鬼の力をつける~坂本暗殺
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翌日、桜は千鶴と共に屯所を離れ、町で綱道と合流して里へと向かった。
道中、京から離れてから千鶴には折角だから女の子の格好をさせた。
もう無理に男装する必要はないのだ。
相変わらず可愛くて褒めまくるとその度に千鶴は恥ずかしそうに頬を赤くして照れるのだからもうそれが可愛くて可愛くて。
綱道さんは綱道さんで千鶴の様子を見るたびに目に涙を浮かべて感慨深く何度も頷くものだから周りから見たら変な集まりに見えただろう。
そんな感じで数日後、無事に雪村の里へと着いた。
「もしや…綱道さんか!?」
「という事はそっちの娘さんは…千鶴ちゃんかい?」
雪村の里の人々は二人を見るなり目に涙を浮かべて歓迎した。
綱道さんは何度も頭を下げて、千鶴はあたふたとしていた。
それを見てフッと笑みを溢すと、近くにいた人に近付いた。
「おばさま、お久しぶりです。雪風桜です。母様と薫はどこにいますか?」
「あら、桜ちゃんも戻ってたのね!二人ならばあなたの里にいるわよ」
満面の笑みでそう教えてくれたおばさんに礼をすると、千鶴の元へ向かう。
「千鶴、もう少し歩ける?薫は雪風の里にいるようだ」
「薫が…!勿論です!」
元気よく頷いた千鶴の頭を撫でると、その手を取り歩き出す。
そう離れていない雪風の里に着くと、こちらに気付いた面々が近づいて来た。
「桜ちゃん!戻って来たのかい!」
「おじさん、おばさん。ただいま。元気そうですね」
「もー、元気が有り余ってるわよ!それより、薫君にそっくりねあなた…」
「千鶴だよ」
キョトンと千鶴を見るおばさんに名前を伝えると、ハッとしたおばさんは目に涙を浮かべた後に村の奥を指さした。
「桜ちゃんのお母さんと薫君は家にいるよ。千鶴ちゃん…お帰り。ゆっくりするんだよ」
そう言ってにこりと笑ったおばさんに感謝を述べると、千鶴の手を引いて家へと向かう。
「あの、姉様…」
「ん?」
「先程の方々はなぜあんな…あんなにも優しい目で私を見ていたのでしょうか」
困惑する千鶴の頭をポンっと撫でると、桜は微笑む。
「雪風の里の皆と千鶴は直接面識は無かったかもしれないけど、皆は千鶴の事を知ってるよ。私や薫がよく話をしていたからね。だから…里に戻ってきた事を嬉しく思ってるんだよ」
そう伝えると、千鶴は胸元で手をギュッと握りしめて微笑んだ。
「皆さん…暖かく迎えてくださって、そう思って下さって…私も嬉しいです」
千鶴の微笑みプライスレス、と思いながら頭の中で手を合わせていると我が家が見えてきた。
「ここが私の家だよ。中に私の母様と薫がいる」
「薫が…」
緊張した面持ちの千鶴にそれもそうかと桜は思った。
なんせ、軽く十年近くは離れていて、久しぶりすぎる再会だ。
桜は千鶴の肩に手を置くと、顔を覗き込む。
「ゆっくり深呼吸を繰り返してごらん。千鶴が落ち着いたら…中に入ろう」
その言葉に千鶴は頷くと、深呼吸を始めた。
少しして千鶴が力強く頷いたのを見ると、玄関の戸を開いた。
「母様ー!薫ー!ただいま戻りました!」
声を上げながら中へと入る。
恐らく2人がいるであろう居間へと千鶴を案内すると、思った通りそこには母親と薫がいた。
「桜!よく帰られましたね。あら…また男の子の格好をして…」
「あはは…それよりも、ほら」
桜を見て母親は微笑んでそう言った後、千鶴を見た。
「千鶴さん、お帰りなさい。どうぞ入って」
「は、はい!」
緊張している千鶴にクスクスと笑い背を押して居間へと入る。
黙ったまま千鶴を食い入るように見つめる薫の前に座らせると、母親の隣へと移動した。
「………」
「………」
薫と千鶴はどう切り出せばいいのか分からなくてもじもじしている状態だ。
