坂本と再会~御陵衛士
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(体調不良者かな?)
来訪者は誰かと眺めていると、顔を見せたのは藤堂だった。
「…桜。ちょっと良いか」
「平助。うん、大丈夫だよ。どっか調子悪い?」
どうぞと目の前に座るように促すと、藤堂は素直に座る。
「……………」
俯いて黙ったままの藤堂に桜は首を傾げたが、彼が話し出すまで待つ事にした。
「ーーもし、仮にさ」
暫くして、口を開いた藤堂の言葉に耳を傾ける。
「もし仮にさ、自分の中に譲れない信念があって、自分の信じる道を行きたいとする……」
「…うん」
「でも、もしその道を貫くために、障害となる相手を排除する必要があるとしたら、桜なら……どうする?」
(これは……千鶴に聞いてたやつでは……?)
千鶴に聞いた上で私にも聞いてるのか?
いや、平助はこの事は千鶴にしか話してなかった。
と言う事は…やはり私が千鶴のポジションなのか。
信じたくなくて目を背けていたが、なぜ自分が各所でフラグが立っているのかも、そう考えれば理解は出来る。
理解はしたが、認めはしてないからな!
と誰に対してかわからない抗議をしながら藤堂の目を見る。
「………本来ならば、【排除】するという考えは良くないと思う……が、僕達は自分の信じた信念を、歩むべき道を行く為に、刀を手にしている。信じた道を行く“侍”として生きる為に」
そう言うと、藤堂の手を握る。
「避けられるならば、【排除】というのは避けるべきだが、自分の信じた道の為には必要な行為だと言うのならば、刀を振るう必要性はあると思っている」
そう言った桜に、藤堂は静かに目を閉じた。
「…オレさ、自分が正しいと思うものが、全てを賭けるに足るものかどうか悩んでたんだ……そして、きっと今でも悩んでる」
目を開けてこちらを見た後、藤堂は笑った。
「でも、桜のおかげで吹っ切れた。オレは一人の侍として道を貫こうと思う」
そう言った藤堂の目をしっかりと見つめ返し、桜は微笑んだ。
「うん、後悔しないようにね」
「ああ!」
ニカっと笑う藤堂の頭を桜が撫でると、藤堂はその手を掴んだ。
「ん?」
「桜…いつもありがとうな」
見た事ないくらい柔らかく微笑む藤堂に、不意をつかれた桜は自分の頬が少し熱くなったのを感じた。
「いや、どういたしまして…」
「じゃあ、オレ行くわ!」
またな、と言って藤堂が出ていくと桜は頭を抱えた。
(どいつもこいつも勘弁してくれ…)
ぺちぺちと自分の頬を叩くと、深い溜息を吐いた。
それから数日後、眠りにつこうかと思っていたら部屋の外を誰かが通る気配がした。
(……誰だ?)
