鬼の力をつける~坂本暗殺
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「天霧さん…」
「すみません、驚かせたようですね」
「いえ、大丈夫です。どうされました?」
天霧に問いかけると、桜の家と不知火の背中を順番に指差した。
「君は、風間と不知火のどちらを選ぶのですか?」
「選ぶ……?」
選ぶとはなにをだと思い首を捻ると、天霧も首を捻った。
「どちらかと夫婦になるのでないのですか?」
「なっ…!そんなわけ無いでしょ!」
頬を赤くしながらそう言った桜に、天霧は「ふむ…」と顎に手を当てる。
「私が見たところ、二人のことを嫌っている様子はなかったのでどちらかと一緒になるのかと思ったのですが…まだ早かったようですね」
「まだってなんですか、まだって」
「いえいえ、こちらの話ですよ」
天霧はそう言って笑うと去っていた。
桜はなんなんだとその背を見送ると、頭を押さえ家へと戻ることにした。
「あ、姉様!」
家に戻るとそこには千鶴と薫がいた。
「あれ?二人ともどうしたの?」
「どうしたって…帰ってきたんだけど」
呆れた様子で言う薫に、ん?っと疑問を持つ。
雪村の家は雪村の里にちゃんとある。
私も今は帰ってきている事だし、母様の事は気にしなくても大丈夫なのだがどうしたというのだ。
そう考えてるのが伝わったのか、薫がにこりと笑った。
「危険人物がいるのに、桜だけにするわけにはいかないでしょ?」
「危険人物…」
十中八九、風間のことだろう。
桜が思わず笑うと、薫と千鶴も笑った。
「じゃあ、また暫くよろしくね」
「はい!姉様」
双子が可愛い、プライスレス。
桜は二人の頭を撫で回すと、家の中へと入った。
「さて、今日からよろしくお願いします」
「ああ。それより…そう畏っていると不気味だぞ」
翌日、風間から力の扱い方を教わるために家の庭へと出ると頭を下げる。
その態度を見て不気味だと言った風間にイラッとしたが我慢だ。
教わるのだから。
桜は息を吐くと、風間を見る。
「扱い方といっても、そう難しく無い。切っ掛けを覚えればいいだけだ」
「切っ掛け?」
「そうだ…お前が初めて鬼の姿になった時、なにを感じた」
風間に言われ、思い出す。
「あの時は……怒りと守りたいという気持ちが強かったと思う」
「それがお前のきっかけだ。その時の感覚を思い出してみろ」
感覚と言われてもなぁ…
桜は目を瞑るとあの時のことを考える。
風間に物凄くムカついていた、それと同時に千鶴や新選組の皆を守りたかった。
守る為に力を奮っていた。
そう考えながら、ギュッと胸の前で拳を握り締めた時、お腹の奥底から熱いものが湧いてくるのを感じた。
「ほう……もう扱えるか」
風間の声が聞こえ目を開くと、笑う風間がこちらを指差した。
「自分の姿を確認しろ」
そう言われ、自分の髪を手に取ると銀色が見えた。
ソッと額に手を当てると、そこには角が。
「…私、鬼の姿に?」
「ああ。飲み込みは早いようだ。ならば、次は元の姿に戻ってみろ」
「わかった」
頷くと、お腹の奥底から感じる熱いものを抑えるように意識を向けてみる。
少しして、チャキリと刀が抜かれる音がした。
目を開くと、風間が刀を抜いていた。
「今、お前は元に戻った。扱い方は分かったか?」
「……なんとなく」
「そうか……鬼の姿は無闇に見せるものではないが、使うとしたら戦闘中だ。戦っている相手は…お前が変化するのを待ってはくれないぞ」
「……!?」
風間はそう言いながら地を蹴り、桜へと斬りかかる。
慌てて避けると、自身も刀を抜いた。
「俺が相手をしてやる。戦いの最中…その力を使いこなしてみろ」
「……実践あるのみってことね」
ニヤリと笑うと風間へと向かう。