そんな二人も可愛いなとニコニコ微笑んでいると、薫が先に動いた。
「……千鶴。お帰り」
優しい声でそう言った薫。
千鶴がその様子に一瞬目を丸くした後、涙がぽたりと流れ落ちた。
「か、おる。ただいま…薫っ!」
千鶴は涙を流しながら薫に抱き付くと、薫はそれを優しく受け止めた。
その様子に思わず涙がこみ上げて来た。
それは母親も同じのようで、目元を拭っているのが横目で見えた。
桜は母親の肩を叩くと、ニコリと笑った。
母親は桜の意図が分かり頷くと、二人で部屋を出た。
部屋を出た後は台所へと移動して、母親はお茶を、桜は手拭いを二枚と水を用意する。
「本当に…二人とも、よく帰って来ましたね」
「綱道さんも帰って来てるよ」
「…!そうですか、綱道さんも」
「大丈夫。改心してるから」
ある程度の状況を知っている母親は曇った表情を浮かべたが、桜の言葉に「よかった…」と微笑んだ。
「それとね、母様。もしかしたらなんだけど…西の鬼の頭領の風間ってやつが里に来るかもしれない」
「まあ、あの風間様がですか?」
流石に母親も風間のことを知っていたそうだ。
「一体どうしてですか?」
「…鬼の力の扱い方を教えてもらおうと思ってね」
桜の言葉に、母親は驚いた。
「実は…つい先日、風間が新選組のもとに襲撃しに来たの。その時に頭に来ることがあって、自分でも気付かずに鬼化してたの。でも…いつもそうじゃ困るでしょ?だから、風間に教えてもらおうと思って、よければ里に来ないかって手紙を出した」
京を離れる日、桜はこっそりと風間へ手紙を出していた。
内容は今話した通り、鬼の力の扱い方を教えてもらうためだ。
桜の言葉を聞いていた母親は、少しして頷いた。
「ならば、客間にお布団を用意しないと行けませんね。手伝ってもらいますよ?」
「勿論」
二人で顔を見合わせて微笑むと、用意した物を手に居間へと戻った。
母親は客間の用意をする為に途中で別れた。
「二人とも、落ち着いた?」
中に入ると目を赤くした二人が振り返った。
「ほら、これで目を冷やして」
水につけた手拭いを二人に渡すと、大人しく目に当てた。
「薫、母様の事ありがとうね」
「桜の為だからね。特別だよ」
そう言った薫に微笑んで頭を撫でると、千鶴の頭も撫でる。
「これからは、二人は一緒だよ。もう離れる事はない」
その言葉に何度も頷く千鶴の頭を撫でていると、母親が戻ってきた。
「客間の用意は出来ましたよ」
「ありがとう。母様」
「お客さんでも来るの?」
「うーん、風間が来るかもしれない」
その言葉に、薫と千鶴は同時に手拭いを落とした。
流石双子。
「はあ!?あの男が、何しに来るの⁉」
「また姉様に良からぬことをするおつもりですか…!!」
凄い剣幕で詰め寄ってきた二人をどうどうと諫めると、説明をする。
その説明を聞いた二人は納得していたものの、風間に対して良くない印象を持っているからどこか不満そうだった。
「まあ、この里では流石に暴れたりしないと思うよ」
「でも…」
「何かあったら、俺が始末するから任せてよ千鶴」
「薫がそういうなら…」
「こらこら、物騒だぞ」
双子に乾いた笑いを零すと、うーんと伸びをした。
「とにかく、今日は疲れたし少しゆっくりしようか」
その言葉に、面々は頷いた。
翌日、里を離れていた間に起きたちょっとした出来事を薫や母親から聞いた後、薫が千鶴を連れて雪風の里を案内をして雪村の里も案内すると言っているのを見て微笑ましく思う。
桜も里の中を見て回ろうと思い、いつも通り男装をしようとしたら母親が笑顔でずっと見てくるものだから渋々と女性の格好をした。
少し動き辛いなと思いながら帯刀して里の中を歩いていると、入口に見慣れた三人組が立っているのが見えた。
「やあ、いらっしゃい…三人とも」
