池田屋事件~禁門の変
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数日して、長州の動きが更に活発になって来たことから、一度は千鶴の外出を止められそうになったが、なんとか外出を続けれるように話は付けた。
その同日、夕方頃に屯所が騒がしくなった。
枡屋と身分を偽っていた人間、長州の間者である古高俊太郎を捕縛したとの事だ。
新選組は敢えて彼を泳がしていた筈だ、それがなぜ?
(まあ、知ってはいるけど…)
どうやら千鶴と総司が逸れ、千鶴に親切にしてくれた相手が古高の一派だったそうで、流れで捕縛する事になったとの事だ。
怒る山南さんを諌めていると歳さんが広間に入って来た。
どうやら捕らえた古高の拷問が終わったみたいだ。
「……土方さんが来たってことは、古高の拷問も終わったんですか?」
原田の言葉に土方は頷いた。
「風の強い日を選んで京の都に火を放ち、あわよくば天皇を長州へ連れ出すーーそれが、奴らの目的だ」
土方の言った言葉に、それぞれ渋面を作った。
「町に火を放つだあ?長州の奴ら、頭のねじが緩んでるんじゃねえの?」
永倉は苦々しげに言葉を吐いた。
「それ、単に天子様を誘拐するってことだろう?尊王を掲げてるくせに、全然敬ってねーじゃん」
「……何にしろ、見過ごせるものではない」
斎藤の言葉に皆頷いた。
「奴らの会合は今夜行われる可能性が高い。てめえらも出動準備を整えておけ」
「……了解しました、副長」
「よっしゃあ、腕が鳴るぜぇ」
皆は様々な反応を見せながら、土方の言葉に頷いていた。
そして土方は思い出したように千鶴を見た。
「……それから、綱道さんの件だが。長州の者と枡屋に来たことがあるらしい」
わかったのはそれだけだ、と土方は言い捨てた。
「父様が、長州の人と……?長州と幕府は仲が悪いのに、どうして父様が一緒に……?」
そう呟いた千鶴の頭をソッと撫でておいた。
(そーだよねーまだまだ綱道さんの事分かってないもんねえ。僕も何とかしようとはしてるんだけどねぇ…)
溜息を吐いてそう考えている時、フと気付いた。
(今は六月、町に火を放つ、討ち入り……池田屋事件じゃん!)
すっかり頭から抜けていた。
(あーどうしよう、総司と平助に怪我をさせたくないから……池田屋に同行だな)
そう決めると、息を吐いた。
そして、討ち入りの準備が始まった。
屯所は急に騒がしくなり、皆がばたばたと走り回る。
自分も隊服を身に纏うと、腰にある刀に手を触れる。
(体調を崩している隊士が多いため、今回の討ち入りは少人数)
近藤さんが向かう池田屋は私を含めて十一名、歳さんが向かう四国屋は二十四人で向かう予定だ。
笑えない状況である為、体調が悪い隊士達がいたら直ぐに報告することを、今後徹底しなさいと言うのは改めて隊全体にアナウンスしておいた。
「雪風君」
「はい?」
呼ばれて振り返ると、そこにはいつもと違い、暗い場所でも仲間と見分けられるようにするための白い隊服を着た近藤さんと千鶴がいた。
「今夜は人手が足りていない。彼女に伝令役として同行してもらいたいと思っているのだが…」
困り顔の近藤さんはそう言った。
恐らく、千鶴に対して過保護な私に許可を取りに来たのだろう。
「……千鶴、覚悟は?」
「あ、あります‼」
「ん、ならいいんじゃないですかね?」
呆気なく許可を出した桜に近藤さんは驚いていた。
「い、いいのかね?」
「まあ、千鶴に覚悟があるなら、僕は止めません。まあ、その代わり誰かと一緒に行動した方がいいかもしれませんね…山崎さんとか」
「うむ、山崎君だな。俺の方から伝えておこう!」
近藤さんは笑うと、意気揚々と山崎さんの方へ向かった。
「あの、兄様。本当に良かったのですか…?」
「…………」
不安そうに見つめてくる千鶴の頭を撫でる。
「千鶴、今から行く場所は斬り合いが恐らく発生する。巻き込まれる可能性がかなり高い。それでも、役に立ちたいと言える?」
「は、はい!」
「……それだけの覚悟があるのだから、さっきも言った通り、止めないよ」
本当は物凄く嫌だけど、千鶴はここで死ぬ子ではない。
