坂本と再会~御陵衛士
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「皆、明けましておめでとう!思い思いに楽しんでくれ!」
そう言ったのは近藤で、この言葉に広間に集まっていた隊士達は皆手にした酒を煽り始めた。
(夜中なのに元気な事で)
先ほどまで、年末という事で隊務の無いものは既に飲んでいたのに、年が変わる鐘が鳴り響いてからも相変わらず飲むつもりのようだ。
年越し蕎麦を作り、お節料理をひたすら用意していた桜は、その様子をみて苦笑するだけだった。
「全く…夜が明けたら二日酔いのオンパレードになりそうだな」
そう言い、医務室へと向かう。
患者を見るために静かな場所に用意をしてもらっている医務室には、騒がしい声は届かない。
桜は欠伸をすると、医務室に備え付けている布団を敷く。
(どうせ大体のものは二日酔いで使えない。代わりに軽く巡察でも行かないとな…)
その為に備えて桜は眠る事にしたのだ。
(千鶴には伝えてあるし、きっと大丈夫だろう)
ソッと目を閉じると睡魔はすぐに襲ってきて、深い眠りへとついた。
「案の定だったなぁ」
目が覚めて一度自室に戻って用意をし、その後広間へと向かうとそこは死屍累々という言葉がぴったりの惨状になっていた。
少し引いたがまあ今となっては見慣れた光景でもあるので何も突っ込まず、屯所を出る事にした。
まだ早い時間という事もあり、町はとても静かだった。
少し不思議な気持ちになりながらも近くの神社へと向かうと、そこには人がいた。
「あれ?相馬君?」
「………?あ、雪風さん!」
振り返ったのは相馬で、視界に桜を収めると驚いたのか目を丸くした。
「お詣り?」
「はい、そんなところです。雪風さんは何故ここに?」
「僕は…飲んだくれ達の代わりに巡察、という名のお散歩かな」
「そ、そうなんですね…」
飲んだくれという言葉に苦笑する相馬の隣に桜は並ぶと、目の前の社に手を合わせた。
「相馬君もゆっくりしてたら良かったのに」
「いえ、俺はまだまだ未熟ですから。少しでも鍛錬を積まないと。それに…」
そこで言葉を濁した相馬に、首を傾げる。
「どうしたの?」
「あ、えと…烏滸がましいですが、雪村先輩や雪風さんを守れるくらいの力を付ける必要もあるなと、思って…まして」
そう言った相馬に、桜は微笑む。
「ありがとう」
「あ、いえ!」
その笑みを見た相馬は頬を赤くして顔を逸らした。
本来ならば三木さんが絡んだ事により千鶴が女の子である事を相馬君と野村君に話すイベントが発生する筈だったのだが、それは私の動きにより起きる事はなかった。
ただその代わり酔った隊士が千鶴に絡み、その場にいなかった私の代わりに相馬君と野村君が代わりに千鶴を助けてくれて、その際に2人には私たちが女である事を話したのだ。
良かったのか良くないのか分からないが、予定調和というものが発生したのだ。
それ以来、相馬は千鶴だけではなく自分の事も気にかけてくれている。
「相馬君は、剣術こそまだまだかもしれないけど、とても強い心を持っている」
「心…ですか?」
「うん。そんな君に救われる人は沢山いると思うから、これからも期待しているよ」
ニッと笑うとわしゃわしゃと相馬の頭を撫でた。
「あ、ちょ!」
「じゃあ、巡察に行ってくるね」
桜はそう言うと、去っていった。
相馬はその後ろ姿を見送ると、撫でられた頭に触れて笑った。
「お?少し人が増えてきたかな?」
お昼を回る頃、挨拶回りのなどの為に出歩く人達が増えてきた。
桜も普段お世話になっているお店に挨拶回りをしていると、前方に見知った人物を見つけた。
「八郎!」
「桜さん⁉」
声をかけられた伊庭は振り返り驚いた後、笑顔を浮かべた。
「八郎も挨拶回り?」
「まあ、そんな感じですね。今はひと段落ついたので新選組の屯所に挨拶に行こうかと思ってました」
「あー…もう少し後の方がいいかもね」
桜の言葉に何かを悟った伊庭は苦笑した。
「ならば、少しお茶でもしませんか?」
「勿論、いいよ」
伊庭の言葉に頷くと、近くの茶店へと向かった。
長椅子に腰掛け、用意してもらった温かいお茶を飲むと、ホッと一息吐く。
「お茶が美味しいなぁ…」
「お年寄りみたいになってますよ」
「まぁ、いい歳になりつつあるからねぇ…」
元いた世界と合わせたらお婆さんに近づきつつある年齢だ。
「……僕とあんまり変わらないですよね?」
「……さあ?」
桜はフッと笑ってお茶を飲んだ。
「いい歳と言えば、八郎は良い人はいないの?」
「な、何を…!」
顔を赤くする伊庭に、桜は笑みを深くする。
「その反応は……いるんだ」
「…秘密です」
「えー教えてくれてもいいのに」
(貴女です、と言ったらどんな表情をするんですかね)
伊庭は隣でお茶を飲む桜を見て微笑み、自分もお茶を一口飲んだ。
「兄様、お帰りなさい」
「ただいま千鶴」
屯所に戻ると、掃除をしている千鶴と出会った。
屯所内の様子を聞くと、皆は頭を押さえながらもそれぞれのすべき事をするべく動いているとの事だ。
桜は教えてくれた千鶴に礼を言うと、自分も医務室へと向かった。
きっと溢れるであろう、二日酔いの人達に備えて…
(……何故私が連れ出されているのだろうか)
年も明け、先日の宴会騒ぎから少し経ったある日、桜は土方に連れられて島原へと来ていた。
(これ、千鶴のイベントですよねー?)
