坂本と再会~御陵衛士
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土方と原田の件があってから数週間…二月に入り、一月は色々とバタバタしていた屯所も少し落ち着きを取り戻していた。
桜は2人に対して何もなかった様に過ごしており、そんな桜を見て2人も大袈裟に行動に移すような事はなかった。
(次はあれを片付けないとな~)
屯所の掃除は千鶴や相馬達にお願いし、桜は自身がメインに対応している医務周りの薬調達や在庫の確認を行なっていた。
買い出しに行く前にリストを纏めようと自室へ向かう途中、クイっと服を引かれた。
「ん?」
「何してるの?」
服を引いたのは、階段に座る沖田だった。
「総司。買い出しするヤツを纏めようと思ってね。それより…」
沖田の背後に回ると、膝立ちになり沖田の顔を掴んでグイッと正面に向かせ、沖田が首元に掛けていた手拭いを頭に被せた。
「ちゃんと髪の毛を拭きなさい」
「今日は天気いいし、放っておいても乾くでしょ?」
風呂上りで髪を濡らしたまま沖田がそう言うものだから、ふぅ…と息を吐く。
(そういや、こんなイベントあったな)
千鶴のイベントなんだけどなぁ…と思いながら、沖田に視線を向ける。
「馬鹿。天気が良くてもまだ二月。寒いんだから冷えたら風邪ひくでしょうが」
「少しくらい大丈夫でしょ」
「大丈夫じゃない」
桜がそう言いながら頭を拭いてやると、沖田は気持ち良さそうに目を閉じる。
「全く…子供じゃないんだから」
「僕も、君が親って嫌だな」
ほう、喧嘩を売っているのかコイツは?と思いながら少し頭を拭く手に力を込めてやる。
「ちょっと、痛いんだけど」
「痛くしてるからね」
桜はそう言った後、沖田の髪が乾いたのを確認して彼が持っている紙紐を受け取ると、彼が拘っている結び方…近藤と同じ髪の結び方をしてやる。
「…ありがとう」
「どういたしまして」
礼を言った沖田に返事をして立ち上がろうとすると、急に沖田が振り返って驚いた。
「き、急に振り返ったら驚くんだけど」
「ごめんごめん」
気持ちの籠もっていない謝罪にため息が出そうになったが飲み込む。
それより、距離が近い。
桜がそんな事を考えていると、沖田は桜の体の横に手をついてググッと更に顔を近づけてくる。
「ちょっと、そういうおふざけはいらないよ」
「君が親って嫌だと言ったのはさ、変な意味じゃないよ」
おう、また無視かこの野郎と思いつつ、沖田の言葉の続きを促す。
「じゃあ、どういう意味」
「子供は親と夫婦になれないでしょ?そういう事だよ」
沖田はそう言ってクスッと笑うと、立ち上がってその場を去っていった。
残された桜は……
(まじか…まさか、アイツもなのか…)
と、頭を抱えるのだった。
「って事がありましてね」
「……はぁ」
「え?なんの溜息ですかそれ」
三月に入ったある日、町で偶々会った不知火を捕まえて近くの茶店へと来ていた。
誰に、とは言わないが自分に好意を寄せている人間がいて困ったと言う桜を、不知火は呆れた表情で見ていた。
「お前な、相談する相手間違ってるだろ」
「匡さん、あの風間を相手してるからいけるかなって」
「いけるか!」
ペシっと頭を叩かれ、えーっと不知火を見る。
「そもそもな、俺が相手してる奴もお前の事を嫁にするって言ってんだぜ?」
「……忘れてた。考えたくもなかった」
「お前な…」
不知火は再度溜息を吐くと、目の前のお茶を飲む。
「どうせ、新選組の奴らだろ?」
「うっ…」
「まぁ…仕方ねえんじゃないか?」
「仕方ない?」
桜が聞き返すと、不知火は頬杖をつく。
「付き合いが長ければ嫌な部分も見える、が良い部分も見える。その結果、あいつらにはお前が魅力的に見えたって事だ」
「うーん…」
桜は不知火の言葉に頭を捻る。
「でも、僕そんなに魅力ないと思うけどなぁ…」
「自分でも分からない魅力があるんじゃねえか?」
「自分でも分からないねぇ…」
桜はお茶を飲むと、不知火を見る。
「まあ、人の気持ちなんかわからないもんね。変にちょっかい掛けられてる訳じゃないし、とりあえずは普通に過ごしておくか…」
「ああ、そうしとけ」
不知火は笑うと、立ち上がる。
「そろそろ帰るわ。風間の使いの途中なんだよ」
「あ、そうだったんだ!ごめんなさい匡さん」
申し訳なさそうにする桜の頭を、不知火はポンっと撫でて去っていく。
「オレは、お前のそういう素直なところがいいと思うぜ」
去り際のその言葉に、桜は目を丸くした後、少し笑って残りのお茶を飲み干した。
(さて)
気合も入ったしこの後の出来事に備えなければ行けない。
この先の出来事…千鶴が羅刹に襲われ、御陵衛士として伊東さん率いる隊士達が抜ける。
まず、千鶴の部屋に羅刹が来る。
隊規違反をした隊士は…今も数名いる。
ただ、薬を飲ませたかどうかは不明だ。
(山南さんはあれからも薬の研究は政府に突かれた時くらいにしか行っていない。だから政府が何か言って来てなければ、薬を飲ますこともないだろうから羅刹のイベントは起こらないと思うけれど…)
どうなるかはわからない。
桜は万が一のことを考え、ソッと刀に手を当てた。
次は御陵衛士として抜ける面々だ。
一ちゃんは問題ない。
問題は…伊東さん、三木さん………平助。
私に出来るのだろうか、伊東さんを…見捨てることを、三木さんを落ち着かせることを、平助を救うことを。
桜はふぅ……と1つ溜息を吐くと、屯所への帰路を歩き出した。
「桜、戻ったか」
屯所に戻ると、こちらを見つけた土方が声をかけてきた。
「何かご用ですか?」
「ああ、話しておきたい事がある」
こっちに来いと言われついて行くとそこは土方の部屋で、襖が開けられると中には斎藤がいた。
「一ちゃん?」
「……桜か」
(一ちゃんがいるという事は……?)
