幼少期~原作直前
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後日、綱道は千鶴を連れて里を発った。
千鶴は相変わらず眠り続けており、挨拶ができなかったが、綱道にバレないように、その胸にそっと手紙を忍ばせた。
少しして母も生き残った者と共に江戸へ向かう為にこの地を発った、私に行き先の住居が書いた紙を渡して。
皆を見送った後、薫を抱き締め、じっと前を見据えていると南雲の者が来た。
その人物に事情を話して自分も同行することを告げると、里を発った。
里を発って数日、南雲の家にも後2~3日で着くそうだ。
南雲の者は薫を“薫ちゃん”と呼んでおり、完璧に女鬼と思っているようだ。
(向こうの家に行ってからやっと気づかれるのか…それより、どうしよう)
南雲家で薫を守る案がまだ浮かんでない。
以前考えていた風間に頼るという案はかなり難しいため却下だ、向こうになんのメリットもないからね。
ため息を吐いて毎日の日課である素振りを行なっていると、視線を感じた。
「………誰?」
「ほう…?鈍くはなさそうだな」
その言葉と共に現れたのは、金髪の少年だった。
年は自分より少し上くらいだろうか。
少年は興味深そうに此方を見ていた。
「僕に何か用?」
男装をしているため、そう口を開くと少年はゆっくり近づいて来た。
「俺は暇をしている。相手をしろ」
「…は?」
突然の言葉に呆気を取られていると、少年は近くにあった木の棒を拾った。
「ふん…これなら大丈夫だな」
「え、だから、なにが…⁉」
「ふん!」
突然襲いかかって来た少年に驚きながらも、その一振りを受け止める。
(なるほど、相手しろって…打ち合いをしろってことか)
ならば受けて立とう。
受け止めていた手に力を入れると、少年を押し返す。
再び棒を振るう少年から一旦距離を取ると、すぐに詰め寄った。
「⁉」
驚く少年の急所を的確に狙って木刀を振るう。
「はぁっ‼」
「くっ…!」
一気に詰め寄り少年の手にあった木の棒を弾き飛ばすと、その首に木刀を向けた。
「勝負ありでいいかい…?」
「ふん…!」
鼻を鳴らして一歩少年が下がる、それを見て木刀を下ろした。
「君、誰?今度こそ答えてもらえる?」
「この俺を知らぬと言うのか…面白い」
(なーんか、聞いたことある話し方)
好奇の眼差しで此方を見る少年をジッと見ていると、少年はニヤリと笑った。
「風間千景だ」
「………風間、千景」
(なんだっけ、チーカマ?あ、違う、ちー様だ)
親戚の子が騒いでいたな、確か。
てか、風間…?
(まさか、ここで会えるなんて)
これはついているかもしれない?
色々と考えて無言になる私に苛ついた様子の風間が口を開いた。
「まさか、知らぬと言うのか?お前も鬼なら聞いたことがあるだろう」
「…鬼?僕が鬼だって?」
「ふん…!嘘くさい芝居はやめろ。南雲の鬼と一緒にいるところは見ていた」
自分が鬼だと告げてないのに気付かれていることに驚いたが、理由を聞いて納得した。
「それは…失礼致しました」
頭を下げると、気を良くしたのか風間は笑った。
「わかればいい…」
「………あ、そうだ。風間様、折り入ってお願いがございます」
「ほお…?突然この俺に何を言いだすかと思いきや…願いだと?」
「聞いてくださらないと、僕との手合わせに負けたって噂広げますよ」
あまり効果のない脅しだろうと思って言った言葉だったが、どうやら彼にはだいぶ効いたようだ。
「ふん!聞くだけ聞いてやろう」
「ありがとうございます!」
ニッコリ微笑むと、薫のことを話す。
「………この俺に、南雲の鬼を見張れと?」
「付きっ切りで見張らなくてもいいんですよ。ただ一言、脅しの言葉を告げてくださればいいのです」
ニコニコと笑いながら、そう告げると風間は片眉を上げた。
「ダメ…ですよね、こんな願い。本当は僕が薫の近くにいれればいいのですが…僕も江戸にいる母を1人残すわけにもいきませんから」
難しい表情をしている風間に、やっぱりこの案はダメだなと思い別の案を考え始めた時、風間が口を開いた。
「いいだろう。貴様の願い、聞いてやろう」
「……………え?え、本当ですか…⁉」
「西海九国をおさめる風間家の次期当主として、自分がおさめる地に住む奴らの生活を見てやるのも、大事な勤めだからな」
(……意外としっかりしてるじゃん)
もっとちゃらんぽらんなのかと思っていた。
自分が思ったよりも良い方向へ転がった状況が嬉しくて、風間に頭を下げた。
「誠に、ありがとうございます…!!」
「ふん…!貴様の願いを聞く代わりに、今日のことは忘れろ」
「もちろんです」
満面の笑みを浮かべると、風間はバツが悪そうに鼻を鳴らした。
あの後、風間は南雲の家まで直々に着いてきた。
南雲家は風間を迎えるのに慌ただしく動きながらも、薫を見て満足そうにしていた。