そんな事を思いながら、目の前の面々を見る。
正月に永倉と斎藤を連れて島原に三日も居続けた伊東に関する話を、土方、原田、永倉が行なっていた。
(幹部引き抜きの話だったかな?確か)
私も正月に島原へと誘われたがきっちり断っておいた。
というか、このイベントは歳さんが屯所を出るときに密会だと思われないように千鶴を連れて出て行く筈なんだけど…私も一応幹部だよ?大丈夫?
桜はチビチビとお酒を飲みながら、そんな事を考えていた。
(…まあ、いいか)
桜はスッと立ち上がると、通りかかった店の人に追加の酒を頼む。
(私は巻き込まれるのはちょっとアレなので…さっさと潰すか)
絡み酒というのは…大変な面倒なものです。
桜がニッと笑うと、追加の酒が届いた。
「ああ。んじゃ、堅い話はここまでだ。この後は好きに呑んでってくれ。今日は門限も気にしねえでいいぞ」
「お、土方さん、帰るつもりじゃねぇだろうな?」
話が終わって帰ろうとする土方に、原田がそう告げる。
「おいおいおい、今日は無礼講だろ?桜ちゃん、酒だ酒!土方さんについでやってくれ!」
「はいはい、そう思って追加で頼んでますよ」
ニカッと笑う永倉に呆れながらも酒を見せる。
「おい、俺は呑むとは言ってねえぞ!」
「島原で男同士が集まって、酒も呑まないで帰る方が怪しまれると思うけどな」
「確かにそうだが……わかった、ちょっとだけだぞ?」
そう言った土方に、早速酒を差し出した。
「桜、俺も頼んでいいか?」
「はいはい」
「桜ちゃん、俺も!」
「順番にするから待ってね」
原田と永倉にも酒を注ぐと、目の前に杯が差し出された。
「ほら、お前も呑め」
そう言ったのは土方で、桜は笑って杯を受け取った。
暫く呑んでいると、酒を煽った土方の眉がピクリと動いた。
「おい、桜。これは本当に酒なのか?水じゃねえだろうな」
(……やば)
その言葉に、原田、永倉と目を合わせた。
「酒の味がしねえな。もっと強い奴を出せって店の者に言ってこい」
「土方さん、酔ってんな」
「そうだな、酔ってんな」
「ああ?誰が酔ってるって?」
原田と永倉の言葉に、土方はギロリと視線を向ける。
「僕、そろそろ…」
帰ろうかなぁと続くはずだった言葉は、原田と永倉に肩を掴まれた事で阻止された。
(目が、1人だけ帰さないと訴えている…)
2人もよく知っているのだ、酔った土方の絡み酒はめんどくさいと…
桜は酒で土方を潰せなかった…と溜息を吐くと、諦めて目が据わっている土方をチラリと見て、その後永倉を見る。
「もう、借りてますよ」
「おっ、さっすが桜ちゃん。手際がいいな!」
その言葉に笑う永倉に溜息を吐きながら立ち上がると、土方の腕を掴む。
「あ?なんだ?」
「いいから、ちょっと付いてきてください」
「あ、おい…!」
桜は土方を立ち上がらせると、満足に歩けていない土方を支える。
「左之さん、新八さん…どうぞごゆっくり」
そう言った桜の目が笑っていなかった事に2人は身震いし、その背を見送った。
別室につくと、用意された布団に土方を座らせる。
「なんで俺だけ個室なんだ。副長は煙たがられてんのか?」
「違いますよ。ちょっとばかし歳さんが酔ってるからですよ」
「勝手に決めつけんじゃねえ!俺はまだまだ酔ってねえよ!」
「あー、はいはい」
桜は大声を出す土方に溜息を吐く。
(画面越しだと実際に飲んでいる様子は見れないから分からなかったけど、あそこまで酷い飲み方をするとは思ってなかった)
それだけ思うところがあったのかと考えていると、グイッと肩を掴まれた。
「ちょっ…」
こちらを睨み付ける土方との距離が近付く。
