二条城~羅刹について
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その後も、松本は隊務で居ないことも少なくない桜に変わり、新選組の皆の様子を見る為、屯所に通ってくれるようになった。
そして……
数は少ないもののこの新選組に存在する、羅刹の集団は、研究の責任者である山南が、生身でありながら束ねるようになった。
勿論、山南一人で束ねるのは危険な為、井上や永倉等、山南を心配する者や力のある者が、交代で訪れていた。
そして、その集団は【羅刹隊】と呼ばれ始めるようになる。
羅刹の研究は今後どうするのか。
正確な方針は決まっていないが、変若水を改良するのではなく、羅刹となってしまった者達を元に戻す手立てはないのかをメインに研究する事は、少なからず決まった。
父親を含め、今後の事を不安に思う千鶴に、全てを伝えてあげたいが、今はその時ではないと、溢れそうな言葉を飲み込むのだった。
慶応元年 七月
千鶴が来てからの二度目の夏のとある夜。
今年はそれ程大きな事件は起きていなかった。
嵐の前の静けさではあるが、何もないのが一番だ。
桜はそんな事を考えながら、とある部屋に向かっていた。
「歳さん、山南さん、来たよ」
「おう、入れ」
桜が目の前の障子戸を開けると、中には土方と山南が座っていた。
「突然呼び出して、すみません」
「本当はもっと早く呼ぶつもりだったんだが、中々時間が取れなくてな」
「いやいや、問題ないですよ」
桜は微笑むと、二人の前に座る。
「で、羅刹の事で聞きたいことって、何ですか?」
そう、桜は二人から羅刹の事に関して聞きたいことがあると、呼ばれていたのだ。
「知ってる事、全てですかね」
「ほう………そう来ましたか」
「ついでに、綱道さんの事、何か知ってる事はねえのか?」
二人の言葉に、桜は苦笑した。
「まあ、知ってる範囲でお話ししますよ」
今後の流れ的にも、多分問題ないだろうし。
「まず、羅刹の事からお話しします。と言っても、大体の見解は以前にお話しした位ですので、付け足すとすれば…」
あの薬は、とある武器商人が日本に持ち込みました。武器商人が誰であるか迄はちょっと把握してはないけれど……
で、羅刹の弱点。急所を狙う以外の弱点は……銀。
銀は奴らにとって毒である。傷を付けられたら治癒能力は作用せず、傷が治るのがかなり遅くなる。
「急所を狙う以外にも、弱点があるのか」
「うん。で、次が最後の情報だけど……」
桜が話す情報を、土方と山南は聞き逃すまいと耳をすませる。
「羅刹の力は諸刃の剣。あれは…人の本来の生命力、寿命を縮める」
「諸刃の剣、ですか?」
「羅刹のあの驚異的な身体能力や治癒能力……あれは、人が生きていく中で持っている再生能力や、活動する為の細胞、寿命をかなり前借りして使っている状態。数年はかかるような怪我が、一瞬で治る。それは、その人本来がこの先何年もかけて使うはずだった、力を前借りして治しているに過ぎない。羅刹としての力を使えば使うほど………一気に死が近づいてくる」
桜の言葉に、二人は言葉を失った。
「お前……いつからその情報を知っていたんだ?」
「………はじめから」
「はじめから、だと?」
土方の問いかけに答えた桜の言葉に、彼の表情が険しくなる。
「はじめから知っていて、なぜ何も言わなかったんだ」
「そりゃ……何にも確証無かったからね。虚偽の情報は混乱を招くだけだから、正確な情報を手に入れるまでは黙っていた。それに……はじめから話していたとして、聞いてくれた?」
「…………まあ、聞かなかったでしょうね」
山南は、研究が始まった当初の状況を思い出して、苦笑した。
土方は溜息をつくと、頭を抑えた。
「確証はいつ得ることが出来たんだ?」
「とある伝で、とだけ」
桜はニコリと笑って、色々と濁した。
それについて土方は何か言おうとしたが、口を閉ざした。
「………今は、まあいい。お前の話は信じる」
「ありがと、歳さん」
「ただしそのうち、ちゃんと聞かせてもらうからな。その伝とやらを」
