原作突入~千鶴外出許可
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帰りの道中、寺田屋に出入りしていたのは雪村綱道では無かった、収穫は無かったと話をした。
「そういえば…」
「ん?」
斎藤を見ると、彼は目を細めた。
「先程、あんたと話していた男のことだが。……妙な男だったな。一見人好きするように見えたが、立ち振る舞いには隙が全く無かった」
「うん、そうだね。一応名前は才谷梅太郎って言うらしい」
まだ伝えるには早すぎると思い、敢えて偽名の方を伝える。
「目を見て思ったが、恐らく…脱藩浪人の類いだろう。この辺りで寝泊まりしているとすれば、薩摩や西国にゆかりがある者かもしれぬ」
「かもね。まあ、とりあえず用心はしておくよ」
桜はそう言って笑った。
「ん?なんか…騒がしいね」
「ああ」
屯所に戻ると、何やら広間の方が騒がしかった。
広間へ向かうと、ああ…と理解した。
(そういや、もう一つイベントあったね…)
出そうになる溜息を飲み込み、声をかける。
「何の騒ぎですか?」
「桜。斎藤。戻ったか」
土方の言葉に頷くと、もう一度状況説明を求めた。
原田・藤堂・永倉・千鶴達で巡察中に出会った青年、相馬主計。
彼が持っていた絵に関して事情を聞くためにここに連れて来たとの事だ。
(相馬が持ってた絵…羅刹となったあの人が描かれた絵)
桜は絵を手に取ると、とても懐かしそうに目を細めた。
「龍は、元気?」
「え?」
静かな桜の声に、皆の動きが止まる。
「…僕、変なこと聞いた?」
「いや、聞いてねえけど…龍って、井吹の事か?」
「うん」
桜は笑う。
「これ、描いたの井吹龍之介でしょ?」
「は、はい…」
視線を向けられた相馬は頷いた。
「静…じゃなかった、小鈴ちゃんと仲良くやってた?」
「は、はい…仲よさそうでしたよ」
「そっかー良かった良かった」
桜は嬉しそうに笑った。
「あの、あなたは?」
「僕?僕は雪風桜」
「あなたが!」
相馬は驚いた様に目を見開いた。
「へ?」
「アイツから、貴方の話は聞きました。とても良くしてくれた人だと……その絵も、捨てるつもりだったが、あなたになら譲ってもいいと」
「………そうなんだ」
桜は嬉しそうに微笑んだ。
「なら、これ貰ってもいい?」
「俺は構いません」
周りを見る相馬の視線に気づき、桜は土方を見る。
「いいよね?歳さん」
「………他の奴らに見られねえ様にしろよ」
「ありがとう!」
桜は喜びの声をあげた。
「相馬君、ありがとうね。そういえば、この人達に手荒いことされなかった?大丈夫?」
「え、あ…」
急に問い詰め出した桜に相馬は驚いたが、問題ないと告げた。
屯所を出る相馬を見送ると、貰った絵を大切にしまった。
元治元年 六月
「おい、桜」
「ん?」
呼ばれたので振り返ると、そこには土方がいた。
「丁度いい、てめえも同席しろ」
「え?ちょ、なに⁉」
いきなり同席しろって言って手を引っ張らないでくれないかなあ…
大人しくついていくと、広間についた。
「あれ、総司と平助」
「ん?桜も来たのか?」
「なんか、連れてこられた」
平助にそう言って隣に座ると、広間に第三者の声が響いた。
「失礼します」
声の聞こえた方を見ると、そこには千鶴がいた。
千鶴と目が合ったので手を振ると、微笑んでくれた、可愛い。
だがそれも一瞬で、千鶴はすぐに強張った表情になり、土方の前に座った。
「…………」
なにを切り出すべきか千鶴が悩んでいると、土方が不機嫌そうに口を開いた。
「おまえに外出許可をくれてやる」
「えっ…?」
「いいんですか……⁉」
(あ、そういえば、そんなイベントあった!)