そこにいたのは勿論、風間、不知火、天霧だった。
「出迎えてくれたのか」
「そうだね。匡さんと天霧さんをお迎えしないとね」
にやりと笑った風間は無視でそう言うと少し不機嫌になったが放っておく。
「どうぞ。雪風の里、当主の家にご案内しますよ」
ニコリと笑いそう告げると、自宅へと三人を案内する為に歩き出した。
「風間様、不知火様、天霧様、ようお越しくださいました」
家に着くと玄関口には母親が座っており、深々と頭を下げた。
「どうぞ、こちらへ」
母親にお茶をお願いすると、三人を居間へと案内する。
「来るの早かったね」
「風間のやつ、お前から手紙を受け取ってすぐに京を発ったんだ。周りが少し待てと言っても無視だ」
呆れたようにそう言う不知火に苦笑すると、母親がお茶を持って入ってきた。
母親は三人へとお茶を出すと、桜の横へと座る。
「この度は、桜の為に態々お越しくださりありがとうございます。どうぞよろしくお願い致します」
頭を下げる母親をジッと見た後、風間は口を開いた。
「この里の事は聞いている。前当主の事は悔やみ申し上げる」
「ありがとうございます」
「此度は…現当主である桜に先代から教わる筈だった鬼の力について、俺が責任を持って教えよう」
「いや、だから私は当主じゃ「ありがとうございます風間様。どうぞよろしくお願い致します」
当主ではないと否定しようとする桜の言葉を遮るように母親が言葉を被せ、桜は溜息を吐いた。
自分は当主にはならないと言っているのに、どうしても当主にするつもりのようだ。
これ以上何を言っても母親はニコリと笑うだけなのはわかっているから、口を閉ざす。
「今日は長旅でお疲れでしょう。お部屋のご案内を行わせて頂きますので、桜の事に関しては明日からよろしくお願い致します」
母親は頭を下げた後、風間たちを連れて居間を出た。
残された桜は溜息を吐くと湯飲みをお盆に乗せて厨へ向かう。
(私はずっと里を離れてるし、正直この先どうなるかわからないから母様が当主として過ごしてくれたら楽なんだけどなぁ)
前々からそう考えているし当主かと聞かれれば違うと訂正しているが、母親は当主になる事に一向に首を縦に振らないし、当主は桜だと周りに言っている。
そろそろ無駄な抵抗はやめて諦めるかと考えながら厨に立っていると、後ろで人の気配がした。
バッと振り返ると、そこにいたのは風間だった。
「相変わらず、鋭いな」
「それほどでも」
笑みを浮かべる風間に溜息混じりに返答すると、風間が近付いて来た。
「あの娘と小僧は?」
「ちょっと、言い方…二人は雪村の里に行ってると思うよ」
「そうか。……戻ったのだな」
どこか優しい声色に、同胞として千鶴の事を本当に気にしていたのだなと感じた。
「色々あったけど、綱道さんも説得出来たし、これから三人での道を歩んでくれると嬉しいな」
「…綱道もか」
スッと風間の目が鋭くなる。
「あの男は、自分が撒いたまがいもの共はどうするつもりなんだ」
「それは…私の役目」
「なに?」
「同胞、ましては懇意にしている里の鬼だ。後始末くらい手伝うさ」
少し笑いながらそう告げると、ジッとこちらを見ていた風間がフッと笑った。
「手が必要ならば言え。この俺が貸そう」
「…………」
「なんだその顔は」
風間の言葉に驚いて口をぽかんと開けていると、風間はムッとした表情を浮かべた。
「ご、ごめん。ちょっと驚いただけだから。ありがとうね、風間」
そう言って笑うと、風間は一瞬固まった後に桜の腕を引いて抱き寄せた。
「わっ、ちょ…」
驚いて声をあげるとグイッと顎を掴み上に向けられる。
近い距離に驚いていると、更に顔が近づいて来たので思わずペシンと風間の顔を叩いてしまった。
「貴様……」
「いや、急にこんな行動したそっちが悪い」
私は悪くない。悪くないぞ!