そう言った土方に頷いた。
「で?綱道さんについては?」
「風間が言っていたみたいに、今は西の藩にいる。それくらいしか」
「それも、とある伝ですか?」
山南の言葉に、頷いた。
「………二人とも、ごめんなさい。屯所の中に、こんな、何でもかんでも隠すような奴がいて」
桜は考え込む二人に、謝った。
「……謝るくらいなら、全部吐き出せ…って言いてえが、お前にも何かあるんだろ?」
「大丈夫ですよ。我々は雪風君を信じていますから。貴方は確かに、昔から隠し事は多いですが……我々を傷付ける事はしないでしょう?」
昔から、のところに若干の棘を感じたが、それでも感じる優しさに、微笑んだ。
「ありがとう、二人とも」
そんな桜の頭を、土方はポンっと撫でる。
「夜遅くに悪かったな。今日はもう休め」
「ん、ありがとう歳さん。そのうち……時が来たら、全部話すから」
「お待ちしています」
(ごめんね、二人とも)
まだまだ隠してる事はあるけど、今は言えない。
桜は二人に礼を言うと、部屋を出た。
暑い夏が過ぎ、秋。
慶応元年十月
桜は機嫌よく庭で落ち葉を集め、燃やしていた。
灰になっていく落ち葉を尻目に、手にしていたものーー芋を要らなくなった和紙で何重にも包んでいた。
幾つもの芋を包み終えた時、落ち葉は全て燃え尽きて灰となった。
そこに和紙で包んだ芋を全て突っ込むと、縁側に座って頼まれていた繕い物をいくつか取り出す。
黙々と終わらせると、全て終わった頃には目当てのもの、焼き芋が出来上がっていた。
「よっし、出来たできた」
桜は灰になった落ち葉の中から芋を全て取り出すと、籠に乗せる。
そこから一つ取って半分に割ると、芋の甘い匂いが漂う。
「ん……美味しい」
桜が焼き芋を食べてホクホクしていると、ドタドタと複数の足音がした。
「なんだ?この匂い」
「美味そうな匂いじゃねえか!」
「皆ーこっちこっち」
どうせ集まって来るだろうと、敢えて声はかけていなかったのだが、目論見通り藤堂や永倉が匂いを嗅ぎつけ、千鶴や他の幹部達を連れてきてた。
「匂いの正体は、桜か?」
「ん、そーだよ。あ、近藤さん!是非ここに座ってください!」
「おお、すまんな」
桜は近藤を座らせると、焼き芋を手渡す。
「熱いので気をつけてくださいね。焼き芋です」
「焼き芋か!何とも美味そうな匂いだ」
近藤は嬉しそうに受け取ると、和紙を剥がしていく。
「ほら、皆もあるよ」
「やったぜ!」
「悪いな、桜」
次々と芋を受け取る面々に満足そうに笑っていると、沖田が近づいて来た。
「この大量の芋、どうしたの?」
「困ってる農家さんの手伝いしたら、お礼にって貰った」
「へぇー、君、人助けとかするんだ」
「そりゃ、新選組だし」
ニッと笑うと、周りを見渡す。
普段は眉間に皺を寄せている土方も、無表情が多い斎藤も、冷静な山崎も、皆どこか柔らかい雰囲気を放っている。
「たまには、こうして皆でワイワイするのもいいね」
「はい!兄様!」
取り合いを始めた三馬鹿を尻目に、微笑む千鶴の頭を撫でると、別の籠にいくつか芋を乗せる。
「僕、他の人にも配って来るから、適当に食べていてください」
そう言うと、目当ての人達がいるであろう部屋を目指した。
「あ、いたいた。伊東さん、三木さん、武田さん」
兄弟の二人は兎も角、武田迄が一緒にいるのは驚きだったが、まあいいかと部屋の中に入る。
「あら、雪風君。どうしたのかしら?」
「はい。焼き芋を焼いたので、どうかと思いまして」
そう言って籠を見せると、三木が笑った。
「わざわざ悪いな」
「いえいえ、美味しいものは皆で分かち合いたいっていう、僕のわがままですから」
桜はニコリと笑って伊東と三木に芋を渡す。
「はい、武田さんも」
「あ、ありがとう…ございます」
少し戸惑っていた武田だが、悪意のない桜の笑みを見て、芋を受け取って少し笑った。
桜は満足そうに笑うと、たまにはこんなのんびりした日々も良いものだと、空を見上げた。
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