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伏見奉公所~鳥羽伏見の戦い

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「それでは、今夜はこれで解散とします」

その言葉を合図に、面々は部屋を出て行く。

、お前は残れ」

「えぇー」

ぶー垂れてみたが本気で睨まれたので大人しく座る。

他の皆が去った後、土方は深い溜息を吐いた。

「他に隠してることは?」

「無いですよ?」

の返答に土方は眉間に皺を寄せたが、こいつは何も話さないだろうと頭に手を当てる。

「坂本と中岡が何でお前の里にいる?」

「龍馬さんや中岡さんは世間では死んだとされてますし、何より…龍馬さんが今も表舞台にいたら、色々と厄介な事が増えていた可能性があるじゃないですか?」

色々…要するに薩長の事だが、土方はの含みに気付いているのか気付いていないのか、また溜息を吐いた。

「…それで?何であいつらは素直に言うこと聞いたんだ?」

「まあそこは、私が命の恩人ですからね。恩を仇で返す程、酷い人間ではなかったと言うことですよ」

ニコリと笑うに土方はまだ何か言いたそうにしていたが、それを飲み込みの腕を掴んで引き寄せて抱きしめた。

「うわっ」

「……ったく、じゃじゃ馬もほどほどにしておけ。心配させんな」

(……心配してくれてるんだ)

声色から、それが伝わってくる。

この状況は少し恥ずかしいが、素直に頷いておいた。

「……今日はもう戻って寝ろ。仕事せずに体を休めろよ」

「うわ、歳さんがそれ言っちゃう?」

が笑うと、土方も笑って手を離した。

スッと立ち上がり土方に「おやすみなさい」と伝えると、部屋を出た。

(……さて、改めて気合を入れ直しますか)

長かった物語が、終わりへと近付く。

は深呼吸をすると、明日からのことを考えた。





近藤さんが襲撃を受けてからというもの、伏見奉公所内には緊張した雰囲気が立ち込めていた。

なんともいえない、居心地の悪さだ。

は目の前で行われている会議を黙って聞きながら、お茶を飲んだ。

今、話し合われているのは今後のことだ。

政権返上のみではなく、徳川家の領地も返せと言う薩長。

どう考えても戦をおっ始める為の口実作りとしか思えないと言う永倉にうんうんと頷く。

原作ならばここで羅刹の増強の話が出てくるが…まあ色々と流れが変わっているのでそんな話も無く。

新選組にも羅刹はいるが、勿論数は多くない。

少し増強したところで太刀打ちは出来ない。

何か妙案が有ればいいのだが誰も思い付かず、行われていた会議は一旦お開きとなった。

は皆が使っていた湯呑みを片付ける為に回収して行く。

雪風さん、手伝います」

「相馬君、ありがとう」

声をかけてくれたのは相馬で、一緒に片付けを行う。

台所へと着くと、相馬を見る。

「相馬君、君にお願いがあるんだ」

「俺に、ですか?」

驚く相馬に頷くと、ずっと悩んでいたある“お願い”を彼に話す事にした。

「相馬君と野村君は、近藤さんの小姓だろ?だから……これから先、何があっても近藤さんの側を離れないでほしい。どんな事があっても」

「えっと…それは勿論ですが、急にどうされたんですか…?」

「……時期が来たら、話すよ」

相馬君は土方さんの代わりに流される可能性もある、その場合は死んだりはしないが野村君は…

私は、死なせたく無い。

だから彼らには、近藤さんを助けた後の護衛として側に居てほしい。

近藤さんを助ける事が叶ったならば、里に向かってもらうつもりだ。

そこで相馬君と野村君も里へと向かわせれば…最悪の事態は避けれるだろうと…思いたい。

雪風さん?」

「あ、ごめん。少し考え込んでた」

声をかけられてハッとしたは力無く笑った。

「ごめんね、詳しい事を言えなくて。そのうち必ず話すよ」

「……はい、お待ちしてます」

相馬は何かを感じ取っていたが、口には出さずに頷いた。

はヨシっと気を入れ直すと、今後の事を改めて脳内で計算する事に集中した。






そして年が明け、来るべき一月三日。

ついに…戦いの火蓋が切って落とされた。

新選組の羽織を身に纏い、は深呼吸をして周りを見る。

少し離れたところに、悔しそうに表情を歪めている土方が目に入った。

この日の戦い、人数では圧倒的に幕府軍が有利だと思われたが、洋式戦術を身につけた薩長には敵わなかった。

恐ろしく射程の長い銃に、坂の上に設置された大砲。

斬り込むことすらままならない。

怪我人も多く、奉公所には火がつき、撤退を余儀なくされている酷い状態。

(……私もしっかり、動かないと)

