原作突入~千鶴外出許可
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元治元年 五月
(今日は、イベントが盛り沢山な気がするー)
今朝、綱道さんと特徴の一致する人が伏見にいると連絡があった。
ということは今日、千鶴は初めて外出を許される日だ。
どのような行動を取るかは千鶴次第だが、彼女の判断に任せるつもりだ。
さて、はじめに言ったが今日はイベントが盛り沢山の筈。
千鶴が伏見に行っても、歳さんについて行っても、巡察について行っても、必ずイベントが発生する日だ。
本当ならついて行ってあげたいが、そういう訳にもいかない。
私は今日は非番だ、自由に動かせてもらう!
そう決めた桜は、行きつけの茶店の1つに足を運んでいた。
(ここの茶店の羊羹は美味しい。出されるお茶と良く合う)
出されたお茶と羊羹を堪能していると、店が繁盛している為、相席を頼まれた。
快く返事をすると、目の前には端正な容姿の男性が座った。
「相席、失礼します」
「いえいえ、お気になさらずに~」
(てか、まさかここの茶店がイベントの場所だったとは…)
思わずため息が出そうになるのを飲み込み、目の前の人物に微笑む。
「八郎、久しぶり。まさかこんなところで会うなんてね」
「え?……………桜さん⁉」
驚いた様子の男性、伊庭八郎に桜は手を振った。
「そうそう、僕だよ」
「お久しぶりです!」
笑顔になる伊庭につられて桜も笑顔になる。
「まさか、また会えるなんて…」
「そんなに嬉しい?」
「勿論ですよ!」
伊庭は出されたお茶を飲むと、一息ついた。
「それにしても、なぜ桜さんはここに?まさか…」
「うん、そのまさかだよ」
伊庭は試衛館にいた面々以外に唯一、私の秘密を知る人間だ。
彼はこう言いたいのだろう、まさか貴女も新選組に、と。
複雑そうな表情を浮かべる伊庭に苦笑いすると、羊羹を口に含む。
「そんな顔しないでよ。僕は自ら望んで彼処にいるから」
「ですが……いえ、貴女の事です。何か考えがあって彼処にいるのですね」
「うん。今はまだまだ評判も悪く、軽率に見られてる集団だけど、これからも頑張るよ。そういや、八郎はなんでここに?仕事?」
「そんなところです」
自分は直参旗本で大番士奥詰として働いていると言った彼に、出世したねと微笑む。
照れる伊庭を微笑ましく見ていると、店内に知っている声が響いた。
「神妙にしろ、新選組の御用改めだ!ここの主人はどこにいる!」
そう言って入ってきたのは、よく見知った顔だった。
(そーだよねー八郎がいるもんねぇ)
出そうになるため息を飲み込み、見知った顔…武田に視線を向ける。
「私がここの店の主人ですが……本日は一体、どのような御用向きで?」
怯えた様子で尋ねる主人に、武田は居丈高に告げる。
「……わかりきったことを。何でもおまえは、この店に尊攘過激派の浪士を出入りさせているらしいではないか。一体、何を企んでいる?答えによっては屯所に連れ帰り、詳しく詮議させてもらうぞ」
「滅相もない!そのような者を出入りさせたことなどございません!」
武田の行いに、今まで我慢していた溜息が溢れた。
「ほう、つまり我々新選組がでたらめを言っていると、そう申すのだな?」
「い、いえっ、そういうわけでは……!」
店内を見渡す武田は桜に気付かなかったようで、再び店主を見る。
「……我々とて、善良な民の商いの邪魔をしたいわけではない。おまえの態度によっては、隊への報告を取りやめてやっても構わんのだが……」
「それは、つまり……」
「おまえの誠意を見せてみろ、と言っているのだ」
要約すると賄賂を渡せと言う武田に、主人は生唾をゴクリと飲み込む。
「そ、そのようなことはできません!そもそも我々には、何らやましいことなどありませんからーー!」
「何だと?貴様、京の治安を預かる新選組に楯突くつもりか?」
(ここまで忠実にやってくれなくてもいいんだけどなぁ…ここにいるの、千鶴じゃなくて私だよ?)
