幼少期~原作直前
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「ねえ、一回死んでみない?」
「…は?」
大学の帰り道、もうすぐ自宅に着くとルンルン気分で角を曲がった時、突如目の前に青年が現れた。
唐突に物騒な言葉を吐いてニコリと笑った青年を、ジッと見つめる。
「え?聞こえなかった?」
「いや、よく聞こえた。一回死ねってどういう事?てか、あんた誰?」
訝しげな目で青年を見ながら少しづつ後ろへ下がる。
「うんうん、聞こえてたならいいや。あー僕?僕はねぇなんて言ったらいいのかなぁ…」
頭を捻って考え出した青年から更に距離を取る。
(もう少し下がったら、走って逃げよう)
充分な距離が取れれば、逃げれるかもしれない。
相手に悟られないよう、ジリジリと距離をとっていたが、青年が突然こちらを見たことに驚いて下がる足を止めた。
「あーごめんね、急にあんなこと言ったら警戒するよねぇ…僕はね、付喪神ってやつかな」
「…はぁ、付喪神…ですか」
何言ってんだこいつ、かなりヤバい奴だ。
(ガチで殺される奴じゃん)
距離とか関係ない、いますぐ逃げないと。
足に力を入れた時、青年は目にも留まらぬ速さで目の前に近づいてきていた。
「おっと、逃げないで、いきなり物騒な事言ってごめんなさい。説明するから、ね?」
覗き込んでくる青年から目が逸らせなくなり、ゆっくりと頷いた。
「あー良かったー」
ヘラっと笑った青年に警戒しつつ話を促す。
「あんた、付喪神って本気?」
「うん、本気~。お姉さん、薄桜鬼って知ってるでしょ?」
「知ってるけど…」
薄桜鬼、某ゲーム会社から発売された新選組を題材にした恋愛アドベンチャーゲームだ。
身内に薄桜鬼が大好きな子がいて、散々話を聞かされゲームをプレイさせられ、アニメや映画に舞台も見せられているから知識は充分にある。
「…それがどうしたの?」
「僕ね、薄桜鬼ってゲームから生まれた付喪神なの」
(ほんと、この青年の頭大丈夫?)
ヤバい奴を見る視線に気づいたのか、青年は慌てだした。
「いや、分かるよ。いきなり物騒な事言ってきた上に電波的発言してる怪しい奴って思ってるよね。分かってるけど、事実なんだ。信じて貰えません?」
「無理」
「だよね~」
あはは~と笑う青年は急に真剣な表情になった為、こちらにも緊張が走る。
「信じて貰えなくてもいいや、一旦話進めるね?僕、薄桜鬼って作品の付喪神。あの作品を愛してくれる人達の暖かい気持ちから生まれました。で、なんでここにいるかって言うと、あの世界の皆を助けたいって考える人達がどんどん溢れてねぇ…なら、いっそ、助けちゃうのもありかなって思ったんだ!」
ニコリと笑う青年に手を握られ、体に力が入る。
「ただね、あの世界に僕は干渉出来ないの、見守るだけ。誰が死のうが誰が生き延びようが、何も出来ない。だから、僕の代わりにあの世界と相性の良い人に救ってもらうのもありかなって」
「……それが私とか言わないわよね?」
「言っちゃうよ~?お姉さん、すっごく相性良いんだ。それに、この世界に」
飽きてるでしょ?
そう言った青年の言葉に、目を見開いた。
「薄桜鬼の世界に実は生きてたんじゃないの?って位お姉さん相性が良くてさ。なんて言うのかな、波長?そういうのが別世界と合う人って居ないんだよね~本当は」
手を離してニコニコと笑う青年を唖然と見つめる。
「向こうに渡る権利がお姉さんにはあるんだけど、ただ一回生まれ変わらないと向こうには渡れないんだ~」
「だから、死ねと?」
「そうそう!あ、勿論苦しいとか無いよ!寝るのと一緒。起きたら別世界!みたいな?」
非現実的な状況に目眩がする。
それと同時に、ワクワクもしていた。
「向こうに渡った後、どう生きるかはお姉さんに任せるよ。僕の提案通り皆を助けても良いし、そもそも関わらなくても良いし、任せます。とりあえずはじめに援助はするよ!」
「援助?私が望む力を付けるとか、この現代にある物を向こうの世界に持ってこれるとか?」
「うん!」
ニッコリ笑った青年は、こちらへ手を出した。
「良いわ、行ってあげる。なんだかんだ…私も助けたいもの、あの世界の人達。出来るかわからないけど」
「なら、契約成立だね」
青年の手を取ると、ニコリと笑った。
「力がいると思うから、強い子にしてね。後、私の望んだものが取り出せる鞄やポケットとかあれば良いかもね。それとこれが一番重要なんだけど、圧倒的な医学の知識と何でも治しちゃう御都合主義の何か、用意してほしいかな。じゃないと、紛い者になった時に救ってあげれない」
「まっかせて!」
青年は元気よく頷いた後、真剣な表情に変わる。
「それじゃあ…行ってらっしゃい」
薄桜鬼好きの親戚ちゃん、ごめんね、行ってくるよ。
青年の言葉を聞き、親戚への思いを馳せたのを最後に、意識は途切れた。
「おめでとうございます!奥様!元気な女の子ですよ!」
(…奥様?元気な女の子?)