寝巻きの上から羽織りを着て刀を手にすると、別の部屋から襖が倒される音がした。
(もしかして…)
「千鶴!!」
慌てて部屋を飛び出ると、千鶴の部屋の障子が無い事に気付いた。
「誰かーー、助けてくださいっ!」
千鶴の声が聞こえた直後に部屋へ辿り着くと、そこには腕から血を流す千鶴と、畳に流れた血を啜る羅刹がいた。
ブワッと怒りで体が熱くなるのがわかる。
桜は涙を浮かべる千鶴を見ると、素早く刀を抜いた。
「伏せろ!いいと言うまで頭を上げるな!」
その言葉に千鶴がハッとして身を伏せる。
「なっ…!」
驚いて振り向いた羅刹だが、桜が刀を抜く方が早かった。
「うがぁあ!!」
素早く抜刀された刀は羅刹の胸を貫いていた。
的確に心臓を貫いた桜の刀により、一瞬のうちに決着はついた。
「千鶴、こっちへ」
「は、はい!」
伏せていた千鶴に声をかけ、慌てて千鶴が桜の腕の中へと飛び込んできた時、土方達が駆け付けた。
「遅くなってすまねぇ」
「こいつ…この前、変若水を飲まされていた…」
桜は無言で千鶴を土方に預けると、息絶えた羅刹へと近寄り刀を抜いた。
(……いつまで経っても慣れないな)
刀に付いた血を振り払い鞘へと納めると、千鶴へと近づく。
「千鶴」
怯えた表情の千鶴に声を掛けて、力なく微笑む。
「怖い思いさせて、ごめんね」
「あ…姉様…」
千鶴は目に涙を滲ませると、桜の胸に飛び込んだ。
それを優しく受け止めると、背を撫でてやる。
「歳さん、今日は千鶴は僕の部屋で寝かせます。良いですね?」
「ああ、勿論だ」
「左之さん、平助、新八さん、後処理…お願い出来ます?」
「任せとけ!」
そう話をしていると、誰かが歩いてくる音が聞こえた。
「……まったく、こんな夜中に、なんの騒ぎですの?」
そう言って現れたのは、伊東だった。
眠そうな目を擦りながら部屋へと足を踏み入れた伊東は、硬直した。
「な、何なのですか!これは!」
「……ちっ」
「そこの隊士には、見覚えがありますわ。確か、隊規違反で切腹させた筈では……!それに、この血……!あなた方の仕業ですの!?」
「い、伊東さん、違うんだ。これはさ……!」
興奮した様子の伊東に藤堂は声をかけるが、伊藤は藤堂の言葉をぴしゃりとはねつける。
「何が違うのですか!幹部総出で、寄ってたかって隊士を殺すなんて……!」
「伊東さん、違いますよ。総出ではありません」
興奮する伊東に声をかけたのは、桜だった。
「僕が彼を手に掛けました。歳さん達は僕が彼を手にかけた後に来ただけです」
「雪風君が……?一体何があったのか、勿論説明をしてもらえるのですよね?」
訝しげな伊東に頷こうとした時、伊東の後ろにふらりと現れた人物が先に口を開いた。
「皆さん、申し訳ありません。私の不注意が原因です」
「山南さん…!」
現れた山南に、伊東は振り返る。
「……これ以上隠し通すこともできねえ、か」
ポツリと呟いたのは土方で、千鶴を見る。
「雪村、お前は席を外してろ。桜、任せられるか?」
「うん」
桜は土方に頷くと、伊東へ頭を下げて、千鶴の肩に手を回して部屋を出る。
「あの、兄様…」
「大丈夫だから、おいで」
優しく声をかけ、自室へと千鶴を招くと適当な場所へと座らせる。
「うーん、少し大きいけど…大丈夫か」
適当に寝巻きを取り出すと、千鶴に渡す。
「手当てをして着替えようか。千鶴も…僕も汚れている」
千鶴は怪我によって、桜は返り血によって服が汚れていた。
千鶴が頷くのを見ると、部屋に常備している救急箱から消毒液やらを取り出して千鶴の怪我の手当てをする。
パパッと手当てを済ませると、互いに着替えて汚れた服は桜が処分の為に預かる。
「きっと…明日には怪我は治っていると思うけど…暫くは怪我をしているフリをしておいてね」
「はい、兄様…」
俯く千鶴を、そっと抱き締める。
「千鶴が無事でよかった…」
そう言葉を零すと、腕の中の千鶴の肩が微かに震えていることに気付いた。
桜は無言で頭を撫でると、布団へと移動して体を横たえ、眠る体勢に入った。
