原作突入~千鶴外出許可
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「ああ、雪風君。ここにいたのか」
「ん?あっ、近藤さん!」
後ろから声をかけられ、振り返ると笑顔の近藤さんがいた。
でも笑顔だったのは一瞬で、すぐに困った表情に変わった。
「どうされたのですか?」
「実は…またトシが根を詰めて実務を行なっているみたいでな…」
「山崎さんから、寝てないって報告が来た。ですか?」
桜の言葉に、近藤は頷いた。
(もーあの仕事人間はー)
ふぅ、と息を吐くと近藤さんが困った様に笑った。
「すまないが、トシの体調に問題が無いか見てやって欲しい。後は休息を取る様にも言ってやってくれないか?」
「もっちろんです!近藤さんの頼みなら、勿論引き受けますよー僕個人としても、歳さんには倒れられたら困りますしね」
「いつもすまないな」
申し訳なさそうにする近藤さんに気にしないで欲しいと告げると、その場を後にする。
(んー取り敢えずお茶でも持ってくかー)
そう考えて、勝手場でお茶を用意する。
お盆を手に土方の部屋に向かった桜は、彼の部屋の前に着くと襖を開いた。
「とーしーさん。お茶でもしましょー」
「桜……お前はいい加減、俺が返事をしてから襖を開けやがれ」
「考えときまーす」
お前な…と溜息を吐く土方の前に茶を置くと部屋の中を見渡す。
(………結構散らかってるな)
根を詰めて作業をしている時、歳さんの部屋は多少荒れる。
普段は整頓されているのだが、根を詰めるとすぐに散らかる。
「全くー歳さんってば、また部屋をちらけてー」
「ん?ああ…仕方ねえだろ。書類が溢れてんだ」
出したお茶を飲んで一息ついてる土方に苦笑する。
新選組を何よりも思っている彼だから、仕方ないとは思いつつ…やはり根を詰めすぎて徹夜したり、部屋が散らかったままになるのはよくない。
「簡単に片付けるよー」
「おお、悪いな」
全然悪びれた様子の無い歳さんに苦笑すると、私は部屋の掃除を始めた。
掃除といっても、ミスをして丸められた紙を集めたり、その他雑多に置かれてるものを整頓するだけだからすぐに終わる。
(これでいっか)
一通り掃除が終わったのでチラリと土方を見る。
(眉間の皺がえぐい)
これでもか!と寄せられた眉間の皺に溜息が出そうになる。
「歳さん」
「あ?…………なにしやがる」
呼びかけてこっちに向いた歳さんの眉間の皺を伸ばすように指を当てる。
「皺、えぐい」
その言葉と行動に益々眉間に皺が寄る、この野郎…
「あのな…俺は忙しいんだ。邪魔をするな」
「んー…それ、本当に歳さんにしか出来ない仕事なんですか?いや、まあ、歳さんは自分にしか出来ない仕事をしてるのは知ってますけど、他の人間に振れる仕事も紛れてたりしないです?」
「……なに?」
桜の言葉に土方は訝し気な表情をする。
「ちょっと見せてください」
「あ、おい!てめえ!」
土方を押しのけた桜は机の上にある書類の山に簡単に目を通す。
「これ、三馬鹿でも処理できるよー。これは一ちゃんあたりがいいかな。これなら…総司でも出来るでしょ、近藤さんからって言えば総司もちゃんと仕事するだろうし。これは…山崎さんや島田さんに頼むのがいいかも。こっちは、山南さんに」
テキパキと仕事の仕分けを行う桜に、土方は呆気にとられる。
桜は仕分けを終了させると、土方を見た。
「ほら、歳さん。大分減りましたよ。かなり紛れ込んでたね」
「あ、ああ…」
「近藤さんが大好きで、新選組を守りたい仕事人間なのは重々承知だけど、あんまり1人で背負い込んだら駄目ですよ?歳さんが倒れちゃったら、どーするの?」
「俺は倒れねえよ」
桜の言葉を土方は鼻で笑った。
それにムッとした桜は、土方の顔をガッと掴んだ。
「なっ⁉」
「顔色がいつもより青白いですね。頭まで血が回っていない証拠。それに目の下に隈も出来てる、立派な過労に寝不足です。医者として、今すぐ休む事を命じます。そして…近藤さんも心配されてます。勿論僕も。少し、休みませんか?」
そう言って苦笑すると、土方は困ったように笑った。
「そこまで言われてるのに…仕事を休まねえって言ったら、斬られそうだな」
「はい。斬っちゃうよ?」
巫山戯ながらそう言うと、土方は笑った。
「なら、少し休むか」
「そうしてください。あ、お布団でも用意しますね」
「あ、おい」
何か言ってる土方を無視して桜は布団を手早く用意する。
用意が終わると土方の髪紐を勝手に解いて布団へ寝かせる。
「ちゃんと寝るまでここにいるからね」
「お前は俺の親か」
「僕、歳さんみたいな子供を持った覚えはないんだけど」
軽口を叩いて笑っていると、土方は桜を引き寄せた。
「ちょ、歳さん⁉」
「枕が硬くて寝辛い」
そう言うと、土方は桜の膝に頭を乗せた。
(おうおう、これは所謂膝枕ってやつか?)
