二条城~羅刹について

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慶応元年 閏五月

元治二年から慶応元年と年号が改まり、春が過ぎ去った頃。

この西本願寺に屯所が移転して、はや三ヶ月が経っていた。

(いやー、引っ越しも大変だった)

自分と千鶴は普段から整頓しているから
荷物を固めるのはそこまで困らなかった。

物をあまり置かない総司や一ちゃんや左之さん、普段から整頓を心掛けている山南さんや山崎さんも問題なかった。

若者らしい散らかし方をしていた平助、男臭い散らかし方をしていた新八さん、仕事で煮詰まってそのまま放置していた歳さん、その三人の手伝いもしていたが薬も隠しながら運ぶ為その手伝いも行い、更には伊藤さんや三木さんの手伝いもさせられた。

かなり、頑張ったと思う。

ふう、と息を吐くと元気な声が聞こえてきた。

「兄様、行ってきます!」

「千鶴、気をつけてな」

「オレがいるから大丈夫だって!」

「僕のことも忘れないでくれる?」

「はいはい、2人も気をつけて」

巡察に向かう千鶴、沖田、江戸から帰ってきた藤堂の3人を見送ると、は伸びをした。

(平助、元気に振舞ってるけど、悩んでるなー)

将軍上洛も控えてるから皆そっちに気を取られがちだけど、平助の事も気にかけてあげないとな。

欲を言うなら隊士全員を助けてあげたいけれど…それは流石に叶わない。

溜息を吐くと、自身の仕事をする為に屯所の中に戻った。






新しいこの屯所の広間は、以前の屯所とは比べ物にならないほど広い。

隊士の皆が全員集合しても平気な程の広さだ。

集合が掛かったので、広間に来ていたは、隅の方に座った。

全員が揃ったのを確認した近藤の朗々たる声が、広間に響き渡る。

「皆も、徳川第十四代将軍・徳川家茂公が、上洛されるという話は聞き及んでいると思う。その上洛に伴い公が二条城に入られるまで、新選組総力をもって警護の任に当たるべし……、との要請を受けた!」

