原作突入~千鶴外出許可
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(寒い…)
手に持っている雑巾を絞ると、床を拭く。
湯を沸かして、なるべく桶に溜める水は温かいものにしているが、すぐに冷えてしまう。
千鶴も一緒に掃除をしているが、手足を冷やすような事はさせたくないので掃き掃除をお願いしている。
(んー大体掃除できたかなぁ…)
屯所の中は一通り掃除したつもりだ。
「千鶴、そろそろ終わろうか」
「はい、兄様!」
掃除道具を片付けると、私の自室に千鶴を招く。
火鉢の用意をすると、恥ずかしがる千鶴を自分の足の間に収めて火鉢の近くに座った。
「千鶴、寒くない?」
「はい!兄様の貸してくださった、ぶらんけっと?と、後ろに兄様がいるので…温かいです」
この時代の日本にはないブランケットを一生懸命言う千鶴可愛い、プライスレス。
ちなみに、ブランケットは私が巾着からお取り寄せしたものだ、便利。
「掃除して体が冷えたからな。温めないと」
千鶴に話しかけながら頭を撫でていると、腕の中の重みが増した。
不思議に思って千鶴を見ると、小さく寝息をたてていた。
疲れているんだなぁ…まあ、無理もないか。
京に来て、羅刹に遭遇して、新選組の屯所に連れてこられて、あれやこれや話を聞かれて…ずっと気を張っていたに違いない。
自分といる事で、こうして安心して眠ってくれるなら、とてもありがたい。
「桜……と、雪村か?」
そう言って声をかけて来たのは斎藤だった。
「ん?一ちゃん?どうした?」
「いや、繕ってもらいたいものがあったのだが…また今度にしよう」
斎藤は千鶴を見てそう言うと笑った。
「ん、そうしてくれたら助かるかな。そうだ、一ちゃんもゆっくりしてったら?」
そう言い手招くと、ちょこんと隣に座られた、何故。
「………近くない?」
「……そうだろうか?」
こてんと首を傾ける一ちゃんにお前、狙ってんのか!と叫びたくなった。
(親戚ちゃんが騒ぐのもよくわかったわ。こいつは天然であざとさを出して来やがる…)
恐るべし斎藤一…と考えていると、一ちゃんがまだこちらをジッと見ていた。
「ん?何?」
「……桜の腕の中だからとはいえ、俺が来たことにも気付かずに眠れるものなのだなと」
「そんだけ疲れているんだよ、千鶴も」
千鶴の頭を撫でていると、その手を一ちゃんが見ている事に気付いた。
何となく手を一ちゃんの方に向けると頭を付けられた。
おおっ?と思いながらとりあえずわしゃわしゃと撫でておいた。
「………一ちゃん、疲れてんの?」
「かもしれないな」
うん、そうだな疲れてるよ、君。
「一ちゃんも寝たら?」
「……寝る、か」
斎藤はそう呟くと、いそいそと桜の後ろに移動した。
「それでは、失礼する」
「え?」
どこに失礼するんだと考えていると、背中に重みを感じた。
「は、一ちゃん…?」
「………」
寝るの早っ!てか…
「僕の背中にもたれて寝ないでよ…」
流石に重いよ?
そんな願いも虚しく、斎藤は起きてはくれず、間にいる桜は二人が起きるまで身動きが出来なかった。
「山南さん‼」
「おっと…雪風君、危ないですよ」
笑顔で受け止めてくれる山南さんをぎゅっと抱きしめる。
土方と山南が大阪の出張から帰って来たと桜に連絡があった。
買い出しへ行っていた桜は一緒に来ていた隊士達に荷物を預けると、大急ぎで屯所へ戻り、山南を見つけるなり飛び付いたのだ。
「おい桜、山南さんは怪我してんだ。危ねえだろ」
「そう!怪我!僕に見せてください!」
「はい、お願いします」
近藤さんの「頼んだ」の言葉に頷き、山南さんと一緒に広間を出る。
医務室に入ると山南さんに座ってもらう。
「山南さん、怪我はどこですか?」
「左腕ですかね」
(左腕…原作と同じ…)
不安に思いながら山南さんの着物の袖を捲る。
傷はかなり大きく、どこが大事に至らないだ!と憤慨しそうになった。
「山南さん、ちょっとすみません」
謝りを入れ、前をはだけさせて左半身を露わにさせる。
肩まである傷跡に思わず表情が歪む。
「傷自体は浅いけれど…範囲は広いですね」
「ですが、刀は振れますよ。大事に至ってません」
「馬鹿!傷から菌が入って悪化したら、振れなくなります!」
思わず大声を出すと、山南さんは目をパチクリとさせた後、笑った。