キィンと金属同士がぶつかる音が響く。
「本当ならば…お前は俺に守られていればいいが、望まぬだろう?」
「勿論」
「ならば…死なぬように力をつけろ。この俺のもとに戻ってくるように」
その言葉に桜はキョトンとした後、思わず吹き出した。
「…何を笑っている」
「いや、なんていうか…なんで風間のところに戻ってくるのさ」
おかしくてお腹を抑えると、風間の表情は不機嫌になる。
「くくっ……まあ、でも、ありがとう。私は何があっても生きて戻るさ、この里へ。だからよろしくね、風間」
そう言うと刀を振った。
それからはひたすら手合わせの日々だった。
時には匡さんや天霧も混ざり行われる手合わせは中々に骨が折れるもので、自分がまだ弱いということを実感させられる。
それでも力の使い方は覚え、鬼の姿になることも今は容易く行えるようになった。
これに関しては本当に風間に感謝するしかない。
ついでに一瞬だけ鬼本来の力を引き出す方法なども教えてもらい、はじめは押されてばかりだった手合わせも時には風間達を押す日も出てきた。
「姉様…どんどん強くなってる」
「ほんと、強くて美しくて…桜はあれ以上魅力的になってどうするんだろうな」
「魅力的になるのはいいことじゃないの?」
「…世間一般的にはいいだろうね。でも、僕からしたら敵が増えるだけさ」
桜の様子を見ていた双子は縁側に座りそう話していた。
薫の声は後半小さくなったので千鶴は聞こえていなかったが、薫が笑うから千鶴も笑った。
そんなやりとりをしていた夜、食事をしていると桜が突然箸を置いた。
「母様、薫、千鶴。三人に伝えることがあるの」
その言葉に呼ばれた三人も箸を置き、風間達はそれをチラリと横目で見ていた。
「私は、そろそろ新選組に戻るよ。結構長く離れてしまってるからね」
「そんな……!」
千鶴は声を上げ、薫の表情は強張る。
「私は元々休暇を貰って里へと帰ってきてる身。これ以上長くなると隊務に支障をきたすかもしれないし、なにより…私には、やることがあるよ」
桜の言葉に、母親は何か考えた後に頷いた。
「そうですね…貴方には、やる事があるのでしょう。気をつけてお行きなさい。でも…これだけは約束してください」
「はい」
「……死んではなりませんよ」
そう言った母親は微笑んだが、その目には涙が浮かんでいた。
「はい、絶対に死にません…!」
桜は力強く頷くと、微笑んだ。
翌日、桜は母親に一通の手紙を預けて里を出た。
見送りに来てくれていた綱道は謝罪と共に頭を深々と下げていた。
風間達も京へと戻るようだが、桜は風間達と別行動をすることにした。
万が一、どこかで新選組に関係する人間に見られては面倒だ。
逆も然りで、風間達も自分たちが関係する人間に見られても困るからだ。
京へと近づく度、懐かしい景色が増えて思わず笑みが浮かぶ。
もう直ぐで、新選組の皆がいる京都だ。
そして里を出て数日…京へと戻ってきた。
胸いっぱいに京の空気を吸い込むと、地図を取り出す。
(風間が襲撃して来たあの日の事をきっかけに、西本願寺から屯所の移転を提案された。新たな場所は…不動堂村)
地図を取り出したとはいえ京の事を知っている身としては迷子になる事は特にない為、すぐに屯所へと着いた。
「あ、貴方は…!」
「どうもー」
見張りをしていた隊士に手を振ると、中へと入っていく。
そのまま広間へと向かうと、中へと入る。
「お、いたいた。皆、ただいまー!」
そう声を上げると、広間で何か話していた幹部の面々が驚きの表情で振り返った。
お、中々にレアな表情ばかりだ。
そんな場違いなことを考えていると、皆が一斉に立ち上がった。
(え、何々)
無言で近づいてくる面々に怯んでいると、ガッと肩を掴まれた。
「雪風君、よくぞ戻った!!」