はグッと手を握りしめると、奉公所の外へと出る。

頬を撫でる夜風に目を閉じると、深呼吸をした。

恐らく、明日か明後日に源さんは淀城へと向かうだろう。

そして淀藩の裏切りを受け、本隊へと戻る途中に…

助けられるとするならば、ここしかない。

は刀を握りしめると、空を見上げた。






後日、土方から援軍を依頼するため伝令の命令が井上に下された。

は土方に自分も同行する事の許可を得て、井上と共に淀城へと向かっていた。

「………」

「……何か、心配事かい?」

道中、険しい表情のを見て井上はそう問いかけた。

「……えっと…」

淀藩は裏切りますと言えるわけもなく、言葉を濁す。

「言えないかい?」

優しく問いかけてくる井上に、は口を開く。

「…今の状況、我々は圧倒的に不利な状態です。果たして淀藩が力を貸してくれるか…最悪の事が予想されるのではないか。ちょっとそんな事を考えていました」

そう話したに、井上は優しく微笑んだ。

「君の不安は尤もだ。けれど、今は信じて進むしかないよ」

井上の言葉に頷き、走る速度を早める。

暫くして、と井上は淀城へと着いた。

辺りは静まり返り、更には閉められている城門に、井上はチラリとを見る。

「私が行こう」

そう言った井上は止める間も無く城門の前へと向かい、その場へと響き渡る大きな声で「力を貸してもらいたい」と伝える。

(確か…ここでは……)

淀藩の人間は窓からこちらを銃で狙っていたはずだ。

が淀城の窓へと視線を向けると、キラリと何かが光るのが見えた。

「源さん!」

は声を上げながら井上の元へと走ると、その手を引いて後ろへ下がる。

それと同時に、幾つもの銃声が聞こえて自分たちが立っていた場所へと弾が撃ち込まれた。

「源さん、退きましょう。理由はともあれ…力を借りることは叶いそうにないです」

「…ああ、そうだね。戻ろう」

井上は悔しそうな表情を浮かべながら頷いた。

二人はその場を離れると、土方達がいる本隊へと戻る為に走る。

(因みに、原作では源さんの隊の人達が襲撃を受けてしまっていたから…今回は歳さん達のいる本隊で待ってもらっている)

万が一、自分達が襲われた事を考えたら得策ではないが、少しでも犠牲は減らしたい。

そう考えながら必死に走っていると、自分たち以外に人の気配を感じた。

「…源さん!」

「ああ、来るよ!」

二人が足を止めて刀を素早く抜くと、茂みから薩長の兵が何人も姿を現した。

「新選組がいたぞ!たった二人だ」

「しかも組長が一人と、もう一人はあの名高い雪風じゃあないか?」

(名高いって何!?)

自分に対する謎評価に大いにツッコミたかったが、今はそんな場合ではないので心の中に留める。

井上と背を合わせながら薩長の兵を睨んでいると、二人の死角になっていた兵が悲鳴を上げて倒れた。

(なにっ…!?)

