幼少期~原作直前
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ブン、ブンと空を切る音がする。
音を発しているのは桜で、手には木刀を持っていた。
女は戦わなくても良いと言う両親だったが、頼み込んで刀の稽古を付けてもらっている。
今の日課は毎晩の素振りだ。
(原作に沿って、少しづつ動き出している。少しでも良いように持っていきたい)
欲を言うなら、千鶴と薫にはずっと平和に暮らしてほしい。
新選組に出会わず、雪村の里で平和に。
私は新選組の人を助ける必要があるから、そのうち彼らの元へ向かうけれど、あの兄妹は何事もなく過ごしてほしい。
どうしたものかなと考えていると、騒がしい気配にハッとした。
(まさか…)
もう、人間が来たとでも言うの?
木刀を片手に走り出す。
「父様!母様!」
2人の部屋に着くと、傷付いた男性とその手には2人の子供。
「薫!千鶴!」
「桜!丁度良いところに…2人を連れて隠れなさい…!」
母親の言葉に額に汗が流れる。
「何があったのです!」
わかりきった事だが、嘘だと言って欲しくて問いかける。
「雪村の里が…襲われた」
「そんな…」
やはり、原作通り進むというのか、変えられないの?
「桜!早く!人間の手がこの里にも迫ってる」
「なんですって…!」
この里にも?
(そんなの知らない…けど、考えていた事ではある)
「薫、千鶴、おいで」
手にしていた木刀を腰に差すと、2人の手を取り、自分の両親を見つめる。
「お二人は?」
「雪村の里の援軍へ。それに、この里を守らねば…」
力無く微笑む父親と母親に涙が出そうになる。
「私は2人を守ります。騒動が落ち着くまで隠れておきます」
「頼みました」
母親の言葉に力強く頷く。
「ご武運を祈ります」
「ああ。さあ、行きなさい」
ぺこりと頭を下げると、怯える2人に微笑む。
「2人とも、行こうか」
「父様と母様は…?」
「きっと、大丈夫だから」
おいでと再び促し、2人の速度に合わせて走り出す。
(里の中は危ない。隠れていても見つかるだろう)
そう考えて周りを警戒しながら里を出る。
「どこに行くの?」
「私の秘密基地」
にっこり笑いつつ、走る速度は緩めない。
秘密基地と言ったのは事実で、誰も知らない隠れ場所がある。
少し走って辿り着いたのは、崖の近く。
「こっち」
一際大きな岩の裏に身を滑り込ませると、その奥には小さな岩穴が広がっていた。
「今日はここに隠れよう。暗いけど、我慢してね」
不安な表情の2人に微笑み、腰を下ろすと手を広げる。
すぐさま飛び込んで来た2人に自分の羽織を脱ぐとかけてあげ、少しでも寒くないようにぎゅっと抱きしめる。
2人の背をゆっくりと撫でて落ち着けるように気を配る。
(この後はどうしよう。このまま2人は離ればなれになるの?父様や母様は?)
グルグルと回る考えに目眩がする。
付喪神よ、君を恨むぞ。
そして、私の精神が(転生前としてからの累計)成人済みの人間で良かった、これは幼子には耐えられんぞ。
(万が一、雪村の里が最悪のことになっても、私の里へ2人を住まわせればいい。だけど、もし2つの里が最悪の事態になっていたら…?)
薫は南雲家に、千鶴は綱道に連れられるの?
てか、2つの里が最悪の事態になってたら、私はどうなる…?
(……疲れた、考えるのやめよ)
視線を下に落とすと、2人は眠っていた。
自分も少し仮眠をしようと、瞳を閉じた。
「ん…」
眩しい光に目を覚ます。
どうやら朝を迎えたようだ。
(体が痛い…)
ずっと座っていたせいで体が固まっている。
まだ眠る2人を起こさないように、そっと2人を下ろすと、ゆっくり伸びをした。
(里はどうなったのだろう)
2人が目を覚ましたら、ここで待つように言って様子を見に行こう。
まだ周りに人間がいても困るから、準備運動をしよう。
そう決めてストレッチを行なっていると、2人が目を覚ました。
「おはよう」
「ねえさま…」
「おはよう…ございます…」
まだボーッとした様子の2人に微笑むと、そっと頭を撫でた。
「2人に、伝えることがあるの」
「「?」」
「私はこれから、里の様子を見てくる」
その言葉に、2人は不安げな表情に変わる。
「必ず戻ってくるから、ここで賢く待っていられる?」
「やだよ、ねえさま!行かないで!」
ぎゅーっと抱き着いてくる千鶴に、苦笑する。
「千鶴、大丈夫だから。私は必ず戻ってくるよ」
「でも、でも」
「ちづる」
駄々をこねる千鶴を止めたのは、薫だった。
「ねえさまは、約束をやぶらないだろ?」
「うん…」
「だから、ねえさまをしんじるんだよ!」
そう千鶴に言い聞かせる薫の顔も凄く不安そうで、薫の頭を撫でた。
「不安なのに、ごめんね。絶対、ぜーったい、帰ってくるから。私が帰ってくるまで、誰かが近くを通っても、絶対に声を出さず、音を出さず、静かにしててね?知ってる人でも、絶対に私じゃないなら、出て行ったらダメだよ?」
頷いた2人を、一度ぎゅっと抱きしめると、立ち上がった。
岩の陰から周りを見渡し、そっと走り出した。
(そんな…)
最悪の事態が起こっていた。
雪風の里には、誰もいなかった。
唯一良かったと言えるのは、里は荒らされていなかった事から、人間は踏み込んできていなかったようだ。
(ならば、雪村の里に?)
