろう。

ジッと手紙を見つめた後に懐へと仕舞った時、誰かが歩いてくる音に気付いた。

視線を向けると、今考えていた三人がいた。

「おっ、

声をかけられたので手を振ると立ち上がる。

「三人揃って、どうしたんです?」

「あー、ちょっとな。ところで、近藤さん知らねえか?」

視線を忙しなく動かす永倉に笑うと、くるりと踵を返す。

「ご案内しますよ」

微笑んで歩き出したに、永倉は礼を言うと一緒に歩き出す。

「……あれ、絶対気付いてるよな」

「…そうだな」

藤堂と原田もひそひそと話しながら追いかける。

曲がり角でチラリとの視線が二人に向き、藤堂と原田はどきりとした。

「近藤さんはこのお部屋にいらっしゃいますよ。歳さんも一緒にいるはずです。ちょっと話すことがあるって言ってたから」

「おう、わかった。ありがとうな」

近藤がいる部屋に案内すると永倉はニカっと笑った。

永倉に微笑み返して、はその腕に触れる。

「新八さん……悔いのないように、落ち着いて、しっかりと話をしてきて下さいね」

「お、おう…」

はそう言うと、軽く頭を下げて去っていった。

永倉は言われた言葉に頭を捻っていたが、原田に「あいつは多分、俺たちがなんで近藤さんを探してたか…気付いてる」と言われて、ハッとした。

永倉はが去っていった方を一度見た後、グッと拳を握り、近藤達がいる部屋へと声をかけた。






ちゃん」

部屋で土方に頼まれていた用事をしていると、声をかけられては視線を向ける。

そこには例の三人がいた。

永倉、原田、藤堂を部屋へ招くと微笑んだ。

「ちゃんと、話してきましたか?」

「…あぁ」

。なんの話をして来たか…聞かないのか?」

原田の言葉に、頷く。

「聞かなくても、わかるから。ここを…離れるって」

笑ったに、三人は気不味そうに視線を逸らした。

「流石にね、わかるよ。ここまではっきりと、目指すものが違ってしまったんだもん」

…」

「もうーそんな顔しないでくださいよ」

しゅんっと肩を落とす永倉の肩を叩く。

「ほら、新八さんは元気が一番!」

「…おう!」

そう言って笑った永倉にも笑うと、原田が近づいて来た。

。お前も一緒に行かないか?」

「ちょ、左之さん」

急な申し出に藤堂と永倉は驚き、は目を丸くする。

「一緒に?」

「ああ。お前にそばにいて欲しいからな。勿論…俺以外もそうだと思うが」

原田の「そばにいて欲しい」発言に今にも噛み付いて来そうな永倉と藤堂だったが、「俺以外も」と見透かされていてウッと頬を赤くした。

は驚いていたが、少しして申し訳なさそうに首を振った。

「……ごめんね、行けないや。僕にはまだここで…やるべき事がある」

力強い眼差しで言ったに原田は笑うと、「やっぱ駄目か」と頭をガシガシと搔いた。

「ありがと、左之さん」

「ったく。惚れた女一人連れ出せねえとは、情けないぜ」

そう言った原田に苦笑すると、そうだと懐から手紙を取り出す。

「これを、三人に」

「ん?なんだこれ」

渡された手紙を受け取り、早速読もうとする永倉と藤堂を止める。

「ちょっと待って。話聞いてから開けようね」

「わ、悪い…」

謝った藤堂に微笑むと、表情を引き締める。

「それは、私の里への行き方が書いています」

の…!?」

「……私は、もし生き残る事が出来たならば…皆とまた会いたい。私の里が、皆との再会の場所になればと思ってる。本当なら人に教えるだなんて言語道断だけど…皆は私の大切な人たち。里の皆もわかってくれている。だから、行き方の記されたその手紙を、渡します」

「で、でもよ…万が一…この手紙の中身が他のやつに漏れたらどうすんだよ」

そう聞いて来た藤堂に、にっこりと微笑む。

「それはもう、大変なことになるよね。だから…ね?わかるでしょ?何があっても生き延びて…その手紙の中身を他の人に知られずに、無事に里に来て」

の言葉に、永倉は「ハハッ…」と笑うと、肩をガシッと掴んだ。

ちゃん。絶対にまた会おうな」

「はい」

にっこりと微笑むと、永倉を抱きしめた。

慌てる永倉に笑って体を離すと、原田と藤堂も順番に抱きしめる。

「皆…どうか、ご武運を」

そう言ったに三人は頷いた。

翌日--

永倉、原田、藤堂が去った事は隊内に暗い影を落としていた。

皆、口には出さないがどこか寂しそうだった。

も勿論、寂しかったがいつまでもその気持ちに引きずられるわけにはいかない。

腰の刀をギュッと握りしめると、三人の今後が無事であるように祈った。






慶応四年四月

その後、隊は北へと向かうことになった。

残っている東北諸藩、会津と仙台が中心になればまだまだ戦えるはずだという考えからだ。

松本先生の手配で、流山に武器弾薬と人を集めてもらっていた。

そこで合流して会津へと向かうとの事だ。

そして、隊は下総・流山にある長岡屋へと移動することになった。

近藤は戦うことには乗り気でない様子だったが…土方の必死の説得で重い腰を上げたようだった。

皆の会津行きの準備が整うまで、ここで調練を続けるとの事だ。

斎藤と沖田は市川という場所で連隊に新武装備の訓練をしており、山南さんは井上さんと共に長岡邸には入れない羅刹隊を引き連れ、一足先に宇都宮経由で会津を目指すことになった。

