千姫の来訪~鬼を告げる
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その後、御陵衛士となった面々が抜けた後を埋める為にバタバタとしていたが、少し落ち着いて来た。
ちなみに、新八さんのイベントは千鶴がちゃんと回収してたみたいで一安心。
いつも通り町に買い出しに出ると、匡さんを見つけたから声をかけたのだが……
「…………」
「…………」
(うん、これは明らかに元気がないね)
桜はうーん、と考えた後、無言で立つ不知火の手を握った。
「匡さん、ちょっと来て」
「あ、おい」
何か用事の途中だったのかもしれないけれど、気にせずに不知火の手を引き、お茶屋へと向かい店内へと入る。
「とりあえず、甘いもの食べましょう」
「…なんでだよ」
「甘いもの食べたら元気出ません?」
そう言って頼んでいた団子とお茶を店員さんが持ってくると、早速手にする。
その様子を不知火が目を丸くして見ていた。
「……匡さん?」
「オレが元気ないように見えたのか……?」
「え、うん」
その返事に不知火はバツが悪そうに視線を逸らした。
「匡さん」
「…なんだよ」
「別に何も聞かないけど、とりあえず甘いもの食べよう。元気がない時は気分転換も大事だよ」
恐らくだが、彼の友人…高杉晋作関連だろう。
ぶっちゃけると細かい歴史に詳しくないが、こうして元気のない匡さんを見ていると、彼の身に不幸があったのだろうと考えついた。
そう考えながら団子を食べるが、不知火はいまだに手をつけていなかった。
「……もう!」
桜は不知火の団子を手にすると、口に押し付けた。
「本当はそっとしておくのが良かったのかもしれませんが、さっきの匡さんはこっちが見ていて不安になるくらい元気がなさすぎました。だから、気分転換」
もう一度、気分転換というのを強調して言う。
不知火は少ししてフッと笑うと、桜の手を掴んで団子を口に含んだ。
「お前は…お節介だな」
「それほどでも」
不知火が食べたのを見て手を引っ込めようとするが、不知火はその手を掴んだまま離さなかった。
(………ん?)
ググッと引いてみるが手は動かず、不知火は笑っていた。
「気分転換だろ?たまには誰かに食べさせてもらうのもいいな」
意地悪く笑った不知火に、そう言うことかと溜め息を吐く。
「今日だけですよ」
不知火が食べ終わるまで団子を口に運んでやり、元気を取り戻した様子にホッとした。
「……前によ、好意を寄せられてるって話してたろ?」
「…はい?ああ、確かにしましたね」
食べ終わった後、話し出した不知火に首を傾げる。
「その好意を寄せてる連中の中に、オレも入れとけ」
「え?」
「じゃあな」
お金を置いてヒラヒラと手を振り去っていく不知火に、桜はぽかーんとする。
(何が匡さんの琴線に触れたのか全くわからない)
残された桜は、ただ頭を抱えるしかなかった。
バタついていた屯所内もすっかり落ち着きを取り戻し、桜は日課の掃き掃除を境内でしていると、屯所の入口から突然大きな声が響いた。
「おーーい、桜ーー、おるかー?俺じゃー、坂本龍馬じゃー!」
「……え?」
聞き覚えのある声と名前にまさかと思い入口へと走る。
(なんか、こんなイベント、あったような無かったようなー)
途中、箒を片付けていると別の声も聞こえた。
「おい、そこの不審な男!ここがどこだかわかっているのか?勝手に屯所に入ってくるな!」
(ああー!相馬君がもう入口にいるー!)
聞こえてきたのは相馬の声で、桜は走る速度を上げた。
「平気やき。今の声はあいつにも聞こえちゅう筈やき、そのうち出てくるちゃ」
「いや、あのね…出てくるけどね…」
入口に着いて肩で息をしていると、相馬が振り返る。
「雪風さん……、お知り合いなんですか?」
「まあね」
「一言じゃ表せんような深い仲よ。にゃあ?桜」
「ややこしくなるから坂本さんは黙ってて」
溜め息を吐きながらそう言うと、ニカっと笑っている坂本を見る。
「何か御用があったんです?」
「いや、ちっくと京に来る用事があったき寄ってみただけやき。言うても、ここじゃ話せんき、外行って話そうや」
そう言って坂本は桜の手を掴んだ。
「あーもー…掃除中だったのに…」
再度溜め息を吐くと、相馬を見る。
「相馬君、ごめん。少し出てくるよ」
「雪風さん、本当に大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫大丈夫」
ヒラヒラと空いている方の手を振ると、坂本と屯所を離れた。
京の町へと繰り出すと、坂本を見る。
「いつまで手を握っているんですか」
「ずっと繋いでてもいいやか」
「僕、男色だと思われたくないんだけどなぁ?」
にっこりと笑いながらも、離せと気持ちを込めて言うと、坂本は頬を掻きながら手を離した。
「すまん、今の格好を忘れちょったが」
「いえ。今後気をつけてくれたら大丈夫ですよ」
そう言って笑うと、坂本も笑う。
