油小路事件~相馬に伝える
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あれから数日、新選組の幹部は土方の指示で広間へと集まっていた。
沖田、原田、永倉と話していると障子が開き、土方と近藤が現れた。
「お、近藤さんに土方さん。ってーー」
入ってきた二人に声をかけた原田だったが、その後ろにいる人物を見て目を見開いた。
「斎藤!?おまえ、何でここにいるんだよ!?」
同じく、目を見開いた永倉は二人の後ろにいた人物…斎藤を見て声を上げた。
沖田も静かに驚いていた。
「おや、斎藤君じゃないか、久しぶりだねえ。御陵衛士のほうはどうしたんだい?」
「こんにちは、斎藤君」
「一ちゃん、帰ってたの?」
特に驚いた様子を見せない井上、山南、桜に対し、原田と永倉は驚いた表情のままだった。
「いやいや、ちょっと落ち着きすぎだろ!てか、なんで斎藤…えっ!?」
「あー、ごちゃごちゃうるせえな。本日付けで斎藤は新選組に復帰する」
「へ?」
土方が溜息を吐きながらそう言うと、原田と永倉の表情は困惑したものへと変わった。
「……いや、ちょっと待った土方さん。俺たちとしちゃ、うれしい便りだけどよ。そんじゃ御陵衛士っつうか、伊東派の立場はどうなるんだ?」
「うーんとね、左之さん。そもそもとして…一ちゃんは伊東派じゃないんだよ」
「は?」
笑う桜に、原田は益々困惑する。
「斎藤君はな、トシの命を受けて、間者として伊東派に混じっていたんだ」
「なんだ。一君、僕に内緒でそんな楽しいことをしてたんだね」
「さっきは肝が冷えたぜ……。近藤さんたちも人が悪いよ」
「極秘だったのでな。黙っていて、皆にはすまんことをしたなあ」
「その割には桜は知っていたんだね」
どこか黒い笑みを浮かべる沖田に、負けじと笑みを浮かべる。
「僕は“女装”が出来るからね。新選組の人間とバレずに接触して…情報の受け渡しをするくらい容易い事さ」
ふふっと笑っていると、斎藤が咳払いをしたのでそちらを見る。
「安心するのは、まだ早い。この半年、俺は御陵衛士として活動を続けていたが、伊東たちは新選組に対し、明らかな敵対行動を取ろうとしている」
その言葉に、空気が張り詰める。
「敵対行動とは……表現からして、穏やかではなさそうだね」
「伊東の奴は幕府を貶める為、羅刹隊の存在を公にしようとしてやがるんだ。……その為に、薩摩と手を組んだって話もあるな」
幕府お抱えの新選組が羅刹という存在に関わっている。
それが公になれば新選組は罪に問われ、幕府の権威も失墜する。
場合によっては、薩長側が戦の大義名分とする可能性だってある。
ただ、今回の一番の問題はそこではない。
「そして、より差し迫った問題がもう一つ。伊東派は、新選組局長暗殺計画を練っている」
その言葉に、面々の表情は険しいものへと変わる。
沖田に至っては笑顔で殺気を放つくらいだ。
そして…渦中の人である近藤は、難しい表情のまま黙して語らず。
とりあえず、土方の話を聞けという事だろう。
「御陵衛士は既に、新選組潰しに動き始めている。こちらも…動き始める必要がある」
土方は静かに目を瞑った。
「伊東甲子太郎ーー羅刹の存在を公にするだけでなく、近藤さんの命まで狙ってるときた」
鬼の副長としてのーー淡々とした声色で話す土方は、ゆっくりと目を開きスッと細めた。
「残念なことだが、あの男には死んでもらうしかねえな」
「う……む……。止むを得まい……」
副長が指示を出し、局長が認めた。
これは…新選組の総力を挙げて伊東甲子太郎を殺すということを示している。
桜はピンと張り詰めた空気にゴクリと唾を飲み込んだ。
「まず、伊東を近藤さんの別宅に呼び出す。接待には俺と山南さん、桜にも回ってもらう。その後、伊東の死体を使って御陵衛士の連中を呼び出し……斬る。実行隊は……、新八、原田。おまえらに頼む」
「土方さん、僕は誰を斬ればいいんですか?」
「総司は別宅の周りを源さんと見張って欲しい。伊東が警戒して何人か連れてくるかもしれないからな」
