千姫の来訪~鬼を告げる
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一騒ぎして疲れた2人は、鴨川へとやってきていた。
「はー、疲れた」
「おまん……足、早すぎやき…」
伸びをする桜とは対照的に、肩で息をする坂本に笑うと川へと視線を向ける。
坂本も同様に川へと視線を向け、2人で景色を眺めていると、坂本が口を開いた。
「こうして川を眺めるがも悪うないけんど……、やっぱり俺は海の方がえいにゃあ」
「龍馬さんは…海の近くで?」
「ああ、土佐の生まれやき。ガキの頃は、陸におるより海で泳ぎよった方が長かったぐらいやき」
「……はいはい」
桜は冗談を聞き流すと、さてと考える。
これは千鶴と坂本のイベントだ。
不本意ながら今、千鶴のポジションには私がいる。
原作通りに兄弟のことも聞くべきか?
うーん…と悩んでいると、坂本がこちらを覗き込んでくる。
「桜はどこの生まれや?」
「…僕?」
頷く坂本に、桜はうーん…と考えた後、口を開いた。
「ちょっと事情があって…あんまり話せないけど、いい?」
「勿論やき」
ニッと笑って頷いた坂本に、微笑むと川へと視線を向ける。
「僕の生まれは…会津と江戸の間くらいかな。小さな里でさ。そこで皆と仲良く暮らしてたよ」
「ほーん…兄妹はおるんか?」
「いや、一人っ子。知り合いに双子がいて…その二人が僕の可愛い弟と妹ってところかな」
愛しい二人を思い浮かべてると、自然と笑みが浮かぶ。
「……その二人が、大切なんやな」
「うん、凄く大切だよ」
桜は頷くと、坂本を見る。
「龍馬さんは?兄妹」
「俺か?俺は…」
そう言って坂本は自分の事を話し出す。
熱っぽい調子で土佐や家族のことを話す坂本はとても楽しそうで、強い思いが伝わってくる。
「……帰れないのは、辛くないの?」
ぽろっと出た言葉に、坂本の瞳がどこか複雑な色を帯びる。
「……ごめんなさい。余計な一言だった」
そう言って俯くと、ぽんっと頭に手が乗せられる。
「土佐のことが嫌いなわけやないけんど……。あそこには、つまらんしきたりが山程あるき」
「…上士と郷士、だっけ」
桜の言葉に、坂本は頷く。
簡単に言うならば、関ヶ原の戦いの際に郷士の先祖は敵側に付いた。
その事から酷い差別を受けているのだ。
今ではなく、先祖の話だというのに。
「……馬鹿馬鹿しいろう?」
「…そうだね」
頷くと、頭に乗せられていた坂本の手を取る。
「僕でも脱藩したくなるよ」
ニカっと笑うと、坂本は目を丸くした後、空いていた手でわしゃわしゃと桜の頭を撫でた。
「ちょ、ボサボサになる!」
「ちょっとぐらいえいろう」
「もう!」
坂本の手を剥がすと、乱れた髪型を直す。
(本当なら…ここから龍馬さんの思想の話になるけど…)
生憎、私は知っているのでここは敢えて聞かないでおこう。
「お、そろそろ時間か」
笑っていた坂本がそう言いながら視線を土手に向ける。
そこには山崎がいた。
「そうみたいですね」
「ほんなら。またにゃ、桜。次に会えるがはいつかわからんけんど、元気にしちょれよ」
「龍馬さんもね」
そう伝えると、坂本が不意に首へと腕を回してきた。
「…龍馬さん?」
「……おまんにこんな事言うのはアレやけど…敢えて言わせてもらう。この先、たとえ幕府がどうなっても怨むなよ」
「……私は私が出来る事をするだけ。龍馬さんこそ…今日、私とした約束…後悔しないでくださいね?」
「命を預ける、ってやつか?」
「はい」
頷くと、坂本はニカっと笑った。
「約束は守るき」
そう言って坂本は離れる。
背を向けて歩いていく姿を見送ると、山崎の元へと向かった。
「山崎さん、わざわざ来てくださってありがとうございます」
「全く…君はもう少し危機感を持つべきだ」
「えー!ちゃんともってますよ!龍馬さんがあれ以上何かしてきたら…斬るつもりでしたし」
そう言って刀に手を触れながら山崎を見ると、驚いた様子で足を止めていた。
