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「だ、大丈夫ですか!?恋柱様」
「う、うん!大丈夫よ!」
恋柱、改め甘露寺蜜璃は頬を赤らめながら頷いた。
(殿方とこんなに密着するだなんて…どきどきするわ!)
厄介な鬼がいるとのことで、複数人での合同任務が言い渡された今日。
厄介な鬼の血鬼術、地面から急に壁が現れて箱に詰められてしまうという術に、何人もの隊士が犠牲になり、その猛威は甘露寺にも降りかかろうとしていた。
それに気付いた隊士の鴾は助けようとしたが…上手く助けることができずに二人一緒に箱に詰められてしまった。
「鴉が増援を呼びに行ったので助けが来るとは思います。申し訳ありませんが、それまでは我慢のほどよろしくお願い致します…」
「ううん!気にしないで。それより、鴾君は辛く無いかしら?大丈夫?」
「大丈夫ですよ」
鴾君、大丈夫って言っているけど本当に大丈夫かしら…
上に私が乗っちゃってるし、箱もそこまで大きく無いから手足を折り曲げて辛そうだし…それに、どこか顔も赤いわ!
甘露寺は鴾の様子に心配になり、顔を覗き込む。
「鴾君、顔が赤いわ!苦しいのね?ちょっと楽そうな体勢探すわね」
「あ、いや…だ、大丈夫ですから!」
甘露寺がもぞもぞと体を動かすと、鴾か慌てて肩に手をやり動きを止める。
「その…お恥ずかしい話、あまり女性の方とこのように密着する事がないので…色々と…」
そう言って頬を赤らめる鴾に、甘露寺も顔が赤くなる。
(わ、私と一緒でどきどきしてるのね!)
「そ、そうなの…」
二人とも恥ずかしくなり、口を閉ざす。
(うう…甘露寺様、可愛い、いい匂い、柔らかい、可愛い)
頬を赤らめる甘露寺とは対照的に、鴾は己の煩悩と戦っていた。
恋柱、甘露寺蜜璃。
可憐な容姿に性格も良く、天真爛漫な様子に骨抜きにされる男は多い。
自分もその一人なのだが…そんな自分にとって、この状況は天国でもあり地獄だ。
拷問だ拷問。
変な気を起こすなと言われても、意識するなと言われても、大概の男は意識してしまうだろう。
こんなに可愛い人と密着してるんだぞ!!!
と、叫び出したい気持ちを抑え、小さく息を吐く。
そんな気まずい空気の中、どうしようかと考えを巡らせていると、何かに気付いた鴾が甘露寺を抱き寄せた。
「鴾君!?」
「恋柱様、勝手に触れて申し訳ございません。更に申し訳ありませんが…手足をなるべく引っ込めて、俺の上に乗ってください」
「手足を?」
頷いた鴾に不思議に思いつつ、甘露寺は体を丸める。
その様子に鴾は笑みを浮かべると、手足に力を入れて壁を押し始めた。
その様子に、甘露寺はハッとする。
(もしかして…!)
周りを見ると、左右の壁が迫って来ていることに気付いた。
どうやら足側の壁も迫って来ているようで、鴾が少しでも壁が迫ってくるのを抑えようと、力を込めていたのだ。
鴾の方が体が大きいので、先に気付いたのだろう。
「鴾君!壁が…」
「大丈夫、ですよ」
安心させるように笑みを浮かべる鴾に、甘露寺は眉尻を下げる。
「私も、壁を押し返すわ!」
「…恋柱様」
力には自信があるの!
そう言って甘露寺は手足を伸ばそうとしたが、鴾に静かに呼ばれて顔を見る。
「この後に備えてください。どうか俺の事は気にせずに」
「そんな事、出来ないわ…!」
「……甘露寺様」
首を振る甘露寺の名を、鴾は優しく呼ぶ。
「甘露寺様。貴方より力もなく頼りない男ですが、貴方を守りたいのです」
「…………へっ?」
言われた言葉をすぐに理解できずに、甘露寺はぽかんとする。
「ですから…もう少し、俺に頑張らせて貰えませんか?」
「う、うん…」
ありがとうございますと言った鴾に、甘露寺は頬に手を当てる。
(わ、私を守りたい?鴾君…頼りないだなんて言ってるけれど、とっても男らしくて、キュンキュンするわ!)
