坂本と再会~御陵衛士
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そして、蒸すような暑さも次第に遠ざかり、秋の足音が聞こえ始めたある日のこと……。
日課の掃除を千鶴と手分けしながら行っていると、足音が近付いて来ていることに気付いた。
広間の床を拭いていた手を止めると、やってきた井上は桜を見て微笑んだ。
「ああ、ここにいたのかい」
「僕をお探しでしたか?」
「ああ、君宛に手紙が届いていてね」
そう言って井上は手紙を差し出した。
手紙を受け取ると、井上は微笑んだ。
「確かに、渡したからね」
「ありがとうございます」
井上に礼を言うと、彼は去っていった。
(手紙…もしかして)
差出人を確かめると、そこには【梅】とだけ記されていた。
(やっぱり、坂本さんか)
桜はフッと笑うと、封を開ける。
『よう、桜。元気にしよったかえ?ちゃんと毎晩、俺の夢を見てくれゆうろうか』
そんな言葉で始まっている手紙に、更に笑ってしまう。
その続きは“怪我はすっかり良くなった””ちょっとした用で京に来ている”と記されており、最後に…
『久々におまんの顔を見たい。こないだの可愛らしい格好でおいでや』
そう書かれていた。
(さて……)
確か原作では、このタイミングで坂本さんは綱道さんの話をする為にと千鶴を呼び出す。
ただ…今回呼び出されたのは私だ。
私は綱道さんの話をした事がないから、勿論呼ばれる理由はそれではない。
(はてさて…)
一体何なのだろうと考えたが、すぐに考えるのをやめた。
ここは、1人の友人として会おうではないか。
(一応、近藤さんと土方さんには言っておくか)
桜は掃除の手を止め、彼らがいるであろう部屋へ向かった。
「駄目だ」
「早すぎるよ歳さん」
坂本さんに会いに行っていいかと言えば、即座に土方から却下された。
「近藤さん、山南さん、別にいいですよね?」
「いや、その……だな……」
「……………」
しどろもどろになる近藤と笑顔で威圧をしてくる山南に、桜は頬が引きつる。
(うーん、なんか千鶴の時より警戒強くないです?あれか、理由がないからか)
頭を捻った後、そうだと土方を見る。
「皆さん、坂本さんの動きが気になっているんですよね?私が色々聞いてくる……とかどうです?」
その言葉に、土方は動じなかったが山南は、ふむ……と顎に手を当てた。
「彼も雪風君になら…何か情報を渡すかもしれませんね」
「山南さん、しかし…」
「まあまあトシ、雪風君がそう簡単に危ない目に合うとも限らん。実力は我々のお墨付きだしな」
山南と近藤の言葉に、土方は眉間のシワを深くした後にため息を吐いた。
「…………坂本が怪しい動きをしたら、すぐに斬って逃げてこい」
「!?…歳さん、ありがとう」
近藤と山南にも礼を言い、部屋を出た。
桜は自室へ戻ると、坂本へと返事を書くのであった。
それから数日後、桜は坂本に指定された茶店へとやってきていた。
仕方ないからと女性の格好をして。
その手には以前と同じく布に包んだ愛刀を持っているが。
(さてと)
指定された茶店は坂本と初めて会った場所、あまり実感はないがもう初めて会ってから2年も経っているのか…と考えていると、目的の人物が現れた。
「おまん……… 桜がか…?」
「…女性を待たせて言う一言目がそれですか?」
驚いている坂本に満面の笑みでそう言うと、腕を引かれて近くでマジマジと見られた。
満足したのか坂本は笑いながら顔を離す。
「桜、待たせてすまんにゃあ。めっそうに可愛いから、驚いちょったが」
「…そんなに待ってないから、大丈夫ですよ。それよりお久しぶりです。お怪我の具合は?」
「相変わらずつれんな、おまんは。怪我に関してはすっかり元気よ。まっこと、あの時は世話になったにゃあ。……ありがとう」
「どういたしまして」
笑顔でそう言った坂本に、桜は笑みを浮かべて答えた。
「ちっくと歩くか」
「あ、ちょ…」
手を繋がれて驚いたが、それを見て坂本は笑いながら歩き出した。
桜は呆れたように笑いながら、一緒に歩き出した。
街中を色々見ながら、他愛も無い話をする。
楽しそうな坂本を見て自分も楽しくなってくる。
色々と話しながら歩いていると、山道へとやってきており、暫く歩いた後に坂本はふと足を止めた。
「さて、この辺やったら大丈夫か」
「ん?」
「ん?って…どうせ、何か情報を持っていなんと怒られるがやろ」
そう言った坂本に苦笑する。
「怒られるってことは無いと思うけど…まあ、何か聞いてくるよって言って出てきてるからね、何か面白そうな話あったら教えてくれると助かりますね」