(全く…今日だとは思わなかった)
千鶴が襲われる今回の出来事、平助の事もあったし近々だとは思っていたが…
桜は息を吐くと、千鶴の頭をそっと撫でた。
朝、眠る千鶴を尻目に着替えを済ませた桜は部屋を出る。
向かう先は土方の部屋。
「歳さん。いますか?」
「桜か…入れ」
許可をもらい中に入ると、顰めっ面の土方がいた。
「眉間の皺すごいですよ」
「……うるせぇ」
そう言った土方の前に座る。
「伊東さんは?」
「……新選組を離れる運びになった」
「…そうですか」
そこからは原作通りで、幕府の密命であることを伊東に説明した事、伊東が斎藤や藤堂を含めた隊士を引き連れ新選組を離れること、御陵衛士を立ち上げる事。
土方の話を全て聞き終え、桜は立ち上がった。
「ご説明のほどありがとうございます。では…お別れの挨拶にでも行きましょうかね」
「…そうか」
桜は土方に頭を下げると、部屋を出た。
部屋を出て歩いていると、前方から沖田が歩いてきた。
「あれ、桜」
「総司」
ニヤニヤしていた沖田だが、すぐに真顔になり桜の前で立ち止まると頬をむにぃと掴んだ。
「…急になに」
「いや、疲れた顔してたからね」
だからといって頬を掴む必要はあるのか、と思ったが彼なりの労りなのだろう。
「まあ、昨日の今日だし…疲れるよね」
沖田は桜を見て頬から手を離すと、ぽんっと頭を撫でて歩き出す。
「一君と平助なら、向こうの庭にいたよ」
「……ありがと」
桜はそう言って去っていく沖田に微笑むと、言われた場所へと向かう。
「一ちゃん、平助」
聞いた通り、2人は庭にいた。
「桜…」
無表情な斎藤に対し、藤堂は気まずそうに視線を逸らした。
桜はふぅ…と息を吐いて2人に近寄ると、ガシッと肩を掴んだ。
「2人とも、ちゃんとご飯は食べるようにね!体は壊さないように。わかった?」
そう言った桜に、2人は驚きつつも何度も頷いた。
それを満足げに見ると、肩から手を離す。
「2人が此処を離れるのは寂しい事だけど…コレが最後じゃない」
桜の言葉に、藤堂はハッと顔を上げる。
「またいつか会える。私はそう思ってる…だから、もう一度言うけど…体を壊さないようにね」
その言葉に、斎藤はフッと笑い藤堂もニッと笑みを浮かべた。
「ああ、わかった」
「桜も、体壊さないようにしろよ!」
「勿論!…またね」
また会える。
私はわかっているから、またねって言うことにするよ。
その時は平助がかなり危ない状態になるけど…必ず救うからね。
そう心に決めながら2人に手を振ると、その場を離れた。
「さてと……」
伊東さんと三木さんには悪いが、2人への別れの挨拶は割愛させてもらう。
勧誘される事、間違いなしだからな。
桜はそそくさと医務室へと戻る。
誰にも会わずに医務室へと辿り着き、ふぅと溜め息を吐いた。
置いてある椅子に座ると、今後のことを考える。
(流れが変わっていない限り、2~3ヶ月後にはお千ちゃんが千鶴を迎えに来るはず。そのタイミングで綱道さんが一緒に帰ってくれると言ってくれればいいけど……)
うーん、と頭を悩ませていると、控えめに医務室の戸を叩く音がした。
「はい、どうぞ」
そう声を掛けると入ってきたのは千鶴だった。
「兄様にお手紙が届いています」
「ん、ありがとう」
そう言って手紙を渡してくれた千鶴の目元は少し赤かった。
別れの挨拶を交わしたのだろう。
「千鶴、おいで」
「……?はい」
近寄って来た千鶴を座ったまま抱きしめると、千鶴の懐に頭を寄せる。
「に、兄様?」
「大丈夫、必ずまた会えるから。今生の別れじゃないよ」
「……はい!」
目を潤ませながら笑った千鶴に、桜も笑った。
少しして千鶴と別れた後、手紙を確認する。
「これは…」
思わず笑みが溢れる。
(ああ、このまま良い方に進んで欲しい)
そう思い、手紙を握り締めた。
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