排球
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「とーるちゃん」
昼休みに女子たちと話していた及川は、ニッコリと笑顔を浮かべ話しかけてきた男に頬をヒクヒクとさせた。
「なぁに…鴾」
少し嫌そうにしながらも笑顔を浮かべるのは周りに女子がいるからで、それを知ってか知らずか鴾はククッと笑う。
「冷たいなぁ、昨日はあんなに熱くなったのに」
「はぁ!?」
熱くなった発言に、周りの女子達はざわつく。
「皆、ちょーっとごめんね?」
及川は女子受けのいい極上の笑顔を浮かべたあと、鴾の首根っこを掴んでその場から少し離れる。
「あのさー、毎日毎日どういうつもりな訳?」
イラッとした態度を隠さずに及川は鴾を睨む。
「えー?俺別に嘘は言ってないでしょ?昨日はバレーの話で熱くなったじゃん」
「ちゃんとバレーの話って言わないと、俺が変な誤解受けるでしょ!」
ギャンギャンと怒る及川に鴾はごめんごめんと適当に謝ると、そういえば…と何かを思い出したように及川の目を見た。
「……なんだよ」
「一がとーるちゃんのこと探してたよ。部室で待ってるって言ってた」
「おまっ、そういう事は先に言えよ!」
「あいてっ」
及川は鴾の頭を叩くと、岩泉が待つであろう部室に慌てて向かった。
「岩ちゃん、お待たせ!」
「おう」
それなりに待たせたはずなのに岩泉は怒る事なく及川を迎えた。
大方、鴾を向かわせた時点で時間がかかる事は分かっていたのだろう。
「全く、鴾は肝心な事先に言わないから、困っちゃうよ」
溜息を吐きながら部室のベンチに座ると、及川は走った事によりじんわりと額に浮かんだ汗を拭く。
「だよなぁ…アイツ、肝心な事言わないからこっちもどう対応すべきか悩む時あるんだよなぁ…」
今日も突き指しててさ、と岩泉は話し出した後に「あっ…」と慌てて口を閉ざした。
「…突き指って、アイツなんかしたの?」
3人揃って小学生からの付き合いがある為、普段邪険にしていても怪我の事を聞けば気になってしまう。
「そ、そういえば急に呼んで悪かったな。俺ちょっと別件を思い出したから、それ「岩ちゃん?逃がさないよ」
あからさまに話題を逸らして逃げようとする岩泉を、及川は捕まえる。
「………」
「いーわーちゃん?」
「…お前、ぜってー怒るから、言いたくねえ」
「………」
「あーもー!わかったから!」
無言でニコニコと威圧してくる及川に岩泉は参ったと両手を上げた。
「実はよ…」
そう言って話し出した岩泉の言葉に、及川は真顔になった後部室を飛び出した。
(鴾、すまん)
岩泉は心の中で謝罪をした。
教室に戻ってきた及川は、友達と話す鴾を見つけると、ズンズンと近付いていく。
それに気付いた鴾はヘラっと笑った。
「あれ?一との戦略ミーティング終わったの?」
そう聞いてきた鴾の手を取ると、確かにその指には突き指の処置をしたのか包帯が巻かれていた。
「ちょっと、来てくれる?」
有無を言わさない笑顔に、及川が怒っていると感じた鴾は無言で何度も頷いた。
及川に連れられ、空いている教室に入ると両頬をバチンと叩かれ、そのまま抓られた。
「いひゃ、いひゃいよ!ほーるちゃん!」
「うるさい!この馬鹿!」
及川は力の限り頬を抓ると、手を離した。
「お前、バレー辞めたのにまだ練習は続けてるって本当かよ」
「…一の奴、チクったのか…」
「しかも、俺のせいで辞めたって、なに?」
その及川の言葉に、鴾はピキッと固まった。
岩泉から聞いた話は、鴾は及川が理由でバレーを辞めたが、今もバレーは好きで練習をしているとの事だった。
「教えてくれるよね?俺たち、幼馴染だろ?」
有無を言わさない笑みでそう言った及川に、鴾はゴクリと唾を飲み込んだ後、及川の肩を掴みクルっと反対側へと及川を向かせた。
「ちょ、何して「そのままで聞いてほしいなぁって」
そう言って背中に鴾の頭がポンと凭れてきたのを感じ、及川はそのまま前を向いた。
「すっっっっっごい煽るようなこと言うけど、俺ってバレーの天才じゃん?」
「え?喧嘩売ってんの?」
話し出した鴾に及川はイラっとしたが、何とか我慢する。
彼は自他共に認めるバレーの天才だった。
及川の嫌いな“天才”だ。
「俺、とーるちゃんがそんなに天才と言われる人間が嫌いだって理解してなくて…牛島の事をすっごい忌み嫌う姿を見て、俺もそんな風にとーるちゃんに嫌われるのイヤだから、それでバレー辞めたんだよね…」
確かに自分は天才は嫌いだが、鴾を嫌いだと言ったことは一言もない。
嫌な顔をする事は多いがそれは鴾が変な絡み方をしてくるからであって、彼を心から嫌ったことなど一回も無い。
いつの間にか縋るように及川を抱きしめていた鴾の腕に力が入ったことで、ハッとした及川はスーッと息を吸う。
「こんの…馬鹿野郎!」
大きな声に、鴾がビックリして腕を離した隙にクルリと振り返り、まだ赤い頬を再度抓る。
「俺は確かに天才は嫌いだけど、お前の事を嫌いとか言ったことは一言もないだろ!なーんで俺に何も言わずに勝手にバレー辞めたりするかな!」
これでも色々と気にしてたのに、という及川に鴾は頬を抓られているのにそのままへらっと笑った。
「なに笑って…」
「俺、とーるひゃんに嫌われてない?」
「だから、嫌いじゃないって言ってるじゃん…」
及川がそう返事をすると、心底幸せそうに鴾は笑った。
それを見た及川は急に恥ずかしくなり、頬から手を離した。
「とーるちゃん、俺、またとーるちゃんとバレーしてもいい?」
「…ダメなわけないだろ」
「ありがと。俺、とーるちゃんの事好きだから、ずっと一緒にバレーしたいんだ」
「え?」
「一に報告してこよっと」
鴾はそう言うと周りに花が飛んでいそうな錯覚が起きるくらいに浮かれた雰囲気で教室を出て行った。
一方及川は、好きだからという言葉がどういう意味の好きなのかを問いただそうとしたが、先ほどの鴾の幸せそうな表情を思い出し、「そういう事だよな…?」と顔を真っ赤にしてその場にしゃがみ込むのだった。
(一、とーるちゃんが一緒にバレーしていいって!)
(そうか!丸く収まってくれてよかった…)
(後、もしかしたら好きって言っちゃったかも)
(は!?マジか…)
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