そう言ったのは、満面の笑みを浮かべる近藤だった。
その暖かな笑みに、桜は目尻に涙を浮かべながら笑った。
「ただいま戻りました!これからも、よろしくお願いします!」
桜の言葉に、その場にいた面々は微笑んだ。
「変わりはなかったですか?」
「はい、特にはありませんね」
「いや、大有りだ!桜ちゃんの美味い飯にありつけなかった……!!」
「だから、僕が美味しいご飯作ってたじゃないですか」
「総司のは食えたもんじゃねえ!」
こちらの質問を皮切りに、やんややんやと騒ぎ出す皆に懐かしさから笑みが溢れる。
その光景を見ていると、ぽんっと頭に手が置かれた。
チラリと見上げると、置いたのは原田だった。
「戻って来てくれて良かった」
「え、戻ってこないって思われてたの?」
「まあ、少し…」
「俺たちはそれだけ、お前を必要としてんだよ」
そう言いながら原田と同様に頭に手を置いて来たのは土方だった。
「もう、ちゃんと僕は戻って来ますよ。でも…それだけ必要とされてるのは嬉しいな」
へへっと笑うと、二人は優しく笑った。
その光景を見て、周りの面々も微笑んでいた。
屯所に戻って来て早数日。
留守の間は医務室の管理を丞さんがしてくれていたみたいで凄く部屋が綺麗でありがたかった。
時折、松本先生も来てくれていたそうだ。
何があったかなどを聞きながら過ごしていた慶応三年八月のある夜ーー
(さてと、これぐらいでいいか)
医務室で薬の整頓を行っていた桜は、ふうっと息を吐くと部屋を出る。
自室に戻ろうかと歩いていたが道場が目に入り、道場へと足を向ける。
中に入るとそこは静寂に包まれており、賑やかだった昔の事を思い出して少し笑った。
そうして思い出に浸っていたが、素早く刀を抜くと振り返る。
「闇討ちならば勝てるとでも思いましたか?」
「…俺がおまんに怪我させるわけなかろう」
振り返った先には、首に当てられた刀に冷や汗を流しながらそう話す坂本龍馬がいた。
(なんか、そうだね、あったね、龍馬さんの侵入!)
すっかり忘れていたが、このイベントはあった気がする。
「の、のう…これ、どけてくれんか?」
そう言った坂本に溜息を吐くと、刀を鞘に納めた。
「前より鋭くなってるにゃあ」
「……なんでここに?龍馬さん」
「そ、そう睨みなや…ちと、訳ありでな。探し物をしにきたがやけんど……ここ、ずいぶん広いにゃあ。どこに何があるがか、さっぱりわからんぜよ」
桜は再び溜息を吐くと、頭を抱えた。
「で?何をお探しで」
「……近藤か土方を呼んできてくれるろうか?他の連中じゃ、話にならんき」
「二人は外出中で戻ってませんよ。さて、もう一度聞きますけど…何をお探しで?」
知っているけど、と思いながらそう問いかける。
坂本は頬を掻いた後、真剣な表情で桜を見た。
「……探し物、ち言うたろう?新選組についての妙な噂を小耳に挟んだきよお」
「噂?」
「……おまんも幹部やからもしかしたら知ってるかもしらんけど…羅刹とかいう化け物のことや」
そう言った坂本に、にこりと笑う。
「勿論、知っていますよ」
「……!?」
坂本は目を丸くした後、すぐに厳しい表情になる。
「なら、話が早い。あの羅刹言うがは、一体何ながで?答えや」
声に殺気めいたものを宿した坂本に何も答えず、ジッとその目を見る。
「答えや、桜。女相手に…ましてやおまんに、手荒な真似はしとうない。素直に答えてくれ」
そう言って手を伸ばして来た坂本の手を避けると、素早く刀を抜いて首に当てた。
「龍馬さん、僕は新選組の幹部として屯所に入り込んだ間者は始末しなければなりません。特に…そんな秘密を嗅ぎつけて来た人は」
そう言いながらにこりと笑うと、坂本の額を汗が流れた。
「おまん…俺を斬る気か」
「龍馬さん、どうしても知りたい?羅刹のこと」