「確かに…雪風君の言う通りですね。少し…甘く見てました。今後は気をつけましょう」
「はい、そうしてください」
桜は微笑むと、治療の用意をする。
(麻酔、消毒液、あれは縫っとかないと広がったらヤバイから…針と糸)
巾着から取り出していた医療具を棚から次々と取る。
「山南さん、傷が広がるといけませんので、縫合します。寝台に寝てください」
「わかりました」
寝台に寝転ぶ山南の横に移動すると、桜は注射器を手にしてフと気付いた。
(この時代、まだ注射器って普及してなかったよね…)
「山南さん…」
「はい?」
「注射器、使ってもいいですか?西洋の医療具の1つで、麻酔…痛みを麻痺させる薬品を使うのに使用します。チクリとしますし、あまり見慣れないものなので嫌かもしれませんが…」
「大丈夫ですよ」
説明する桜に、山南は笑った。
「雪風君は常に我々の事を考えてくれています。そんな貴方が、治療という名目で我々に危害を与えたりはしないでしょう?どうぞ、使ってください」
「山南さん…ありがとうございます」
その言葉にホッとして、注射器と麻酔に手を伸ばす。
少し緊張した面持ちの山南の腕に麻酔を打つと、針と糸を手にした。
手早く処置を行うと、最後に包帯を巻いた。
「山南さん、終わりましたよ」
「ありがとうございます」
「傷の様子が落ち着くまで、毎日消毒しますね。傷の経過を見ながら、抜糸する日の予定をたてましょう」
今後の話をしながら道具の片付けをしていると、山南さんがこちらを見つめているのに気付いた。
「どうしました?」
「いえ、なんでもないですよ」
「……何かありますよね?」
ニコニコして動かない山南さんにそう言うと、眼鏡が光った(気がした)
「服を着せては下さらないのですか?」
そう言って、剥き出しの左半身を山南は指差す。
「………仕方ないですね」
珍しくからかってくる山南に桜は付き合い、傷に触らないように着物を着せた。
「いいですか、抜糸するまで左手を使用して刀を振るったり、他にも激しく動かすのは禁止ですからね。変に悪化する可能性がありますから、気をつけてくださいね」
「はい。充分に気をつけましょう」
その言葉に桜は満足そうに笑った。
「ほいっ、僕の勝ちだね」
「くっそー負けちまったぜ…!」
嬉しそうに笑う桜の前で、平助が座り込んでいた。
「いやーでも、ギリギリだったよ…」
自分も疲れたので、その場に座る。
朝、早くに目が覚めたので稽古場で素振りをしていると、同じく早くに目が覚めた平助がやってきた。
折角なので打ち合いを行い、なんとか私が勝った。
「くっそー、桜…千鶴が来てから前より強くなってねぇか?」
「ん?そう?いやー愛の力でしょうね」
「愛…ねえ…」
おいこら平助、馬鹿を見る目でこちらを見るな。
「まあ、なんていうか…僕は新選組の皆を守りたい。そこに僕としても、私としても守り抜きたい千鶴が加わった。守るものが増えたから力も増したのかもね」
「ふーん…そんなもんか?」
そんなもの、わからないといった表情の平助に、ニッと笑う。
「まあまあ、騙されたと思ってさ、守り抜きたい仲間や…後は好い人がいれば思い浮かべてみな?絶対に守りぬくんだって。そうしたら自然と力が湧くさ」
わしゃわしゃと頭を撫でると、平助は目を閉じた。
何かを少し考えた後、思い切り立ち上がり頷いた。
「よし、もう一度勝負だ!」
「ん、望むところ!」
自分も立ち上がると、木刀を構える。
場の空気がピリッとしたものに代わり、平助との打ち合いが始まる。
(さっきと動きが別。これはキツイな)
そんな事を考えていたが、気持ちは昂ぶっていた。
強い相手との打ち合いは、いつだって気持ちが昂ぶる。
「おらっ!」
「うわっ…!」
平助の強い打ち込みで、持っていた木刀が吹き飛ぶ。
「へへっ、オレの勝ちだな」
「あーあ、負けちゃった」
両手を上げて降参のポーズを取ると、平助は満足そうな表情で木刀を片付けた(私のも片付けてくれてる、優しい)
「いやー朝からいい運動になったなぁ」
「ほんと、オレもかなりいい運動になった。今ならご飯何杯でも食えるぜ」
お腹ぺこぺこと言う平助の頭をポンポンと撫でる。
「ご飯の時間はまだだぞ」
「わかってるって。それより、オレのこと子供みたいに撫でるのやめてくんないかなー」