「……どうしました?」
「君…あの男のことを、なんと?」
「え?龍馬さん…?」
そう答えると、山崎は顔を顰めた。
「いつからそんなに親しくなったんだ」
「え?いや…なんか急に呼べって、今日言われて」
不愉快そうな山崎にどうしたのだと首を傾げる。
少しして、山崎は溜息を吐くと歩き出した。
「全く君は…」
「え?え?」
桜は山崎の様子を不思議に思っていたが、1つある事に辿り着いた。
(もしかして…いや、まさか)
うーんと悩んだ末、桜は良しっと覚悟を決めると山崎に顔を覗き込む。
「烝さん、医務室に足りないものがあるから買い物して帰りませんか?」
「なっ…⁉君、今…!」
「さっ、行きましょう!」
目を見開いた山崎に笑うと、町へと歩き出す。
山崎は頭を抱えて息を吐いた後、フッと微笑み歩き出した。
慶応三年 六月上旬
私の記憶が正しければ、この時期に彼女が屯所に来るはず。
そして…何かを変える事が出来たなら、彼も。
桜は日々を緊張しながら過ごしていた。
いつ訪問してくるまでか、詳細は語られていなかったのだから。
ソワソワしている事を悟られないようにしながら隊務をこなしていたある日の夜、遂にその時は来た。
「桜ちゃん」
屯所の門前の片付けをしていると、不意に声を掛けられた。
その声に振り返り、目を見開いた。
「お、お千ちゃん!君菊さんに………綱道さん」
笑顔を浮かべるお千こと千姫と君菊。
その後ろには気まずそうにする綱道がいた。
「貴方に聞きたいことがあって来たの。千鶴ちゃんにも話したいことあったし…その道中で彼にも会って。同じく貴方と…千鶴ちゃんに用があったみたい」
その言葉に桜は頷いた。
「どうぞ中へ」
とりあえず広間へと案内しよう。
屯所内へ招き入れると、広間に三人を通す。
丁度通った山崎に近藤と土方への伝言を伝えると、三人を振り返った。
「皆さんが来る前に軽く聞きたいのですが…お千ちゃんが僕に聞きたい事とは?」
そう尋ねると、お千は少し怒った表情を浮かべた。
「貴方…千鶴ちゃんに“鬼”の事を話してないのね?」
「…そうだね。話してない」
「なんでかしら?」
その言葉に、綱道を見る。
「私が千鶴に話していなかったのは、あの子を守るためですよ」
「…なんですって?」
その返答に、お千が首を傾げる。
「風間のせいで、【鬼】とはなんだと問われた事はありましたが、私は答えませんでした。いつか…わかる日が来るからと」
そう言って、力なく微笑む。
「…長年、自分を人間だと思ってた子が、急に鬼だと言われても受け入れるまでに、きっと時間はかかります。だから…親である綱道さんに全てを話してもらうべきだと、側で支えてもらうべきだと考えました。私は、綱道さんが迎えに来てくださるのを待っていたのです」
チラリと綱道を見ると、彼は頷いた。
「本当はもっと早くに私が話すべきだった。あの子に何も教えなかったのは…私の勝手だった」
頭を下げる綱道に、お千は息を吐いた。
「それに、里を復興させる過程で…話が漏れた時に里に関連する鬼に手が伸びるのは分かってた。だから…黙ってたの」
「全く、貴方達は……」
「ごめんね、お千ちゃん」
桜が謝ると、お千も笑った。
「本当よ!理由はわかったけど、本当に何も話してないなんて…」
「でも今日、やっと話せる。綱道さんが来てくれたという事は…里に戻る事を決意してくれたのですよね?」
綱道は頷いた。
「勿論、千鶴の意思もあるが…あの子が共に帰ってくれると言うならば…里に帰り、薫に謝罪し、今まで何があったのか伝えようと思う」
「……そうですね」
「………」
綱道に微笑むと、数人分の足音と共に広間に人が入ってきた。
「急な来客って言うからなんだと思えば…」
そう言いながら入ってきた土方は、綱道を見た。
「お久しぶりですね、綱道さん」
土方の後ろからは山南が入ってきて、綱道を見てどこか怖い微笑みを向けた。
「ご無事だったのですね!」
