原作突入~千鶴外出許可
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元治元年 三月
今日も今日とて勝手場で朝食の用意をする。
気持ち、隣の男達の気が立ってるのは気のせいではないだろう。
「…………遅いね、千鶴ちゃん」
にっこりと黒い笑顔でそう言ったのは沖田。
その横では黙々と斉藤が鍋の様子を見ていた。
「僕、見てくるね」
「優しく頼むよ」
手をひらひらと振って出て行く総司を見送ると、一つ溜息をついた。
千鶴は勝手場に立つ事を許された。
私は人出があると助かるのでありがたいのだが、正直まだ千鶴と打ち解け切れていない彼らは色々と固い。
総司はきっと千鶴に悪態を吐きながら起こすだろうし、一ちゃんは只々淡々としていて冷たい雰囲気を与える。
他の面々もそうだ。
平助もぽろっと心にもない言葉を言うし、飄々としている左之さんに目の奥が笑ってない新八さん、鬼すぎる歳さん、言い表せない怖さのある山南さん。
千鶴と彼等の関係は、先程も言ったが色々と固い、固すぎる。
私がいてもダメか?ダメなのか?私の妹分だよ?早く信じてあげてよー。と1人心の中で叫ぶ。
「彼女、お寝坊さんなんだね」
「………」
戻ってきた総司に「疲れてるんだよ」って言いたいけど、今は言えない、私も昨日夜の巡察に行っていたから正直疲れている部類に入る。
そこを総司に突かせる訳にはいかないから、とりあえず黙る。
「遅れてすみません!」
沖田の無言の威圧を全力で無視していると、千鶴が慌てて入ってきた。
「おはよう千鶴」
朝の挨拶をすると、千鶴も返事を返してくれた、可愛い。
「雪村。……大声を出すな」
和んでる私の横で、一ちゃんがポツリと言葉を吐いた。
「隊士の中には夜遅くまで、巡察に当たっていた者もいる。せめて起床時間になるまでは、彼らを寝かせておいてやりたい」
「……すみませんでした。迷惑ばかりかけてしまって」
「……謝る必要はないだろう。今度は気をつけてほしいと思うが、迷惑をかけられた覚えなどない」
「でも、今日は炊事当番だったのに、ずいぶん寝坊してしまいましたし……」
ギスギスとした空気が流れる。
(………だるい)
出そうになる溜息を飲み込むと、隣で一ちゃんが千鶴を見ていることに気づいた。
「どうやら誤解しているようだな。あんたの行動には何の影響力もない」
「え……?」
「あんたが手伝わなければ、俺たちは朝食を作れないとでも思っているのか?日常の炊事は隊士が行う。俺たちがあんたに期待するのは、綱道さん探しへの助力だけだ」
(いや、まあ、一ちゃんの言い分は全く間違えてない。正しい。でも…)
千鶴が彼らと距離を縮めるためのイベントのある日だとしても、私がイラついても問題ないよね?我慢する必要ないよね?
包丁を掴む手に力が入る。
「でも、その……。できればお手伝いしたいです。少しでも役に立ちたいんです。……まだ死にたくありませんから」
千鶴の控えめな声が聞こえてきて、そちらを見る。
目があった千鶴は、何も言わない私に不安になっていたのか、こちらを見ていた。
「雑用もできない居候なら、新選組のために殺すしかない。……とでも言われたのか?」
掛けていたたすきを取った斉藤の言葉に、千鶴は控えめに返事をした。
「……千鶴、それは総司の嘘だから、気にしない」
「え?」
「そもそも、寝坊した程度で殺すなんて…僕は何回隊士を斬ればいいのかな?」
その言葉に、千鶴はポカンと口を開く。
かまどの火加減を見ていた沖田は立ち上がると、嘘をついたことを悪びれる様子もなく白状した。
「………千鶴、総司はもうほっといていいよ。それより手伝ってもらえる?」
「はい!」
そう言って微笑むと、やっと千鶴は安堵の表情を浮かべた。
「僕の事放っておくって、酷くない?」
「なんも酷くないね。えっと、千鶴は汁物を仕上げて貰っていい?僕、千鶴の味付け好きなんだ」
「はい!」
総司は若干拗ねていたが、知らん。
千鶴に汁物の仕上げを頼むと、料理の続きを行なった。
「千鶴、できたー?」
「はい!出来ました!」
こんな感じかな、と独り言を呟いてた千鶴に問いかけると、料理が完成したようだった。
「よし。これで朝食は完成だ。あんたは盛り付け終わった膳から、広間の方へ運んで行ってくれ」
「はいっ!」
千鶴は元気よく返事をすると、汁物が溢れてしまわないように慎重に膳を手にする。
「千鶴、誰かが唐突に部屋から出てくる可能性もあるから、人の部屋の前を通る時は気をつけてね」
「はい!兄様!」
千鶴は微笑むと、勝手場を出た。
「ほら、僕たちも運ぶよ」
「わかった」
素直に頷く一ちゃん、そういうとこ好きだよ。
後ろでぶーたれてる奴は放っておこう。
そう決めると膳を持って広間へ向かった。
「ん?」
広間には人はいたものの、何人か足りない。
「源さん、山南さん、おはようございます」
「ああ、おはよう」
「おはようございます」
挨拶を返してくれる2人に近寄ると、気になったことを聞く。
「平助と歳さんはまだ来てないのですか?」
「二人とも、昨日は遅くまで隊務を行なっていたからねぇ…」
おお?これって、起こしに行くイベントだよね?千鶴の出番よね?