風間と共に広間へ迎え入れられた後、南雲の当主が挨拶へ来た。
彼の長ったらしいどうでもいい話を聞き流した後、自分の事はそこそこに薫の紹介をした。
薫が男鬼だと告げた瞬間、一瞬で当主の表情が変わったが、気にせずに薫を何卒よろしく頼むと挨拶をした(言葉に含みをもたせて)
風間も意図に気付いたのか、想像以上の脅しをかけてくれたので南雲家も下手に薫に手を出さないだろう。
怯える当主が席を外し、薫と風間の3人になった途端、肩の力を抜いた。
「………疲れた」
「にいさま、大丈夫?」
「僕は大丈夫だよ」
腕の中で此方を気遣う薫をギュッと抱きしめると、風間を見た。
「風間様、今回は誠にありがとうございました」
「礼など要らぬ。身内で余計な争いや憎しみを起こさせないように圧力をかけるのも当主の勤めだからな」
それ、当主の勤めか?と不思議に思ったが、少し機嫌の良さそうな風間に微笑み、薫へ視線を向けた。
「薫、これから凄く心細いと思う。辛いこともあると思う。だけど、僕はいつでも薫の味方だから、手紙もいっぱい書くし、早く強くなって薫を迎えに来るから」
「にいさま…約束ですよ?」
「もちろん。困ったら風間様を頼ればきっと大丈夫だよ。次期当主様だし」
風間をよいしょした後、薫を抱きしめる力を強め、別れの挨拶を交わした。
「よし、江戸に向かうかー」
んーっと伸びをすると、くるりと後ろへ振り返る。
「風間様、本当にありがとうございました」
「……礼など要らぬ」
鼻を鳴らす風間の手を取ると、もう一度頭を下げた。
「僕がお礼を言いたいだけなので、適当に聞き流してください。いつか恩返し出来たらと思います」
そう言って、何かを考える風間にニコニコ笑っていると、遠くの方から「風間~」と彼を呼び捨てで呼ぶ声が聞こえた。
「僕も、親しみを込めて風間って呼ばせてもらおうかな!なんてね」
手を離してニッと笑うと、忘れてた事を思い出す。
「僕の名前、桜です。自己紹介が遅れてすいませんでした。では、母の元へ早く帰ってあげたいので、失礼しますね!」
くるりと踵を返すと走り出す。
後ろで風間が何か言ってたけど、よく聞こえなかったしいいや。
「にいさま!」
「ん?千鶴、おはよ」
薫を南雲家に見送ってから数日、私は1人江戸に帰ってきた。
母親とも問題なく再会した後、千鶴の元へ訪れると彼女は元気な姿を見せてくれた。
これからは兄と呼んでほしいと告げるとかなり不思議な顔をされたが、千鶴は聡い子だから何かを察して頷いてくれた。
その姿にホッとしつつ、薫の事を言うべきかどうか悩んでいると、暫くしてから千鶴の方から薫の事をこっそりと聞いてきた。
そのことに驚きつつ、自分の知っているゲームの流れと少し変わっている事を実感した。
(自分の存在はやっぱり、何かしらの影響を及ぼすのか)
いい傾向だと思いつつ、千鶴になぜそんなにこっそり聞くのか尋ねると、綱道に薫の事を含め辛い事は忘れろと言われたらしい。
(あの親父、マジぶん殴る)
そう決めて拳を握ると、千鶴がそっと手に触れてきた。
「にいさま、かおるは元気ですか…?」
「うん、大丈夫、元気だよ。薫を守ってくれる人もいるし、僕も薫にいっぱい手紙書いてるし」
「わたしも、書きたいです!」
「うん、一緒に書こう」
ニッコリ微笑んでそう告げた後、千鶴はそういえばと首を傾けた。
「かおるを守ってくださるのは、どのような人なのですか?」
「向こうをおさめる鬼の家の次期当主様だよ」
「………鬼?」
頭にハテナを浮かべる千鶴に、首を傾けた。
(もしかして…薫の事は覚えてるけど、自分が鬼という事は忘れてる?)
千鶴はショックで倒れていたし、原作通り薫の事も鬼である事も忘れてても不思議ではなかった。
薫の事は覚えていたから安心していたが、鬼である事は忘れているようだった。
(まあ、そうじゃないと話進まないよねぇ…)
出そうになるため息を抑えると、千鶴を抱きしめた。
「そう、薫のお家がある場所をおさめる、鬼みたいに怖くて、強くて、優しい家の、次期当主様だよ」
なんとなく誤魔化しながらそう言うと、千鶴は元気よく頷いた。
(千鶴と薫の良好な関係は保てそうだし…)
少なくとも、ゲームで言うところの沖田ルートの様な薫が絡むものは発生しないだろう。
千鶴も薫も羅刹になる様な事はない!万歳!
踊りたくなる気持ちを抑えつつ千鶴から離れると、ぽんぽんと頭を撫でた。
「さて、僕はそろそろ帰るよ」
「にいさま。もう、帰ってしまうのですか…?」
ウルウルと此方を見つめる千鶴に胸が苦しくなるが、次の計画の為に動き出さなければいけない。
「ごめんね千鶴、またすぐに会いに来るから」
「…やくそくしてね…?」
「勿論」
千鶴の頭をぽんぽんと撫でると、雪村家を後にした。
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