「それなら……新選組が探してる男の話なんかはどうや?」
その言葉に、桜は口角を上げる。
「流石坂本さん、掴んでましたか」
「まあの」
「…新選組はきっと、その情報は欲しいでしょうね」
「ほう…“新選組は”……か。桜はいらんがか」
「まあ、多分知ってますし」
桜がそう答えると、坂本は目を丸くした。
「えっと…雪村綱道さんが、西国にいるって話ですかね?」
「お、おう」
「綱道さんに関しては、とあるツテで私だけが知っているって感じですね…まあ、今回ので確証は得れましたが」
色々あって確証のない情報は他の人には伏せていたんですよ。
そう言うと、坂本は笑った。
「なるほど…」
「折角教えてくれようとしてたのに、すみません」
「いや、構わんよ」
坂本はそう言うと、再び桜の手を取り歩き出した。
「何か他に話せる事はあったかにゃあ」
「まあ、無理に話さなくても綱道さんの話だけでもきっと大丈夫ですよ」
「そうか」
そんな話をしながら歩いていると、寺田屋事件の時に坂本と分かれた材木小屋の前に辿り着いていた。
「さっきの話やけんど、ちゃんと新選組の奴らに伝えや」
「ん?」
「そうしちょったら、またおまんと会えるやろ?」
「まあ…確率は上がりますね。でも、私としては坂本さんとは友人だと思ってますから、予定さえ合えばお茶くらいしますよ」
そう言って微笑むと、坂本はどこか不満そうだった。何故。
「友人か…」
「え……もしかして、私が勝手に友人と思い込んでいたのか…」
「いや、そうゆう事がやない」
坂本はそう言って自分の頭を掻いた後、小屋を見た。
「そういや桜、おまん、覚えちゅうかえ?」
「なにを?」
「ここでおまんに接吻した時、言うたろう?次は額やのおて、唇にするちーー」
そう言って、頬に手を添えられ親指の腹で頬を撫でられる。
擽ったいなと思っていると、坂本の顔が近付いて来たが……桜は避ける素振りを見せなかった。
「……逃げないがか?」
「私が言ったこと覚えてますか?叩っ斬るって」
至近距離まで迫った坂本にニッコリ笑いながら言葉を放つと、坂本は不満そうに離れた。
「本気で言うてたんやが…」
「え?」
「いや、なんちゃーない」
坂本の呟きが聞こえなくて聞き返したが、はぐらかされた。
桜はまあいいかと、刀にかけていた手を離した。
「まあえい。また機会はあるき」
「それは……どうでしょうね?」
桜が笑うと、坂本も笑い歩き出した。
また歩いていると、伏見の薩摩屋敷の近くへ辿り着いた。
「あっという間でしたね」
「いやはや、名残惜しいにも程があるき。けんど、楽しかったぜよ、桜」
「私も、楽しかったですよ」
「おまんとの思い出の場所をこうして一緒に見て回るがも、いろいろと感慨深いもんがあるにゃあ」
その言葉に頷いた後、坂本をジッと見る。
「なんや?」
「………」
(原作通り、聞いといたほうがいいのかなぁ…)
ここで千鶴は坂本に、薩摩や長州に協力していること、外国から買い入れた武器を売っていることに関して質問をする。
うーんと考えた後、よしっと口を開く。
「外の国は、お強いですね」
「⁉………俺がしちゅう事を、知っちゅうかえ?」
「まあ……なんとなく。ただその反応で、確証を得ましたが…私が個人的に気になっただけなので、他の人には別に話したりしませんよ」
桜はそう言うと、坂本に一歩近づいてその頬に手を添えた。
「なっ…⁉」
「結構、擽ったいんですよ?」
坂本にされたように頬を指の腹で撫でると、手を離した。
「そろそろ帰りますね。お体にお気をつけて」
桜はそう言うと、坂本に手を振ってその場を去っていった。
「……しょうまっこと……食えん女や」
坂本は自分の頬に手を当てて笑った。
「とまあ、そういう事です」
「成る程。綱道さんを探している事が知られており、さらには西国にいると情報をくれた訳ですか」
戻ってきた桜の話を聞いた山南は、硬い表情でそう言った。
「その話、信じても構わんのかな?」
「ま、嘘を言う理由はねえだろうな。西国か……通りで見たからねえ筈だ」
「西国というだけでは、手掛かりとしては少し弱いですね」
「まあ、何もないよりはマシではないですかね?」
桜の言葉に、共に話を聞いていた土方や近藤も頷いた。
「僕も……坂本さんに会った時はまた色々話聞いておきますよ」
その言葉に、面々は頷いた。
年末は色々と忙しくなる。
島原潜入はしっかりさせられたのに、千鶴の雪兎イベントや雪合戦イベントに参加は出来なかった。
忙しい近藤や土方の諸々のサポートをしつつ過ごしていると、そういったイベントに参加する余裕など無かったのだ。
……本当は参加したかったけれど、可愛い千鶴を眺めたかったけど!!