「将軍公の警護を、新選組が……⁉」

「こりゃ、とんでもねえ大出世だな」

永倉と原田の驚いた声が響く。

「ふん。池田屋や禁門の変の活躍で、お偉いさん方も、俺たちの働きを認めざるを得なかったんだろうよ」

「警護中は文字通り、僕らの刀に国の行く末がかかってる、ってことですか」

「そういうことだ。てめえら、気合入れていけよ!」

続いて、土方が笑みを浮かべながら皆に言う。

「将軍公の警護とはまた……、大役ですな」

「ええ、本当に」

いつもは皮肉そうな武田もどこか嬉しそうだ。

「俺たちの名を、天下に広く知らしめる絶好の機会だな」

三木が兄である伊藤を見ながら、そう言った。

「ともあれ、これから忙しくなりますな」

「うむ。まずは、隊の編成を考えねば。とりあえず、俺とトシ、それから総司、雪風君にー」

編成を考えている近藤に皆の視線が集まる中、手を挙げる人物がいた。

「ん、平助、どうしたんだね?何か、気になることでもあるのか?」

「あのさ……近藤さん、実はオレ、ちょっと調子が……」

「何だ、平助。風邪か?気をつけないといかんぞ。折角の晴れ舞台、全員揃って家茂公をお迎えしたかったのだがなあ」

「…………すいません」

「あ、いや、責めたわけではないんだ。体調は大事だからな」

辞退を申し出た藤堂に、近藤は注意したが素直に謝って来たので慌ててフォローを始める。

はその様子を見て息を吐くと、声をあげた。

「平助、僕が体調見てあげるからこっちおいで。近藤さん、話続けてください!」

「む、そうか。平助を頼んだ」

笑顔を浮かべる近藤に笑い返し、近くに来た藤堂に隣に座る様に促す。

「平助」

「ん…?」

「何をとは言わないけど、無理するなよ」

「え?」

隊の編成の話をする土方と近藤を見ながら、そう言葉を溢すと驚いた様子で藤堂はを見た。

「平助は平助なりに、悩んで、答え出して、進めばいいさ。僕はいつでも皆の、平助の味方だから」

そう言って微笑んだは、藤堂の頭をポンっと撫でた。

頭を撫でられた藤堂は顔をそらすと、目元を擦った。

それを見て見ぬ振りし、は千鶴に話を振った土方達を見た。

警護に参加するかどうか、問われて困惑している千鶴は、視線を泳がせた後を見る。

その視線に笑顔で頷くと、千鶴は1つ頷いて近藤と土方を見た。

「……私、行きます。同行させてください」

「よし、わかった。おまえには、伝令やら使いっ走りを頼むことになると思うがな。こき使ってやるから、覚悟しとけ」

意地悪く笑った土方に、千鶴は意を決した様子で頷いた。

(私に聞かなくても、千鶴の気持ちは決まっていただろうけどね)

その様子を見ていたは、そう考えながら微笑んだ。






ーー徳川家康公の頃より、将軍上洛の際、宿舎の役割を果たすために作られた二条の城。

十四代将軍・家茂公の身に何事もなく、ここまで辿り着いたのが先刻のこと。

道中警護から、そのまま城周辺の警護にまわって一刻あまりが経っていた。

挨拶回りに行っている近藤さん達には同行せず、城周りの警護をしていた。

城周りというか、主に千鶴のだけど。

昼の巡察用とは違う白い羽織を身に纏い佇むは、伝令に走る千鶴を見守っていた。

一通りの伝令が終わり、少し落ち着いた様子の千鶴が辺りを見渡しているのを見ていると、冷ややかな何かが背筋をぞくりと走った。

(来たか)

千鶴も背筋を走ったものーー殺気を感じたのだろう、暗闇、かがり火は遠く、月光の手も触れるぎりぎりの縁をジッと見つめていた。

その視線の先の暗闇の中に、奴らはいた。

「あなたたちは……⁉」

「……気付いたか。さほど鈍いというわけでもないようだな」

特徴的な風体を持つ三人の男の鋭い視線が、千鶴に突き刺さる。

動けない様子の千鶴に、今すぐ駆け寄りたかったが、少し様子を見る。

(千鶴を娶りに来たのか、それとも保護に来たのか…)

どちらにせよ近づけさせるつもりはないが、彼等三人の鬼、風間・天霧さん・匡さんの真意を確認したい。

「なぜ……、あなた方がここにいるんですか?」

「その【なぜ】っつうのは、どうやってここに立ち入ったのかを訊いてやがんのか?だったら、答えは簡単だ。オレら【鬼】の一族には、人間が作る障害なんざ意味を成さねェんだよ」

「我々は、ある目的の為にここに来た。……君を探していたのです、雪村千鶴」

「え……?」

(探して…か)

確かに、天霧さんと風間は以前に千鶴を見てるからなー

はスッと目を細めた。

「……あ、あなた方が言っている言葉の意味がわかりません。【鬼】とか、私を捜していたとか……私を、からかっているんですか⁉」

「……【鬼】を知らぬだと?本気で言っているのか?」

片眉を上げた風間が、一歩踏み出す。

続いて天霧の声が響き、千鶴に怪我の治りが早いことを問いかける。

それに震えた声で口を開く千鶴に対し、血を出して証明した方が早いかと言った不知火を、風間が諌める。

(原作知ってるからさ、ここで千鶴が怪我しないのは分かってるけどさ…)

