江戸に戻る~動き出した男達
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「俺のために、毎日豆腐たっぷりの味噌汁を作ってくれないか」
「………一ちゃん?とりあえず危ないから手を離そうか」
「す、すまない」
勝手場で皆の食事を用意していたら、突然斎藤が現れた。
今日の当番に一ちゃんいたっけ?と考えていると、ススッと近付いてきた斎藤は包丁を握る桜の手を掴んで冒頭の台詞を言った。
とりあえず斎藤に手を離させると、包丁を少し離れたところに置いた。
「で、どうしたの?」
「いや、その…俺のために、毎日豆腐たっぷりの味噌汁を作って…ほしい」
照れながらそう言った斎藤に、桜は頭を押さえた。
(なるほど…直球勝負できたか)
ここ最近行われている幹部達の奇妙な行動の一つだなと桜は考えて、斎藤を見る。
「一ちゃん、その言葉がどういう意味かわかって、僕に言ってる?」
「無論だ」
そうか、無論なのか……と出そうになるため息を飲み込んで斎藤を見る。
「一ちゃん…悪いけど、それに返事をしてあげることは出来ない。僕は最後まで戦い抜くし、戦い抜いた後にどうなってるかなんてわからない」
そう言うと、斎藤はグッと手を握りしめる。
「だから、悪いけれど…返事は出来ないよ」
「………」
黙り込んでしまった斎藤に桜は困ったように笑いながら斎藤の手に触れる。
「一ちゃん。その気持ちはとても嬉しいよ。返事出来なくてごめんね。でも、こうやって隊にいる間は…お味噌汁、いくらでも作るからね」
そう話しながら握りしめたままの斎藤の手を、そっと開いてやる。
力強く握っていたのか、掌には爪の痕が少しついていた。
「桜……」
「ん?」
「それならば……ここにいる間は守らせてくれないか?」
そう言って微笑んだ斎藤に、ほんのり頬が熱くなる。
「守らせてって……僕はそんなに弱くないけど」
「知っている」
「だったら…」
「好いた者を守りたいと思うのは…迷惑だろうか?」
そう言ってシュンとした斎藤は、怒られた犬のように見えて桜はウッと言葉を詰まらせた。
(あー、ほんと…意識してない分、更にタチが悪い)
桜は空いている手で頭を抱え、深いため息を吐いた。
それに斎藤は肩を揺らしたが、桜は微笑んでぽんぽんと頭を撫でた。
「ありがとう。一ちゃんの気持ちは嬉しいよ。本当に危ない時は、頼りにしてるね」
そう言うと、斎藤はパアッと笑顔になった。
(うっ、眩しい……)
斎藤の笑顔に桜が謎のダメージを受けていると、斎藤は桜を抱きしめた。
「桜は……俺が守る」
「あー、ありがとう…」
桜はそう言うと、斎藤の背を叩いた。
「さて、ご飯の用意を続けるから離れて」
「…………」
「一ちゃん?」
「……もう少し、ダメだろうか」
スリッと首元に頭を擦り寄せてくる斎藤に、桜はウッと言葉を詰まらせた後…諦めたように「少しだけね」と微笑んだ。
「はい、終わり」
「痛ってー!ちょ、桜!もう少し優しくしてくれよ」
医務室でそう声を上げたのは藤堂だった。
「いや、だってねえ……」
「な、何だよ…」
桜はたった今、手当をしてあげた藤堂の足を見る。
スパッと切れた様子の足に襲われたのかとはじめは心配したが、話を聞くと川縁で足を滑らせ石で切ったとの事だった。
大事が無くて良かったが、焦らせた事に対する軽い意趣返しとして少しキツめに包帯を巻いてやったのだ。
「大体、こんな寒いのにどうして川に…」
「いや、はじめは川の方に行く予定は無かったんだけどよ……」
「じゃあ、どうして?」
問い詰めると、ウッと言葉を詰まらせた藤堂は視線を逸らす。
「平助?」
「あーその、だなあ……」