「……わかりました」
近藤のすぐ間近でない事に沖田は不満そうだったが、彼はきっと自分でもわかっている。
伊東に上手く接待が出来ないであろうことを。
その後も淡々と指示が飛ぶ中、桜は静かに手を上げた。
「どうした、桜」
「僕を接待ではなく実行隊へと回してください」
その言葉に、皆の視線が集まる。
「何故だ?」
「平助と話がしたいんです」
桜の言葉に、永倉は首を傾げる。
「話したいって…連れ戻せばいいじゃねえか」
「…新八さん、簡単に連れ戻せればそうしたいですが、もしもが有ればどうしますか?」
「もしもって…」
桜は土方を真っ直ぐ見つめ、土方も見つめ返していた。
「新選組と御陵衛士、もし刃向かうつもりなら斬る必要があるのは分かってます」
「おいっ、桜…!」
斬るという言葉に原田は声を荒げたが、桜はそれを無視して言葉を続ける。
「ですが、話をして彼が戻ってきてくれるならば…迎え入れるべきだと思っています。彼は…今は別の場所にいても、我々の同志ですから」
にこりと微笑んだ桜に、原田と永倉は肩の力を抜く。
本当に斬るつもりではなく、桜も平助を連れ戻したいと思っている事が分かったからだ。
「……好きにしろ」
土方はフッと笑った。
「それと斎藤は今回の作戦からは外れてもらう。事情を知らねえ隊士連中から見ると、斎藤は伊東派から出戻りしたようにしか見えねえからな。その代わり、坂本龍馬暗殺に関して見廻組が行ったと話が出ているが、新選組が実は手を掛けたのでは無いかという話も出回っている。町で不審な動きがないか見回りを頼む」
「わきまえています。ほとぼりが冷めるまで、俺はここにいない方がいいでしょう」
斎藤は頷いた。
「早速、伊東に話を持ちかける。いつでも動けるようにしておけ」
土方の言葉に面々は頷いた。
話が終わり広間を出ようとした時、ぽんっと頭を撫でられた。
「平助、連れ戻そうぜ」
見上げるとそこには笑みを浮かべる原田と永倉がいた。
「うん、勿論!」
桜はそう返事をして笑った。
(……さて)
部屋を出ながら桜は考える。
原作では、油小路で平助が羅刹になる切っ掛けとなったのは薩摩の藩命を受けて藩士と共に現れた匡さんと天霧さんだ。
御陵衛士と薩摩との戦闘の間に、千鶴を連れ去ろうとした二人。
そして千鶴を庇った平助。
だが今は色々と状況が違う。
もう、彼らは“鬼”として新選組へと干渉しないはずだから。
桜はふぅと息を吐き、刀を握った。
京の都にある無数の裏道の一つ、油小路。
無数に存在する暗がりの中に、永倉、原田、桜をはじめとする隊士達が身を潜めていた。
「そろそろ来る頃だな……」
土方の計画通り、接待を受けて泥酔したところで殺された伊東。
そんな伊東の遺体を引き取りに来る御陵衛士達をおびき寄せ、罠にかける。
褒められた方法ではないだろう。
それに、本音を言うならば……伊東さんは得意ではないが、死ぬ必要が無いならばどんな人物でも生きていて欲しい。
けれど、彼は…近藤さんの暗殺を企てた。
流石にそれを庇うわけにはいかない。
桜はギュッと拳を握りしめた。
そして月が位置を変え始めた頃、彼らはやってきた。
「ん、あそこに倒れてるのは誰だ?まさかーー」
「伊東さん!おのれ、いったい誰がこのような真似を……!」
伊東の遺体の元へ、全部で六、七人の御陵衛士達が駆けつける。
そして、当然その中には彼の姿…藤堂の姿があった。
まだ、こちらに気付いておらず、うつむき加減に歩く藤堂からは、あの明るい表情はうかがえない。
その姿を見て原田と永倉は一瞬だけ目を閉じた。
「……行くぞ」
「ああ」
その言葉を合図に、姿を現す。
「新八っつぁん。左之さん。それに桜……!」
「なるほど。兄貴の死体を餌に、待ち伏せか。下衆の集まりにふさわしい、卑怯な真似をしてくれやがるぜ」
三木はそう言って永倉と原田を睨む。
「永倉!原田!兄貴を殺したのは、おまえらなんだろ!」
三木の怒声が響き渡ったその時、一発の銃声がら闇夜に鳴り響いた。
(来た…)
「何だ?近くに誰かいるのか」
「おいおい、一体、どこの馬鹿が撃ちやがった!?」