そう思いながら風間の腕を剥がして離れると、溜息を吐く。
「嫁になるお前に触れてなにが悪い」
「風間、私は嫁にならないし、いい加減このくだりやめようよ。ね?いくら私が好きだからってさ…」
ははっと笑いながら昔に風間をからかった事を思い出しながらそう告げる。
「……そうだな、お前が好きだから、俺はやめない」
「えっ…」
まさかの返しに驚く。
プライドの高い男だから、揶揄われるような事をされると黙って引くかと思ったが何故か認めて笑ってる。
桜が驚いていると、風間は桜の髪を手に取り唇を落とした。
「そろそろ観念しろ」
笑いながらそう言われ、少し顔が熱くなる。
「……しないから」
髪を払うと、風間にチョップをして逃げた。
全くあの男は。
溜息を吐きながら家を出る。
少し散歩をしよう。
そう思って里の中を歩く。
「よお、桜」
散歩中、声をかけられて振り返るとそこには不知火がいた。
なぜか子供に囲まれている。
「……匡さん、なにしてるの?」
「あ?オレが聞きてえよ」
溜息を吐くと不知火を気にせず、子供たちははしゃぎながら不知火に遊んで欲しいとせがんでいる。
その様子を見るに、子供たちが興味を持つような事を不知火はしたのだろう。
珍しく困った様子の不知火に笑うと、桜はしゃがんで子供たちと目線を合わせる。
「皆、この人と少し話があるから、借りてもいいかな?」
「えー!」
「今じゃないとダメなの?当主様!」
「当主……えっと、うん、ごめんね。出来れば今がいいかな」
「仕方ないなぁ…お兄ちゃん、またね!」
「またね!」
当主様もまたねと言って去っていく子供達に乾いた笑いを溢しながら立ち上がると、不知火を見た。
「悪い、助かった」
「匡さん、子供苦手なの?」
幼かった薫と遊んでくれていたから子供の相手は得意だと思っていたがどうなのだろう。
「いや、苦手じゃねえが今はコイツを持ってる。暴発したら…危ねえだろ?」
そう言って不知火は愛用している銃を指差した。
ああ、なるほどと思い微笑む。
「匡さん、優しいんですね」
「……普通だ」
そう言ってがしがしと頭を掻く不知火に笑っていると、ぽんっと頭を撫でられた。
「あんまり無防備にしてんなよ。オレも風間と同じだぞ」
「……風間と?」
どういう事だと首を捻るが、そういえばと思い出す。
彼は(気のせいじゃなければ)自分に気があった筈だ。
すっかり忘れていたと乾いた笑いを溢すと、不知火は呆れたように首を振った。
「お前は…ったく」
「えっと、ごめんなさい、匡さん」
そう言うと、グイッと腕を引かれて耳元に不知火の顔がくる。
「次忘れてたら、そのまま食っちまうからな」
「え、美味しくないよ」
「そういう意味じゃねえよ…」
頭を振った不知火にふふっと笑うと、少し離れる。
「さてと、そろそろ行くわ」
そう言ってヒラヒラと手を振りながら去っていく不知火をぽかんと見送っていると、ぽんっと肩を叩かれた。
ビクッとして振り返ると、そこには天霧がいた。
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