その後ろから顔を覗かせ、安堵の表情を浮かべる近藤に申し訳なさそうにしながら、綱道は頭を下げた。
「謝罪しても許されない事は分かっています。だが…謝罪を行わせてください」
「本当、今更だよね」
そう言った沖田を桜は睨むと、近藤を見た。
「近藤さん。彼女達は千姫ことお千ちゃん君菊さん。三人は千鶴に用があって参られました」
「あら、貴方にも用はあるのよ?桜ちゃん。貴方達にどうしても話したいことがあるのだから」
にっこりと微笑むお千に冷や汗が流れる。
「は、はは…とりあえず…千鶴を呼びましょうか」
その言葉に、面々は頷いた。
少しして、呼ばれた千鶴が広間へとやってきた。
広間を見て驚く千鶴に、近藤は申し訳なさそうに口を開く。
「やあ、すまないね。休んでいるところを起こしてしまって」
「いえ、それはいいんですけど……」
「髪、すごい寝癖だよ。結い直してくる暇すらなかったの?」
「えっ!?本当ですか?すみません、私…」
沖田の冗談を間に受ける千鶴に笑うと、口を開く。
「千鶴、総司の冗談だから。気にしないで」
「え、あっ…」
揶揄われていたのだと分かり、千鶴は恥ずかしそうに俯いた。
「……よく来てくれましたね。そちらに座ってください」
山南に声をかけられ、千鶴は緊張しながらも促された場所へと座る。
そして、正面にいる人物…お千を目にして驚きの表情を浮かべた。
「千鶴ちゃん、お久し振りね。ごめんなさい、こんな夜遅くにお邪魔しちゃって」
「お千ちゃん……?」
驚きながらもお千を見つめていた千鶴は、更にその後ろにいる人物を見て目に涙を浮かべた。
「それに、と……父様……!」
「千鶴……綺麗になったな」
綱道の姿に千鶴は駆け寄ろうとしたが、ハッとして佇まいを正した。
土方が頷いたのを見て、桜は千鶴に近付くとその背に手を添えた。
「千鶴…いいから、行きなさい」
桜の優しい声色に、千鶴は涙を浮かべながら頷くと、綱道に駆け寄りその腕の中へと飛び込んだ。
綱道は優しく千鶴を包み込むと、涙する千鶴を抱き締めた。
皆がその様子を暫く見つめていた後、落ち着きを取り戻した千鶴は元いた場所へと座った。
「す、すみません…」
「いや、君も久しぶりに父親と再会したんだ。気にしなくていい」
近藤の優しい言葉に千鶴は微笑むと、チラリとお千の隣にいる忍装束の女性に視線を向けた。
それに気付いたお千は口を開く。
「彼女は、私の連れよ。まあ、護衛役みたいなものだと思ってちょうだい」
「護衛役……?」
助けを求めるかの様な視線を周りに向ける千鶴に、土方が口を開く。
「……おまえと、桜に話してえことがあるんだとよ」
この場を千鶴に任すと言った意味合いが含まれた言葉に、千鶴はこちらをチラリと見た。
それに頷くと、千鶴はお千を見る。
「お千ちゃん。今日は、一体何の用事でここに?」
その言葉に真剣な表情へと変わったお千は、真っ直ぐと千鶴を見つめる。
「用というのは、他でもないわ。……私、あなたと桜ちゃんを迎えに来たの」
「迎えにきた、って……」
「あなたのお父様も同じ用で来たみたいよ」
お千の言葉に、千鶴は動揺する。
「父様が迎えに来て下さった、というのは分かるよ。でも…お千ちゃんが迎えに来たっていうのは…言ってる意味が、よくわからないんだけど……それに、姉様も一緒にって…」
「そうね。説明すると長くなるんだけど……何から話せばいいかしら。本当なら…あなたのお父様や桜ちゃんが話しておくべき事だったのだけれどね」
刺の含まれた言葉に、乾いた笑いを零す。
綱道も苦笑いを浮かべていた。
「もはや、一刻の猶予もありません。すぐにここを出る準備をしてください」
「ちょ、ちょっと待ってください。どうして私達があなた達と一緒に?」
困惑する千鶴は、こちらへと視線を向けてくる。
「……千姫様、私から…話します」
口を開いた桜に、視線が集まる。
「…あなた、全部把握してるの?」
「大体は」
「……わかったわ。任せます」
桜は頭を軽く下げると、千鶴を見る。