慌ててそちらを見ると、兵が一人倒れていた。

「誰だ!」

「新選組の仲間か!?」

薩長の面々の声が煩いと言いたげな表情で現れたのは、自分もよく知る人物だった。

「お前は…!」

「風間!裏切る気か!!」

薩長の兵が叫んだ通り、現れたのは風間だった。

「煩いぞ、貴様ら」

そう言いながら、風間は薩長の兵を次々と斬り捨てる。

「き、貴様…!」

「……我らは充分すぎるほど手を貸した。これ以上貸す必要はない。それに…この俺の嫁になるあいつを殺されるわけにはいかないのだ」

風間はそう言うと、最後の兵を斬った。

あっという間の事に、と井上は驚いてぽかんとしていた。

「…いつまで阿呆面をしているつもりだ?」

「あっ、えっと…ありがとう?」

我に返ったが礼を言うと、風間は鼻を鳴らしながら満足そうに刀を収めた。

「こんなところで何をしている」

「ちょっと淀藩にね」

そう伝えると、風間は少し何かを考えた後に口を開く。

「淀藩、津藩は薩長へとついた。尾張藩は日和見を決め込んでいるぞ」

「なんだって…!?」

驚いたように声を上げたのは井上で、は風間をジッと見ていた。

「……風間、貴方が言うなら本当だと思うけど…どうしてそれを教えてくれるの?」

「…これ以上、俺は薩長に手を貸さぬ。だが、お前はまだ新選組に居るのだろう?……死なれたら困るからな」

これは風間なりの優しさなのだろうと、はすぐに理解した。

「……ありがとう」

礼を言って微笑むと、井上に振り返る。

「源さん、すぐに本隊に戻りましょう」

「ああ、急ごう」

風間に軽く頭を下げると、本体が待機する場所へと急いだ。

風間は去っていくを見送ると、その場を離れた。

本隊と合流し、土方へと淀藩のこと、風間から聞いた事を伝えると、その表情は険しいものへと変わる。

少し考えた後、土方は大阪城までの撤退を皆へと伝えた。






井上と山崎の山場とも言われる難所を抜け、大阪城へと向かうことになった新選組の皆の中で、は少し肩の力を抜いて歩いていた。

体の疲れだけではなく、気の疲れに襲われながらも、何とか大阪城へと着いた。

「はあ……、ようやく着いたか」

「ったく、こんな馬鹿でかい城を建てやがって。ここに辿り着くまでに何日かかるかと思っちまったぜ。ついでに、顔でも見に行くか」

そう言いながらくたびれた様子の原田と永倉が城内へと足を進める。

以前、私が言ったことで近藤さんはここで治療を行っている。

きっと会いに行ったのだろう。

二人を見送った後、城を見上げて口角を上げている土方を見てはキュッと唇を噛んだ。

「ここに来て、ようやく明るい未来が見えてきたぜ。この城は、何があっても絶対に落ちねえ」

そう言って振り返った土方に、は何とか微笑んだ。

「…そうですね。このお城ならば」

その返事に土方が頷いた時、誰かが駆け寄ってくる音がした。

「副長、こちらにいらっしゃいましたか!」

「どうした?」

駆け寄ってきたのは島田だった。

「その……、これから江戸に引き上げるので、船に乗ってくださいとのことです」

「江戸に?どういうことだ。ここで、薩長の奴らを迎え撃つんじゃねえのか?」

「それが、その……」

島田が言った言葉に、土方の表情が険しいものへと変わる。

島田は土方の問いかけに答え辛そうに口ごもったあと、自分自身まだ信じられないといった口ぶりで、こう告げた。

「……慶喜公は、船でもう江戸に向かってしまっているとのことです。ですので、これ以上ここにいても……」

告げられた内容に、土方は唖然とした表情で、その場に立ち尽くす。

やがて、声を低めて-

「船で江戸に向かってるってのは、どういうことだ?幕軍が命懸けで戦ってたってのに、それを見捨てて、てめえだけさっさとお逃げあそばしたってことか?」

「そ、それは、俺にもよくわかりませんので……」

「歳さん、島田さんに凄まないで」

肩を縮める島田に、もう行っていいと合図を送る。

島田が軽く頭を下げてそそくさとその場を去った後、土方は悔しそうに口を開いた。

「くそっ--!!」

そして、怒りを露わにして近くの木を、一度、二度、三度と怒りの赴くままに蹴り飛ばす。

そして、荒ぶる呼吸を抑えながら振り返った。

「……まあいいや。そもそも俺は最初から、徳川の殿様の為に戦ってきた訳じゃねえからな。いくら上にやる気がなかろうが、俺たちにゃ関係のねえことだ。伝習隊もいるし、幕府が海外から買った何隻もの軍艦だって無傷のまま残ってる……江戸に戻ったら、喧嘩のやり直しだな」

逆境に追い込まれて闘志がみなぎってきたのか、土方は目をぎらつかせながら呟いた。

その後、土方はその場を離れていき、は深く息を吐いた。








後に【鳥羽伏見の戦い】と呼ばれる事になるこの戦で……。

数で優位だった幕府軍は、新型の武器と洋式の戦術を使う薩長軍に敵わなかった。

それが敗北の決定的となったのは、彼らが朝廷軍の証である錦旗を掲げたことだった。

これを知った慶喜公は、江戸への撤退を決めたのだ。

総大将のいない戦は、戦う意味を失った。

こうして新選組と幕府勢力は、大阪城を捨て、江戸へと戻ることになった。








「……………」

江戸へと戻る為の船の上。

夜も更けてきた頃、は甲板で海を眺めていた。

(…とりあえず、山南さんに平助、源さんに丞さん…羅刹になったり、死ぬ運命だった人たちは、今のところ救えている。それに、総司も労咳にならず今のところ健康体だ)