浮上した意識と共に聞こえてきた言葉に、周りに誰かがいる事がわかり目を開けようとする。
(上手く、見えない…)
ついでに体も動かない。
イラつきと力を込めるために気合を入れて大声を出した時、おぎゃあと赤ん坊の声が響いた。
(…え?)
今のってもしかして…
嫌な予感がしてもう一度声を出そうと試みると、再び響く赤ん坊の声。
(生まれ変わるって…まさか、赤ん坊からなの…⁉)
さぁーっと血の気が引くのを感じていると、目の前がだんだん見えてくるようになった。
「可愛い、私達の赤ん坊」
優しい声に視線を向けると、微笑みながらこちらを見つめる女性が目に入った。
私の母親になる人だろう。
「俺たちのところに産まれてきてくれて、ありがとうな」
今度は男性の声が聞こえ、視線を動かすと同じく微笑む男性、私の父親だろう。
(こんな私が子供でごめんなさい)
謝罪をしつつ、今後の生活への覚悟を決めた。
「桜~どこですかー?」
「はーい、かあさま、ここにいます」
遠くから聞こえる声に拙い言葉で返事をする。
薄桜鬼の世界に産まれてから早6年、今年で私は6歳になった。
赤子として生まれついたものの、中身は成人間近だった人間なので中々辛く恥ずかしい日々を過ごしていたが、なんとかこの歳になり、ある程度のことは自分で出来るようになった為、気が楽だ。
「あらあら、桜はまた本を読んでいたの?」
「はい、かあさま」
「本当に、本が好きなのね」
ニコリと笑う私の母。
「わたしを探されてましたが、どうしたのですか?」
「桜に合わせたい子達がいるのよ~後で居間に来てちょうだいね」
そう言った母に返事をすると、息を吐いた。
今更ながら桜というのは私の名だ。
フルネームは雪風桜、この雪風家の一人娘だ。
ここに来る前、付喪神と名乗った青年に伝えた通り、望んだものが取り出せる小さな巾着と、圧倒的な医学の知識が頭に入ってる。
残りの、強い子の部分と御都合主義の何かに関してもちゃんと用意をしてくれているが、その影響なのか、私の産まれた雪風家は古くから生きる鬼の一族の一つだった。
(いや、まあ、確かに強い子にしてくれとは言ったけど…)
まさか鬼とは思わなかった。
因みに、御都合主義の部分に関してはまだ試したことは無いが、私の血と雪風の家があるこの里の水が関係しているらしい。
血と水を混ぜると万能薬が出来ると、母が言っていた。
どうやら雪風家の鬼の血は特別な物らしく、その為血をむやみに流さず、また他言無用とも言われている。
(面倒な事になるのはわかってるから、絶対言わないけど)
さて、長々と自己紹介をし過ぎてしまった、そろそろ居間に行かないと両親が拗ねるだろう。
手にしていた本を置くと、居間に向かう。
「かあさま、参りました」
「さあ、こちらへいらっしゃい」
居間の中を覗くと、笑顔の母と父、そして見た事ない男女と小さな子供が2人いた。
会釈をしながら両親の元へ向かうと、促されて2人の間に座る。
「雪村殿、こちら娘の桜です。ほら、挨拶は?」
「あ、はい!雪風桜と申します」
父親に促されて自己紹介をする。
(というか、今、雪村殿って言った…?)