ありがとうございますと頭を下げる千鶴に微笑んだ。
戌の刻、桜も参加する近藤の率いる隊は池田屋に到着した。
周辺の様子を見て回った千鶴と山崎が戻って来た時、永倉が口を開いた。
「……こっちが当たりか。まさか長州藩邸のすぐ裏で会合とはなあ」
「僕は最初からこっちだと思ってたけど。奴らは今までも、頻繁に池田屋を使ったし」
「まあ。それにしても…古高が捕まった晩に普段と同じ場所で集まるなんて、頭回らないのかな」
「かもしれないね」
桜の言葉に沖田は笑った。
「とりあえず、千鶴」
「は、はい!」
「会津藩とか所司代の役人、まだだったでしょ?」
「うっ……はい。姿はありませんでした」
千鶴の言葉に皆は顔を歪めた。
「日暮れ頃にはとっくに連絡してたってのに、まだ動いてないとか何やってんだよ……」
舌打ちをする藤堂を、永倉が落ち着けと諌める。
「あんな奴ら役に立たねぇんだから、来ても来なくても一緒だろ?」
だけど、自分達だけで突入するのは無謀だと思うと言った藤堂の言葉に武田は同意する。
「この人数で踏み込むなど無謀にもほどがある。ここは会津藩の援軍を待つべきかと」
「武田君がそう言うなら……。わかった、もう少しだけ待ってみよう」
その言葉に、新選組は援軍を待つことにした。
しかし、いくら待ってもお役人は現れなかった。
(まあ、知ってたけど)
亥の刻となり、フと空を見上げる。
「………お役人はまだ腰を上げてないみたいですね。近藤さん、どうします?このままだとみすみす逃しちゃうことになりますよ?」
桜の言葉に、それまで沈黙を続けていた近藤は一つ頷いた。
「千鶴、池田屋から離れておいて。っていうか、辺りを見回ってる山崎さんを捕まえて、伝令が上手くいったか聞いて、もし行ってないなら四国屋に向かってほしい」
「えっ?」
「雪風君の言う通りだ。ここは今から危険な場所になる。ここから離れると同時に、伝令の様子を聞いて、まだ届いていないようならトシ達に伝えて来てほしい。本命は池田屋だと」
武田さんが何か言ってるけど、とりあえず無視だ無視。
元気よく返事をして去って行く千鶴を見送り、桜は近藤を見た。
近藤は頷くと、隊士を引き連れて池田屋に踏み入った。
「会津中将お預かり浪士隊、新選組。ーー詮議のため、宿内を改める!」
近藤の高らかな宣言に、小さなどよめきが続いた。
「わざわざ大声で討ち入りを知らせちゃうとか、すごく近藤さんらしいよね」
沖田が声を弾ませて続く。
「いいんじゃねえの?……正々堂々と名乗りを上げる。それが、討ち入りの定石ってもんだ」
「自分をわざわざ不利な状況に追い込むのが、新八っつぁんの言う定石?」
「そーなんじゃない?」
皆、どこか楽しげに笑みを浮かべていた。
「御用改めである!手向かいすれば、容赦なく斬り捨てる!」
そして、激戦が始まった。
(とりあえず、二階!)
一目散に二階へ続く階段を目指す。
「御免!」
向かってくる浪士は、斬る。
今では慣れてしまった感覚に嫌になるが、私の目的を果たすためには彼らを斬りつけないといけない。
少し時間はかかったが、二階への道を斬り開くと一足先に足を踏み入れた。
「くっ、新選組め!」
「おっ、と……」
二階に足を踏み入れたと同時に浪士が斬りかかってきた。
サッと避けると階段から転がり落としておいた、ごめんね。
「ふん…新選組か…」
奥からゆらりと現れた男に手を振る。
「やっほー」
「なっ、貴様は……⁉」
カッと目を見開いたのは、風間だった。
「貴様、なぜ男装しているのかと思っていたが…新選組にいたのか」
「あれ?僕のこと調べた時にこの情報は聞かなかったの?」
「風間は、出生だけを調べておりましたからね」
後ろから聞こえてきたのは天霧の声。
「桜!!」
大きな声を上げて二階へと来たのは藤堂で、その後ろには沖田もいた。
「なに?後はこの二人だけ?さっさとやっちゃおうよ」
「総司‼」
斬りかかる沖田を止めようとしたが遅く、風間に向かって行ってしまった。
後ろでは藤堂も天霧と戦闘を始めていた。
(とりあえず)
平助に加勢して天霧さんを風間の方へ追いやる!