それは大きな成果だと思う。

ただ、この後は難所しかないと思っている。

新八さんと左之さんは隊を離れるだろう。

一ちゃんも会津で別れる事になる。

離れた人までは流石に手が回らない。

あの薬は、正直なところ一か八かの賭けになる。

まあ、最大の難所であるのは近藤さんと歳さんだ。

近藤さんは皆の前で斬首される。

どう足掻いても難しいだろうが、今少し考えている無茶な作戦がうまく行くことを祈るしかない。

そして…歳さん。

彼は最後まで旧幕府軍と運命を共にする。

途中で、羅刹になる可能性だって大いにある。

最悪、それは薬でどうにか出来るかもしれないが、結局のところ彼を新選組から引き離さないと難しい事だらけだ。

(……歳さんに関しては、当たって砕けろの部分が多くなりそうだな…)

が深い溜息を吐いた時、誰かが近付いてくる気配がした。

「よっ、ちゃん」

「新八さん?」

声をかけてきたのは、永倉だった。

流石の永倉でも肌寒いのか、いつもの服の上から暖かそうな羽織を着ていた。

「どうしたんですか?こんな夜更けに」

「それはこっちの台詞だ。部屋に戻らねえで、何してんだ」

永倉は周りを見て人がいないのを確認すると、声を潜めて「女の子なんだから、気をつけろよ」と言った。

その言葉にがクスクスと笑うと、永倉は首を捻る。

「なんで笑ってんだ」

「いや、僕に対してそんな心配してくれてるなんて…と思っちゃって。僕は“男”なのに」

「いやまあ、それはそうだけどよ…人も増えてるからよ」

たしかに、この船には新選組以外にも幕府軍の人が沢山乗っている。

だからといって、下手に絡んでくる人間はいない。

完全に安心とは言えないが、そこまでの危険性もないだろう。

「ところで、新八さんはどうしたの?」

「いや…ちょっと眠れなくてよ」

「新八さんが?珍しい」

が心底驚いたと表情に出すと、永倉は「俺だってそういう時もあるんだよ」と少し拗ねたように口を尖らせた。

それに笑っていると、風が吹いて肌寒さを感じた。

着込んでいても、流石に寒い。

そろそろ戻るべきなのだが、もう少しこの夜空を見ておきたい。

きっと、ゆっくり見れる日は少なくなるから。

が考えていることがわかったのか、永倉は羽織を脱ごうとしたがそれに気付いて慌てて止めた。

「新八さん、寒いんだから脱がないの」

「いやでもよ、ちゃんが…」

「僕はいいから」

ね?と微笑むと、永倉は不服そうに手を止め、少ししての後ろへと立った。

「新八さん?」

「これなら、いいだろ?二人ともあったけえし」

そう言って、後ろから羽織の中へと引き込まれた。

所謂、後ろから抱きしめられている状態だ。

恥ずかしいのでやめてほしいが、次は永倉も拗ねてしまうかもしれない。

が小さな声で「ありがとう」と礼を言うと、永倉は「気にするな」と笑って、抱きしめる腕を強くした。

暫くそうしていると、後ろで永倉が口を開く。

はよ」

いつもと違う呼び方に、うん?と後ろを見る。

「最後まで…新選組と共にするのか?」

その言葉の真意が分からなくて、首を傾げる。

「いや、その…千鶴ちゃん達と里で暮らすって事は、考えないのかなって」

永倉はその後、言い辛そうに「…女の子なんだしよ。戦いに身を置かなくても、いいんだ」と言った。

この手の質問にいつもならば即答で「共にするに決まっている」と答えるだったが、少しの沈黙の後に微笑んだ。

「ありがとう、新八さん。いつも私のことを考えてくれて。でも…私は最後まで新選組と共にいるよ」

永倉は女だからという事もあるだろうが、私を心配して聞いてきているとは流石にわかっている。

だから、なるべく落ち着いてそう答えると「…わかった」と永倉は頷いた。

「悪いな。この手の質問、嫌いだろ?」

「うん、嫌い。でも…新八さんの気持ち、ちゃんとわかってるから。今日は許してあげるよ」

そう言って笑うと、永倉はほっとしたように頬を緩ませた。

「ありがとよ」

「どういたしまして」

二人して笑った後、流石にこれ以上は明日に響くと判断し、眠る為に船室へと戻ることにした。



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