逸る気持ちを抑え、一度自室へ向かう。
(良かった、あった…)
両親が、最悪の時の護身用にと授けてくださった刀。
子供の体には少し大きいかもしれないが、そこは鬼の力でどうにかなるだろう。
落とさないようにしっかり携えると、雪村の里へ向かい走り出した。
距離はそれ程離れておらず、それなりに鍛えていた桜はすぐに雪村の里へ着いた。
(酷い…)
雪村の里の有様は酷いものだった。
荒らされ、焼かれた里。
(ここまで酷いなんて…)
想像もしていなかった。
誰か居ないかと、里の中を散策すると他とは違い荒れた跡を片付けた様子のある家屋があった。
そっと近づいて中を覗くと、よく知る人がいた。
「母様!」
「⁉……桜?」
そこに居たのは自分の母親だった。
憔悴した様子の母親に近づくと、ギュッと抱きしめた。
「ご無事で何よりです…」
「貴女も、無事でよかったわ…」
母親に頭を撫でられ、涙が出そうになる。
「一体、どうなったのですか…?」
その言葉に、母親の瞳から涙が流れた。
語られたのは、雪村の里は荒らされ、鬼はほぼ全滅、千鶴と薫の両親は死去、そして…私の父親も。
「父様が…」
涙が流れ、グッと拳を握る。
父を殺した人間に、少しだけ憎悪をかんじてしまうのは、許してほしい。
肉親が自然に死ぬのではなく、殺されたのだから。
こみ上げる気持ちを抑えるため、息を吐いて母を見る。
「これから、どうされるのですか…?」
その言葉に、母親は力無く口を開いた。
「きっと、私達は散りぢりになるわ。雪村家を復興させるにしても、今は無理よ…それに、私達の里も…人間に場所が知られてますから、一度離れないと危険です」
「離れる…千鶴や、薫はどうなるのですか?」
「2人は…私が引き取りたかったのだけれど、分家の方がいらっしゃいますから、強く出れないわ…」
「分家の…?」
「雪村綱道さんよ。たまたま里を離れて居たそうで、彼は無事でしたの。千鶴ちゃんは彼が引き取るそうです」
母親の言葉に冷や汗が流れる。
「薫は…?」
「薫くんは、南雲家の方が引き取ると、綱道さんが仰っていたわ」
(そんな、2人が離れることは避けられないの…?)
「桜、2人は?」
「無事…です」
「そう…良かったわ。あの2人を、迎えに行きましょう」
母親の言葉に、力無く頷いた。
2人は言いつけを守り、私が戻って来るまで賢く待っていた。
そんな2人を連れ、母親のところへ戻って来ると、そこには雪村綱道がいた。
(綱道…)
何も知らなければ、只のいい人だろう。
和かに微笑むその男は、千鶴と薫を抱きしめ、何があったか、これからどうするかを話し始めた。
「母様、これからどこに身を隠されるのですか…?」
「そうね…江戸の知り合いを訪ねるつもりよ」
微笑む母親に手を握られる。
(江戸…なら、千鶴とは近い。でも、薫が…)
向こうの鬼の力を借りるか?南雲家が薫を邪険に扱わない様に、脅しをかけるか?
(南雲家は土佐にあったはず…なら…)
西の海に近い方は風間の力が大きいはず。
会ったこともない、ましてや力の大きい家に、薫を守って欲しいなど頼んだところで、取り合ってもらえるかはわからない、でも…やるしかない。
「雪風様」
考え込んでいた桜だが、聞こえてきた綱道の声にそちらを見る。
「我々は、明日江戸へと向かうつもりです。奥方殿達は、どうされますかな?」
「私達も、そういたします」
「わかりました」
微笑む綱道の腕の中では、頬を涙に濡らした千鶴が眠っていた。
「酷な話をしました…泣き疲れて、眠った様です」
苦笑する綱道の横では、薫が暗い顔をしていた。
「綱道様、薫君はどうされるのですか…?」
「近くに来ております南雲の者が、迎えに来るそうです」
「そうですか…」
綱道の言葉に、薫は自身の服をギュッと握った。
千鶴を寝かせて来ると言った綱道はその場を去り、それを見送ると薫に近づく。
「薫」
しゃがんで、腕を広げれば勢いよく抱き着いて来る。
「薫、よく我慢したね。泣いても良いんだよ」
ポンポンと背中を撫でれば、それが合図になったかのように勢いよく泣き出した。
両親のことや、何故自分だけ遠い場所に行く事になっているのか、その事に関して嗚咽交じりに話す薫に、抱き締める手に力が入る。
「……薫、私、貴方達を守れるほど強くなる。そして、必ず迎えに行くから」
「ほんと…?」
「うん、本当。私、約束破らないでしょ?」
「うん…」
だから、信じて、手紙もたくさん書くから、暇を見つけたら会いに行くから。
そう話していると、薫も途中で泣き疲れたのか眠ってしまった。
「母様、私は明日、南雲の人について行こうと思います。薫が無事に向こうに着くまで、見届けたいのです」
「貴女がそう決めたなら、止めません。でも、帰りはどうするのですか…?」
「帰りは…どうにかします。だから!」
続きの言葉を言おうとすると、そっと抱きしめられた。
「言ったでしょう、貴女を止めたりしないわ。無事に帰ってきてくださいね」
「はい…!」
母親の肩に頭を預けると、腕の中の薫を抱き締める力を強くした。
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