幾ら何でも360度見渡せるわけないから、二人を同じ場所に集める。
「平助、左!」
「おうよ!」
連携をとって思惑通り天霧を風間と同じ場所へ追いやった。
「ふんっ!」
「総司!」
「くっ…!」
刀を払われた沖田はバランスを崩す、そこに風間は蹴りを繰り出した。
(やばい)
総司はここの事件がきっかけで労咳の進行がかなり進んだはず、そもそも発症させる事を塞がなくてはいけない。
「ぐぁっ…‼‼」
「桜‼」
沖田を守る事を考えていた桜が代わりに風間の蹴りを受け止め、後ろへと飛ばされた。
「ちっ、まさか人間如きを庇うとはな」
風間は舌打ちをすると、少し焦った様子で桜に近付こうとする。
「桜に近付かないでくれる?」
「オレら二人が相手するぜ?」
沖田と藤堂は桜を庇うように前に立った。
「貴様ら…」
「兄様!」
苦々しい表情を風間が浮かべた時、階段下から千鶴が上がって来た。
「次から次へと…その程度の腕で…」
千鶴を見た風間はスッと目を細める。
「……今日のところは帰らせてもらおう。要らぬ邪魔立てをするのであれば容赦せんぞ」
口角を上げた風間はそう告げる。
「悪いけど、帰せないんだ。僕たちの敵には死んでもらわなくちゃ」
沖田は柔らかく微笑むと、なんの前触れも無い動きで床を蹴った。
「総司、待って…!」
桜は立ち上がると、沖田に声をかける。
「兄様…!」
「おい、桜。無理するなって!」
千鶴と、天霧に応戦している藤堂の言葉を無視して桜は風間に向かう。
途中落ちていた杯を拾うと風間に投げる。
「くっ…‼」
力で押し負けていた沖田はその隙に風間を押し返した。
スッと桜の隣に並ぶと、小さな声で話しかけて来た。
「いい子だね、桜。後で、いっぱい褒めてあげる」
「………そりゃどうも」
(てか、それ千鶴に言う台詞だろうが!)
なんて呑気に考えている暇もなく、風間を見る。
「こしゃくな……!」
風間は舌打ちをした後、素早い動きで沖田を蹴りつけようと動く。
「させない…!うっ…‼」
「一度ならず、二度も……!」
沖田を庇った桜は沖田を巻き込んで倒れこむ。
風間は桜に足が当たる瞬間に力を抜いていた為、桜自体に大きなダメージはなかった。
倒れた二人に近づいて来た風間から守るように、千鶴が風間の前に立った。
「……おまえも邪魔立てする気か?俺の相手をすると言うのなら受けて立つが」
「その子に、手を出したら………絶対に許さない……‼」
桜は立ち上がると千鶴の前に立つ。
「兄様!駄目です!」
「駄目じゃない」
(なんて、強がってるけど)
本当はかなり体が痛い、口の中を切ったのか鉄の味がして口周りが濡れている気がする。
「……貴方の相手は僕、新選組の雪風桜。この子に手は出さないでもらうよ」
口に溜まっている液体をぺっと吐き捨てると、風間を只々睨みつける。
「桜一人じゃないでしょ」
隣に沖田も立ち、二人で風間を睨む。
そんな風間は二人を見た後、唐突に刀を納めた。
「どうして……」
「会合が終わると共に、俺の務めも終わっている」
千鶴の掠れた声に、風間はそう答えた。
「………桜。我が妻になる貴様を傷付けるつもりはなかった。すまない」
「………は?我が妻?」
拳を納めている天霧に刀を向けたまま、藤堂は間抜けな声を上げた。
そんな藤堂をちらりと見て風間は鼻で笑うと、壊れかけた窓から身軽な仕草で外に飛び出た。
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