「薩摩の馬鹿かな…」
「おいおい桜、つれねェなァ」
桜がボソッと呟いた言葉は聞こえていたらしく、闇夜から姿を現した男は笑った。
「せっかくこのオレ様が、相手をしに来てやろうと思ったのによ」
「おい、どうしておまえらがここにいるんだよ!」
原田の声に笑ったのは不知火だった。そしてその横には天霧が。
「何でってなあァ……仕事だよ仕事。頭の悪いおまえらと、もっと頭の悪い御陵衛士の連中が罠にはまるのを、見物しにきたってことさ」
そう言った不知火が合図するように片手を上げると、何人もの男達が現れた。
「……よくもまあ、これだけの人数を集めたもんだ。風体からすると、薩摩の連中だな?」
「薩摩だと?」
離れた場所で三木が怪訝そうに漏らすのが聞こえた。
「……不意打ちのような真似をしたことは詫びましょう。だが、我々も一応は藩命に従う責務がありましてね」
「薩摩の命令かよ。……おまえはともかく、不知火は長州に関係してるんじゃなかったか?ご主人様を見限って薩摩に付いたってんなら、笑うとこだけどな」
天霧の言葉に原田がそう言うと、桜は口を開いた。
「薩摩と長州が、手を取り合ったって事かもしれないよ、左之さん」
「おっ、さすが桜だな。当たりだ。今や薩摩と長州は仲良しこよしってな」
知っていたけれどと思いながら、桜は刀に手をかける。
「……んな事より、てめェらの心配をしたらどうだ?」
小馬鹿にしたような不知火の言葉を受け、急に包囲が狭まった。
自身も含めて刀へと手をかけ、可能な限り集まって身構える。
そんな緊迫した状況の中、三木が口を開いた。
「どういうことか、説明しろ。おまえらが薩摩藩の手の者だっていうんなら、どうしてオレたちまで取り囲んでやがるんだ?」
「あァ?……あー、おまえらが伊東派とかいう連中か。坂本の件でしくじったとかいう」
その言葉に、不知火は桜を一瞬チラリと見た後に笑った。
それに気付いていたのは桜だけだったようで、他の隊士は薩摩と御陵衛士は手を組んでいたのか?と疑問を頭に浮かべていた。
「んじゃま、ご苦労さん。大した仕事もしてないお前らに礼は言ったから、とっとと死んでくれや」
「三木君、危ない--!」
不知火が銃を三木に向け、発砲した。
「おい、しっかりしろ!」
三木を庇った男が撃たれて倒れる。
三木は仲間を助け起こしたが、既に息はなかった。
そんな仲間を見て、三木は憎悪を宿した瞳で不知火を睨みつける。
「……ずいぶんな真似をしてくれるじゃないか。裏切るつもりか?薩摩藩」
「あァ?そういうおまえらは、昔の仲間を裏切ったんだろうが。【坂本暗殺は新選組の原田の仕業にです】って、噂を広めようとしていたな」
「……色々と失敗していたようですがね」
天霧が溜息を吐くと、三木は睨んだ。
「ま、おまえらはもう用済みってこった。……口封じの為にゃ、おまえら全員殺しちまうのが一番簡単だろ?」
「何だと……!?」
不知火の言葉に、新選組と御陵衛士の面々が同時に刀を構えた。
「桜、こんな所で死んでくれるなよ!」
「……死ぬわけないでしょ!」
こちらを見て叫んだ不知火にそう返すと、それを合図かのように薩摩藩の面々が動き出した。
数も相まって、それは新選組も御陵衛士も関係なく飲み込む津波のようだった。
「左之さん、新八さん。ここはよろしくね」
「任せとけ!」
「ったく、気を付けろよ!」
二人に声をかけると、敵の間を潜り抜けて目的の人物へと駆け寄る。
誰が味方で誰が敵か…迷いの見える藤堂だ。
「藤堂、加勢しろ!おまえ、ここへ何をしにきたんだ!」
「っ……!」
三木に言われ刀を構え直した藤堂の傍へと駆け寄る。
「平助」
ここに来た私の目標は…彼を助けることだ。
「桜!?おまっ、刀も抜かないで何してんだ!」
「ん、ごめん。ありがとう」
振り下ろされていた切っ先から庇ってくれた藤堂に礼を言うと、刀を抜いて背中を預ける。
「平助、背中は預けるね。そのまま…聞いて」
「おい、背中を預けるって…」
薩摩の人間に応戦しながら、藤堂に話しかける。