まじで斬りかかる5秒前。

刀に手を掛けてるのは許してくれ。

戸惑っている千鶴に対し、東の鬼である事は語らずとも分かると告げた風間は、更に一歩千鶴に近づいた。

「女鬼は貴重だ。共に来いーーお前を保護する」

そう言って風間は手を伸ばしたが、何かに気付いて一歩下がった。

「千鶴に触らないでくれるかい?」

「兄様…!」

闇を切り裂いた白刃と共に現れたのは、不敵な笑みを浮かべたで、千鶴の表情は安堵のものに変わる。

、貴様もいたのか」

「まあね。二条城は新選組が警護してるし」

千鶴を背に隠しながら、風間を見る。

「保護するって、どうゆう意味かな?善意を持っての保護?娶る意味での保護?………どっち?」

刀を握る手に力を入れながら、問いかける。

風間はフッと笑うと、口を開いた。

「この俺の妻となるのは、貴様だろう?雪村の鬼を娶る必要などない。………はぐれている鬼を、保護するだけだ。悪意はない」

真顔でそう告げた風間の言葉に嘘は無さそうだった。

だからといって、千鶴を彼等に預けるつもりは毛頭無い。

「まだ妻だとか言ってるの?飽きないね…後、この子ははぐれてなんか無いよ、ちゃんと帰る場所はある。そこ、調べなかったの?」

「なに…?」

表情を歪めた風間は天霧を見る。

天霧が首を振る様子を見ると、調べが足りていなかったみたいだ。

「はぐれて無いなら何よりだが…それ以上人間に毒されても困るからな。纏めて俺たちと一緒に来てもらう」

そう言って再び風間が手を伸ばした時、以外の白刃が闇を切った。

「おいおい、逢引ならもう少し、色気のある場所を選んだ方がいいんじゃねえか?」

「……またおまえたちか。田舎の犬は、目端だけは利くと見える」

「……それはこちらの台詞だ」

「原田さん!斎藤さん!」

現れたのは、原田と斎藤だった。

更なる仲間の登場に安心し切ってその場に崩れ落ちそうになっていた千鶴の肩を掴んで、後ろに引いたのは土方だった。

「……下がってろ」

「土方さん……」

千鶴を押しのけて前に出るように立った土方は、刀を抜いて構えた。

「……将軍の首でも取りに来たかと思えば、とこんなガキに一体何の用だ?」

「今日の目当ては千鶴みたいだよ、歳さん」

「そうか」

静かに返事をする土方を見て、風間は口を開く。

「将軍も貴様らも、今はどうでもいい。これは、我ら【鬼】の問題だ」

「【鬼】だと?」

風間の言葉に、土方の目が細められる。

相手の発言の真偽を計っているのか、眼光の色はひどく鋭い。

禁門の変で対峙した原田と不知火、斎藤と天霧もそれぞれ睨み合っていた。

言いようもない緊張感が立ち込める。

意を決して小太刀の柄を握る千鶴に、声をかけるものがいた。

「副長たちの心配は無用だ」

「うん、トシさん達なら大丈夫さ」

「山崎さん、いつの間に……!それに、八郎さんも…!」

「僕も家茂公の護衛の為、この二条城を警護していたんです。奥詰ですからね、これでも」

「……副長の命だ。君は、このまま俺と彼が屯所まで連れて行く」

千鶴に声をかけたのは、山崎と伊庭だった。

千鶴を連れて行くと言う山崎と、ここに残ると言う千鶴、それを見守る伊庭をチラリと見た後、前を見据える。

「ヘイヘイ、待てって。お姫さんは、ここに残るっつってんだろ?」

「そうだね。でも匡さん、それはいただけないかな」

山崎と伊庭へと銃を向けている不知火に向け、地を蹴って石を飛ばす。

それに合わせ、原田が心臓目掛けて槍を振るうが避けられる。

それを切っ掛けに、それぞれの戦闘が開始された。

「千鶴、僕たちを信じて、山崎さんと八郎の近くにいてくれないか」

そう優しく声をかけるに、 千鶴は頷いて一歩二人へと近付く。

「…ありがとう、千鶴」

は微笑むと、刃を交える土方を見る。

本気の一刀を軽々と受け止められた土方は、風間に何者だと問いかける。

それに対して風間は自分達だけでなく、千鶴やも【鬼】の一族だと答える。

も、千鶴もおまえたちには過ぎたもの。だから我らが連れ帰る……」

「何だとーー⁉」

(あーもー風間の馬鹿。私まで引き合いに出すなよ…)

