二条城~羅刹について
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ーーそれから、全員が警護から戻ってすぐ、表立った隊士達は集められ、話し合いが始まった。
風間達が【鬼】と名乗った事、彼等が薩摩や長州と関わりがあり迂闊に手を出せない存在である事、そして千鶴に近づいて来た事。
(言ってあげたいよなー)
桜は人気の無い縁側に座り、溜息を吐いた。
あれやこれやを、伝えたい。
でも、あの手紙の件が解決するか、もしくはあの娘が来るか…どちらかの出来事が起きないと、少し話し辛い。
でも気になるよね、千鶴。
「あの、兄様…」
来るのが分かっていたから、ワザと人気の無い場所にいた。
「……どうした?千鶴」
何事も無かったように振り返る。
そこには不安気に瞳を揺らす千鶴が立っていた。
「あの、聞きたいことがあって…」
「ん、ここおいで」
隣に呼ぶと、千鶴は大人しく座る。
「…………風間達に言われたことでしょ?聞きたいことって」
「………はい」
桜の言葉に、千鶴は素直に頷いた。
「鬼とは…同胞とは………どういうことなのでしょうか。あの人たちは、私も、兄様も鬼だと。怪我の治りが早い事も言っていましたし。私はなんなのですか……!」
力の入る千鶴に、胸が苦しくなる。
「兄様!どうして何も言ってくれないのですか……!」
千鶴は桜の服を掴んだ。
桜は一度目を閉じると、千鶴をそっと抱きしめた。
「千鶴…私は鬼の事、よく知っている」
「えっ…⁉」
「でも、今は何も言えない。何も……言えないの…………」
桜は千鶴を抱きしめる力を強めた。
「千鶴、いつか全て分かるから…貴女が困るようにはしない」
「………姉様」
「ごめんなさい、千鶴。でもこれだけは信じて欲しい。私は貴女や薫の幸せを願ってる。今はまだ何も言えないけど、その為に私は動き続けている」
そう言って体を離すと、微笑んだ。
「また、皆で一緒に遊ぼう」
千鶴はまだ何か聞きたそうにしていたが、桜の気持ちを受け、頷いた。
「ごめんね、千鶴。不安にさせてごめん」
「いえ……姉様も、考えがあっての事。姉様は、私たちが苦しむような事はしません。また………姉様と薫と、三人で遊んでください」
そう言い微笑んだ千鶴を、再び抱きしめた。
二条城の警護が終え、千鶴と話をした日から数日後の事。
「歳さん、入りますよ」
夜、土方に呼ばれた桜が広間へ向かうと、そこには幹部の面々が揃っていた。
「やあ、こんな夜遅くに呼び出して、すまなかったな」
「あ、近藤さんもいらしたんですね」
桜は微笑みながら、並んで座る近藤と土方の前に座った。
(なんかあったかな…)
んーと頭を捻って思いついたのは、坂本龍馬のイベントだった。
「急に悪いな。聞きてえことってのは、他でもねえ。土佐浪人、坂本龍馬って男についてだ」
(当たったー)
桜は冷静を装い、前を見る。
「坂本さんが、どうしたんです?」
「……あの男は、土佐勤王党という尊攘過激派の生き残りだということだ。方々で、尊王攘夷活動を行なっているらしい」
「ああ、らしいね…幕府の海軍に潜り込んで上手くやってたけど、今は海軍操練所も無く、後ろ盾もない浪人に戻ってたね」
斎藤の言葉に、知っている情報を話すと永倉の目が細められた。
「にもかかわらず、京や大阪をフラフラしてやがるのか。……くせえな」
「だからこの機会に、坂本を取り調べておこうと思ってるんだが……」
そう言って土方は、控えていた山崎を見た。
「山崎さんや島田さんが探っていたけれど、まかれてしまった…とか?」
「悔しい事に、その通りだ。寺田屋を本拠地にしているのは確かなんだが、我々が行っても警戒して姿を現さない」
「なるほど。僕に潜り込めと?」
女の姿をしていけば、怪しまれるものの姿を現わすかもしれないしね。
そう言うと、土方は首を振った。
「………坂本を、呼び出してみてくれねえか」
「んー………応えてくれるかわからないけれど、手紙は出してみます」
「すまねえ。取り調べをするつもりではあるが…土佐藩は今、勤王党にいた連中を捕まえて処罰しようとしてるらしいから、先に、俺たちが保護をするつもりでもある」
「幕府の操練所にいたから、協力者って可能性も捨てきれないですしね」
桜はそう言うと、立ち上がった。
「じゃあ、早速手紙でも書いてきます」
「頼んだ」
部屋に戻ると、坂本宛に手紙を書いた。
理由を書こうと思ったけど、まあいいやとシンプルに「話があります」との旨だけを記載した。
そしてその手紙は、後日山崎さんに預けた。
それから、また数日後。
坂本からは便りは一つもない。
まあ何かあることは直ぐにわかる手紙だったし、そう簡単にはいかないだろうと思っていたのでさほど気にはならない。
(というか、こうゆう感じのイベント…だったよね?)
