幼少期~原作直前
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試衛館での稽古を終えて自宅に帰ると、旅路の支度をする。
明日から、定期的に行なっている薫の家へ訪問するために暫く家を空ける。
必要最低限のものをしっかり準備すると、早々に眠りについた。
翌日、母親に見送られながら江戸を発つと、西へ向かい歩き始めたのだった。
「薫ー!!」
「兄様!!」
数日後、辿り着いた南雲家の前では、薫が待っていてくれた。
子供の成長は早いもので、薫は会いにくるたびどんどん成長している(もちろん、千鶴もだけど)
手を広げると飛び込んでくる薫を抱き上げ、昔より手に感じる重みが増していることに笑みが浮かぶ。
「元気にしてた?」
「うん、元気にしてたよ!時々、不知火様や天霧様も遊んでくださるのです!」
(不知火?天霧?)
「薫、その2人ってもしかして…風間様の?」
「うん!」
薫ちゃんや、私その2人と会ってるなんて聞いてないわよ?
思わず突っ込みそうになったが、まあいいかと息を吐いた。
「あっ、噂をすれば!」
「え?」
ぱあっと笑みを浮かべる薫の視線を追って振り返ると、3人の男がこちらに向かって来ていた。
「風間様!不知火様!天霧様!」
ブンブンと手を振る薫を地に下ろすと、ぺこりと頭を下げた。
「おーガキ、今日も元気だなぁ」
「ん?そちらの方は?」
「初めまして、不知火様、天霧様。桜と申します。お久しぶりです、風間様」
不知火と天霧に挨拶をすると、風間に再度頭を下げる。
「貴様、この童の…」
「はい!そうです!覚えてくださってましたか?」
ニコニコ微笑みながらそう告げると、風間に鼻で笑われた。
なんだこの野郎。
思わず出そうになった悪態を飲み込み、なんとか笑顔を取り繕う。
「風間様の口添えのお陰で、薫が不自由なく過ごせているとお聞きしております。また、不知火様や天霧様が遊びの相手をしてくださっているとお聞きしてます。大変お世話になっております」
「………随分堅苦しい野郎だな。風間から聞いてた感じと違うじゃねえか」
「不知火、恐らく猫を被っているのですよ」
(おいおい、不知火と天霧さん、ちょっと失礼じゃね?まあいいけど)
出そうなため息を抑え、3人を見る。
「御三方は何故此処へ?」
「偶々通りがかっただけだ」
そう言いながら南雲家の中へ入って行く風間。
(……薫の様子でも見に来てくれたのかな?)
「兄様、中に入ろう?」
「そうだね」
服を引く薫の頭を撫でると、一緒に家の中へ入っていった。
(………意外だ)
不知火や天霧さんだけでなく、風間迄もが薫と遊んでくれている。
子供の扱いに慣れていないのか、少しドギマギしているけれど。
微笑ましい光景に胸が温まる。
お茶を一口飲むと、遊んでいた薫が目を擦っていることに気がついた。
「薫」
名前を呼ぶと、トテトテと近づいてくる。
頭にハテナを浮かべる3人をよそに、薫を抱き締める。
「お昼寝にしようか」
「うん…」
もう既に夢の世界へ旅立ちつつある薫の頭を撫でる。
「おやすみ、薫」
「おやすみなさい…姉様」
すぅ…と眠った薫が放った一言に冷や汗が流れる。
(姉様って…言ったよね?)