「千鶴、それに皆…これから私は、皆に隠していた事を話します」
「隠していた事…?」
「………【鬼】について」
その言葉に、千鶴はハッとした。
以前、聞いたが教えてもらえなかった事を遂に教えてもらえるのだと。
「…まずは皆さん、風間は知っていますね?あの俺様野郎です」
「ああ…」
「桜をやたらしつこく追いかけ回してる、あの男だね。確か……千鶴ちゃんにも手を出そうとしてたよね」
沖田の言葉に、桜は頷く。
「総司が言った通り、あの男の狙いは私と…千鶴」
「確か彼らは、自らを【鬼】と名乗っていたね」
「まあ、信憑性は全くありませんが…あれほど人間離れした使い手です。鬼と言われた方が妥当でしょう」
「それなのに、全く人の世界では名が通ってない…」
口々に話す面々に、ふぅと息を吐く。
「皆さんが感じている通り、あの三人は人ではないです。鬼です。そして、そこにいる…千姫様、君菊さん、綱道さん……それに、私」
「…え?」
「私たちは、鬼です」
その言葉に、皆が困惑しているのが目に入る。
「お千ちゃんこと千姫様は、鈴鹿御前の直系にあたる、京を統べる旧き血筋の鬼の姫です。君菊さんは代々、千姫様のお家に使える忍びの家系の方。綱道さんと私は…東に住む鬼です」
桜は周りを見る。
「この国には古来より、【鬼】という生き物が住んでました。幕府や諸藩の高いくらいにある者は皆、知っていること…ほとんどの鬼たちは人間と関わらず、ただ静かに暮らすことを望んでいた。だけど…鬼の強力な力に目をつけた時の権力者は、力を貸すよう求めてきた」
「鬼たちは…それを受け入れたの?」
千鶴の問いに、桜は目を伏せる。
「多くの者は拒んだよ。なぜ人間の争いに自分達が加担しなければならないのかと。けれど……そうして断った場合、圧倒的な兵力で押し寄せてきて村落を滅ぼされることさえあった」
その言葉に、綱道の手に力が入るのが見えた。
「ひどい……」
「鬼の一族は次第に各地に散り散りになり、人目を避けて暮らすようになった。その中で人との交わりも進み、今では純血に近い鬼はそう多くはいない」
「それが、あの風間たちだと言うことかな?」
近藤の言葉に頷く。
「今、西国で最も血筋が良い家といえば、薩摩藩の後ろ盾を得ている風間家。頭領は、風間千景」
「風間千景…」
「そして……」
桜は緊張でゴクリと唾を飲み込む。
「そして、東国で最も大きな家は…雪風家」
「えっ…⁉」
「その次に大きな家は…千鶴の家。雪村家」
「ええっ…⁉」
千鶴は驚きで声を上げる。
周りの面々も息を呑んだ。
「私と千鶴の里は近く、交流も昔からありました。けれどある日………私達が隠れ住んでいた里は、人間たちにより滅ぼされた」
「私…何か大変なことがあって薫と離れる事になったと思っていたのだけど…」
「…千鶴はまだ幼かったから、全部を覚えてなくても仕方ないよ。千鶴は、里が滅んだ原因と鬼である事を忘れてしまったみたい」
そう告げると、千鶴が凄く狼狽えた。
「ほ、本当なの……?父様」
千鶴の言葉に、綱道は頷いた。
「ああ、本当の事だ…」
「…桜ちゃんは勿論、千鶴ちゃんにも特別に強い鬼の力を感じるの。貴方達は…東の純血の鬼よ」
「そんな…」
千鶴は言葉を失った。
「千鶴、黙っていてごめん。私を責めてくれて良い…薫にも口止めしていたのは、私だから」
「な、なんで…?なんで口止めなんか…」
「……私は、雪風と雪村の里を復興させていたのだけれど…もし、権力者の耳に入ったら?また奴らは力を求め、断れば里に攻め入ってくるに決まっている。里に関連する鬼に、手を伸ばしてくるに決まっている」
その言葉に、千鶴はハッとした。
鬼だという事を忘れていた事により、桜達なりに自分は守られて暮らしていたのだと。
「ごめんね、千鶴」
謝る桜に千鶴は胸いっぱいになり、首を振った。
桜はその様子を見て微笑むと、周りへと視線を向ける。
「先ほどお千ちゃんが言った通り、私と千鶴は…純血の鬼です。そして、私の方が千鶴よりは鬼の力が強い。風間が私を執拗に狙っているのはそれが理由です」