不満丸出しの平助にごめんごめんと謝ると、手を下ろす。
「悪気はないんだよ?」
「悪気があったら絶対に許さねえからな」
怒る平助にもう一度謝ると、立ち上がる。
「汗かいたし、軽く流すかな。平助は?」
「オレも、汗流すよ。見張っといてやるから、先に風呂に入ったら?」
「え、マジで?ありがとう!」
藤堂の手を握ると、急いで着替えを取りに桜は稽古場を後にする。
「ったく…もうちょっと、オレのこと男として見れねえのかな、アイツは。危機感がねーよな」
藤堂は苦笑すると、自分も稽古場を後にした。
「あ、平助!」
やっと来たと、風呂場の前で笑う桜。
「悪い悪い」
藤堂は謝ると、ニッと笑った。
「平助、本当に見張り頼んでいいの?」
「おう!いいぜ。気にせず入ってこいよ」
「うん…ありがとう。お礼に背中でも流してあげたいけどさ…」
「なっ…!」
「こんな、ババアにされても嬉しくないだろうし、それに僕が恥ずかしいから、勘弁してね。それじゃ!」
桜はニッと笑うと、風呂場の中へ入っていった。
残された平助は、桜の言った言葉に固まっており、復活するまで時間が掛かった。
(………こんなものかな)
いつも通り、屯所の掃除をして医務室の掃除を行い、全てが終了した為一息つく。
掃除を頑張った御褒美を自分にあげようと考えて自室に戻ると、戸棚から小さな箱を取り出す。
カポッと蓋をあけると、中には色とりどりの金平糖が入っていた。
(んー美味しい)
一粒口に含んだだけでとても幸せな気持ちになる。
千鶴にもあげようと立ち上がったが、待てよと踏みとどまる。
(最近、千鶴に構い過ぎてるから嫌がられるかも…それに、拗ねてそうな奴が一人いるな)
拗ねてそうな人物、総司を思い出して一人笑った。
彼は確か今日は非番で屯所に居る筈だ。
好物である金平糖を分けてあげようと思い、彼の部屋を目指す。
「総司ーいるー?」
「………」
ヒョイっと彼の部屋を覗くと、畳の上に寝転がりその目を閉じている沖田がいた。
桜は気にせずに中へ入ると、沖田の近くに座り、箱から金平糖を一粒取り出して彼の口に押し当てた。
「起きてるのわかってるから、ほら口開けてー」
「むぐっ…桜には敵わないね」
パチリと目を開けた沖田は口に金平糖を含んだ後、ニヤリと笑った。
「で?何を口に入れたの?」
「総司ならすぐに解るでしょ?」
そう言って笑うと、沖田は口の中で金平糖を転がす。
「………金平糖?」
「うん、そう。総司さ、金平糖好きでしょ?」
「まあ…好きだけど……どうしたの?」
「前に町で見かけて、食べようと思って買ってたんだ。で、さっき食べようと思った時に総司が金平糖が好きなこと思い出して、一緒に食べようと思ってね」
「ふーん…」
なんだその疑いの眼差しは、別に嘘は言ってないぞ。
「………もしかして、いらない?」
「誰もそんな事言ってないでしょ」
そう言って起き上がった沖田は、箱から金平糖を取ると自分の口に含む。
「あーあ、ご飯が全部金平糖になればいいのにね」
「お望みなら、金平糖だらけにしてあげようか?」
おう?献立考えるおばちゃんの前でそんなこと言うのか?この野郎。
そんな気持ちを含んでニコリと笑うと、沖田も笑った。
「桜、本当にそんなことするの?僕はそれでもいいけど」
「………するわけないでしょうが」
くそぉ、こいつには皮肉が通じんなー
そんな気持ちを込めて総司を睨んでいると、口元に何か当てられた。
「はい、あーん」
「んむ…」
当てられていたのは金平糖のようで、口を開くと甘い風味が口内に広がる。
「さっきは食べさせてもらったからね、お返し」
「そりゃどーも」
ジト目で総司を見つめると、なにが楽しいのかずっと笑顔だった。
(こいつのからかってる時の笑顔と、本当の笑顔を見極めることが出来る位には、随分と一緒にいるなぁ…)
それもそうか、十年近くの付き合いなのだから。
ポケーッと考えていると、突然頬を片手で掴まれた。
「なにふゅんだよ」
「なんか考え事してたでしょ?桜は考え込むと唇を突き出すからね、もっと突き出るようにお手伝い」
にっこりと、からかってるのが解るくらいの満面の笑顔で見て来る総司が憎たらしくて、その頬を掴み返してやった。
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