チラリと3人を見ると、此方を凝視していた。
「……お前、女か?」
「あはー……何のことですかねぇ?」
「今貴様を引ん剥いてもいいんだが?」
「風間様、エッチ!」
「えっち…?」
不知火の言葉に惚けてみたが風間は真意を確かめようと手を伸ばしてくる。
エッチ!と再び惚けてみたけどそうだ、この時代に横文字は通じない…というか、そもそもこの単語が通じないか。
(この時代で言うなら助平か)
「おい、聞いているのか?」
「あーはいはい、聞いてます聞いてます」
面倒になって適当に返事をし、すっかり眠った薫をそっと腕の中から降ろす。
「仰る通り、私は女ですよ」
「ほう?女鬼だったか…」
ニヤリと笑う風間を無視してニコリと笑う。
「まあ、色々都合があるので普段は男装してる訳でね、何か?」
「おうおう、なんか急に態度が変わったな」
「その辺はお気になさらず。で、私が女鬼なら何か不都合でも?特にございませんよね?」
(別に、こんなチンケな女鬼に用はないでしょう)
「あるとすれば、好都合ですかね?女鬼は貴重ですから」
「あーはいはい、言うと思いましたよ」
天霧の言葉を適当に流すと、薫の頭をそっと撫でる。
「女鬼が誰でもどんな人の子供を喜んで産むと思ったら大間違いですよーって事で、私には期待しないでくださいねー」
「ほう?そこのガキと引き換えに貴様を手籠めにする事も可能なのだぞ?」
風間の言葉に、無表情で顔を上げる。
「薫に手を出したら、殺しますからね」
その言葉に、空気がピリッとしたが不知火が突然笑い出した。
「こりゃおもしれぇ。オレ達に喧嘩売ろうってか?」
「そんな事ないですよー?貴方達が何もしなければ、私もしませんよ。というか、好いた奴と添い遂げるのが一番でしょうから、そうしてくださーい」
ヘラっと笑ってそう言うと、不知火は爆笑して肩を叩いてきた、痛い。
「お前、気に入った」
「それはどうもー」
不知火を適当に受け流し、風間を見る。
「女鬼なら、誰でもいい訳じゃないでしょ?私の血筋、良くないですよ。家系には人間もいますし」
「……そうか」
サラッと嘘を交えて話すと、言葉を聞いて片眉を上げた風間はまだ何か考えていたが、スッと立ち上がった。
「貴様がまだなにかを隠しているのは分かっているが…今日のところは引いてやろう」
ニヤっと笑った後、スッと伸びてきた手に顎を掴まれた。
「貴様自身が気に入った。これから色々と暴いていってやる」
「そりゃどうも。暴けたら良いですねー?」
顎を掴む手を払うと、風間は益々面白そうに笑い、部屋を出ていった。
(………なんか、厄介なもんに好かれたよね、これ。てか、何処に気にいる要素あった?)
後を追って出ていった不知火と天霧を見送り、溜息を吐いた。
薫と別れて江戸へと戻る道の途中、私は迷子をしていた。
正しくは、追い剥ぎに追われていた。
「おら、待ちやがれ!!」
「待てって言われて、誰が待つんだよ!」
うわ、漫画みたいな台詞なんて、呑気なことを考えつつ逃げ回っていたが、いつしか追い詰められていた。
「追い詰めたぜ…?」
「餓鬼が、手間かけさせやがって」
(どうしたものか…)
これ以上逃げることが出来ない、ならば立ち向かうしかない。
(怖いけど…)
手が震えていたが、ぎゅっと力を込めて握り息を吐く。
少し震えが落ち着いたのを確認すると、腰に携えている護身用の刀に手を伸ばし、意を決して抜いた。
「ほお?やる気か?」
ニヤニヤ笑う追い剥ぎ達に向かい刀を構える。
(大丈夫、稽古なら散々してきた)
「…やりますよ。僕、帰らないといけないので」
「泣かせるねぇ~」
笑いながら追い剥ぎは刀を抜くと、一気に斬りかかってきた。
もう一度深呼吸すると、刀を持つ手に力を入れた。
「はぁ…はぁ…」
手が痺れ、震える。
吐く息は熱く、頭に血が上っているのかクラクラする。
私は、この世界に来て、とうとう人を斬った。
後ろで倒れている追い剥ぎ達をチラリと見る。
息はある、止血もした、死にはしない程度の怪我。
死んでいないことが幸いだが、人を斬った感触が手を離れない。
「うっ…」
胃から何かが込み上げてくる感覚を無理やり飲み込み、立ち上がる。
(人…呼ばなきゃ)
追い剥ぎは気絶しているため、すぐには起きないだろう、その間に人を呼んで彼等をどうにかしてもらおう。
ふらふらと歩き出すと、近くに見える茶店へと向かった。