そんな気もする、きっとそうだと自分に言い聞かせながら頼まれていた裁縫を行なっていると、誰かが駆けてくる音がした。
「兄様!いらっしゃいますか?」
「ん?千鶴?」
障子戸の向こうから、なぜか焦った様子の千鶴の声が聞こえてきた。
すぐに戸を開けると、千鶴はよかったと微笑み、すぐに表情を引き締めた。
「どうした?」
「あの、すぐに広間へと向かってください。大変なんです」
「え?」
「坂本という男性が屯所に乗り込んできて、兄様に合わせろと仰っているそうで。今は広間に土方さん達といます」
「…………え。まじかよ」
そんなイベントだったっけー?最近バタバタしててちゃんと覚えてなかったわーごめん。
心の中で謝罪しながら、千鶴と一緒に広間に向かった。
広間に到着すると、中から声がした。
「女を使こおて人のことをコソコソ嗅ぎ回ろうなんて、姑息なやり方をしてくれるやないか。それが新選組のやり方かえ?」
(あ、坂本さんの声だ)
本当に来ていたんだと思いながら、広間の中に入る。
「坂本さん」
声を掛けると、坂本は笑顔で振り返った。
「お、桜。手紙を貰おたら、待ちきれんようになって飛んで来たぜよ。こいつらの差し金やなかったら、もうちっくと素直に喜べたけんど……それは贅沢ちゅうもんやろうか」
「飛んで来たって…」
「俺のことを調べるのにおまんを利用しよったがは見え見えやったき、今までもそうやったから、手間を省いちゃろうと思おて」
笑顔から一変、真剣な表情で言った坂本に思わず笑いそうになった。
(こっちの思惑を見透かした上での大胆不敵な行動、さすがだね)
桜にもう一度笑いかけた後、坂本は周りを見回してこう告げる。
「今更、自己紹介する必要もないと思うけんど……俺は土佐藩脱藩浪人、坂本龍馬ぜよ。けんど、おまんら新選組に身辺を嗅ぎ回られる筋合いはないき。土佐勤王党の連中とは知り合いやけんど、それだけよ。俺はあいつらがやりゆうことを、えいと思っちゃあせんき」
「……そんな言葉、信用できると思ってんのか?」
「信用できんもなにも、それが真実よぉ。何なら、勝先生に直接確かめてもろうてもかまん」
「勝だと……?」
坂本の言葉に、土方は訝しげに眉をすがめた。
「勝っていやあ、幕府の役人だよな?ってことは……」
永倉をはじめ、幕府と繋がりがある坂本は敵ではないということに気付き、場の雰囲気が緩みかける。
だが、土方はーー
「おまえ、あの晩池田屋にいた土佐浪人と昵懇だったんだろ?それで尊攘過激派とは無関係だと抜かすのか」
その言葉を聞き、坂本の目元が曇った。
「……俺は、止めたがやけんど。あいつら、ろくに話も聞かんと突っ走って死んでしもおた。今の日本でホンマに攘夷ができるか、ちっくと考えたらわかるろうに……」
「何をわけのわからねえこと言ってやがる。攘夷に関しては、朝廷も幕府も意見が一致してるじゃねえか」
「ワケがわからんがはどっちぜ……そもそも外国に港を開いたがは誰で?幕府やないがか」
ヒートアップしてきた二人の会話に、千鶴が付いて行けなくなって来ているのを感じ、そっと頭を撫でてこの場から離れるように促した。
その後も、徳川家の話や、四カ国連合艦隊の話等も持ち出された。