そう思いながら、土方に髪を一房斬られ感嘆する風間を睨む。

そんな視線に気づいていない様子で、風間は刀を下ろし構えを解いて、戦いを切り上げ間合いを離す。

「……これ以上の戦いは無意味ですな。長引いて興が乗っても困るでしょう」

「……それ、オレ様への当て付けか?」

「匡さんじゃなくて、風間に対してでしょ」

匡さんは、ああ見えて引き際は心得てる。

止まらなくなるのは風間だ。

の言葉に風間は睨んだが、すぐに睨むのをやめて息を吐いた。

「確かに、これ以上の長居は無駄か。あくまでも今日は、真偽を確かめにきただけだからな」

「……むざむざ逃がすとでも思っているのか?」

「虚勢はやめておけ。貴様らはまだしも、騒ぎを聞きつけて集まった雑魚共は、何人死ぬかしれたものではないぞ」

斎藤の言葉に、風間は不敵な笑みを浮かべながらそう言った。

そして、音も無く三人は退いた。

そして、闇に解け消える間際ーー赤い瞳がと千鶴を射抜いた。

「近いうちに、迎えに行く。……楽しみに待っているがいい」

「え、来なくていいよ。面倒くさい」

風間の言葉に即答したを見て不知火は大笑いした。

そんな不知火を風間は殴り、三人は闇に消えた。

その直後、緊張の糸が切れたのか千鶴はその場に崩れ落ちた。

「千鶴、大丈夫……そうじゃ無いね。ゆっくり深呼吸して」

千鶴の背中を撫でて落ち着かせていると、後ろから声をかけられる。

「……おい、。おまえは兎も角、そいつもあいつらに狙われる心当たりでもあるのか?」

不安げにこちらを見る千鶴の頭を撫で、振り返る。

「さあ、わかんない」

「わからないだと?」

「………不本意だけど、僕はアイツに求婚されてて、しつこく追いかけ回されてる。それは皆知ってる事だと思うけど…千鶴に関してはよくわからない」

そう告げたに、千鶴は何か聞きたそうにしていたがグッと言葉を飲み込んだ。

土方もその言葉に、そうかと答えただけだった。

「え、求婚されてるなんて…聞いてない……」

再び千鶴を落ち着かせていると、先ほどのの言葉に呆気に取られていた伊庭がポツリと呟いた。

「あれ、そうだっけ。なんかごめん、まあ僕はあんな奴のところに行くつもりはないから、安心して」

「ですけど…」

「八郎さん、私が兄様は守りますから!」

すっかり立ち直った千鶴は、伊庭にそう告げた。

(なんだこの幼馴染達は…)

可愛いにも程がある。

実は昔からの知り合い同士である伊庭と千鶴のやり取りを、ほっこりした気持ちで見るを、土方は呆れた様子で見ていた。

そして、この騒ぎは別の形となって新選組の皆に広まった。





「おい、侵入者がいたらしいな。幹部が雁首揃えて何やってやがったんだ?」

「……侵入者?私は聞かされていない。間違った情報なのでは?」

「おいおい、俺が嘘を言ってるってのか?」

「嘘とは言っていない。君が勘違いをしていると言っているだけだ!本当にいたのなら、まず私に連絡があるはず。それがなかったのだから、偽の情報に決まっている!」

駆けつけた三木は土方達を呆れたように見、同じく駆けつけた武田は、知らせを聞いていないと言い三木を訝しげに見た後、自信満々に偽の情報だと主張する。

「……そうかよ。本当だったらただじゃすまさねえからな!」

(あー、三木さんも武田さんもごめんね)

風間の侵入に関しては、一部の幹部の間だけで留める事にし、他のものに関しては間違いだったと告げ、表向きは侵入者はいなかった事になった。






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