その様子に戸惑っていた藤堂だが、桜に怪我はさせないと刀を振るう。
「平助が色々悩んで、考えて、自分で納得するために新選組を出たのは分かってる。分かった上で言わせてもらう……皆、平助のこと待ってるんだ。だから…戻ってきて欲しい」
喧騒の中、聞こえてきた言葉に藤堂は目を見開いた。
「千鶴の事も話したい。私の事も。だから…一緒に帰ろう」
「今更、戻れるわけねえだろ!」
桜の言葉に、藤堂は声を荒げた。
「伊東さんについていくのが国の為になるって……これで、あんな薬に関わらずに済む。隊律違反とはいえ、仲間を犠牲にしなくて良くなるって--そう思ってたのに。なのに今更、どうすりゃいいんだよ!」
悲痛な叫びに、桜は藤堂を見る。
「今も、そう思ってる?」
「わかんねえよ!わかるわけねえじゃねえか!間違ってると思った事でも……!!!」
そこまで言って、藤堂は唇を噛み締めた。
「どんなに辛くても、苦しくても--自分が進む道は、最後まで自分で決めるべきだったのかよ?」
「…そうだね。平助の歩く道は平助が決めないと。誰かに従うのは楽だけど、それは平助の道じゃないよ」
「桜……」
桜は微笑んだ。
「平助。平助の心は……なんて言ってる?」
藤堂は周りの敵を斬り払うと、少し目を瞑る。
「……この頃はさ、いつも、新選組にいた時のことばっか考えてたよ。あの薬のこととか、羅刹のこととか……そういうのは全部、思い出の中から消えちまってさ。不思議と……良かったことばっかり思い出しちまうんだよな」
そう言って笑った藤堂に、頷く。
「私も、皆も…平助のことを考えてたよ」
「……そっか……」
剣戟の音が、降りしきる雨みたいに鳴り響く。
「戻りてえな……!!もし新選組に戻ったって、今のオレは、何の為に戦えばいいのかすらわからねえけどさ!」
そう言った藤堂に、桜は笑った。
「何をしている、藤堂!こいつは新選組だろうが!斬れ!」
そう言って飛び出してきた御陵衛士の一人が、桜へと刀を振るった。
その刹那。
「駄目だ!」
藤堂は身を翻し、その衛士の鳩尾へと柄尻を叩き込んでいた。
「がっ……!」
御陵衛士はそのまま、気を失って地面へと倒れた。
「あ……」
藤堂は呆然とした様子で倒れた衛士を見下ろしている。
恐らく、無意識だったのだろう。
彼は、信じられない様子で自分の手を見つめていた。
「藤堂、おまえ……この土壇場で、オレたちを裏切るつもりか?兄貴をあんな汚いやり方でなぶり殺しにした新選組の奴らに付くっていうのかよ!ああ!?」
その詰問に藤堂の肩が小さく揺れた。
だけど、やがて……
「…………ごめんな、三木。オレ、御陵衛士失格だ。伊東さんはすっげえ頭がいいし、時流を見る目も、人脈もあるし。あの人が言うことならきっと正しいんだろうと思って、今までついてきたけどーー」
一人、また一人と迫ってくる薩摩藩士を、藤堂は桜と背中を合わせながら次々と切り捨てていく。
「だけどーー、今は、思想なんてどうでもいい!佐幕派も、尊王派も、関係ねえ!相手が誰だろうが、鬼だろうが、関係ねえ!」
そう叫んだあと、藤堂はチラリと桜を見た。
まだ少しぎこちないけれど、その晴れやかな笑顔は紛れもなくいつもの藤堂で、桜も微笑んだ。
「……俺が守ってやるよ、桜。おまえを狙う全ての敵からーー、オレがおまえを守ってやる」
「……じゃあ、僕は平助を守ってあげよう」
そう言って互いに笑うと、迫りくる敵に向き直り…戦いは始まった。
押し寄せる敵を斬り払いながら、周りへと視線を巡らせる。
誰が誰と戦っているのか、それすら分からなくなる乱戦。
その中でも、桜は冷静に目的の人物へと近付く。
「三木さん」
「っ…!」
後ろから声をかけると、驚いた三木がバッと振り返る。
振り下ろされた刀を受け止め、落ち着いて三木を見る。
「三木さん、僕の言う事なんか信じられないのは重々承知です。その上で言います……逃げて下さい」
「………なんだと?」
訝しげな表情を浮かべる三木に、力なく微笑む。
「僕は、貴方まで死なせたくない……!」
「何言ってやがる、テメェ…!」