「単刀直入に言うが………斎藤には伊東さんの動向を探ってもらっていた」
(ビンゴ)
斎藤の隣に座り、土方の話を聞く。
「報告によれば、伊東さんは例の伊東派の人間を増やして新選組を離れるつもりみたいだ」
「……なるほど」
桜は返事をして一つ頷く。
「その中に斎藤も潜り込ませる。定期的に報告を貰うつもりだが、直接ここに来させると万が一誰かに見られた場合、厄介だ。そこで桜に報告の受け渡しを頼みたい」
「……僕が?でも、僕も顔割れて……」
そこまで言って、ハッと気付いた。
「斎藤が、街中で“町娘”と偶々話していても別に不自然じゃねえだろ?道に迷っただけかもしらねえし、もしかしたら良い仲の相手かもしらねえしよ」
ニイッと笑った土方に、桜は溜息を吐いた。
「なるほど……わかりましたよ。引き受けます」
「ありがとうよ」
桜は苦笑すると、斎藤を見る。
「という事で、その時はよろしくね」
「ああ、こちらこそ頼む」
「さて、急に呼び出して悪かったな、二人とも。伊東さんに怪しまれないように、隊務に戻ってくれ」
その言葉に頷くと、斎藤と共に部屋を出る。
「さて、僕の変装技術が火を吹くよ!」
「変装とは……元の姿だろう」
「うーん、まあ、そうだけど…」
斎藤と話しながら廊下を歩いていると、フと斎藤が立ち止まる。
「…一ちゃん?」
振り返ると、そこには真っ青な顔押した斎藤が口元を押さえていた。
「え⁉ちょ、一ちゃん!」
何か毒でも盛られたのかと思い、斎藤に駆け寄る。
片手を取って脈を取り、目の様子なども見たが異常はなさそうだった。
「ど、どうした?どっか体調悪いの?」
焦る桜に対し、斎藤はゆっくり口を開いた。
「万が一、ここを離れる事になれば……桜の料理が食べられなくなる」
押し殺したようにそう言った斎藤に、桜は呆気に取られた後、声を上げて笑った。
「もう…びっくりさせないでよ、そんな事で…ふっ…」
「笑い事ではないぞ!」
そう言って肩をガッと掴まれ、桜は驚いて斎藤を見る。
「俺にとって桜が作る料理は力の源。食べなければその日の隊務も手につかず全くやる気も出ない。食べれば幸福な気持ちに包まれ、その日を頑張ろうと思えるのだ」
私の料理はやばい何かかと思ったが、まあそこは突っ込まずにおこう。
気に入ってくれているならば嬉しい事だからな。
「俺は…」
「ん?」
「俺は…これから先も、ずっと桜の作った豆腐入りの味噌汁が飲みたいと思っている」
「…………ん?」
少し頬を赤らめている斎藤に桜は首を傾げる。
(これはプロポーズにも受け取れてしまうが大丈夫か?)
桜が首を傾げたまま止まっている事に気付いた斎藤は、慌てて手を離した。
「と、ともかくだ。俺はあんたの料理が好きだから、残念だという事だ」
「そっか…ありがと」
桜は斎藤の頭を撫でると、斎藤と分かれて医務室へと向かった。
(……あっぶない。あれ以上あそこにいるのはよくなかった気がする)
あの様子からするに、ガチだ。
私は気付かぬ間に一ちゃんともフラグを立てていたのか…気付かなかった…
医務室について頭を抱えていると、誰かが近づいて来る足音が聞こえた。
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