「なら、二人の様子をちづ「おや?雪風君が見に行ってくれるのですか?」えっ…?」
言葉を遮って来た山南さんをちらりと見る。
にこにこと微笑んでいる彼からは、何処か無言の威圧感を感じる。
(チョット待って、これ、千鶴のイベントだよね?)
私に降りかかろうとしてる気がするんだけど、気のせいかな?ん?
「雪風君、見て来てもらってよろしいですか?」
「……はい」
山南さんから黒いオーラが出てた気がした、逆らえない。
桜はため息を吐くと、広間を出た。
まず向かったのは藤堂の部屋。
「平助ー」
部屋に着いて外から声をかけるが返事はない。
「平助、入るよー」
襖を開けると、中に入る。
「むにゃ……」
平助は掛け布団を抱き枕がわりにぐっすり寝ていた。
(こいつ、羨ましい…)
私は寝ていないんだぞ、飯を作れと言われて寝ていないんだぞ、この野郎。
ふう、とため息を一つ吐くと、平助の肩を揺らす。
「平助、そろそろ朝ごはんの時間だから、起きろ」
「うー……」
唸る平助に苦笑する。
「皆、広間で待ってるぞ。早く起きなさい」
「あー、うっせえな……!眠いんだから放っとけって!」
「あん?」
平助の言葉にイラっとする。
私だって寝てないんだぞ!
いやいや落ち着け、と息を吐く。
「いや、でもさ、朝ごはんだし」
「オレは夜の巡察で疲れてんの。今日くらい寝かせてくれって」
「眠いのはわかるけど、もう朝だし」
そう言うと、平助は恨みがましい目でこちらを見た。
「……桜?」
「おう」
「……なんでオレの部屋に?」
「さっきから言ってるだろ。朝ごはんだって」
「ふーん……」
もぞもぞする平助に、にっこり微笑む。
「夜の巡察疲れるよね。ぐっすり寝たいよねーわかるわかる。でさ、そんな平助に今の僕の気持ちわかる?夜の巡察の後、大した仮眠すら取らせてもらえなくて飯を作れって言われて。その後目の前で気持ちよさそうに寝てる平助を起こしに来た僕の気持ちわかる?態々見に来てあげたのに、うっせえなって言われた僕の気持ちわかる?」
ああ、今の私は相当黒い雰囲気でも出してるのだろう。
平助の顔がどんどん青くなってる。
「わ、わりい!起こしてくれてありがとよ!すぐに用意して広間に行くから!」
「うん、そうしてくれ」
慌てて飛び起きた平助にそう告げると部屋を出た、次に向かうのは歳さんの部屋。
「歳さん、起きてる?てか、いる?」
襖の前から声をかけるも、平助の時と同様に返事はない。
(私の記憶が正しければ、着替えてたんじゃないかなぁ…)
このまま外から声をかけ続けるって手もある、恐らく彼は起きてるのは起きてる筈だから。
でも、万が一寝ていたらどうする?
「………………」
桜は少し考えて、襖を開いた。
「………」
(やめとけばよかった)
やはり、彼は起きていた。
ボーッとしていたのだろう、突然開いた襖に驚いたのかポカンとこちらを見ていた。
「歳さん、おはよう」
「……お、おう」
返事を返せるくらいには思考が追いついて来たようだ。
土方は一つ咳払いをすると、呆れたようにこちらを見た。
「お前は人の着替えを覗く趣味でもあったのか?」
「外から何回も声かけてんのに返事しない歳さんが悪い」
「………それはすまん」
呆気なく謝った土方に苦笑する。
「朝ごはん出来てますよ。皆も広間に集まってるから、早く行きましょう」
「ああ、わかった」
伝えることを伝えると、襖を閉めようとする。
「うわっ⁉」
その手を突然歳さんに掴まれた、なんだなんだ。
「着替えでも手伝って行くか?」
「はっ?」
「はっ?って…随分色気のねえ返事だな」
そう言った土方に、桜は溜息を吐く。
「あのね、歳さん。僕は男として暮らしてるんだから、歳さんの着替えを手伝うかって問いに対して、色気のある返事をしたら色々と問題あるでしょ」
「そりゃそうか」
土方は面白そうに笑うと、手を離した。
桜は少し考えた様子の後、土方を見た。
「年増の女でも、男性の裸を見て羞恥心くらい湧くんだよ、ばーか。恥ずかしいから手伝うわけないでしょ」
桜はそう言うと部屋を出て襖を閉めた。
「……可愛いところあるじゃねえか」
土方はその様子に笑うと、着替えの続きをした。
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