皆は真面目にやり取りを聞いているけど、正直私は賢い方じゃないから半分くらい流して聞いてるのは許してほしい。
ただ坂本さんが歳さんに言った、勘は悪くないけど頭が固い、その言葉だけはちゃんと聞いたからね。実際そうだし。
ヒートアップしすぎて土方が立ち上がりかけた時、近藤が土方を止めた。
坂本に手を出すなと、会津公から命令があり、更には土佐藩の山内公、幕臣の勝も坂本の身元を保証していると言っていたからだ。
近藤の言葉に、土方は悔しさを込め床を殴った。
場に静寂が戻り、坂本は近藤を見る。
「……おまんが新選組の親玉かえ?」
「ああ、新選組局長の近藤勇だ。君が、土佐浪人の坂本君か」
坂本は人好きする普段の彼とは全く違う、冷徹な眼差しで近藤を見つめ、口を開く。
「……おまん、余計なことをしてくれたにゃあ」
「どういうことかね?」
近藤は怪訝そうに問うが、坂本は答えようとせず。
「……まぁ、えいわ。疑いはもう晴れたろう?ほんなら俺は帰らせてもらうぜよ」
坂本はそう言い、広間を出た。
「ちょっと待ってくれ。外まで送ろう」
近藤は慌てて立ち上がり、こちらを見た。
一つ頷くと、一緒に広間を出た。
「坂本さん!」
立ち去りかける背に声を掛けると、彼はゆっくり振り返った。
「……そうゆうたらおまん、手紙に書いちょったにゃあ。俺に話がある、いうて」
「え、あ、そだね」
「近藤さんよぉ、ちっくと二人きりにさせてくれんろうか?」
後ろに居並ぶ幹部の剣呑な様子に、近藤は一瞬迷った。
そんな近藤に桜が微笑むと、近藤は頷いた。
「……わかった。今日は、わざわざすまなかったな」
近藤はそう言うと、皆のもとに戻った。
(……とりあえず)
「ごめんね、坂本さん。こんな事になって」
私がちゃんと思い出せていたら、回避出来たのかなと考えていると、坂本は笑った。
「いや、気にしな。もう済んだことよ。こんな事は慣れちゅうき、気にしな」
「……坂本さんの事を考えたら、慣れてるって言われても不思議じゃないけど……でも、本当に、ごめんなさい」
まさかあそこまでヒートアップするなんて思ってなかったんだよ…
「やっぱり、手紙書かない方が良かったですよね…」
いくらイベントだからって、軽率だったなーと詫びていると、不意に坂本が距離を詰めてきた。
「別に、詫びる必要はないき。あの土方いう男の勘は外れちゃあせん。……俺は、新選組の敵やきにゃあ」
背には柱、目の前には坂本と何時かの様な体勢になる。
その状態で、坂本は不敵に笑った。
「敵、ね」
「この時世、敵味方なんてあっという間に入れ替わるもんよ。口にする言葉が、必ずしもそいつの本心とは限らん。本音を明かしたらすぐに命を狙われる」
坂本が言う言葉は正しくて、思わずうんうんと話を聞いてしまう。
「やき……、この新選組で、今後も幹部としてうもうやっていくつもりやったら、俺に変な同情はしなや。おまん、以外と素直なところあるからな……俺を騙すことらあ出来んろうに」
「あーその辺は大丈夫。僕が誰と懇意にするかは、僕自身が決める。それは近藤さんも承知の事だし」
「ほう?」
「それに……僕、こう見えても演技上手いから、人を騙す事も出来るよ?」