なんだ?歳さんはこんな想定外の事をするほど疲れてるのか?
驚いている桜に土方はフッと笑うと、目を閉じた。
(………まあ、いいか)
彼が寝てくれるなら、気にしない。
その長い髪に指を通しながら、彼の頭を撫でる。
「おやすみなさい、歳さん」
そう言って、桜は笑った。
(んー薬を増やしたい。食材も増やしたい)
桜は医務室で悩んでいた。
今後の事、特に沖田の事に備えて薬や治療具、食材などを増やしたいと考えていた。
総司は史実では麻疹を患うが、出会ってから十数年間彼は発症してない。
労咳、所謂肺結核の菌も麻疹を患う前後で持っていたのではとの話を聞いたこともあるが、麻疹を発症していない時点で労咳を発症させる確率はかなり下がっているのではないかと考えている。
(でも、油断は出来ない…)
頭を悩ませていると、背後から声をかけられた。
「雪風君、すまない。今いいか?」
「あ、山崎さん。どうしました?」
医務室に入ってきた山崎は桜の前に座ると、一枚の紙を出した。
「すまないが、この者たちがそれぞれこの様な症状を訴えていてな。俺の方でも対処できるものも居たのだが、一部の者達の症状がよく分からなくて…」
困った様子の山崎から紙を受け取ると、桜は目を通して立ち上がる。
「えーっと、この人はこれ、この人達はこれ、んーこの人はこれかな」
薬を用意すると、山崎にそれぞれの対処法を説明する。
「すまない、助かった」
「いえいえー」
山崎はホッと一息ついたが、すぐに眉間に皺を寄せた。
「山崎さん、何かありました?眉間に皺が寄ってますよ」
「いや、俺は特にないが…君が悩んでる様に見えてな」
「…僕が?」
頷いた山崎に苦笑する。
「そんな風に見えました?」
「ああ」
「んー……まあ、悩んでは、いますけど…」
「俺には言えないか?」
真剣な表情の山崎に桜は目を逸らした後、意を決して彼を見た。
「山崎さん…得体の知れない薬を飲めますか?どこから仕入れたのかわからない食材を口に出来ますか?西洋の医療器具を受け入れれますか?」
桜の質問に山崎は驚いた後、少し考え込んだ。
「………聞きたいのだが」
視線を落としていた桜は、山崎の声に視線をあげた。
「得体の知れない薬も、食材も、医療器具も、君が用意するのか?」
「はい、そうです」
「ならば…受け入れよう」
「…………え?」
(山崎さん、受け入れちゃうの?)
得体の知れない薬とは、巾着から取り出す未来の薬。
仕入先のわからない食材も、医療器具も、巾着から取り出そうとしている未来のものだ。
「何を驚いている?」
「いや、だって…得体の知れないものですよ?」
「だが、君が用意するのだろう?君は俺たちに害のある物を用意しないだろう?」
こちらを全面的に信用してくれている言葉に、目に、思わず泣きたくなった。
「うー…山崎さん…!」
「⁉」
思わず抱きついてしまったけど、許して山崎さん!泣いちゃいそうだから、許して!