まさか、と頭を回転させていると、雪村殿と言われた男性は笑った。
「とてもお行儀の良い娘さんですね」
「ありがとうございます」
お礼を言うと、男性の横にいた女性がニコリと笑い、膝に座っていた2人の子供を降ろして桜の前に座らせた。
「初めまして、雪村千鶴と雪村薫です。仲良くしてあげてね?」
(予感的中!)
2人の母親に元気よく返事をしつつ、父親を見る。
「雪村殿は隣の里の方だよ。我々の生活を助けてくださっているんだよ」
「あ、ありがとうございます!」
「そんな、大袈裟ですよ」
ハハッと苦笑する2人の父親にニコリと笑う。
「こちらこそ、雪風殿にはお世話になっております故…」
「いやいや、何を言いますか」
大人同士で談笑が始まり、さて自分はどうしようかと考えていると、ジッとこちらを見る視線に気づいた。
千鶴と薫だ。
(………控えめに言って、クソ可愛い)
くりっくりの目にふっくらした子供特有の頬、それ以外の何をとっても可愛い。
そんな事を考えつつ2人に微笑むと、2人もニッコリと笑った。
「良ければ、遊んでくれますか?」
「え、あ、もちろんです!」
雪村ママ(勝手に命名)に頷くと、2人に手を差し伸べた。
「いっしょに遊ぼ?」
「「あい!」」
元気よく返事をした2人の手を握ると、大人達の間から抜け出し居間の入り口付近へ移動した。
「これから、よろしくね?」
そう言って微笑むと、2人をぎゅっと抱きしめた。
(私が、守らなきゃね)
正直、どこまで改変出来るのかわからない。
どう足掻いても雪村一族は人間に襲われるかもしれない、その結果千鶴と薫は離ればなれになるかもしれない。
例えそうなっても、最悪の事態にならないよう事を運びたい。
(さて、考えますか…)
息を吐くと、きょとんとしている2人に再度笑った。
「ねえさまー!」
「ねえさまー!あそんでください!」
パタパタと走ってくるのは千鶴と薫。
早いもので2人はもう4歳、私も9歳になった。
あれからも交流の深い私とこの兄妹はもう家族と言っても過言ではない、と勝手に思っている。
「千鶴、薫、おいで」
きゃー!と、はしゃぎながら駆けてくる2人に両腕を広げて微笑むとぽふっと胸の中へと収まる。
(可愛すぎるなこの生き物)
それにしても、2人が来るときは大体ご両親も来ているはずなのに今日は姿が見えない。
はて?と思い周りを見渡すと、居間で雪風家と雪村家の両親が揃って難しい顔をして話していた。
(なんだろう…)
嫌な予感がする。
「ねえさま?」
ハッとして、下を見ると2人が不思議そうにこちらを見上げていた。
「ごめんね、さて、今日は何して遊ぼうか?」
ニッコリ笑うと2人も笑顔になる。
はしゃぎだした2人と遊びながら、話が進みだしたのではと思った。
(人間が、雪村の里にくる)
ざわつく気持ちを抑え、今は2人と遊ぶ事に専念した。
「父様、母様、失礼致します」
千鶴と薫が両親に連れられ帰った後、自分の親の元を訪ねた。
「どうしたんだい?」
和かに微笑む父親と母親の前に座ると、単刀直入に聞く事にした。
「昼間、雪村様達と何を話されていたのですか?」
「なに、他愛もない事だよ」
「人間が不穏な動きでもされてるのですか?」
「⁉」
私が放った言葉に目を見開く父親に、やっぱりかと手に力が入る。
「雪村の里が危ないのですか…?」
「ほんと…昔から貴女は聡い子ね」
力なく微笑んだ母親が、ギュッと手を握ってくる。
「雪村の里が危ないかどうかはわからないわ。でも、人間が不穏な動きをしてるのは確かよ」
「村の者達にはもう伝えてあるが…それでも不安だ」
父親は深い溜息を吐いた。
「……里を移すのはどうですか?」
「何を言っているんだ!里を移すなど…!」
私の言葉に父親は目を見開く。
「里を捨てるわけではなく、人間の動きが落ち着くまで別の場所で生活し、時が経ったら戻ってくるのです」
雪村の里も一緒にそうすれば、あの兄妹は離れずに済むかもしれない。
「………まあ、悪くない案かもしれないな。明日、話してみようか」
難しい顔から、微笑みに変わった父親につられて笑う。
「何事もなく、上手く事が運べばいいですね」
「ええ、そうね」
母親もにっこりと笑った。
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