「わかった」
細められた目に一瞬、艶が宿っていたがそこから目を逸らす。
「おっ?」
坂本はとある商家の店先に並んでいる物に目を留めていた。
「……簪や。一つこおちゃろうか?遠慮する必要ないき。これら、おまんに似合いそうやけんど?ほら……」
「……いや、ちょ」
坂本は桜の様子を気にせず、花の飾りが付いた簪を桜の髪へと宛てる。
「………」
「……坂本さん?」
黙った坂本を見ると、ハッとした後にニッと笑った。
「やっぱり似合う。自分の見立ての良さに、自分でも驚くにゃあ」
「……宛てる相手、間違えてるよ」
そう言うと、坂本はきょとんする。
「おまんに宛てたら駄目ながか?」
「いや、別に駄目でないけど…」
簪は昔の時代ではプロポーズの意味合いもあった筈だ。
坂本さんはそこまで深い意味を込めていないとはわかっているが、万が一私が女の格好をしていたら周りから見たらそういう風に捉えられる可能性もある。
相変わらず、彼の真意は読めない。
色々と考えながら「そもそも、屯所に持ち帰れないし」と伝えると、坂本は目を伏せながら簪を元の場所に戻した。
「……ああ、そうか。若い娘に男の格好をさせてあがなところに居させるなんて…新選組の奴らもひどい真似するにゃあ」
「いや、僕はそもそも自分の意思であそこにいるから…」
「なら、あのこんまい娘は?」
桜その言葉に、にっこりと微笑む。
「坂本さんが言ってる娘が…僕の思っている娘と同じかはわかりませんが、近いうちにお家に帰られるんじゃないですかね?きっとそこへは年相応の可愛らしい姿で」
坂本と改めて話したこと無かった千鶴の話題が出て、桜は少し驚いたがその様子を悟られないように気を引き締める。
坂本も桜が壁を作ろうとしている様子に気付いたのか、手にしていた簪を元の場所に戻し、フッと笑った。
「なあ、どっか行きたい所はあるかえ?せっかくやき、見たい所を片っ端から見て回ることにしようや」
この話はこれで終わりだと、坂本の様子を見て悟った桜は頭を捻る。
「特には…それより、坂本さん色んなところから追われてるんじゃ?」
「大丈夫やろ。俺は、これからの日本に必要な男やき。日本が俺を死なせたりせんろう」
その言葉に、桜は自分の服をギュッと握る。
「……もし、日本が貴方を見捨てた時は…その命、私に預けてくれますか?」
一人称が変わった桜に坂本は目を丸くする。
(大きく流れを変えずに坂本龍馬と言う男をフェードアウトさせる…要するに、暗殺を成功させる)
だからといって、本当に彼を死なせたくはない。
どうなるかは実際にその場に立ち合ってみないとわからないが…無事に助ける事が出来たなら、彼にはこの情勢への干渉をやめてもらうつもりだ。
そうする事で、坂本龍馬が死んだ後の世界の流れを作る…いや、作れると良いなぁ…
桜がそう考えていると、固まっていた坂本が動き出し、はぁああぁ…と深い溜息を吐いた。
「なんちゅう殺し文句や…」
「え?殺し文句……?」
まったく持ってそんなつもりは無かった。
というか、どこをどう取ればそうなる。
考える桜の手を坂本は掴むと、歩き出した。
「ちょ、坂本さん」
「龍馬」
「え?」
「龍馬って、名前で呼びいや」
そう言って笑った坂本に、少しドキッとした。
(…相変わらず侮れないな、この男)
バレないように深呼吸していると、チラリとこちらを見た坂本と目が合う。
「…もし、日本が俺を見捨てた時は…おまんにこの命、預ける」
その言葉に、桜は頷いた。
(…というか)
「どこに向かってるんですか」
「……茶屋」
「……茶屋?」
お茶屋ならさっきからあるではないか…と思ったが、桜はハッと気付いた。
(まさか……)
桜は足に力を入れると、坂本の腕をグイッと引く。
「ちょ、何考えてるんですか!」
「おまんが悪い!」
「はぁ?!」
「おまんが、可愛いのが悪い」
頬を掻きながらそう言った坂本に深い溜息を吐く。
「あのね…何を言ってるのかわからないんだけど…どこに可愛い要素があったのかもわからないし」
「全部」
「……龍馬さん、ふざけてるのかな……?」
桜は睨み付けるが、坂本は臆せずにニコニコとしていた。
「名前、呼んだなぁ」
「……まあ、呼べと言われたから」
「やっぱり、可愛いにゃあ」
ダメだ、この男話が通じない。
桜が頭を抱えていると、坂本は再び歩き出した。
「と、とにかく!僕は行かないから!そういうのは然るべき相手として下さい!」
「……俺にとって然るべき相手はおまんだけやが…変な事は何もせん!ただ…外やと抱きしめる事もままならん。抱き締めるだけや」
「だーーーもーーー!」
歩みを止めない坂本の頭を叩くと、桜は反対方向へと歩き出す。
「帰る!」
「ちょ、待ちいや!わ、わかった!俺が悪かった!!」
焦って謝る坂本の様子が面白くて、桜は暫く怒ったフリを続けていた。
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