1人合点がいったと納得していると、思わず上ずった声を上げた千鶴を見たまま土方は渋い表情のまま続けた。
「市中を巡察する隊士に同行しろ。隊を束ねる組長の指示には必ず従え」
「はい!」
パァっと笑顔になる千鶴に微笑む。
「総司。平助。今日の巡察はおまえらの隊だったな?」
「なるほどねー……。だから当番のオレらが呼ばれたってわけか」
納得したように呟いた藤堂だが、少し困ったように眉を寄せた。
「でも、今回はオレより総司向きじゃないかな。今日は総司の一番組が昼の巡察を担当だろ?」
「平助の八番組は夜担当だし、夜より昼が安全だって言うのは僕も同じ意見」
藤堂の言葉に頷いた沖田は、千鶴を見て悪戯っぽく笑った。
「でも、逃げようとしたら殺すよ?浪士に絡まれても見捨てるけど、いい?」
「そんなことしたら、僕が総司を斬るけどいい?」
全く、歳さんも悪い人だなあ、私に総司を怒らせる為に呼ぶなんて。
「桜にそんなこと出来るの?」
「出来るよ?ただ……総司は、千鶴の事守ってくれるでしょ?僕は信じてるよ」
にっこり笑う桜から沖田は視線を反らせた。
「……私、逃げませんから」
不意に千鶴の声が響いた。
「初めてここに来た日、私は新選組の皆さんと約束しました。父様を探すのに協力してくれるって、だから私は屯所から逃げないって……」
千鶴は息を吐くと、力強く沖田を見た。
「私、約束は守りますから」
(うん、いい目だ)
「だから、お願いします。皆さんも私に力を貸してください……!」
千鶴は深々と頭を下げた。
その様子に沖田は困ったように微笑んだ。
「ごめんね。少し、からかいすぎたかな。でも、何が起きるかわからないのは本当だから。危険を承知でついて来るって言うなら、僕の一番組に同行してくれて構わないよ?」
その言葉に、千鶴は力強く頷いた。
「……長州の連中が不穏な動きを見せている。本来なら、おまえを外に出せる時期じゃない」
土方は厳しい表情で言い放った。
(長州か…)
尊王攘夷派と呼ばれる人々、日本に訪れる諸外国の人々を力で打ち払い、国内に入れまいと考えている人々。
そんな尊王攘夷派が尊んでいるとものは【天皇】である。
【将軍】に仕え、幕府のために働く新選組とは、掲げる大義も信じる主君も正反対の人たちだ。
そんな尊王攘夷派の長州藩勢が近頃活発に動いている時期だ。
「どうして、外出を許可してくれるんですか?」
そんな危険な時期に、何故?と千鶴は土方を見る。
その言葉に土方は視線を反らした。
「………綱道さんは江戸の家に帰ってない。京の町中で綱道さんらしき人物を見たと言う証言が上がっているらしい」
「父様が?」
桜の言葉に千鶴は聞き返す。
「それに……半年近くも辛抱させたしな。機会を見送り続けたんじゃあ、綱道さん探しもこのまま進まねえだろ」
土方はそう千鶴に言った。
千鶴は土方の言葉が以外だったのか、目を丸くしていた。
「あの。……ありがとうございます」
千鶴はすぐに嬉しそうな表情を浮かべると、ぺこりと頭を下げた。
「それに今は、腹を壊してる隊士も多いしなー。オレらも万全の状態じゃないし?」
「おい、平助!」
「…………ねえ、僕その話聞いてないけど」
土方はすぐに藤堂に怒鳴ったが、時すでに遅し。
(腹を壊している隊士が多い?)
私の所にそんな報告は来ていない。
京の夏は凄まじい猛暑である。
風通しの悪い室内に入るたび、蒸し暑い空気に目眩がする。
そのせいで新選組隊士の多くはこの暑さで体調を崩していた、との情報を知っていたから細心の注意を払っていたはずだ。
「総司、千鶴を連れて巡察行って来て。頑張ってね」
「う、うん。さあ、千鶴ちゃん。早く行くよ」
「は、はい!」
沖田は千鶴を連れてそそくさと広間を出た。
「お、オレも!隊士に稽古つけてやんなきゃ!」
「あ?逃がさないよ?」
桜は手早く藤堂を捕まえ、土方の隣に座らせた。
「ねえ?改めて聞くけど…体調を壊している隊士が多いって、どういうこと?」
「あ、いや、それは…」
「……………」
「早く聞かせてください?」
その言葉に土方は観念したように息を吐いた。
「お前も最近疲れてたからな、少しでも負担を減らしてやりたいと思ってたんだが………すまねえ、裏目に出たようだ」
バツが悪そうにする土方の言葉に桜は苦笑した。
「歳さん、気を使ってくれるのは有り難いけど、僕が進んでしている事だ。大丈夫だよ」
「いや、でもよお桜……」
「平助もさ、心配してくれるならば手伝ってくれたらいいよ」
「お、おう!」
藤堂はニカッと笑った。
(全く……この人達は)
いい人過ぎて困るなあ……
「ちょ⁉」
「てめえ、何しやがる!」
「煩い!嬉しいんだよばーか」
そう言いながら2人を抱きしめておいた、おばちゃんは感極まってるんだよ。
満足して2人を離すと、良しっと気合いを入れた。
「とりあえず、片っ端から診察しよっかな。体調悪い隊士を医務室に順番に連れて来てくれないか?平助」
「えー!オレかよ…」
「夕食、おかずを1つ多く付けてあげよう」
「よっしゃー!任せとけ!」
勢いよく出て行った藤堂に笑っていると、土方が桜の肩に手を乗せる。
「歳さん?」
「おまえも、無理するんじゃねえぞ」
「勿論。歳さんもね」
そう言うと、自身も部屋を出た。
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