濃く香ってくる酒の匂いに、かなり酔っている事を改めて実感する。
「あの鬼だのなんだの面倒な奴らはなんだ!羅刹の事も、千鶴の事も、お前の事も何か知ってるみてぇだし、特に風間って奴は遠回しな言い方しかしないし、やたらとお前に執着してやがるし!」
「それは僕も本当に迷惑してるんですよね」
「その割には仲が悪いようには見えやしねぇぞ!」
怒鳴る土方に出そうになる溜息をなんとか飲み込む。
「平助も何か悩んでるみたいだが黙ってるとか水臭いと思わねえか!?それに、お前も何か色々抱え込んでるみたいだしよ………」
桜は自分の事も気にかけてくれている土方に、心の中で感謝を述べるとその頭をそっと胸元に抱き寄せた。
「おい、何してやがる」
「ちょっと落ち着きましょうか。歳さんらしくないですよ」
「あ……?」
「どんな大変な状況でも【なんとかする】のが、【新選組副長の仕事】でしょ?」
そう言いながら子供をあやすように背に手を回してポンポンと叩いていると、土方の体から少し力が抜ける。
「別に、僕に弱音を吐くのはいいですけど、少し落ち着きましょう」
「……そうだな」
「歳さんなら、今の状況も、人が何かを抱えて悩んでいようとも、なんとかできるでしょ?」
「……ああ。最後に【これでよかった】と思える程度の結果は、どうにかして出してやるさ」
桜は落ち着いた様子の土方を見て、胸を撫で下ろした。
(私でどうにか出来るか分からなかったけど、落ち着いてくれてよかった)
桜がそう考えていると、モゾモゾと動き出した土方の腕が腰に回った。
「……歳さん?って、うわっ…!」
急に引かれたかと思うと、トサリと背中に固い感触が当たる。
驚いて閉じていた目を開けると、目の前には眉を潜める土方の顔とその後ろに天井が見えた。
(……これは俗に言う、押し倒されたというやつか)
冷静に分析していると、頬を撫でられる。
「お前には、いつも助けられてばかりだな」
「僕も歳さんにはよく助けられてますよ?」
「いや、なんていうか…色々とよ」
はて?私はそんなに彼の精神を助けるような事はしていただろうか?
うーん、と考え込む桜に土方はフッと笑う。
「俺が勝手に助けられてるだけだ。そんなに深く考えなくていい」
「そうですか…」
(それより、そろそろ退いてくれないかなぁ…)
そう思いながら頬を撫でる土方の指の感触が擽ったくて、少し身を捩ると土方が動いたのが見えた。
「桜…」
「えっ…」
徐々に近づいて来る顔に少し焦って抜け出そうとすると、ぽすりと自分の肩に顔を埋めた土方に体を震わす。
「と、歳さん……?」
声をかけても反応がない。
よく聞くと、スーと寝息が聞こえてきた。
(……寝たのか)
寝てくれてよかった、心臓に悪かった。
桜は深い溜息を吐くと、土方の下からなんとか抜け出す。
「………流石に焦りましたよ」
自分の頬が赤いのを自覚している桜は、土方用に貰っていた水を自分で飲み干した。
「っ…頭が痛え…」
そう言って起きた土方の目の前に、水が差し出される。
「はい、どうぞ」
「ああ、すまねえ…」
差し出したのは桜で、土方は水を受け取ると一気に飲み干した。
「桜…昨日はすまなかった……」
しゅん、と効果音がつきそうなくらい縮こまる土方に、笑ってしまう。
「わ、笑うんじゃねえよ!」
昨晩の出来事をしっかりと覚えている様子の土方は、頬を赤くして大きな声を出した。
「まぁ、たまにだったらいいですよ」
「お、おう…ああでもよ」
口をモゴモゴさせる土方に、桜は首を傾げる。
「迫った事は、謝らねえぞ」
「えっ…」
(まさか、そこも覚えてるの……?というか、謝らないって…え?)