「……ああ。どうしても、調べんといかんがよ」
口元に笑みを浮かべてそう言った坂本を見つめた後、桜はにこりと笑った。
「そっか」
千鶴が屯所からいなくなったから、この辺りはどう進むのかと思っていたが、特に変わりはないようだ。
これも恐らく、私が千鶴の立ち位置にいるからだろう。
そう考えながら刀を坂本の首から離して納めると、坂本はハッと短い呼吸を繰り返した。
「…龍馬さん。二人は恐らくもうすぐ戻ってくるよ。広間に案内するから、着いてきて」
「え?」
そう言うと坂本は驚いて目を丸くした。
「意地悪してごめんなさい。一応、幹部らしく貴方の事を見極めようと思ってね。少なくとも僕は案内しても良いと判断した。だから…どうぞ」
そう言って手を差し出すと、坂本は顔と手を何度か見た後にそっと手を重ねてきた。
重なった手を握ると、周りに誰もいない事を確認して道場を出た。
「おまん…心臓に悪いぜよ」
「仕事を全うしただけですよ」
「それでも…俺はおまんとはやり合いたくないんや」
握っていた手に力が入り、桜は困ったように笑う。
「…そうですね。僕も、龍馬さんとは戦いたくないですよ」
これは本当の気持ちだ。
だからこそ彼が暗殺されるその日…どうなるか実はドキドキしている。
が、今はそれよりも彼がここに来たことに対する対応を進めないといけない。
広間に向かう道中、山南さんに声をかけて先に広間へ向かうと坂本を適当なところへと座らせる。
「山南さんは近藤さんと土方さんが戻ってきたら来るから、ちょっと待って下さいね」
「おう」
さて、と襖付近に移動すると、部屋の外で待機している丞さん、井上さん、島田さんに声をかける。
「三人はもうすぐ?」
「そうだね、今来たみたいだよ」
井上の返事がしたと同時に、部屋の中に近藤、土方、山南が入ってきた。
「おかえりなさい、近藤さん、歳さん」
「ああ、間者を捕まえたようだな…ご苦労」
そう言った土方に頭を撫でられ、苦笑する。
労りの言葉をかけてくれてはいるが、その目はジッと坂本を睨みつけているからだ。
「坂本君、話は大体聞いた…その、羅刹のことを知っているんだね?」
「ああ、知ってる。ついでに聞きたいこともあって来たんや」
坂本の正面に座った近藤が切り出すと、坂本は少し冷たい声色で返事をした。
さて、始まったかと思いながら自分も少し離れたところへ座った。
「さて、坂本君の話を聞こう」
近藤のその言葉を聞き、坂本は口を開いた。
「……あの武器商人グラバーにおおたがは、俺が船を手に入れてからすぐのことやった。絶対に幕府を倒せる武器があるとかで」
そこで見たがが……、白い髪と赤い目を持つ化け物の姿やった。
その言葉に、土方の表情が険しくなった。
「人の武器は通じん、怪我がすぐに治る、野生の獣を上回る力を持っちゅうーー確かにそいつがあれば、倒幕なんて簡単に出来るろうと思おた。俺の同志も、興味を持っちょったみたいやけんど……どうしても、腑に落ちんことが二つあった」
「なぜ西洋人は便利なものを独占せず、売ってくれるのか。先に異国との貿易をしていた幕府に同じものが渡っている可能性はないのか、ですね」
桜がそう口を挟むと、坂本は頷いた。
「ほいたらグラバーは、こう言うがよ。【幕府側も、羅刹を使いゆう。おまんらも対抗せんかったら、なす術なく敗れることになりますよ】……と」
桜はグラバーのことを思い出して、ふぅとバレないように息を吐いた。
純正の変若水は……彼の血。
幕府に流れてきた変若水は誰かが改悪したもの。
その為、血の衝動が起きてしまう。
っていう話が別であった気もする。
そう考えながら坂本の話の続きに耳を向ける。
「……調べてみたら、どうやら新選組でも同じ物を研究しゆうらしいことがわかった」