そんな出来事に遭遇したのが、数日前。
あれからの記憶は無いが、私は江戸に無事に帰って来ていた。
母曰く、家に帰ってくるなり高熱を出して倒れたそうだ。
それはそうだろう、戦の無い世界でのうのうと生きていた私に、防衛の為とはいえ人を斬るのはかなりの負荷だった。
母には帰ってくるまでにあったことを話した。
震える手をそっと握り、しっかりと体を抱き締めてくれた。
「貴女が無事に帰って来てくれてよかった…」と涙する母につられ自分も意識が飛ぶまで泣いた。
自身がこれから歩もうとしている人生、人を斬るのは避けられない。
慣れる事は無いだろうが、なんて事ない様子で過ごさなければならない。
(かなり、辛いなぁ…)
医者的な立場を得るつもりではあるが、それでもこの時代、避けれない事ではあると思う。
ふうと息を吐くと、縁側へと腰掛けた。
上を向くと青空が広がっており、少し心が落ち着いた。
「桜~お友達が来てるわよー」
「………友達?」
はて、私に友達はいただろうか。
不思議に思いながら、玄関へと向かうとそこに立っていた人物を見て目を丸くした。
「沖田………」
「……久しぶり」
立っていたのは沖田で、声を掛けるとニッと笑った。
「立ち話もなんだし、お部屋に上がってもらいなさい」
ニコニコ笑う母親に頷くと、沖田を連れて居間へ向かった。
「どうぞ」
「どうも」
お茶と菓子を沖田に出すと、彼はそっとお茶に手をつけた。
「…………」
「…………」
湯呑みを置いた沖田をジッと見るが、彼は菓子を食べ出し、何も話さない。
(沈黙が、辛い)
どうしようかと、キョロキョロ目を動かしていると、沖田が笑った。
「なんでそんなにそわそわしてるの?」
「……そんなつもりは無かったんだけど、してた?」
「してるよ」
クスクスと笑う沖田に、恥ずかしいなと頬を掻くと、深呼吸して彼を見た。
「今日はどうしたんだい?」
「君が全然試衛館に来ないから、近藤さんや他の皆も気にしててね。散歩ついでに様子を見に来たんだ」
「皆さんが?それは…すまない」
気にするという事は、来ない私を心配してくれているのだろう。
要らぬ心配をさせてしまった事に申し訳ないと思いつつ、チラリと沖田を見る。
沖田は此方をじーっと見ており、上から下へと動く視線に、しまった!と内心焦る。
(家にいるから、今日は簡素な男装しかしていない)
昔はいらなかったが、月日が経つと女は胸が膨らむ、それを隠すためになんでも取り出せる巾着から胸を抑える物を取り出して潰しているが、それ以外は髪は下ろしているし、着流しも人によっては女物と捉えるだろう。
(どうしよう…)
ハラハラしていたが表面上は何ともないように取り繕うと、1つ咳払いをした。
「なにか変なところでも?」
「変っていうか…君、昔から女っぽいのに、そんな格好していたら益々女の子みたいだね」
そりゃ、女の子ですからね!というツッコミは飲み込み、不機嫌そうに振る舞う。
「それはどうも、嬉しくない言葉だね」
「ははっ、ごめんごめん、そんなに怒ることかな?」
「君、女の子みたいだねって言われて嬉しい?」
「さー?どうだろうね?」
ニヤニヤと笑う沖田の様子に、これは自分をからかうつもりだなと感じて息を吐く。
「まあ、いいや。この言い合いは面倒だ」
「面倒って、酷いなー」
「思ってないでしょ?」
「まあね」
意地悪な笑みを浮かべる沖田に少しイラっとしたが、何だか元気が出た気がする。
「ちょっと…」
「?」
「色々あってね、疲れてたんだ。でも、沖田と話してなんか元気出たよ。ありがとう」
「………どういたしまして」
ふいっと視線を逸らす沖田に笑うと、よしっと立ち上がった。
「早速、試衛館にお邪魔しようかな」
「僕は別に来なくてもいいけどね」
「はいはい。折角だし、一緒に行こうよ」
「何で僕が、君と一緒に行かなきゃならないのさ」
ぶつくさ言う沖田だったが、急いで帰る様子がない事から一緒に試衛館に行ってくれるのだろう。
ツンデレ気味な沖田に微笑むと、母親に出かけることを伝え、試衛館に行く支度を始めた。
試衛館に着くと、近藤さんが無邪気に笑って出迎えてくれた。
その他の皆もわしゃわしゃと頭を撫でてくるから、髪の毛がボサボサだ。
やめてくださいよーと、皆の手から逃れようとしていると、視線を感じた。
「…?」
視線の主を探していると、新しい顔が試衛館に増えていた。