「近藤さん、入りますよ」

はお茶を手に近藤の部屋へと入る。

「おお、雪風君」

「お茶を持ってきました」

本を読んでいた近藤は、顔を上げて笑った。

だがその笑顔には力がなく、は少し胸が痛くなった。

ここに着いてから、近藤は別人のように覇気をなくしてしまった。

部屋にこもって本を読んでいるか、縁側で草花を眺めるだけの日々。

甲府の負け戦を引きずっているだけだと思っている人もいるが…それだけではない。

それを知っているからこそ、は胸が痛くなった。

雪風君?」

「あ、すみません」

固まっていたは近藤の声にハッとすると、お茶を置いた。

近藤はお茶を手にしてホッと息を吐いたあと、ちらりとを見る。

雪風君」

「はい?」

「…いつもありがとう」

優しく微笑んだ近藤に、は胸元で手をキュッと握り、微笑み返した。

「こちらこそ、ここに居させてくれてありがとうございます」

礼を言った時、近藤が再び口を開こうとしたが誰か走ってくる音がした。

少しして襖が勢いよく開き、険しい顔の土方と島田が部屋へと飛び込んできた。

「歳さん?」

「……すぐ、逃げる準備をしてくれ。ここは、敵に囲まれてる」

その言葉に、ピリッとした空気が場に走る。

「敵兵は、二、三百います。奴らに気付かれないよう、裏口からここに入ってきました」

「せめて、桁が一つ少なきゃ、どうにかできたんだがな」

土方は悔しそうに唇を噛み、外を見た。

「今からじゃ、斎藤たちを呼び戻す時間もねえ。……俺がなんとかするしかなさそうだな。島田、それから。近藤さんを連れて先に逃げてくれ」

「歳さん…」

は土方から隣で静かに話を聞いていた近藤へ視線を移す。

「……待ってくれ。トシがそこまでする必要はない。俺が、向こうの本陣へ行くよ」

「何を言ってやがる!みすみす死ににいくようなものじゃねえか!」

そう言った土方に、近藤は別人に成りすますつもりだと言ったが、土方は勿論頷かない。

気付かれて、捕まって、殺されてしまう。

そう説得する土方を、近藤は表情を変えず、一種の冷徹ささえ感じさせる瞳で、土方を見据えた。

「……おまえが何を言っても無駄だ。もう、決めてしまったことだからな」

その言葉に、土方は声を荒げる。

普段は冷静なはずの土方を、近藤は落ち着いて見ていた。

何としても連れて行くと叫ぶ土方を見て瞼を閉じると、カッと目を見開く。

「ならば、これは命令だ!島田君と雪風君を連れて、市川の隊と合流せよ!」

「……!」

近藤の剣幕に、土方は虚を突かれたようになる。

「……俺に命令するのか、あんたが。なに、似合わねえ真似してんだよ」

涙を含んだ震える声でそう言った土方を、そんな土方を見る近藤を、は込み上げる涙を溢さないように耐えながら見つめる。

「局長の命令は、絶対なんだろう。隊士たちには切腹や羅刹化を命じておいて、自分たちだけは特別扱いか?……それが、俺たちの望んだ武士の姿か」

その一言に、土方は黙り込んだ。

「……歳さん」

は土方に声をかけながら近寄ると、頭に手を伸ばす。

そのまま頭を引き寄せて抱き締めると、頭を撫でる。

(ここから先の言葉は…聞いて欲しくない)

ただ近藤のために動き続けた土方。

もう楽にして欲しい近藤。

もしかしたら、二人には必要な会話なのかもしれない。

それでも、この先の会話は個人的に…交わして欲しくなかった。

「歳さん、行こう」

そう声をかけると、土方はやっと動き出した。

島田へと隊士への命令を伝えると、近藤を最後にジッと見て、部屋を出た。

雪風君。さあ、君も」

「近藤さん。謝りたいことがあります」

はそう言うと、近藤の手を握る。

「私は…貴方の命令を聞きません」

「何を言って…」

「ここからは逃げます。でも、市川の隊には合流せず…私は貴方のことを最期まで見届けます」

の強い意志に近藤は困ったように笑う。

「見届けるだなんて…」

「近藤さん。もう、戦わなくてもいいです。でも…生きる事を諦めないでください。近藤さんの覚悟はわかってます。でも、諦めて欲しくない…!」

そう言って涙を流したを、近藤は優しく抱きしめた。

「…ありがとう、雪風君」

あやすように背を撫でられ、胸が切なくなり、近藤をギュッと抱きしめた。

「……すみません、泣いてしまって」

「いや、構わないよ」

笑顔を浮かべる近藤に、も微笑み返すと、体を離した。

「近藤さん、一つ…お願いがあります」

「お願い?」

首を傾げる近藤に、は頷いた。






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