「……そのことを、どこで知ったんだ?」
今はもうしてないけどね、と思いながら口を開いた土方を見る。
「答えたら、こっちの質問にも答えてくれるかえ?」
「……約束はできねえな。まあ、教えられることなら教えてやらなくもねえが」
「食えん男やにゃあ。……まあえい。教えたち、別に俺が損するわけやないき」
坂本は息を吐くと、周りを見る。
「グラバーが言いよったがよ。新選組にも羅刹がおる。そして、それを新選組に持ち込んだがは綱道やち。……八・一八の政変の後ぐらいやったか。綱道は、その武器商人の所に厄介になっちょって、そこで羅刹の実験を続けよったらしい」
その言葉に、近藤は桜を見る。
「雪風君、知っていたかね?」
「……聞いたことある気はします。綱道さんが……申し訳ございません」
「いや、君は悪くないのだから気にしなくて大丈夫だ」
そう言って優しく微笑む近藤に頬を緩めて頷く。
その近藤の横で、話を聞いて目を瞑っていた土方はゆっくりと目を開く。
「……話はわかった。で?わざわざここに来た理由は何だ」
「決まっちゅうやいか。そんな実験は、今すぐやめや。西洋を利するだけやき」
そう真剣な表情で坂本は言ったが、その様子を見てにっこりと笑った山南が口を開いた。
「それならご安心下さい。我々は熱心に実験などしておりませんよ」
「……なんやて?」
「ですから我々は今はもう、熱心に実験などしておりません。まあ、幕府から成果を求められるので熱心に実験をしている“フリ”はしておりますが」
その言葉に、坂本は開いた口が塞がらなくなっていた。
「ど、どういうことやき…」
「変若水の危険性を雪風君から聞いてましたので…我々としては武器は一つでも多い方がいいですが…頼りすぎるのは良くないと判断し、以前ほど力は入れておりません」
「……それでも、やめてないんやな」
その言葉に、山南は笑うだけだった。
坂本は頭を掻いた後、桜を見る。
「桜……危険性てなんや」
その問いかけに近藤を見ると頷かれたので、口を開く。
「羅刹の強力な力、治癒力…その危険性です」
そう言いながら坂本を見ると、以前に土方や山南に話した事を伝える。
生命力を使っており、羅刹となった人間には死期が一気に近付くと。
その話を聞いた坂本は、とても厳しい表情をしていた。
「グラバーはそこまで言うてなかった」
「そりゃ…売り込むならば良い印象を与えたいですからね。勝つ為に命を捨てて力を得るという事はよくある話ですが……それでも躊躇する人も多い、でしょ?」
そう伝えると、坂本は深いため息をついた。
「羅刹になった時期が早く、その力を使う事が多くなれば、どんどんと命が脅かされる。新選組は…僕がたまたま変若水の副作用を知っていた、しかし……西で羅刹の力を得た新選組以外の人間はどうなる?そんな副作用を知らず力を使い続けると…ある日、一気に人はいなくなる」
桜は目を伏せると自分の手を見る。
「羅刹の末路は…とても寂しい。徐々に体に罅が入り、崩れていく。最期は砂のようになり原型すら残らない」
原作の事を思い出し、ギュッと手を握る。
それを静かに聞いていた面々だったが、坂本は立ち上がると桜へと近付きその手を取った。
「……桜、重要な情報をくれて感謝する」
「いえ。一つ貸しですね」
にっこりと笑うと坂本はフッと笑った。
「とりあえず、一度戻らないかんな」
坂本はそう言うと近藤達へと振り返る。
「突然忍び込んで悪かった。そろそろお暇するわ」
「うむ、わかった。雪風君、表まで送ってもらえるか?」
「はい、近藤さん」
近藤の言葉に頷くと、坂本を見る。
「龍馬さん、いきましょうか」
そう声をかけて部屋を出た。
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