そんな事を思いながら空いた時間に屯所内を掃除していると、庭で次の将軍が家茂将軍の後見人だった一橋慶喜公に決まったと話す土方と近藤の言葉が聞こえてきた。
(もう、そんな時期か…)
自分が知る、薄桜鬼の歴史はもう随分と進んでいるようだ。
今後の事を考え…少し手が震える。
私に救えるだろうか、皆を。
(いや、出来る限りの事は…するんだ)
桜がギュッと拳を握りしめた。
「………よしっ!」
出来る限りの事はやると決めた。
結果がどう転ぼうとも。
だから、まずは目の前の問題…とある人物との待ち合わせを果たすとしましょうか。
桜は掃除を終わらせて道具を片付けると、屯所を出た。
京の町から離れた森の中、少し開けた場所に立っている剃髪の男性を視界に捉え、少し息を吐く。
「………お待たせ致しました、綱道さん」
声を掛けると、桜を視界に捉えた綱道は微笑んだ。
「久しぶりだね、桜さん」
「お久しぶりです、綱道さん」
妙な緊張感が辺りを包む。
いや、私が緊張しているだけかもしれない。
「……お手紙、ありがとうございます」
先に切り出したのは、綱道だった。
「こちらこそ、今回は会ってくれて…ありがとうございます」
桜はニコリと笑った後、その表情を引き締めると綱道を見る。
「単刀直入に聞きます…まだ、羅刹の研究を続けるおつもりですか?その気持ちを捨てろとは言いません。ですが…改めて前を向く気持ちはありませんか?」
人に復讐しますか?皆の意見を聞かずに、鬼の世を作りますか?千鶴を…悲しませるのですか?
後半は口に出さず、綱道を見る。
こちらをジッと見る綱道の目には、何の感情も含まれていなかった。
その様子に、少し鳥肌が立つ。
「なぜ…貴方はそこまでして、私を止めようとするのですか?」
新選組と私が初めて会った時も、その後私が行方をくらませた後も、ずっと。
その言葉に、桜は微笑む。
「………貴方は、本当は心の優しい方だ。その胸に秘めたドス黒いモノは、一族を想うが上に宿ってしまったもの。少なくとも私はそう思っています」
「なにを…」
「貴方が千鶴を見る目は、慈愛に満ちていて本当に優しいものだ。私達同族を見る目も同様に。それに…本当はお気付きでしょう?争いは争いを生み、復讐は復讐を生む」
桜の言葉に、綱道は怒りの表情を浮かべる。
「そんな…そんな事分かっている!言われなくとも!!貴方は憎くないのか!里を、一族を滅ぼされ、我々の生活は奪われた!滅し、奪った人間が憎くないのか!!!!」
綱道の言葉に、ギリっと拳を握る。
「憎くないか…ですか」
「そうだ!」
桜は1度目を閉じて息を吐くと、ゆっくりと目を開き綱道を見る。
その目は…金色に染まっており、綱道はハッとした。
「憎くないかと問われれば…私だって憎い」
「そ、そうだろう、憎いだろう」
「勘違いしないで欲しい。私が憎いのは…父を殺し、千鶴の両親を殺し、里を滅した人間だけ」
そう言って天を仰ぐ。
「人間皆が…憎しみの対象ではない」
桜はそう言って、綱道を見た。
「綱道さんの言っている事は理解出来ます。ただ、同意は出来ません」
桜は綱道へと近づく。
「はじめに言いましたが…前を…未来を向きませんか?歩みませんか?」
綱道の前まで来た桜は、その手を取る。
「私達は自分たちの里を取り戻しました。そこで…私達と、千鶴と、暮らしませんか?」
「わ…私は…」
綱道は狼狽て後ろへと下がる。
桜は微笑むと、その手を離した。
「今すぐに答えを出して欲しいとは言いません。黒い感情は、すぐには消えない事はわかっています。それでも…どうか、私達と前を向く事を…考えて下さい」
そう言った桜の目の色は漆黒に戻っており、綱道は少し息を吐いた。
「綱道さん、今日はお時間作って頂いてありがとうございました。それでは…私は失礼しますね」
「あ、ああ…」
ペコリと頭を下げると、桜はその場を去っていった。
綱道は握られていた手をそっと見つめ、ギュッと握りしめた。
「兄様、お帰りなさい」
「千鶴…ただいま」
屯所へと戻ってきて、出迎えてくれたのは門前で掃き掃除をしていた千鶴だった。
桜は千鶴に微笑むと、その頭を撫でた。
(綱道さんは、どう動くだろうか)
願わくば、どうか千鶴と穏やかに…
「……兄様?」
「…ごめん、ちょっと疲れたみたいでボーッとしてた」
黙って頭を撫でる桜を不思議そうに見上げる千鶴にそう言うと、わしゃわしゃっと髪を撫ぜ、その場を後にした。
(伝えたい事は伝えた、あとは…綱道さんの気持ちが前に向く事を祈るだけだ)
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