鍔迫り合いの状態で、グッと三木の力が増して押される。
「……本当は、伊東さんも死なせたくなかった。でも、いい方法が思いつかなかった……ごめんなさい」
そう謝る桜に、三木はカッと目を見開いた。
「……お前、本気で言ってんのかよ」
「勿論ですよ」
桜はニコリと笑うと三木の刀を押し返す。
そのまま三木に背を向けると、乱戦の中へと姿を消した。
「……くそっ!」
三木はそう言葉を吐き捨てると、隙を見てその場を離れた。
(三木さん、ごめんね)
過去にひょんな事から出会い、そこで懐に入れた人物には優しい貴方を知り、助けたかった。
それは死ぬとかそういう事ではなくて、精神的に。
でも、伊東さんのことを…どうにかする事は出来なかった。
救いたかったけれど、救えば近藤さんの暗殺が恐らく実行されていただろう。
暗殺をさせない為の良い案も思いつかなかった。
改めて、自分の無力さや発想力の無さに嫌気がさす。
「おいおい、随分と注意散漫だな」
「っ……!この至近距離、僕じゃなかったら怪我してましたよ。匡さん」
声が聞こえたと同時に放たれていた銃弾を避け、ニッと笑う不知火を見る。
「で?アイツは逃してよかったのか?」
「…まあ、新選組の皆にバレなきゃ良いですよ」
そう言いながら周りを見る。
永倉、原田、藤堂の活躍で御陵衛士も薩摩藩士もかなり減っていた。
もう、勝ちは目前だろう。
(さて、次は…)
鬼二人を撤退させないといけない。
平助は天霧さんの攻撃が致命傷に繋がったからね。
「匡さん達はいつ撤退するの?」
「あ?まだなんも言われてないからな」
「そう…なら、言わせれば良いんだね」
桜はそう言うと不知火から離れて目につく薩摩藩士を倒していく。
「新選組の雪風を止めろ!」
「無理だ!速すぎる!!」
その早い太刀筋に薩摩藩士はなす術なく次々と倒れていく。
「アイツ、また強くなったんじゃねえのか?」
「…確かに。我々と訓練していた時より力が増してますね」
不知火と天霧がそう話していると、薩摩藩士の撤退の声が響いた。
不知火は舌打ちをすると、桜をチラリと見た後に天霧とその場を離れた。
残っていた御陵衛士は瞬く間に新選組に捕縛され、その場は落ち着いた。
桜は一息吐いて藤堂を見る。
視線の先には、原田と永倉に髪をぐちゃぐちゃにされて楽しそうに笑う藤堂がいた。
その光景に微笑んでいると、気付いた藤堂が二人の手を抜け出して駆け寄ってきた。
「桜!!」
「ん?って、ちょ、うわっ…!」
そのままの勢いで抱き付かれ、体が仰反る。
倒れることはなかったが、なんとか体勢を戻すと息を吐く。
「ちょっと、危ないじゃないか!」
「わ、悪い」
慌てて謝る藤堂に二人は目を合わせると、フッと笑った。
「その…お前のおかげで吹っ切れたと思う。ありがとう」
「うーうん、どういたしまして。さて……皆で帰ろう」
そう言うと周りを見る。
原田や永倉は優しく微笑んでおり、他の新選組の皆もどこか戸惑いはあったものの、藤堂が戻ってくるという事実を嬉しく感じているようだった。
それぞれが屯所へと向かい歩き出し、桜も後に続く。
(さて…)
屯所へと帰る皆の後ろを歩き、この後の事を考える。
三木は屯所に現れるのか、現れないのか。
相馬君とのフラグは別に立ってないし、現れないのが濃厚ではあるが…確実ではない。
「なあ、桜。千鶴とお前の事をなんか話したいって言ってたけど…なんだ?」
「…ここでは話せないかな。あ、でも…千鶴は屯所を出たんだ」
「えっ!?」
屯所へと戻る道中、こそっと聞いてきた藤堂に答えると大きな声を出すものだから思わず口を塞いだ。
何人か振り返ったが特に気にしていないらしく、また前を向いて歩いていく。
「……平助」
「ご、こめん」
慌てて謝る藤堂に苦笑すると、前を向く。
「な、なんかやらかしたのかよ」
そう聞いてきた藤堂に首を振る。
「大丈夫、何もないよ。千鶴が自分で選んだ」
「……そうか」
藤堂は頷くと、口を閉じて歩き出した。
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