ニヤリと笑いながら桜が言うと、坂本は目を丸くした後に面白そうに笑い、体を離した。
「まっこと、おまんは面白い………まぁ、新選組の連中が何を考えよっても、こっちには後ろ盾があるき。おまんがあれこれ気を揉む必要はないき。安心しいや」
「ん、その辺は大丈夫かな」
桜が笑うと、坂本は何かを思い出した様に口を開いた。
「そういうたら俺、じきに長崎に行くがよ。勝先生の言いつけで」
「長崎に?」
そういや、行くって流れだったな。
「ああ。しばらくおまんに会えんがは寂しいけんど……、また京に来る機会があったら顔を見にくるぜよ」
「あ、本当ですか?待ってますね」
原作の流れに乗りたい気持ちもあるが、彼は単純に楽しい。
桜がニッコリ笑うと、ポンっと頭を撫でられた。
「……そんなにうれしそうな顔をされたら、長崎に行くがが嫌になってくるき」
「いやいや、ちゃんと行かなきゃでしょ?勝さんに言われるって事は、大切な役目って事なんじゃ?」
「まあ、そうやけんど……、おまんより大切な役目かち聞かれたら、そうでもないような気がしてくるがよ」
(ほう、なんだ急に)
まるで自分が大切だと言われてるように聞こえるが……気のせいだろう。
一人納得していると、坂本は改めて帰ると言った。
すぐに近藤に声を掛け、他の隊士も一緒に見送る為に門へと集まった。
「ほいたら、またにゃあ。次はこんな姑息な真似をせんと堂々と招待してや」
坂本の皮肉に、土方が顔を顰めているとーー
「坂本!」
以前会った男、中岡慎太郎の声が響き、彼が坂本へ駆け寄ってきた。
「お、中岡、どうした?」
「どうしたもこうしたもーー寺田屋のお登勢さんから、おまんが新選組の屯所に出かけたち聞いて、慌てて追いかけてきたがよ!おまん、一体何を考えちゅうがな!下手したら、死んじょったかも知れんがぞ!もっと自分の立場を自覚せえ!」
「まあ、とりあえず殺されんと済んだがやし、えいやないか」
怒る中岡に対し、坂本は笑った。
そんな二人の様子を見ていた土方が、警戒心を露骨に表しながら尋ねる。
「何だ?てめえ、坂本の知り合いか?」
中岡はその問いには答えず、土方を睨みつけた。
だが土方は動揺する様子はなかった。
ピリピリとした雰囲気にオロオロし続ける千鶴が可哀想だし、切り上げた方がいいよね。
桜はそう思い、口を開こうとしていた土方に声を掛ける。
「そうそう、知り合い知り合い。まあ、今日はこれぐらいでいいじゃないです?歳さん。そろそろ僕ご飯作りたいし」
「おい、桜…」
何か言おうとした事を遮った桜を、土方は睨む。
そんな事を気にした様子もなく、坂本を見る。
「じゃあ……そう言う事なので。お気をつけて」
「おう、またな。中岡も帰るぜよ」
桜が微笑むと、坂本は中岡の腕を掴んで帰って行った。
その様子を見ていた土方は、一つ舌打ちをした。
「ったく、とことん気に入らねえ野郎だ。塩でも撒いとけ!」
土方はそう言うと、忌々し気にしながら中に戻って行った。
「………塩、取ってきますね」
「ん、ごめんね千鶴」
苦笑する千鶴の頭を撫でると、桜は食事の用意をする為に、千鶴と共に厨へ向かった。
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