そう考えながらチラリと鴾を見て、その凛々しい表情に甘露寺は胸が更にキュンとするのを感じた。
「ぐっ…」
その直後、鴾が声を上げてハッと周りを見る。
先程よりも、かなり箱の中が狭くなっていた。
気の所為でなければ、鴾の手足からミシミシと骨が軋む音がしている。
「それ以上は危ないわ!骨が折れちゃう」
「…貴方を守れるならば、骨くらい折れてもいいですよ」
苦しそうにしながらも笑う鴾に、なんとも言えない気持ちを胸に感じる。
「蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡き」
その時、箱の外から聞こえて来た声にハッとする。
「しのぶちゃんの声よ!」
「どうやら、増援が来たようですね」
嬉しそうな甘露寺に鴾も微笑む。
少しして箱が崩れると、鴾は体の力を抜いてパタリとその場に手足を放り投げた。
「鴾君、大丈夫!?すぐにしのぶちゃんを呼んでくるわね」
「あ、いえ…これくらい」
大丈夫ですよ、と伝える前に甘露寺は走って行った。
残された鴾は、乾いた笑いを溢すと、自分の体を見た。
(骨くらい折れてもいいとは言ったが…)
本当に折れるとは。
恐らく片足は折れてるだろうし、腕にもひびが入ってそうだ。危なかった。
それでも、抵抗するのをやめるわけにはいかなかった。
甘露寺蜜璃、彼女に怪我を負わせたくなかったからだ。
強い殿方と添い遂げる為に鬼殺隊に入った彼女。
こんな自分ではそもそも候補に上がることすら不可能だが、体を張って好いた女性を助ける事くらいは出来る。
怪我もないようで良かったとホッとしていると、目の前に蟲柱である胡蝶しのぶの顔が現れてビクッと肩を揺らした。
「骨が折れてるようですね」
「…そのようです」
「随分と頑張ったみたいですね」
ニコニコとしながらそう言ったしのぶに、鴾は力無く笑った。
「…愛の力、ってやつですかね」
その返事にしのぶは少し驚いた後、隠に鴾を蝶屋敷に運ぶようにと指示を出した。
その後、一緒になって後処理をしてくれている甘露寺に近付くと、ニコリと微笑む。
「鴾君、足が折れているようでしたよ。腕にもひびが入っているでしょう」
「えっ…!」
その言葉に、甘露寺は顔を青くする。
「愛の力で、頑張ったそうですよ」
「愛の…力?」
「好きな女性の為に、男は頑張れるってやつでしょうか」
意味深なしのぶの視線に、甘露寺は胸をギュッと抑える。
(な、何かしら……このどきどき。感じた事ないわ)
困惑した様子の甘露寺に、しのぶは微笑むと鴾を運ぶ隠を指差す。
「彼はこれから蝶屋敷に運びます。よかったら、お見舞いに来てあげてくださいね」
「うん!勿論、絶対に行く!」
勢いよく何度も頷く甘露寺に、しのぶはあらあらと微笑んだ。
数日後、足の骨がまだ完治しておらず自由に動き回れない鴾の元に来客があった。
ノックされた扉を見て「どうぞ」と声をかけると、入ってきた人物に目を丸くした。
「恋柱様……!?」
「鴾君、元気そうでよかった」
微笑んだ甘露寺に鴾はハッとすると、慌てて椅子を用意する。
「どうぞ」
促されるまま甘露寺は椅子に座ると、手にしていた籠を渡す。
「これ、お見舞い品よ。あの時はありがとう」
「ありがとうございます。恋柱様に怪我がなくてよかったです」
そう言った鴾に、甘露寺は胸にもやもやとしたものを感じた。
(恋柱様だなんて…もう、あの時みたいに)
「名前で呼んではくれないのかしら…」
「……え?」
驚いた鴾の声が聞こえ、甘露寺はハッとする。
「もしかして私、声に出していたかしら…?」
「あの、はい…」
鴾の返事に、甘露寺は頬を赤らめる。
「や、やだ!恥ずかしいわ!!」
あたふたとする甘露寺に鴾はフッと微笑むと、そっと手を握る。
(きゃっ!大きな手…どきどきするわ)
「……恋柱様がよろしければ…甘露寺様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
そう問われ、甘露寺は勢いよく「勿論よ!」と返事をした。
(やだ!勢い良すぎたかしら?はしたなかったかしら?)
「とても…嬉しいです」
そう言って微笑んだ鴾に、甘露寺の胸は完全に撃ち抜かれて固まってしまった。
そんな甘露寺に「ど、どうされましたか?」と慌てる鴾を、扉の隙間から「あらあら」と見ていたしのぶは、二人の様子に微笑みながら静かに扉を閉めるのだった。
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