痛む頭を押さえると、立ち上がろうとしていた伊庭を止める。
「いいよ、八郎。ここは僕が出るべきだ」
「でも、桜さんは…」
「八郎」
再び名前を呼ぶと、伊庭は不服そうだが腰を下ろした。
立ち上がり、武田に近づくとニコリと微笑んだ。
「いつもこんな事を?武田さん」
「なっ…⁉雪風さん……」
目を見開く武田に向けていた笑みを引っ込めると、もう一度尋ねる。
「もう一度聞くよ。いつもこんな事を?」
「い、いや…その、私は…」
「僕……武田さんのことは、剣の腕もあって色々な知識も持ってらっしゃるから好きですけど……この行動は見逃せないですよ?」
桜はそう言って笑うが、目は笑っていなかった。
顔面蒼白になる武田に一歩近づくと、彼は一歩下がった。
「僕、ここの茶店には良く来ているけど、尊攘過激派の浪士なんて見たことないよ?その情報はどこから?」
尋ねるが、答えることのできない武田は口を開閉させるだけだった。
「………武田さん、貴方は優秀な方なのですから、このような事をしてはいけません。新選組云々よりも、貴方自身の評判を落としてはいけません。今回のことは僕の胸の内に秘めておきますから…ね?」
圧をかけると、冷や汗を流す武田は唇を噛んだ。
「巡察、頑張ってくださいね」
「………失礼します」
武田は頭を下げると、茶店を出ていった。
静まり返る茶店に苦笑しつつ、主人を見るとビクリと肩を震わされた。
(まあ、今しがた怖い目にあったし、僕も仲間だから怖いよね)
苦笑すると、桜は深々と頭を下げた。
「この度は、新選組隊士がご迷惑をお掛けいたしまして、誠に申し訳ございません。先程の隊士には私の方から、厳重な注意を行います」
謝罪をすると、頭をあげる。
「もし、新選組による被害がございましたら、私、新選組幹部の雪風桜まで申し付けてください。すぐに対応致します」
「は、はい…」
「では……そろそろ失礼致します。こちら、お茶の代金です」
桜はそう言うと、お金をお茶代よりも多めに渡した。
「こ、こんなに沢山頂けません!」
「迷惑をお掛け致しましたので、僅かばかりですが…気持ちです。僕、ここのお店のお茶と羊羹が大好きです。応援していますから、これからもお体に気をつけてお仕事頑張ってください」
桜はニコリと笑うと、一度頭を下げて店を後にした。
(あーあ、あそこのお店本当に好きだったのになー)
肩を落としながらトボトボ歩いていると、後ろから声をかけられる。
「桜さん!待って!」
「ん?八郎?」
追いかけて来た様子の伊庭に引き止められ、桜は足を止める。
「どうしたの?」
「さっきのお店の主人が、お礼を言ってたよ」
「え?僕に?」
迷惑をかけた仲間を止めただけだ、何もお礼を言われることなどしていない。
「はい。新選組の中にもあなたのような良い方もいらっしゃるのですね、と。またよければお店に来てくださいとも言ってましたよ」
「え、本当に⁉」
「は、はい」
桜は嬉しくて思わず伊庭の手を握っていた。
(よかったーお気に入りの店にまだいける)
ニコニコ笑っていた桜だったが、伊庭が固まっているのに気付いて手を離した。
「ごめん、つい嬉しくて」
「い、いえ。気になさらないでください」
はにかむ伊庭にホッとする。
「じゃあ、今日は会えてよかった!八郎さえよければ新選組の屯所にも顔を出して見て?皆喜ぶと思うから!」
「勿論です!」
桜は別れを告げると、歩き出した。
その後ろ姿を見えなくなるまで見送ると、伊庭も微笑んで歩き出した。
(あーまさか僕が巻き込まれるとは思わなかったけど、地味に八郎と武田さんがいがみ合うのを止めれた気もする)
ちょっとした収穫だな、と上機嫌で歩いていると、前方に斎藤を見つけた。
「一ちゃん?」
「桜か」
どうやら1人で歩いているのを見ている限り、千鶴は留守番か三馬鹿の巡察に同行していると思われる。
(………私、もう一つのフラグも拾わなきゃダメ…っぽいな)
黙り込む桜を斎藤は不思議そうに見ていた。
「どうした?」
「あ、いや。なんでもないよ。それより一ちゃん、伏見に行くんだよね?」
「ああ、そうだ」
「僕も行っていい?」
「………俺は構わぬが、あんたは非番なのだろう?」
非番の時くらい好きに過ごせばいいのに、といった表情を向けてくる斎藤に微笑む。
「うん、まあ非番ではあるけどさ。なるべく千鶴の為に動いてあげたいんだ。ダメかな?」
「あんたは優しいのだな」
斎藤は微笑むと、すぐに表情を引き締める。
「ならば、伏見へと急ごう」
「うん!」
返事をすると、2人は歩き出した。
暫くして、目的の場所……伏見の寺田屋へと着いた。
雪村綱道と思われる人物が出入りしている宿だ。
「一ちゃん、堂々と入るわけにもいかないし、向かいの茶店で様子を窺うのと、近辺に聞き込みに行くのとで別れよう」
「わかった。ならば俺が聞き込みに回ろう」
「え?いいの?」
斎藤は頷くと、ほんの少し笑った。
「あんたは元々非番だ。それによく茶店を巡っていると聞いた。この店のお茶と菓子も堪能しつつ、宿の様子を見ていてくれ」
「やった!ありがと、一ちゃん」
「では、いって参る」
斎藤を見送ると、店の人たちに話をして情報を仕入れつつ、主人に事情を話して許可を貰い、店先の縁台から寺田屋の様子を窺う事にした。
(んー正直、ここに綱道さんはいないからちゃっちゃと切り上げたいけど、一応原作通りに動かないといけないし…それより、あの男と私は遭遇するのだろうか)
色々と考えながら、注文していた団子を口に含む。
「あ、美味しい」
思わず笑みが溢れる。
「お姉さん、後二本追加でください」
「はい!すぐに」
にっこり笑った店員さんは、すぐに追加の団子を桜の元へ持って来た。
(んー今日は食べ過ぎだけど、いいよね。自分のお金だし!)