そんな気持ちを察してか、ポンポンと頭を撫でられた。
「山崎さんが優しすぎて、僕の涙腺は崩壊です」
「……君はたまに理解出来ない事を言うな」
「僕、誰も死なせませんから。山崎さんも力を貸してくださいね」
「ああ。出来ることは手伝おう」
顔を上げると思ったより近くてびっくりしたので離れておいた。
「急にごめんなさい…」
「いや、気にするな」
そう言って笑った山崎さんに、もう一度お礼を伝えて笑った。
「………ふむ、酒が足りないな」
おかしい、私は酒を五つ置いていたはずだ。
今目の前には四つしかない。
(大体の目星はついてる…)
小さく溜息を吐くと、犯人がいるであろう部屋に向かう。
部屋の前に着くと、勢いよく襖を開けた。
「うおっ…って、なんだ桜か」
ホッと一息着いたのは、永倉だった。
そんな永倉の手元には勝手場に置いてあった筈の酒が。
桜が目を細めた様子を見て、永倉は頭を傾けた。
「ん?どーしたんだ、桜」
「僕、勝手場に酒を五つ置いてたんですよ。それが今は四つしかなくてですねー。あっ、ところで永倉新八さん。そのお酒はどこから?」
にっこり笑顔でそう言うと、永倉の顔は真っ青になり冷や汗が流れる。
「僕もね、隊士を疑いたくないんですけどねぇ…」
「大変申し訳御座いませんでしたぁあああぁ」
ドガッと床に額を勢いよくつけた永倉は、全力で謝った。
「何に謝られてるんです?僕、馬鹿だから分からないです」
「あー、いや、その…俺が調子乗ってお酒を飲んでしまいました!!申し訳御座いませんんんんん」
これでもかと謝る永倉の前に溜息を吐いて座る。
「新八さん、そろそろ学習しません?勝手場にあるものは、勝手に拝借しない」
「いや、俺も貰うつもりはなかったんだけどよ。気がついたら持ってたと言うか…」
「男なら言い訳しない」
「はい……」
シュンと項垂れる永倉に桜は苦笑する。
「今度から勝手場のお酒持って行ったら、新八さんのご飯、僕作りませんからね」
「えっ」
「ご自分で作ってくださいね?」
そう言って笑うと、肩を掴まれる。
「そりゃねえよ桜ちゃん!俺、桜ちゃんの作る飯を毎日楽しみにしてるんだぜ?あんな美味いもん食えて俺はすっごい幸せでよー、あぁ…今日も一日頑張ろうって思えるんだよー」
やばい、新八さん必死すぎて私にちゃん付けし始めた。
あまりの必死さにどんどん毒気が抜かれてしまう。
「………兎に角、次は無いよ」
「桜ちゃん…!」
「代わりのお酒、買ってきてくださいね?自腹で」
そう言われた永倉は、慌てて部屋を出て行った。
桜は苦笑して立ち上がると、勝手場へと戻るのだった。
文久四年 二月
医務室に向かうために廊下を歩いていると、広間の方から声が聞こえた。
(千鶴と……もう一人は………武田さん?)
広間の中を覗くと、そこにいたのは千鶴と五番組組長の武田観柳斎だった。
「あっれー?武田さん。千鶴も。何してるんです?」
そういえば、千鶴が問い詰められるイベントもあったなと思いつつ中に足を踏み入れると、千鶴は安堵の表情を浮かべた。
「雪風さん…」
驚いた様子の武田は目を見開いた。
千鶴に伸ばしていた手を引いた武田に、ニコリと微笑む。
「僕の弟に何か用?」
「お、弟ですと…?」
「あれ?前に言ってなかったっけ?」
「は、初耳ですな…」
「そっか。偶々伝えた時にいなかったのかな?」
動揺する武田に微笑みを崩さないまま千鶴の元へ向かうと、そっと背に隠す。
「近藤さんに、ちゃんと弟の部分を特に強調して伝えてくださいって言ったのになぁ…近藤さんもついつい忘れちゃったのかな?それなら、聞こえてない隊士がいた可能性もあるなぁ…」
ワザとらしく笑うと、武田は苦笑いを浮かべた。
「千鶴は土方さんの小姓としてここに居るけど、まだまだな所もあるし、剣術も鍛錬を積ませている所なので迷惑をかけることもありますが、僕も含めて兄弟共々よろしくお願いいたします」
「こ、こちらこそ……」
困惑した様子の武田を見ていると、広間に三人以外の声が響いた。
「おい、武田!こんなところで何をしている?」
「これはこれは土方副長……。なに、近藤局長に少々用がありましてね」
「ほう……俺は何も聞いちゃいないが」
「山南総長と共に、相談に乗ってほしいと言われているのです。しかし……近藤局長もいらっしゃらないようなので、私はこれで失礼します」
頭を下げて武田が出て行くと、ため息が漏れた。
「おい、雪村。屯所の中を勝手に歩くんじゃねえ!」
武田が去った後、土方が怒鳴る。
「まあまあ歳さん、僕が千鶴に用事を頼んでここで待っててもらったのが悪いから、今回は怒らないでやってほしいな」
「ったく…お前は……」
ため息を吐く土方に謝ると、驚いている千鶴の頭を撫でる。
「千鶴、さっきはありがとう。僕もそろそろ次の用事に向かうね。あと、嫌な思いさせてごめんよ」
「あ、いえ。そんなことは!」
声を上げる千鶴に微笑むと、土方を見る。
「では、僕はこれで」
「ああ…」
ため息を吐く土方にも微笑むと、その場を後にした。
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