「初めまして!」
「⁉……は、はじめまして」
「………初めまして」
皆の手から抜け出してこちらを見る2人に近づく。
「僕、雪風桜って言います。お2人は?」
「お、オレは藤堂平助」
「斎藤一だ」
「藤堂くんに、斎藤くんだね。よろしく」
幼さの残る2人に微笑むと、戸惑いながらも頷いてくれた。
「よし、僕と打ち合いをしよう!」
「えっ⁉」
「急に、なんだ」
「え?親睦を深めようかと」
戸惑ってばかりの2人にそう告げると、後ろからわしっと頭を撫でられた。
「おいおい桜、いきなりすぎて2人がついていけてねぇぞ」
「えー左之さんも、新八さんも、相手を知るには打ち合いだ!ってよく言ってるから、やってみようと思ったのに…」
「本当、君って馬鹿だね」
「うるさいよ、総司」
頭を撫でてきたのは原田だった。
話をしていると横から茶々を入れてきたのは沖田で、名前を呼ぶと大人しくなった。
あ、そういえば皆とそれなりに仲良くなったから、呼び方を勝手に変えた。
自然と返事をしてくれるから、受け入れてもらっていると思うことにしている。
沖田も今日は心配して見に来てくれたみたいだし、これからは総司と呼んであげよう。
「打ち合いがダメなら…名前から入るとしよう」
「名前?」
「うん、藤堂くんは、平助。斎藤くんは、一ちゃんって呼ぶよ」
「ん?おう、別にいいぜ!」
「………何故、俺は一ちゃんなのだ」
「んーなんとなく?」
堅苦しいこと言わずに、良いじゃんかーとヘラリと笑う。
眉間に皺を寄せる斎藤を見ないふりして、稽古用の木刀を手にする。
「暫く動いてなくて、体鈍ってるんですよ。僕の勝手で申し訳ないですが、誰かお稽古つけてくださーい!」
「おっ!なら俺がつけてやるよ!」
今ではすっかり子供っぽく振る舞うことに恥ずかしさを覚えなくなり、精一杯の子供らしさを出して周りを見る(其れなりにいい歳になりつつあるが)
ニッと笑って近づいて来たのは永倉で、よろしくお願いしますと元気に返事をした。
「………あいつ、何者だ?」
「ん?桜か?あいつはこの近所に住む、医学に精通したガキだ」
「医学に?」
永倉に稽古をつけてもらっている桜を見て、藤堂がポツリと呟く。
その言葉が耳に届いた土方はそう答え、2人に視線を戻した。
「やたらと医学に精通しているくせに、医者になる気はない。訳あって父親が他界しているから、母親達を守るために強くなりたいんだとよ」
「父親が…」
藤堂も視線を2人に向ける。
自分よりは少し年上であろう青年。
訳ありでも何も聞かず受け入れてくれるこの試衛館に、彼も惹かれて来ているのだろうか。
「……迷いのない、剣さばきだ」
そう言ったのは斎藤で、確かにと頷いた。
「アイツと初めて会った時から、剣さばきに迷いはなかった。素振りをさせても、打ち合いをさせてもな。迷いや悩みがあっても、それを上回る強い信念があるんだろうよ」
フッと土方は笑うと、藤堂と斎藤を見た。
「まあ、たまに変わったことを言いやがるが、根はいい奴だ。あの総司でさえ心を開いているからな。仲良くしてやってくれ」
そう告げると、土方は稽古をしている2人に休憩を取るように促しに近づいた。
「強い、信念か…」
それは人に裏切られても、曲がることのないものなのか?
それは人から追いやられても、曲がることのないものなのだろうか。
それぞれが考え込んでいると、近くに人の気配を感じた。
「「⁉」」
顔を上げると、桜が笑ってこちらを見ていた。
「ね、お稽古一緒にやらない?」
ほら、と木刀を差し出してくる手を見た後、木刀を受け取ったのは斎藤だった。
「俺が相手をしよう」
「やったね!」
喜ぶ桜につられて微笑むと、木刀を構える。
「あれ?一ちゃん、左利き?」
「⁉……あ、ああ、そうだ」
そういえば、此奴に見せるのは初めてだった。
何を言われるのだろうと身構えていると、手をギュッと握られた。
「なんか、かっこいいね!」
「……は?」
「左利きの人とはやったこと無いけど、僕もそれなりに強くなったつもりだから、負けないよ!」
桜はそう言うと木刀を構え、深呼吸をした。
一気に変わる空気に斎藤は木刀を強く握りしめた。
休憩を取れと言ったばかりだろうと土方の怒声が響き、打ち合いはそこまで行えなかった。
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