「鬼の力が強いと、なんかあんのか?」
永倉の問いかけに頷く。
「鬼の血筋が良い者同士が結ばれれば、より強い鬼の子が生まれる」
「……だからやたらと、桜を嫁にとかぬかしてたのか」
忌々し気な表情を浮かべる土方に、苦笑しながら頷く。
「千鶴の事は保護するだけだと言っていたけど、それも本当かどうか…」
「…風間は、言った事を違える事は無いと思うわ。千鶴ちゃんに危害は加えないと思うけれど…必ず二人を奪いにくるでしょう。今の所、本気で仕掛けてきてはいないようですが……それがいつまで続くかはわかりません。そうなったとき、あなたたちが守りきれるとは思えない。たとえ新選組だろうと、鬼の力の前では無力です」
そう言ったお千の言葉に、面々の表情が厳しくなる。
「……なあ、千姫さんよ。無力ってのは、ちと言い過ぎじゃねえか?」
「新八の言う通りだ。ちっとばかし、俺たちを見くびりすぎだぜ」
永倉と原田がそう言うが、桜が厳しい表情で口を開く。
「……今まで互角に戦えたのは、あの三人が本気じゃなかったから」
「おい!桜ちゃんまで…」
「とはいえ」
桜の言葉に永倉は非難の声を上げるが、桜がにっこりと笑ったので口を閉ざす。
「私は、この新選組の皆が、絶対に勝てないとは思えない。本当に…この人たちは強いから」
優しい表情でそう言った桜に、新選組の面々は笑みを浮かべた。
「…でもね、桜ちゃん。実際にはそう簡単でないことはわかってるでしょう?新選組の皆様も。あなたたちの役目は京の治安を守ることであって、彼女たちを守ることではないのですし」
厳しい表情のお千は、一つ息を吐く。
「ですから、私たちに任せてください。私たちなら彼女たちを守りきれます」
「桜は守られるほど弱くないと思うけど?」
「総司、ちょっと黙ってて」
相変わらずの調子の沖田に溜息を吐く。
お千の話を到底受け入れる姿勢ではない面々に、引く気は無いお千。
その様子をオロオロと見守る千鶴に、黙ったままの綱道。
そろそろ一息付くべきだなと考え、桜は手をパンっと叩いた。
「色々意見が出た所で…私と千鶴の意見も聞きませんか?」
「えっ?」
突然名前が出て、千鶴が驚いた様子で声を上げる。
「まず私はだけど、新選組を離れるつもりは今の所ない。理由としては…私はまだまだ強くなりたいし、ここまで皆と来たのだから行けるところまで行きたいし…羅刹をこの世から無くす為にも動きたい。だから、皆が本当の私の姿を知ったとしても、受け入れてくれるなら…ここに残りたい」
「ちょっと、桜ちゃん…!」
「風間なら、改めて話をするよ。今までは逃げてたけど…真剣にね」
そう言ってお千を見て微笑んだ。
「そして、千鶴」
「は、はい…!」
「…私としては、千鶴は里に戻って欲しいと思ってる」
「…えっ?」
桜の意見に、千鶴は目を丸くする。
「風間は千鶴がはぐれ鬼、つまり鬼の決まりを破って人間と深く関わっている、里を捨てていると思っていた。だけど千鶴はそうでない事を説明すると今度は保護すると言い出した。その事から、里に戻る事で千鶴は本来居るべき場所に戻ったと判断して、風間は手を出して来なくなると思う。だから…綱道さんと、薫と一緒に里で暮らしてほしいと思ってる」
「姉様…」
「でも、これはあくまで私の意見。千鶴の意見も聞かないといけない」
桜は優しく微笑む。
「すぐに考えは纏まらないと思うから…綱道さんと話しておいで。お千ちゃんや君菊さんの話も聞くと良いよ」
「雪風君、勝手に決められては…」
「山南さん、これは…千鶴には必要な事です」
山南にそう言うと、近藤を見る。
「…お願いします」
「…そうだな。雪村君の意見も聞かないといけないな」
近藤はそう言い、にこりと笑った。
別室を使うと良いと言われて千鶴達は広間を出た。
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