挙動不審の藤堂をジッと見ていると、「あー!」と叫んだ後なにかを目の前に差し出された。
「………花?」
「…おう」
目の前に出てきたのは、可愛らしい桃色の花弁を持つ花。
名前は知らないが、桜には見覚えがあった。
確か先日、藤堂と町へ繰り出した時に川沿いで見つけた花だ。
どうしてこれを?と桜が不思議そうに藤堂を見ると、藤堂は少し頬を染めながら桜の髪へと花を挿す。
「平助?」
「その……お前が珍しく花を見つめてたから気に入ったのかなと……それに、桜に似合いそうだったから」
ちょっと、取ってこようと思って……と語尾を小さくしながら話す藤堂に、桜はぽかんとした。
「そのために…怪我したの?」
「け、怪我するつもりじゃなかったんだよ!土が泥濘んでて…」
頬を掻く藤堂がだんだん面白くなってきて、桜は笑ってしまった。
「笑うなよ!」
「いや、だって…ご、ごめんって。睨まないでよ」
桜は睨む藤堂にそう言うと、ふうっとお腹を押さえながら息を吐いた。
「わざわざありがとう。平助がこんな事してくれるなんて思わなくって」
「俺だって……その、よ」
頬を少し赤らめる藤堂は、桜をから視線を逸らし、「惚れた奴に何かしてやりたいんだよ」と言った。
(やだ、平助が…可愛い)
おばさん、純粋な平助に思わずメンタル持ってかれちゃうよ…
と、馬鹿なことを考えつつ、藤堂の手を取る。
「ありがとう、平助」
「お、おう」
ニッと笑った藤堂に、桜は微笑み返した。
「桜ちゃんさぁ…」
「はい?」
ある日、夜に庭で素振りをしていた永倉を見かけ、水と手拭いを用意して持っていくと少し話をしないかと言われた。
それに了承して縁側に座ると、ジーッとこちらを伺うように永倉が見つめてくる。
それを居心地悪いなぁと思っていると、やっと永倉が口を開いたので、どうしたのかと首を捻る。
「最近、どうなの?」
「どう、とは?」
「あー、その…他の連中」
汗を拭いながら気まずそうに聞いてきた永倉に、ん?と永倉を見る。
「なんか……ちょっかいかけられたり、迷惑かけられたりしてねえか?」
なるほど、そういう事かと桜は理解した後、ここ最近の事を考える。
ちょっかいはかけられては…いると思う。
桜が色々と思い出して何とも言えない表情を浮かべると、永倉は頭を抱えて「はぁーくそっ」とため息を吐いた。
「その……変に手は出されてない、よな?」
「手はだいじょう……うん、大丈夫」
「それ、絶対大丈夫じゃない反応だよな?」
桜の反応に永倉は頭をガシガシっと掻きむしる。
「無理矢理か?一体誰だ?」
「あ、いや。無理矢理というか不意打ちだっただけだから…」
「余計タチが悪いじゃねえか!」
「ちょ、新八さん。声がでかい!」
パシッと永倉の口を塞ぐと、永倉はハッとして口を閉ざす。
それを見て手を離すと、永倉に微笑んだ。
「心配してくれてありがとうね新八さん。でも流石に本気で僕が嫌がることはしてこないから、大丈夫だよ。もししてきたら…ね?」
斬ってやるという意味を込めて微笑むと、永倉は笑った。
「そうだな、それでこそ桜ちゃんだ」
「でしょ?」
ふふっと笑うと、永倉が優しい表情で微笑んだ。
それが恥ずかしくて桜が視線を逸らすと、手をそっと握られた。
「し、新八さん?」
「……少しだけ、許してくれねえか?」
いつもの快活では無く、落ち着いた様子で話す永倉に少しドキッとした。
桜が無言で頷くと、永倉は嬉しそうに手を握る力を強めた。
(…これが、ギャップ萌え?)
桜がそんな事を考えているとはつゆ知らず、永倉は空を見上げた。
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