グルグルと思考を巡らす桜に、土方は笑うのだった。
桜も落ち着きを取り戻した頃、元いた部屋へ戻ると2人は飲み潰れていた。
土方と共に原田と永倉を回収して屯所に帰ると、千鶴がやたらと心配していたので暫くは夜に出かけるのは控えようと決めた。
(それにしても…)
今日は休みを貰い、部屋に戻った桜は朝の事を考えていた。
(迫った事は謝らないって、どういう事…?)
え?そういう事なの?まさか、歳さんが?え?
いやまぁ、たまにからかってくるなぁとかは思ってたけど、ガチだったの?
まさか、知らないうちに私とフラグ立ってたの?
桜はふう…と息を吐く。
(不本意ながら…左之さんと若干フラグは立ってたような気がする…不本意ながら…風間はああだから完全に私が千鶴の立ち位置になってるし、坂本さんはよく分からないし…他は?他は大丈夫だよね…?)
桜はうーんと頭を悩ませる。
前から桜は恋愛が得意な方ではなかった。
その為、この世界に生まれ変わったときには千鶴もいるし、自分に恋愛のフラグが立つ事はないだろうから皆を救う事に集中しようと意気込んでいたのに……
(まさかすぎる)
桜が深い溜息を吐いた時、誰かが部屋に近付いて来た事に気付いて視線を向ける。
ピタリと部屋の前で止まった人影をジッと眺めていると、控えめに声がかけられた。
「桜、いるか?」
「あ、はい。いますよ」
返事を聞いて部屋に入って来たのは、原田だった。
「急に悪いな」
「いえ、どうしたんです?僕の恨み言でも聞きに来ました?」
「そ、それは悪かった」
よくも悪酔した土方さんを押し付けやがったなぁ…と少し恨みがましく見つめると、原田は焦って謝った。
「……まあ。別にいいですけど。で、御用は?」
桜が改めてそう問いかけると、原田は目の前に座った。
(ちょっと、近くない?)
膝と膝が触れ合うくらい近距離に座った原田をどうしたのだと見ていると、スッと顎を持ち上げられた。
「さ、左之さん?」
無言で首回りを確認し、最後に顔を近づけたかと思うと1度匂いを嗅いだ原田にビクッと体を震わせる。
「ちょ、僕臭います?」
「あ、いや。悪いな、そうじゃなくてよ」
割と真剣に問いかけた桜に、原田は罰が悪そうに視線を逸らしながら離れ、頭を掻いた。
「その…土方さんとお前の様子がこう…いつもと少し違ったからよ。もしかして…と思ってな」
「もしかして?」
桜が意味がよく分からなくて首を捻ると、原田は溜息を吐いた。
「なんで溜息吐くんですか」
「お前はこういう事には疎かったなと思ってな」
原田はそう言うと、桜の頭に手を回し髪紐を解く。
「あ、ちょっと何して…ってうわ!」
あれ、なんか昨日もこんな事あったぞ?と考える桜の眼前には、原田の顔と自室の天井があった。
「土方さんと、男女の仲にでもなったのかと思ったが…違う様だな」
「なっ…!?違うに決まってるじゃないですか!もう…早く退いてくださいよ」
グッと胸を押すが、原田は動かなかった。
「左之さん、悪ふざけが過ぎますよ」
「ふざけてなんかねえよ」
いつもより真剣な目をする原田に、桜は少し怯む。
「男女の仲にはなってないが…意識せざるを得ない何かが起きたってとこか?お前に土方さんの介抱させたのが間違いだったな…」
原田の言葉にドキッと体を固まらせると、頬を撫でられる。
「土方さんだけじゃなく、俺の事もしっかり意識してくれよな」
そう言って原田はフッと笑うと桜の頭を撫でてから体を退け、部屋を出て行った。
残された桜は今言われたことをすぐに理解出来ずに固まっていたが、少しして盛大な溜息を吐いた。
「あーもー……左之さんとも完璧にフラグが立ってしまった…」
今までなんとか濁して逃げてたのに。
桜はもう一度深い溜息を吐くと、不貞寝してやると決め込んでそっと目を閉じた。
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