体重?なんのことかね…?
(あの屯所にいたら、痩せる一方だし)
たまには食べて、脂肪を付けて、筋肉に変えなきゃ。
誰かに聞かれたわけでもないのに言い訳をしながら団子を手にする。
「ん~美味しい…」
ほうっと息が出る。
「随分美味そうに食うんだな」
「ん?」
聞こえて来た声に視線を横に向けると、色黒で左目の涙黒子が特徴的な男が立っていた。
(………まじか)
そうかそうか、私がフラグを回収するのか、まあ………いいけど。
黙り込む桜を不思議に思ったのか、男は隣に腰を下ろした。
「無視しなくてもいいだろ」
「あーごめんなさい。突然話しかけられて驚いたもので」
申し訳なさそうに桜が謝ると、男はニカッと笑った。
「誰か待ってるのか?」
「んーまあ。そう見えました?」
「ああ、見えたな」
「………まあ、待ってる感じですかね」
桜は団子を食べきると、お茶を口に含む。
「そういや、お兄さんはどちら様?」
「俺の名前か?俺は、才谷梅太郎っていうんだ。よろしくな」
「どうも、才谷さん。僕は………山本太郎です」
適当に名前を告げると、ジッと彼の目を見る。
「な、なんだ?」
(んー何かを探ってる目だなぁ…これは、僕のこと知ってるな?)
確信はないが、とりあえず笑っておこう。
「いえ、特には。才谷さんも誰かを待ってるのですか?」
「いや、退屈しててな…歩いてたら凄く美味そうに団子を食ってる奴がいたからな。なんか気になって」
「うっ…なんか、恥ずかしいな」
桜が頬を掻くと、才谷と名乗った男は笑った。
「別にいいじゃねえか。美味いもんを美味いと言うのは、良いことだ」
「なんか、バカにされてる気がするなぁ」
「そんな事ねえよ」
才谷は笑うと、桜の頭をポンポンと撫でた。
(…………ふむ、読みきれない)
男の行動に戸惑ってしまうが、彼の目は依然何かを探っている様に見えた。
「………………」
「どうした?」
「才谷さん、僕に何か聞きたい事ありますよね?」
「⁉」
「これでも、色々な人を見て来ましたから…相手の様子を探ってる事くらい気づきますよ?」
桜がそう言うと、才谷は苦笑した。
「流石新選組だな…」
「ああ、僕の事ご存知だったんですね。坂本龍馬さん」
「……気付いとったか、雪風桜」
「勿論」
桜が笑うと、才谷改め坂本も笑った。
「もう少し惚けるかと思いました」
「おまん相手に惚けても、すぐに見破られそうやきな」
ニカッと笑った坂本に、毒が抜かれそうになる。
「で?僕に近づいたのは何用で?」
「いや、特に用はない。新選組の雪風に似とる奴を見かけたから、声をかけてみただけや」
「……………嘘は言ってなさそうですね」
「おう!言っとらん」
「…で?僕を見た感想はどうです?」
桜が首を傾げると、坂本は笑う。
「思ってたよりも、可愛らしいにやぁ」
「……………」
「らぁて顔をしちゅう」
「らぁて?…“なんて”って事ですか?ならば教えましょう…男色じゃない男が、男に可愛らしいと言われて喜びますか?」
「………すまん」
素直に謝った坂本に、もう毒は抜かれてしまった。
「別に良いですよ。気にしてないです」
桜は苦笑する。
「で?他に感想や聞きたい事ございます?」
「感想なぁ…荒くれもんがよっちゅう新選組の中におる奴とは思えんくらい、穏やかぇ奴だな。噂通りや」
「噂?」
「新選組の幹部雪風桜。荒くれもんの中におるのが似合わん穏やかぇ奴。剣術の腕も立ち医学にも精通しよって、大概の病気や怪我は治してしまう凄い奴だってな」
「…………凄く、過大評価された噂ですね」
苦笑いが止まらない桜を見て、坂本は笑う。
「まあ、ほがな顔しなや」
「いや、だってねぇ…僕はそんなに出来た奴じゃないですから」
そう言って、お茶を飲むと斎藤が戻ってきたのが見えた。
「待たせたな桜」
「んーん、おかえりー」
桜が笑うと、坂本は立ち上がった。
「お仲間が戻って来たみたいだし、俺はそろそろ行くわ。それじゃあな、桜。縁があればまた会おうぜ」
去って行く坂本に手を振ると、斎藤が隣に来る。
「今の男は?」
「さあ?お茶飲んでたら声かけられた」
とりあえず、帰りながら話そうかと伝えると、店の勘定を済ませた。
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